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8 シヴァ先生の魔法講座

「アリスは魔力や魔法についてどれぐらい知っている?」


 まず最初にアリスの魔力、魔法に対する知識がどんなものか確認しておこう。


「魔力は無くなると疲れて倒れちゃって、休めば回復する。魔法はぐって集中すると使える!」


 元気よく答えたアリス。無言の俺。そして一瞬の静寂。少しだけアリスの目が泳いだのを俺は見逃さなかった。


「間違ってはないけど、それだけ?」

「え~、ナナリーはそれだけ覚えておけばいいって言ってたよ」


 アリスは頬を膨らませて拗ねた態度をして見せる。


 ナナリーさんアバウト過ぎでしょ。いや、まだ子供のアリスに細かく説明してもわからないと思ってあえてそうしたのか? いやもしかして……疑問に思った俺は確認の意味を込めてアリスに質問する。


「もしかしてナナリーさんって魔法使えないとか?」

「ううん、強化の魔法は使ってたよ」

「強化以外の魔法は? というかナナリーさんからしか魔法について教わってない?」

「そういえばナナリーが他の魔法使ってるところ見たこと無いかも。魔法は師匠の元で剣術を学んでから本格的に始めるって言ってたから教わってないよ」


 その答えを聞いて確信する。ナナリーさんは完全にガイと同じタイプだ。つまりナナリーさんは近接特化であまり魔法に詳しくないからアバウトにしか説明できなかったんだろうな。さらに頃合を見て王都にいる魔法使いにでも説明させる気でいたと。


 俺は拗ねたアリスをなだめるように、ゆっくりと説明を始める。


「まず最初に魔力。これは魂の力とも呼ばれていて、魂を鍛えることによって魔力の最大量を増やすことができる」

「魂ってどうやって鍛えるの?」

「厳しい修行によって肉体、精神を鍛えることが魂を鍛えることに繋がると言われている。他には命懸けの戦闘でも同じように魂が鍛えられると言われているな。こっちは命懸けってところがポイントで、例えば弱い魔物をいくら倒しても意味が無い」

「魔力を増やすのって大変なんだね」

「そうだな。地道に増やすしかない」


 アリスには説明しなかったが他にも魔力の最大量を一気に増やす方法は一応ある。他者の魂を取り込んだり、悪魔と契約すればいい。


 他者の魂を取り込む方法は悪魔が力を貯めるために普通に行っていることだ。俺も悪魔時代は戦って倒した相手の魂を取り込んで魔力量を増やしていたしな。


 ただしこれは悪魔だけが行える手段であって今の俺にはできない。種族固有の術というやつだ。人間は他者の魂を取り込めるようにはできていない。


 契約のほうは力を得る代わりに悪魔の下僕となったり、何かを代償に差し出したり。こっちは悪魔の気分次第で契約の内容が変わるからなんとも言えないな。


「次に魔法。魔力を別のものに変化させた後に起こる事象をまとめて魔法と呼ぶ。魔法を発生させるには魔力の操作と強いイメージが必要だ」

「魔力の操作なんて意識したこと無いよ?」

「意識してないだけで、実際は魔力の操作をしているんだよ。たぶんナナリーさんも魔力の操作は意識してないんじゃないかな。まあ魔力を意識できるかどうかと、魔力の操作ができるかどうかは別だからね」


 近接タイプ(のうきん)無自覚(きあい)で強化の魔法を発動させることが多いからな。


「アリスが魔力操作を意識していないのは仕方ない部分もあるんだ。まず体内にある魔力を認識できないと意識して魔力操作なんてできない。そして最初から魔力を認識できる人は百人に一人ぐらいと言われているんだ。アリスは体内の魔力を認識できてる?」

「ううん、わかんない」

「じゃあまずそこからだな」


 悪魔時代は息をするのと同じぐらい自然に体内の魔力を認識、操作することができた。


 しかし、人間に転生して最初に戸惑ったのが体内の魔力を全然認識できないことだった。もしや俺は魔力が無いのか!? そう勘違いしてかなり焦った記憶がある。その後、集中して、かなり集中して、悪魔時代に感じていた魔力の感覚を思い出しながら集中して、やっとのことで魔力を認識できた。


