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88 騎士装備を試してみた

 孤児院で休んだ翌日、俺は道場に向かっていた。というのも聖教会へ戻るのは昼過ぎにライナーと合流してからだから、それまでは時間がある。たまには師匠と手合わせでもと思って足を運んだんだけど……先客がいた。


 師匠はライナーと打ち合ってた。師匠が化け物じみてるのはいつもの事だけど、ライナーがまた一段と強くなってる気がする。あれでまだ覚醒してないんだよな。あいつが覚醒したらどうなるのか。


 二人の手合わせを観戦してる生徒、もとい警備兵の人たちに紛れて俺も壁に寄りかかった。師匠が町長から警備隊を任されてるせいか、最近は道場というよりも警備隊の本部といった感じになってる。一応ちゃんとした本部は別にあるんだけど、なぜかこっちの方に人が集まるんだよな。まあ鍛錬するのに丁度いいからなんだろうけど。


 二人の攻防を眺めていると、レインが奥の部屋から出てくるのが見えた。あっちも俺に気づいたようだ。トコトコと近づいてくる。途中でチラッとライナーを見てるのがなんとも微笑ましい。


「お兄ちゃんどうしたの? 私が家出るときはカイトとマリンの相手してなかった?」

「アクア姉が一通り家事終わったところで交代したんだよ。レインは……仕事中か」


 レインが何か色々と書いてある紙を持っていたのでそう判断した。


「うん、昨日お兄ちゃんがドラゴンの鱗を大量に持ってきたでしょ。それをこっちで保管するのに場所作らないといけないから、ついでに倉庫の中を整理してるんだよ。それで備品の数とかまとめたからガイさんにチェックしてもらおうと思ったんだけど」


 レインの視線が師匠とライナーに向けられる。二人が手合わせしていて、とても声をかけられる状況じゃないな。


「倉庫の整理、俺も手伝おうか?」

「ありがと。でも大丈夫だよ。みんな協力してくれてるからそんなに大変じゃないし」


 みんなってのはここに来てる警備兵たちの事だよな? まあレインが倉庫整理なんかしてたらそりゃみんな手伝うか。師匠の義妹で、さらにライナーの想い人ってことで手を出す奴は流石にいないけど、シャルとオリヴィアとはまた別の可愛さがあるからモテるんだよな。


「そういえばシャルとオリヴィアは来てないのか?」

「町の外で見回りする当番だから来てないよ。何か用事あったの? 昼頃に出発するなら多分今日は会えないと思うけど」


 二人に昨日の魔法をもう一度見せてもらおうかと思ったけど無理そうだな。


「伝言あるなら私が次会ったときに伝えようか?」

「いや、外に出てるなら今回はいいや」

「そう?」


 二人の手合わせもまだ終わりそうにないし、別のことするかな。寄りかかっていた壁から離れて入り口に体を向ける。


「お兄ちゃんもう行くの?」

「ああ」

「お昼は家で食べていくんだよね?」

「その予定」

「じゃあまた後でね」


 レインに手を振って道場を出る。さて、久々に岩山にでも行って昼まで魔法の研究するかな。




 昼食をとった後にまったりしていると、約束通りライナーが孤児院までやってきた。部屋から荷物を取ってきて外に出る。


「そういえばアニキ、レインから聞きましたけど道場に来てたんスか?」

「師匠と手合わせしようと思っただけだ。そしたらライナーが先にやっててな」

「あれは”黒金”について教えてもらおうと思って朝から道場に行ったら、なぜか師匠と手合わせすることになって……」

「それは俺とお前が長いこと外に出てたからだろ」


 師匠とまともに剣を合わせられる相手は俺とライナーしかいない。師匠もたまには稽古以外で剣を振りたくなったって可能性が高いな。それに付き合わされたライナーは大変だったろうけど。


