表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/165

78 気になるあいつ

 ライナーが逃げたダリウスを追いかけたことで戦いの音が止んで、地下空洞に静けさが戻ってきた。


 このまま敵が来る前に結界を元に戻すのが理想だな。


 とはいえどこから手をつけたものか。


 漆黒の魔方陣は五芒星を上書く様にして覆い被さっている。


 反転した五芒星、古い文字や記号を使って複雑に描かれたそれは、読み解ける部分もあればさっぱり分からないところもあった。


「一応確認なんだけど、この黒い魔方陣って結界を張るのに必要か?」


 指さしながらセレンたちに聞いてみる。


「前に来たときにこんなもの無かったわよ」

「あからさまに怪しいですね」

「うーん、これを解除したら敵がたくさん現れるとか、そういう罠じゃ……ないですよね?」


 返ってきたのは予想通りの答え。


 シンディの心配は……うん、大丈夫そうだな。


「パッと見た感じ罠とかじゃないから安心してくれ。ただどうやって取り除けばいいのかまではすぐには分からないな。セレンたちは分かるか?」

「あたしじゃ罠じゃないって事すら分からなかったわよ。二人は?」


 セレンがそう言ってベルとシンディに視線を送った。


 ベルが無言で首を振って、シンディが申し訳なさそうにつぶやいた。


「私もまったく分からないです……」


 まあこんな古い術式なんてよっぽど魔法に詳しかったり興味がないと知らないよな。


「シルヴァリオ、ここはあなたに任せます。わたしたちはその間に仲間の救助を」

「そうね……適材適所、最初からその分担って話はしていたし、あたしはみんなの洗脳を解除して回るわ。その後は二人に任せるけどいいわね?」

「はい。私たちが騎士たちを連れて町の人たちの避難にあたります!」


 さっそく移動を始めたベルとシンディの二人。


 だけどセレンは何か言いたそうな顔をして動かない。


「どうした?」

「……なんでもないわ。こっちは頼んだわよ」

「ああ任せてくれ。そうだ……これ」


 ポーチから魔石を一つ取り出してセレンに投げ渡した。


「これ魔石かしら?」

「ああ、洗脳を解除するのにどれぐらい魔力を使うか知らないけど、あったほうがいいだろ。なんだったらもう一個渡すけどどうする?」


 俺が持ってる魔石は全部で三つ。


 仮に二つ渡したとしても、地竜から手に入れた魔石が残ってるから俺としては問題ない。


 魔法陣の解除が終われば地上へ転移する気でいるけど、その時消費した魔力はそれで回復できるだろう。


 そこまで考えての提案だったんだけど、これは断られた。


「助かるわ。でも一つだけで十分よ。ありがとう」


 そう言ってセレンは俺に背中を向けてベルとシンディを追いかけ始めた。


 さてと、それじゃあ俺はこっちに専念するかな。


 足下に描かれた漆黒の魔方陣。


 ダリウスがバシバシ魔法を撃っても全然影響ないみたいだし、直接的な破壊は難しいだろうな。


 やるならこの地下空洞そのものを壊すぐらいじゃないとダメだろうし。


 もちろんそんなことする訳にもいかないからちゃんと解析して解除するしかないか。


 一通り眺めて見た感じだと結界の発動を阻害して、さらに結界を発動するための魔力を使って別の魔法を発動させてるのか。


 ロザリーたちが聖教会を襲ったときもおそらくこれを使って町全体に洗脳魔法をかけたんだろうな。


 そしていまは魔力を吸収する魔法を発動させていると。


 吸い取った魔力をどこかに転送してるみたいだけど、その転送先は……ん、どうなってんだこれ。二カ所に送ってる?


 やっぱ古い術式だと読み解くのに時間かかるな。


 分からないところは周囲の術式から推測するしかないから、そうなるとここがこうなってて。


 徐々に、だけど早く、速く、思考の海へと潜っていく――




 ベルとシンディを追いかけて、あたしも仲間たちが捕えられている区画までたどり着いた。


 事前に誰もいない場所ってことは確認してたから大丈夫だとは思うけど、さっきあたしが撃った魔法でみんなが怪我をしてないかちょっと心配だったのよね。


 周りを見渡して……うん、大丈夫そう。


 心の中でほっと安堵をついた。


 ベルとシンディは二手に分かれて、別々の牢屋の扉を壊そうと頑張ってる。


 鍵を取りに行く時間なんて無いから壊すのは構わないんだけど……


「ねぇベル、あなた怪我してるわよね?」


 ベルが一つ目の扉を壊し終えて、次の牢屋へ移るところで声をかけた。


「いえそんなことはっ、ありません」


 本当に一瞬だけ顔を歪めて、でもすぐにいつも通りのすました表情を見せるベル。


 こっちは扉を隠すときに痛そうにしてるのを見てるんだから今更隠しても意味ないのに。


「いいからこっちに来なさい」

「……これぐらいどうという事はありません。それにセレン様の手を借りずとも自分で治せます」

「あなたが自分でやるよりあたしがやった方が早いでしょ」


 両手を腰に当てて呆れたように言うと、やっとこっちに来てくれた。


「救助を優先したのかもしれないけど、こういうのはちゃんと隠さず言ってくれないと。あとになってからじゃ手遅れになるかもしれないでしょ? それでベルにもしもの事があったらどうするのよ」