 それくらい人間は魔力に対して鈍感だ。元々魔力の感覚を知っていた俺ですらそうなのだから、魔力の感覚を知らない人間ではそれが魔力だとは気づかないだろう。それ故に魔法使いと呼ばれる人は剣士や騎士などに比べて少ない。


 俺は魔力を認識できるようになってから必死になって感度を上げる修行をしたから今では悪魔時代と同じぐらいに魔力を感じ取れるようになったけど、最初から魔力を認識できるというのは一種の才能だろう。


 イスから立ち上がり、そのままアリスに近づいて右手を差し出した。


「手貸して」

「はい」


 アリスも同じように右手を差し出してきた。その手を握り、少しずつ俺の魔力を流していく。


「なんか、ふふっ。ちょっとだけくすぐったいかも」


 アリスはくすぐったさを我慢するように目を細めて俺の魔力を受け入れている。


 魔力の感度が低いと流し込んだ魔力を認識できない。これはレインに手伝ってもらって検証済み。反応があるってことはちゃんと魔力を感じ取れているってことだ。ということは単純に魔法発動時の魔力の流れを、魔法の一部として認識していたって事かな?


「今アリスの体全体を俺の魔力で包んでいるけどどうかな?」

「う~ん。あ! 強化の魔法を使う直前の感覚に似てるかも! あれって魔法じゃなくて魔力だったんだ!」


 どうやら予想通り誤解していただけっぽい。最初から魔力を認識できているとは流石勇者といったところか。


「体全体を包むようにしている魔力を移動させて、手を繋いでいるところに集めるから、集中して流れを感じ取って」

「うん」


 アリスは両目を閉じて魔力の流れに集中する。俺はゆっくりとアリスの周りに巡らせていた魔力を繋いだ手に集める。


「ん……やっぱり、これ、くすぐったいよぉ」


 慣れないうちは、まるで鳥の羽根で肌をサワサワと撫でられているかのような感覚になるからな。アリスが我慢できずに声を漏らしてしまうのは仕方ないだろう。


「繋いだ手に魔力が集まったけどわかる?」

「わかるよ」

「よし、その感覚を忘れないで。それじゃあ今度は自分の魔力で今と同じように、体中から手のほうに集めてみて」


 繋いだ手を離し、アリスの様子を伺う。


 アリスは上げていた腕はそのままに、右手を握り締めて力を込めている。


「んんん。ん? できた! できたよ!」

「え、もうできたの?」


 元々魔力として認識してなかっただけで魔力の操作、つまり魔法は使えていた。だから魔力を認識したら割と直ぐに意図的な操作もできるようになるとは思っていたけどまさかここまでとは……


「このまま……うん。手だけ強化できたよ! ふふ~んっ!」


 開いた口が塞がらないとはこういうことか。


 魔力感知の魔法を使って視覚的に魔力を見れるようにする。アリスの握り込んでいる手を確認するとちゃんと魔力が集まっていた。集まった魔力が少しずつ少なくなっているのは強化の魔法で消費されているからだろう。


 あっけにとられている俺に向かってアリスは自慢げな顔をしている。


「すごいな」

「もっと褒めていいんだよ」

「いやもう褒めないけど」

「むー」


 アリスは魔法を解除し、上げていた右手を膝に戻してジト目で見つめてくる。


「魔力の節約は今の応用だ。今は手に魔力を集めて部分的に強化をしただろう。それを応用すれば意識した部分だけを、意識した瞬間だけ魔法を発動できるようになる。後は魔法を発動するときに使う魔力の量を調整したりな。昼までは魔力の操作を練習しよう」

「はい、頑張ります。先生」

「先生?」

「うん、だって剣術を教えてもらうガイさんのことは師匠って呼んでるから。魔法を教えてもらうシヴァのことも師匠って呼んじゃうとわかんなくなっちゃうから先生!」


 なんでわからないの? と、不思議そうな顔をされてもなぁ……


「いや普通にシヴァって呼べばいいから」

「じゃあ魔法のことを教えてもらうときだけ先生って呼ぶね」

「まあ別にそれでもいいけど……」


 いきなりの先生呼びに困惑したが、俺は今までよりもさらに真剣に魔法の修行をしよう思った。だって先生が生徒に追いつかれたら格好悪いだろ?

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