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67 連れて行くのは……

「他に気になったことはありますか?」


 結界が解除された原因はわからず、何か知ってそうな天使はどこかへおでかけ。


 状況は理解したけど収穫はほとんど無いにも等しい。


 結局のところ現場を直接見ないとなんとも言えないな。


「……俺はもういいかな。あとで気になることが出てきたらそのとき改めて聞くよ。アリスは?」

「私も大丈夫だよ」

「そうですか。他に気になることがあればいつでもお聞き下さい」

「ああ」


 話し合いが落ち着きを見せたところでセレンは立ち上がり、続いてベルとシンディの二人も腰を上げた。


「それでは私たちは聖教会へと向かう準備をしてきます。一通りの準備が終わったら騎士団の方へ伺いますね」

「あ、待ってください。それなら私と一緒に詰め所まで来てもらえませんか。旅の準備なら倉庫にあるものとか使えると思うので」


 店を出て行こうとする三人にアリスが声をかけた。


 当然のように騎士団の物資を使おうとしてるけどいいんだろうか。


「騎士団の物を勝手に使っていいのか?」

「さっき言ったでしょ? 私なら上級騎士と同じ権限があるって、だからそれぐらいなら大丈夫だよ」


 アリスは俺の質問に答えつつ長机から離れてセレンたちに並んだ。


 ま、アリスが大丈夫って言うなら問題ないんだろう。ありがたく使わせてもらおう。


「ところでライナーたちはどうするの?」


 まだ座ったままの俺に向かってアリスが振り返って聞いてきた。


「ライナーというのはアルカーノ騎士団の人でしょうか?」

「いや俺の仲間だ。今回の件、あと一人か二人連れて行ってもいいか?」

「相手は上級悪魔か、それに相当する実力があると思われます。それでも大丈夫でしょうか?」

「ああ問題ない」

「そうですか。それならば構いません」


 セレンの横でアリスが少し意外そうな顔で俺を見ている。


 きっと一人か二人って部分が気になったんだろう。


 みんなに遅れて俺も椅子から立ち上がり、一緒に店を出た。


 俺はあとで合流すると言ってみんなと別れた。




 宿屋に入ると一階の受付前にある机にライナーとサーベラスの二人が腰かけていた。


 女性陣がいないのは買い物に時間がかかってるんだろう。


 俺に気づいたライナーは片手を上げて明るい声をあげた。


「アニキ!」

「おう、二人はもう買い物終わったのか」

「終わりましたよ。買い物よりも店を探す時間のほうが長かったッスけどね」


 そう言ったライナーとサーベラスの服装は傷一つ無い新品に変わっていた。


 ただし見た目はほぼ同じ。よくもまあここまで似通った服が売っていたものだと感心する。


「アニキはどこ行ってたんスか?」

「アリスとちょっと出かけてた」


 二人の対面に座ると、突然ライナーが拗ねるように突っかかってきた。


「はぁー、いいッスね。二人はラブラブッスね」

「どうしたんだ?」

「レインに会いたくなっただけッスよ」

「なるほど……それなんだけどな、レインに会えるのもう少し先になりそうだ」

「は?」

「シャルたちが戻ってきてから一緒に話すよ。ちょっと待っててくれ」

「はぁ……?」


 それから少し待ってもシャルたちが戻ってくる気配がなかったため、俺たちは昼食のため一度外へ出た。


 さすがに食べ終わる頃には戻って来てるだろうと思っていたが予想は外れた。


 そこからさらに時間は流れ、おやつが食べたくなってきた頃合いになってようやく二人は戻ってきた。


「シヴァせんせー、戻りましたよ-」

「おう……ってなんだその荷物は?」

「え? だってせっかく王都まで来たんですよ。色々買っておこうと思って。ね、お姉ちゃん」

