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72 宿場町

 俺たちがここ、聖教会の一つ手前に位置する宿場町に着いたのは昼を過ぎてからだった。


 遅い昼食を食事処で食べつつ、これからの予定について簡単に話をした。


 まず最初に、昨日サーベラスから連絡があったことをみんなに伝えた。


 サーベラスと会ったことのないセレンたちは、いまからちゃんと合流できるのかどうかを気にしていたけど、それについては問題ないとだけ答えておいた。


 実際サーベラスならカムノゴルからここまで一日もあれば来れるだろう。


 ただ一つ問題があるとすればマリーさんが一緒ってことだけど……あいつちゃんと気を遣ってるかな。


 まあなんにせよ、俺たちが聖教会に到着するまでに間に合いそうで良かった。


 聖教会の中で待ち合わせするよりかは手前にあるここで合流した方がいいだろうってことで、今日はサーベラスとマリーさんが来るのを待つことになった。


 次に二人が合流するまでの時間を使ってギルドに行き、情報を集めることにした。


 セレンがギルバード団長から聞いた話だと、聖教会は悪魔に侵略される前と変わらないとのことだった。


 そうなるとこの宿場町にも聖教会に行って戻ってきた人たち、つまり商人や冒険者がいるはず。その人たちからもう少し詳しい話を聞ければいいなと思ってる。


 そして最後に、聖教会に入ってからの行動方針を決めるために作戦会議が必要だよねってなった。


 まあこれはサーベラスとマリーさんが来てからだけど。




 ひと休憩を終えた俺たちは、まず商業ギルドに行って話を聞いてきた。


 普段は冒険者ギルドのほうにしか行かないからなんだか新鮮な気持ちになった。


 冒険者ギルドに比べると落ち着いた雰囲気で、でもだからといって活気がないわけでもない。


 職員も商人たち相手に忙しそうにしていた。


 商業ギルドで用を済ませたら、次は隣に建っている冒険者ギルド、ここでも同様に話を聞いてきた。


 まあ主に話をしたのはアリスとセレンの二人だったけど。


 そしていまは冒険者ギルドのほうで借りた部屋の長机に、みんな適当に座っている。


「あんまり有益な情報はなかったわね」

「まあ元々そんなに期待してなかったッスけどね」


 机に肘を置いた格好で口火を切ったのはセレン。


 ライナーがそれに続いた。


「でも気になること言ってませんでしたか? 宿屋で寝ても疲れが取れなかったって」

「あの商人、結構年いってたから単純にそのせいじゃないかしら」


 聞いてきた話の中から何かないかと必死に絞り出したであろうシンディに、セレンが辛口で返した。


「ですが似たようなことを他の人も言ってませんでしたか? そっちは比較的若い方だったと思いますけど」

「なぜか前よりも旅が辛く感じたって言ってた冒険者よね。でもそれだけじゃあね……あなたは何か気づいたことなかったの?」


 こっちを見てセレンが話を振ってきた。


 気づいたことね。


「いまの話だけど、聖教会に入ると強制的に吸われるんじゃないかな。それが疲れとして現れてる」

「吸われるって何を?」

「魔力だよ。あくまで可能性の話だけどな」

「一人を相手にするならともかく、広範囲にわたってそんなことができるの?」


 俺は聖教会にいる悪魔がロザリーだと睨んでる。


 あいつならそれぐらいの事はできるだろう。


「できる悪魔がいてもおかしくはないだろ?」

「可能性の話ならそうね。でも魔力を吸い取って何をしようとしてるのかしら?」

「仮定に仮定を重ねてもあまり意味はない気がするけど、順当なところで自身の強化、もしくは何かしらの大規模魔法を発動させるために溜めてるってところじゃないか」

「想像はできても決定的なことは分からない……まあ仕方ないわね」

「でも一つだけ役に立ちそうな情報があるな」

「何よ?」

「聖教会に入ってもすぐには襲われないだろうってこと」

「……ああ、なるほどね」


 商人と冒険者が聖教会に行って戻ってこれた。


 これから分かることは無差別に洗脳したり、洗脳済みの人たちを使って襲いかかったりしていないってこと。


 セレンたちが聖教会から逃げてきたときと状況が変わってると考えたほうが良さそうだ。


 一応セレンたちだけを狙ってるってことも考えられるけど、可能性としては低いだろう。


 めぼしい情報も特になく、だけどサーベラスたちが到着するにはまだ早い。


 せっかく部屋を借りてるんだから、このままお互い何ができるのか話そうということになった。


 なんでそんな流れになったのかってのは簡単な話で、当初の予定ではここに着くまでの間に魔物と戦って、お互い実力を見せ合うはずだったんだけど、幸か不幸か今回の旅では片手間で倒せるような弱い魔物しか出てこなかったからだ。


「とはいえ何から話すか」


 ここじゃあ実演して見せることはできないし、かと言って冒険者のランクや役職の話をしたって大して意味は無いだろう。


「じゃあ二人が使う剣神流についてなんですけど、どんな必殺技があるのか知りたいです。あ、でも口外してはいけないとかであれば言わなくていいですよ」


 手を上げて質問したのはシンディ。


 仮にも師範代を務めてるんだ、俺が答えるよりもライナーが話した方がいいだろう。そう考えて視線でライナーを促した。


「なんて説明すればいいかな……そうですね、初代剣神が強力な竜を相手に四つの必殺技を生み出しました」

「それってあたしたちに話していいものなのかしら?」

「話したところで使えるようになったり、対処できるようなものじゃないッスから」

「そう、それならいいんだけど」

「その生まれた必殺技っていうのが斬竜剣(ざんりゅうけん)高速剣(こうそくけん)飛翔剣(ひしょうけん)流星剣(りゅうせいけん)と呼んでるものです。簡単に説明すると」