「それで”黒金”について聞けたのか?」

「全然」

「ま、それに関してはそのうち分かるだろ」


 転移先の屋敷の中を遠見の魔法で確認して……問題無し。魔力を集めて転移魔法をいつでも発動できる状態でとめておく。


 アクア姉、レイン、カイト、マリンの四人が見送りのために出て来てくれた。みんなと一言二言交わして、さあ転移するぞというところでレインが一歩前に出てきた。


「ライナー」

「ん?」

「何かお返し考えておくね」


 レインが髪飾りに触れたままそう言った。


「別にお返しとか気にしなくても……」

「だーめ、これはもう決定事項なんです!」

「お、おぅ……」


 今日のレインは押しが強いな。


「レイン、もういいか?」

「うん。お兄ちゃんもライナーも気を付けてね!」

「ああ、それじゃあ行ってくる」


 とめていた魔法を発動させて聖教会の屋敷――玄関ホールに戻ってきた。


 さて、部屋に戻るか。歩き出そうとしたところで隣を見ると、ライナーが腕を組んで何やら唸っていた。


「どうしたんだ?」

「もっとレインの姿をこの目に焼き付けとけばと」

「あ、そう……」


 唸ってたんじゃなくて悶えていたのか。これは放って置いていいかな。


 そこでふと思い出した。ライナーの服がカムノゴルに戻る前と同じ、つまり着古されててそこそこ汚れが目立つ。


「お前さ、替えの袴持ってきたのか?」

「あ……」

「お前なぁ」


 呆れ半分、適当に理由付けてただけだしなと一人納得して話を切り上げた――はずだった。


「だったらライナーも騎士の服着てみたら?」

「アリス?」


 声の方に顔を向けると、階段を下りてくるアリスとサーベラスがいた。俺が戻ってきたのをサーベラスが感じ取って出迎えに来てくれたのか。


「お帰りなさいシヴァ、ライナー」

「ただいま。それよりライナーに騎士の服をすすめるなんてどうした?」

「ライナーだけじゃなくてシヴァにも着てほしいんだけど……ダメかな?」

「ダメかな? って言われてもなあ。というか理由を教えてほしい」

「オイラは着てみたいッス!」

「は?」


 袴じゃないと落ち着かないとか言ってたやつが何言ってんだ。


「いやーむかし騎士に憧れたことがあって、アニキはありませんでした?」

「ないな」

「まあまあ、一度ぐらい騎士の恰好をしてみるのもいいじゃないッスか」

「それじゃあ二人とも、部屋に一式用意してあるから着替えてきて」


 なんて手際のいい……って驚いてる場合じゃなくて。


「え、俺まだ着るとは言ってないんだけど、着ないとダメな感じ?」

「ダメな感じです。理由はあとでちゃんと教えるよ」

「はあ、分かったよ」


 言われるがまま部屋に行くと綺麗に畳まれている服を見つけた。白と緑みを帯びた青の二色を基本にしてデザインされた服。ベルたちで見慣れたここの騎士服だ。騎士とかは魔物や悪魔の天敵ってイメージがあるけど、まさか俺がこれを着ることになるとはな。


 アリスが待ってるし、サクッと着替えるか。パパっと脱いでサッと袖を通していく。俺がさっきまで着てた服とは段違いの肌触りに少しだけ驚いた。一緒に置かれていた鎧を胸元、肩、腰回り、すね当て、最後に籠手と順番に身に着けていく。