「カムノゴルだと売っていないデザインの服や小物があってちょっと買い過ぎてしまいました」


 オリヴィアが若干照れながらもシャルに同意を示した。


 いや、だからといってその量はどうかと思うけど。


 革でできた袋がパンパンに膨らんでいて、それを抱えているシャルたちの顔が見えなくなってる。


「とりあえずそれ床に置いたらどうだ?」

「そうですね」


 袋の横から顔を覗かせていた二人は腰をかがめて荷物を床に置いた。


「シヴァ先生は特に買う物は無いって言ってたし、師範代とサーベラスさんは新しい服に着替えているし……あとはもう帰るだけですね」

「転移魔法をここで使うのは目立ちますから一度王都の外に出ましょうか」


 すぐにカムノゴルへ帰れると疑っていない二人に、俺は少し申し訳ないなと思いながら告げた。


「それなんだけどな、実はいま転移魔法を使えないんだ」

「「ええっ!?」」


 俺が転移魔法を使えないことを打ち明けると、ライナーとシャルが驚きの声を上げた。


「シヴァ先生、それはどうしてでしょうか?」


 サーベラスを除けば一人だけ落ち着いていたオリヴィアが素直に疑問を口にした。


 シャルたちも俺の顔を見て説明を待っているようだ。


 ここはギルバード団長の言葉を使わせてもらおう。


「この間の討伐依頼のときに戦った上級悪魔から呪いを受けたみたいで魔力がかなり減ってるんだ」

「呪いですか……それはシヴァ先生でも解呪できないものなのでしょうか?」

「難しいな。ただ時間の経過で回復してるみたいだから様子見してるところだ」

「シヴァ先生は魔石を持ってますよね。それを使えないのでしょうか?」

「使ってみたけどだめだった」

「そうなると……減っているのは最大魔力量のほうですね」

「ああ」


 俺とオリヴィアのやり取りを聞いていたシャルはなるほどと頷いた。


 だけど目の前に座っているライナーはよくわかっていなさそうだ。


「最大魔力量が減るとどう困るんスか?」

「師範代は魔法を使えないから知らなくても仕方ないですけど、最大魔力量よりも多くの魔力を必要とする魔法は発動させることができません」


 ライナーの疑問にオリヴィアが答えてくれた。


 いまの説明でも問題はないけど、シャルがさらに付け加える。


「もっと正確にいうと魔法を発動できることもありますけど、その場合は期待するものより効果が少なかったり、魔法が暴走する可能性が高くなって危険なんです。だから魔法を使う人たちは基本的に自分の魔力量の上限を超える魔法は使わない。シヴァ先生、これで合ってますよね?」

「合ってるよ。そういう訳で無理に魔石を使って転移魔法を使ったときに、どんな風に暴走するかわからないから使うわけにもいかない」

「へぇー」


 適当な相づちを打つライナー。


 まあ剣士は魔法の理屈なんか知らなくてもいいから理解してなくてもいいけどな。


「そういえばアニキ、昼前にシャルたちが戻ってきたら話すって言ってたのってなんスか?」

「私たちが戻ってきたら?」

「一体どんなお話でしょうか?」

「ああ、俺はカムノゴルに戻らないで聖教会に向かうことにした」

「ええっ、どうしてですか?」

「それをいまから説明するから二人とも座ってくれ」


 食い気味に聞いてきたシャルを手で制し、まだ立ったままの二人を椅子に座らせた。




 セレンたちと話した内容を手短に伝えた。


 俺が話し終えると、ことの重大さに誰もが口を閉ざしている。


 その沈黙をライナーが破った。


「あの悪魔は聖教会で暴れたあとにオイラたちのところに飛んできたんスね」

「え、でもそれでなんでシヴァ先生が聖教会に行くことになるんですか!?」

「そこまで大事(おおごと)になってるのでしたら王都が正式に対応するべきではありませんか? もしかしてシヴァ先生はこの間の討伐依頼のように、騎士団から依頼を受けたのでしょうか?」