「……申し訳ありません」

「まぁ、これぐらい大丈夫って強がる気持ちも分かるけどね」


 ちらりとベルが向けた視線の先。


 そこには魔法陣の解析をしているシヴァがいた。


 あたしはベルから負傷しているところを聞き出して、胸部に手をかざし、治癒魔法をかけながら話しかける。


「あまり比べても仕方ないんじゃない」

「……そういう訳ではありません」

「あたしの目にはあいつと敵が戦ってる姿ってほとんど見えなかったから分かんないんだけどさ、あいつってすごいの?」


 答えたくないのか、ベルは無言のまま目を伏せた。


 認めたくないならそれでもいいけどね。


 ベルは隙を突いて斬りかかったのにたった一回の攻防で怪我をした。


 なのにあいつはそんな相手を一人で抑え続けて、あたしが襲われた時には機転をきかせて退かせることもやってのけた。


 それに極めつけは最後のあれ。


「さっきあいつがやったこと、あたしの魔法を即興で魔法剣として使うのってベルならできる?」


 ちょっと意地悪な質問かなって思ったけど、これは聞いておきたかった。


「……できません」

「あ、やっぱり?」

「やっぱりとはなんですか」


 ベルが少しだけ拗ねたような表情を浮かべた。


 あたしより年上だけど、こういうところ見ちゃうと可愛いなって思う。


 本人に言ったら怒りそうだから言わないけど。


 治療が終わったところでベルが一歩下がった。


「セレン様はご存知ないかもしれませんが、魔法剣というのは厳密には攻撃用の魔法と、それを押さえ込んで剣に纏わせる魔法に分かれています。そして後者は攻撃用の魔法ごとに制御を変える必要があります。何より攻撃用の魔法を押さえ込んでおくだけの技量が求められます」


 あの魔法は今のあたしが使える最高のもの。


 生半可な奴じゃ防ぐことすらできない。


 それを抑え込んで魔法剣として制御できるってことはつまり……


「あたしより魔法の腕が上ってことよね?」


 あたしを気遣っているのか、ベルらしくない歯切れの悪い答えが返ってきた。


「そういう……ことになります……」


 そこまで気にしなくてもいいのに。


 まあちょっと悔しいのは確かだけど。


「そっか」

「……扉の破壊に戻ります。セレン様は洗脳の解除をお願いします」

「うん、わかってるわ」


 扉の破壊に向かったベルの背中を見送る。


 あたしはあたしにしかできないことを頑張らないとね。


 壊れた扉をくぐる直前、ふとシヴァがいる方へ顔を向けた。


 勇者の恋人ってぐらいにしか思ってなかったけど……ちょっとだけ興味出てきたかな。


 魔石をギュッと握り締め、あたしは牢屋の中へ入った。




 駆ける足音が通路に響く。


 一つはオイラ、もう一つは前を行く片翼のダリウス。


 走る速さはほとんど同じぐらいだからこのままじゃ追いつけない。


 だからといってこの細い道の中、流星剣で一気に距離を詰めるのはカウンターが怖い。


 なにより剣を振るには狭い。


 短剣でもあればまた違ったんスけどね。


 とりあえず今は――


「はあっ!」


 走りながらダリウスに向かって思いっ切り剣を突き出した。


 斬撃ではなく刺突で発動させた飛翔剣。


 高速で飛んで行ったそれが相手の体をかすめる。


 お返しとばかりに炎の弾が襲い掛かって来た。


 通路にくっ付くぐらい前傾姿勢で走り抜けて、炎弾が頭上を通り過ぎたところで体勢を元に戻す。


 次はこそ当てる!


 柄を握る手に力を込め、もう一度刺突を繰り出そうと構えて――


「ってこれは流石に」


 足を止めて、通路を塞ぐように放たれた複数の炎弾をすべて撃ち落とした。


「うわっ、ちょ……ごほっ、ごほっ……」


 これが狙いか。


 煙を吸わないように後ろに下がる。


 開けた場所ならある程度すれば煙も晴れるけど、この通路だといつまで待てばいいか分かんないッスね。


 足止めを食らってる間にダリウスの足音だけが遠くに逃げて行く。


 これは覚悟を決めて一気に行くしかないか。


 刺突を連続で飛ばして煙を切り裂く。


 全部で十発打ち終えたところで大きく息を吸い込んだ。


「すうぅぅぅ……」


 煙でできたトンネルの中を駆け抜ける。


 通路の先、さっき放った飛翔剣が何かに当たって爆発が立て続けに起きた。


 やっぱり逃げながら後ろに魔法を撃ってるッスよね。


 爆発の余波と煙を体に受けつつも、それでも追加の突きを放ちながら走り続けた。




 地下通路を抜けて神殿から飛び出す。


「はぁ、はぁ……。あいつどこに……」


 周囲を探っても怪しい気配はない。


 町を出た? それとも人ごみに紛れて隠れた?