 斬竜剣――竜の硬い鱗と魔法障壁を突破するために生まれた力と技術の剣技。


 高速剣――ただひたすらに速さを求めた剣技。


 飛翔剣――空飛ぶ竜を斬るための、斬撃を飛ばして、剣の射程を伸ばす剣技。


 流星剣――相手との間合いを一瞬で詰めて斬りつける剣技。


「と、まあそんな感じです。ちなみに斬竜剣をさらに細かく斬鉄剣、斬魔剣に分けて使うこともあって、それで必殺技を五つだと勘違いしてる人も過去には居たらしいんですけど、オイラたちはいま説明した四つを剣神流の必殺技としています」

「力と技術、速さと射程、そして間合い……基本ですね。それを突き詰めた結果、必殺技と呼ぶべきものになったと。その四つを全て同時に使うことはできるのですか?」


 かつて俺とライナーも、ベルと同じ疑問を師匠にぶつけたことがある。


 そのとき返ってきた答えは酷く単純なものだった。


「できるにはできますけど、かなり集中力が必要で疲れますし、結構隙が大きいのであまり使わないですね。一撃必殺と言えばかっこいいですけど」

「一応、天地求道剣(てんちぐどうけん)って名前があって、なんだっけ? 剣の道に生きた初代剣神がずっと追い求めた至高の一太刀……って意味だったよな?」

「そういえばそんなこと師匠言ってましたね」

「へぇー、というか空を飛ぶ竜を斬るって発想もそうだけど、それを実際にやっちゃうって、その初代剣神って人色々おかしいんじゃないかしら」


 俺も最初似たような印象を持ったけどさ、その剣神流を受け継いでいる俺たち相手にズバッと思ったことを言うセレンもどうかと思うぞ。


「あー……まあオイラも今はできますけど、最初は無理だと思いましたからね。初代剣神は未だに至高の一太刀を求めて生きてるとかいう逸話があるぐらいぶっ飛んだ人らしいですから」

「それ人間なのよね?」


 人間ならさすがにもう寿命で死んでるはずだからな。


 これには俺もライナーも苦笑を返した。


「あと、オイラは使えないですけど魔法剣ってのもありますよ」

「それは剣神流の技じゃないだろ」


 あまりこだわる必要もないけど、あれを剣神流の技と呼ぶのは違うからな。


「魔法剣?」

「アリスも使ってたあの炎の剣みたいなやつだよ」


 アリスが納得とばかりに頷いた。


「過去に剣神流を受け継いだ人の中にも魔法を使える人がいて、剣に魔法を付与して戦っていたってだけの話なんスけどね」

「それなら私もできます」

「あらベル、張り合ってるの?」

「断じて違います。お互いにどんなことをできるのか共有する場なのですから使えると発言しただけです」


 セレンのからかいをベルが涼しい顔で受け流した。


 まあ魔法剣は俺やアリスの専売特許って訳でもないしな。


「ちなみにベルは魔法剣を使うとき、何系統の魔法を使うんだ」


 水系統は使えないってのは聞いたけど。


「ステラの恩恵を得た者が使える聖なる光です」

「恩恵って治癒だけじゃなくて攻撃魔法もあるんだな」

「当然あたしも使えるわよ、二人よりも強力なやつ。ただステラのやつとは違うかな」


 自分の胸元を指さして答えるセレン。


 なるほど、天使の加護を持ってるセレンはそれに関係する攻撃魔法は使えると。


「そう言えばこれから来るサーベラスはあなたの従魔って話だけど、それとは別にもう一人来るのよね。その人はどんな人なのかしら?」

「マリーって名前で年齢はたぶん三十前後ぐらいかな。知らない? 一応むかしは聖教会にいたはずなんだけど」


 実際の年齢は怖くて聞けないけど大体合ってるんじゃないかな。


 見た目はむかしからほとんど変わってないから、ぱっと見は二十前半なんだよな、あの人。


「うーん……マリーって名前はそこそこ居るから、それだけだとどの人か特定できないわね」

「結界魔法が得意。治癒魔法も切れた腕を繋げるぐらいできる」

「へぇーかなりの腕前じゃない、そうなると光壁(こうへき)のマリーかしら?」


 関心したよう呟くセレン。


「光壁?」


 だけど俺はこれが気になって思わず聞き返した。


「至高の守り手。その人が張った光り輝く結界は誰にも破れないって。会ったことはないけどかなり有名人よ」

「…………別人かな」


 そんなかっこいい感じの人じゃないし。


「なんでも聖女様といけない関係になったとかで、どこかに飛ばされたって聞いたことあるわ。本当かしらね」

「あぁ……その人で合ってる」


 むかしそんなこと言ってた気がする。


 あの人光壁のマリーとかいう二つ名で呼ばれてたのか。


 なんだか残念な気持ちになるのはなんでなんだろうな。


 他にもベルとシンディが得意なこと、これから来るサーベラスとマリーさんがどんなことをできるのかなどを話していると、サーベラスから念話が届いた。


『――シヴァ様、もうそろそろで到着します』

『わかった。それじゃあ町の外で合流するぞ』

『畏まりました』

「サーベラスからそろそろ到着するって連絡が入ったから迎えに行ってくる。みんなはここで待っててくれ」

「うん、行ってらっしゃい」


 俺は一人立ち上がり、アリスたちに見送られて部屋を出た。

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