「それで着てみたけど……」


 玄関ホールに戻るといつの間にかセレンがいた。


「中々様になってるじゃない」

「そりゃどーも」


 アリスは無言で俺の周りをウロウロ歩き回り出した。


「どうした? というかなんかニヤけてないか?」

「うーんとね、ちょっと想像以上にかっこよくて」

「そうか?」


 一通り見て満足したのか、アリスが正面に戻ってきた。


「うん、やっぱりこういう恰好も似合うね。でもこれでアルカーノの服だったらお揃いだったのになぁ、ざんねん」

「そりゃ仕方ないだろ。ところでライナーはまだか?」

「まだ……あ、戻って来たよ」

「遅いぞライナー」

「鎧なんて普段付けないから手間取ったんスよ」

「中々様になってるじゃない」


 セレン、それ俺に言ったセリフとまったく同じ……いやまあライナーは気づかないだろうけどさ。


「うん、ライナーもいい感じだね」

「どうもッス!」

「それでどうして俺たちまで着る必要があったんだ」

「相手が聖教会の騎士の恰好を知ってるって事が前提になるんだけど、それを着てれば聖教会の後ろ盾があるってすぐにわかるでしょ?」

「……確かにな。それに所属まで分からなくても、騎士って思わせればそれなりの効果はあるか」

「あとこれも重要なんだけど、騎士の服って結構防御力あるんだよ。それに魔力を込めた素材も使ってるから色々と耐性も付いてるしね。シヴァとライナーって戦闘用の服じゃないからちょっと心配だったんだよ」


 俺が着てた黒革のコートとズボンなんて、防御力あってないようなものだからな。ライナーが着てた袴だって同じ感じだし。


 だが、ここはあえて言わせてもらおう。


「結界があればどうにでもなる」

「当たらなければどんな攻撃だって意味ないんスよ」


 俺もライナーも真顔で言い切った。こういうのは勢いが大事。ただ視線だけはちょっと泳いでるかもしれない。


「セレン、そのバカなんじゃないこの二人? って考えていそうな顔止めようぜ」

「バカなんじゃないこの二人?」

「わざわざ声に出して言わなくていいから」


 せっかく用意してくれたんだ、これはありがたく貰っておこう。別に今までの服にこだわりは特にないし。ただなあ、なんか聖教会に取り込まれた感あるからそこだけちょっと気になる。


「セレン、一応確認しておくけど、これ着たからって本当の意味で聖教会に属する気はないぞ」

「分かってるわよ。でもそれ着てくれてる方が表立って支援しやすいし、アリスみたいにうちの上級騎士相当の権限を与えるのはいいわよね?」

「……それぐらいならいいか。じゃあ俺はこれもらうよ。ライナーはどうする?」


 ライナーはどうやらいままで身に着けてこなかった鎧が気になっているみたいで、小さく肩を回したりしてる。


「もうちょっと考えたいッス。動いた時の感覚にそこまで差がないならありかなって。アニキ、この後相手してもらえますか?」

「分かった。俺も実際に動いてみて違和感あったら鎧部分は外すかも。ただ今後のこと考えるとお前もそれ着た方がいいと思うぞ。俺たちのパーティーで一人だけ場違いな感じになるし」

「それは確かに……」


 今まではサーベラスが執事服、俺も黒革のコートにズボンだったからあんまり気にならなかったけど、一人だけ違うと流石にな。


「これアリスが考えたのか?」

「考えたのは私じゃなくてセレンだよ。昨日の夜話を聞いて今朝準備したの」


 装備の在庫自体はいくらかあったんだろうけど、よく昨日の今日で準備できたなと、変なところに感心してしまった。


「ところでセレンはどうしてここにいるんだ?」

「あなたたちが昼頃に戻ってくるって話だったから、あたしも騎士の恰好に着替えた二人を見に来たのよ。戻ってこなかったら昨日みたいにアリスとお茶でもと思ってたんだけど、丁度いいタイミングだったみたいね」

「俺たちは見世物じゃないんだぞ」

「減るものじゃないしいいじゃない。それにどうせ後で見ることになるんだから」

「それはそうだろうけど……まあいいか。それじゃあ俺たちは一度外で試してくるよ。行くぞライナー」


 ライナーを連れて屋敷を出た。カムノゴルみたいに訓練所があるのか知らないし、一度外に出るかな。




 聖教会の外に出て、俺とライナー、それに途中からサーベラスも参加して色々と試してみた結果――


「地味に気になるんだよな。それに俺たちぐらいの戦いになると中途半端な防具って意味なくなるし」

「重いって訳じゃないけどなんか邪魔ッスね」

「エンシェントドラゴンの一撃を防げるぐらいでなければ着ける必要がありません」


 というそれぞれの判断の下、鎧部分は全員が外すことになった。

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