 ひと息に跳んで神殿の屋根にのぼる。


 もう一度辺りを見回して…………いた!


 聖教会を囲う外壁の上に片翼の背中を見つけた。


 神殿から飛び降り、流星剣の応用で一気に加速する。


 二度、三度と加速を繰り返して、速度を落とさず外壁を飛び越えた。


 眼下に広がる草原。


 丁度後ろを振り返ったダリウスと視線が重なった。


「逃がさないッスよ!」

「もう追いついたのかよ」


 着地の瞬間を狙った炎弾を空中で放った飛翔剣で相殺する。


 地面に足を付けた一瞬だけ煙の中に紛れる。


 斜め前方に向かって飛び出し、追撃の魔法をジグザグに躱しつつ距離を縮める。


「それしかできないんスか!」

「ああん!?」


 オイラの挑発が気に入らなかったのか、両手を合わせて何か別の魔法を発動させようとしてるけど、そんな隙を見せていいんスか?


 踏み込む足に力を入れて一直線に斬りかかった。


「はあっ!」

「ちっ、この野郎!」


 腕を伸ばして張った結界がオイラの剣を受け止めてる。


 ダリウスはとっさに発動させる魔法を結界に変えたのか。


 ギチギチと音が鳴りそうなほど剣を結界に強く押し付け、反動をつけて一歩下がると同時に横薙ぎの一閃。


 結界を容易く切り裂いたのは剣神流の必殺技の一つ、斬魔剣。


 目を見開いて驚いてるみたいだけどまだ終わりじゃない。


 横薙ぎの勢いを殺さず頭上まで剣を回し上げ、振り下ろした。


「うわぁ!?」


 するとダリウスは声を出して後退り、転ぶようにして背後に倒れた。


 ゆっくりと近寄って剣先を向ける。


「ちょっと危なくなると逃げて、斬られそうになったら足をすくめて転ぶとか……むかしから成長してないんじゃないッスか。いま結界を切った剣技だって師匠の下で真面目に鍛錬をしていればお前だって使えるようになってたかも知れないんスよ」

「違う、俺はこの力を手にして強くなったんだ!」

「じゃあ続きやろうか? だけどその場合寸止めはしない」


 剣先をさらに近づけて目を細め、できるだけ冷たい声を出して脅しをかける。


 どうやら効果があったらしく、ダリウスは悪魔っぽい姿から人間に戻って命乞いを始めた。


「ま、待て。ほらこれでいいだろっ!? 俺は仕方なくあそこに居たんだ。だから、だからこのまま見逃してくれよ」

「どうしてあそこに居たのか理由は後でたっぷり聞くとして……とりあえずそこに立て」


 剣を引いて脅しを解いた。


 だけどいつでも斬りかかれるように鞘には納めない。


「わ、わかった。これでいいか?」


 両手を顔の位置まで上げて戦う意思がない事を強調しているダリウス。


 一歩近づいて剣を左手に持ち替え、無防備なその顎に裏拳を入れる。


 ついでに腹に向かって後ろ回し蹴りを叩き込んだ。


 ダリウスが勢いよく転がって行く。


「おまっ、なんで……? それに剣士が蹴り……かよ……」

「ふん、むかし道場で蹴られたお返しッスよ」


 ふらつきながらも立ち上がろうとしてるけど、頭を揺さぶったからそれも難しいはず。


 結局ダリウスは体を折り曲げて地面に膝を付いて、そのままドサッと前向きに倒れた。


「……さてと、こいつどうしようかな」


 首に手を当て、ダリウスの扱いについて考える。


 気絶させることには成功したけどまだ縛ってない。


 そもそも縛る紐が無いし困った。


 いやまあ魔法が使える相手を縛ってもあんまり意味ないんスけどね。


 とりあえずアニキたちの作戦が上手くいけば聖騎士たちが町の人たちの避難を始めるはずだから、聖騎士を見かけたら預ければいいか。


 とりあえず担いで行こう。


 そう結論付け、ダリウスのところへ歩き出して――大聖堂の方から爆発音が聞こえてきた。


「っ!?」


 無意識のうちに剣を握り直して音のした方へと体を向ける。


「何が……え?」


 外壁越しに小さく見える大聖堂。


 その最上階にあたる部分が消し飛んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