「いや、王都と騎士団は関係ない。聖教会の人たちと会って話をして、俺とアリスは手伝うことに決めたんだ」


 俺の話を聞いてシャルとオリヴィアがややうつむき気味になる。


 それとは対照的にライナーが明るい声を上げた。


「だったらオイラも手伝いますよ。あいつに会ってからずっとモヤモヤしてたんでちょっと暴れたい気分なんスよ」

「レインと当分の間会えないぞ?」

「うっ、それは辛いッスけど……」

「冗談だ。頼りにしてる」


 そう言ってライナーを見ると不敵な笑みが返ってきた。


「それからシャルとオリヴィアはカムノゴルに戻ってくれ」

「え、どうしてですか?」


 当然のようにシャルは着いてくる気でいたみたいだ。


 だけど俺は二人を連れて行く気は無い。


「いま説明したように今回戦うのはライナーたちが出会った悪魔と同格、つまり上級悪魔の可能性が高い。そんな戦いにシャルとオリヴィアを連れて行く訳にはいかない」


 そういうと二人は一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべた。


 はっきりと言った訳ではないけど、戦力外だと言っているようなものだからな。


「それは……それならシヴァ先生だって魔力が減ってるんですから、シヴァ先生だって危ないじゃないですか!」

「さっきも言ったけど少しずつ魔力は戻ってる。実際に悪魔と戦うときにはもう少し回復してるだろうし、俺なら大丈夫だ」

「うぅ……」


 シャルが口をつぐむと、今度はオリヴィアが予想外の質問を投げてきた。


「シヴァ先生が強いのは知ってます。だけど、だからといってシヴァ先生がその戦いの手伝いをする必要はないんじゃないですか? どうしてシヴァ先生は聖教会に向かおうと思ったんですか?」

「………………カムノゴルだって昔悪魔に襲われたんだ、他人事(ひとごと)じゃない。放って置いたら俺たちの町にまで被害が広がるかもしれないだろ? だからそうならないように先に手を打ちたいんだ」


 いま言ったことに嘘はない。


 だけど、本当の答えでもない。


「そうですか……わかりました」

「一緒に帰れなくて悪いな」

「いえ、それではアクアさんたちには私から説明しておきますね」

「よろしく頼む」


 最後にさっきから無言を貫いているサーベラスの方を向いた。


 いまの話を聞いて何を考えているのかわからないけど、とりあえず今後の指示を出しておく。


「サーベラスは二人のことを頼む。カムノゴルまで送ったあとはすぐに俺のところまで戻ってきて欲しい」

「畏まりました」

「それじゃあライナーは聖教会の人たちに紹介するから俺と一緒に詰め所まで来てくれるか?」

「了解ッス」


 俺とライナーは席を立ち、借りていた部屋に一度戻って荷物を取ってから宿を出た。




「そういえばアリスさんはいいんスか?」


 詰め所に向かう道中、ライナーが話しかけてきた。


 それ自体はいいんだけど質問の意図が読めない。


 仕方ないので歩みを止めずに聞き返した。


「いいんスかって何がだ?」

「シャルたちを帰すのって実力不足ってよりも心配だからですよね? 傷ついて欲しくないとか、死んで欲しくないとか……」

「まあな」

「それならアリスさんも今回の戦いには連れて行かないほうがいいんじゃないですか? いくら勇者で強くても、万が一ってこともありますよ? アニキとアリスさん付き合ってるんですよね。心配じゃないんですか?」


 ライナーの言うように俺がシャルとオリヴィアを帰したのは実力不足という事実よりも、もしも取り返しのつかないことが起きたらってことを心配してだ。


 それならアリスはどうなのかっていうと……


「シャルとオリヴィアはどれだけ強くなっても俺の中では守るべき対象だ。だけどアリスは……アリスのことは守りたいって気持ちももちろんあるけど、隣に並んで支えたいというか……対等でいたいんだよ。アリスが誰かを救うために戦う道を選ぶなら、俺はそれを止めるんじゃなくてその道を一緒に歩みたい」

「ほほーう」


 隣を見るとライナーが口元をニヤつかせていた。


「なんだその顔は?」

「いやーなんでもないッスよ。――ってなんで殴るんスか!?」


 俺が軽く殴ったわき腹をライナーは手で押さえながら抗議の声を上げた。


「なんとなくムカついた」

「ひどっ!?」

「さっさと行くぞ」

「急に早足になんないで下さいよー」


 アリスにだって面と向かって言ってないのに、なんで俺はライナーにこんな話をしてしまったのか。


 少し後悔していると後ろから悪魔の囁きが聞こえてきた。


「あ、いまの話アリスさんに話してもいいッスか?」

「お前それやったら本気で怒るからな」

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