表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/164

6 夜に思う

 シヴァと別れてからはずっと本を読んでいて、気がつけば夕ご飯の時間になっていた。


 レインちゃんが「ご飯の時間ですよ~」と声をかけてくれなければまだ本を読み続けていたかもしれない。


 みんなと一緒に食堂でご飯を食べて、その後すぐに部屋に戻ってきた。


 お昼過ぎにしたやり取りのせいで、シヴァと一緒に居る事がなんだか恥ずかしくて。


 枕に顔を隠すようにしてベットに寝そべる。考えるのはシヴァのこと。


 短く切った暗めの茶色い髪に、同じ色の瞳。素朴な顔立ちからはどこにでもいそうな普通の男の子にしか見えなかった。レインちゃんという妹がいるせいか、優しそうな雰囲気を感じたけれどそれだけ。孤児院の外で最初に見たときの印象は、そんなありふれたものだった。


 ここに着いてすぐ、師匠の指示でシヴァと手合わせをすることになった。同じ年頃の男の子が相手になんかなる訳がないと、完全にシヴァのことを舐めていたら……結果はまさかの引き分け。


 シヴァの攻撃を受けることは無かったけれど、こちらの攻撃も当たらない。まるでナナリーや王都の上級騎士と手合わせしているみたいだった。


 どうして勇者の加護を持たないただの男の子があんなに強いんだろうって不思議に思う。逆に勇者の加護を宿しているはずの私は本当に強いんだろうかって、ほんの少しだけ不安になったけど……気づかれてないよね?


 ああでもそんなことよりあの時はお腹が鳴って恥ずかしかったなぁ……


 それからお昼ご飯を食べた後、院長先生の部屋に行く前にシヴァが師匠やアクアさんのことを少しだけ教えてくれた。レインちゃんのことは話してくれなかったから、今度聞いてみようかな?


 それに師匠に休めって言われて困っていたら本を薦めてくれた。しかも『アルフレド伝説』! 小さい頃に両親に読んでもらっていたお話で大好きな本だったからすごくびっくりした。なんだかすごく大げさに反応しちゃったから変な子って思われなかったかな?


 枕元にはさっきまで読んでいた本が無造作に置いてある。ちらっと本に視線を向けて、それからまた枕に顔をうずめた。


 神話の物語に描かれる勇者アルフレドの強さは化け物じみている。お城ほどに巨大なドラゴンを一撃で倒し、万にも及ぶ強力な魔物の大軍を一人で殲滅するのだ。そして邪神を倒すのは巨大なドラゴンを倒すよりも、万の大軍を倒すよりもきっと難しいに違いない。


 そんなことができるのは物語の中だけの話。同じ人間にそんなことができるとは思えない。いかに勇者の加護を宿していても、勇者アルフレドのように強くなれるわけがない。そう思うのがみんなの常識。歴代の勇者でもそれほどの実力者はいなかったのだからそう思っても仕方がない。


 だから。そう、だからこそ――


『アルフレドが仲間と協力して邪神を倒すところとかすごくいいよね、私もあんな勇者になりたいんだ』

『あぁ、わかる。それにアリスならアルフレドみたいな勇者になれるんじゃないか』


 シヴァがそう言ってくれたとき、本当に嬉しかった。


 両親や近所に住んでいた子供たち、ナナリーや騎士たちにも勇者アルフレドみたいになりたいと言ったことがある。両親はなれるよと言って頭をなでてくれた。だけど、争いごとを知らない二人はそれがどれだけ困難なことかきっとわかっていない。子供たちは私のことを指差しながらバカにした、物語の勇者は本当の勇者よりも強くかっこよく書かれてるのにそんなことも知らないのかと。


 それは本当のことかもしれないけれど、そんな夢の無いことを言わないで欲しいなぁ。


 ナナリーや騎士たちは困ったように考えてからアリス様ならきっとなれますよ、そう言ってくれた。騎士として力を持つ身だからこそ、それがどれだけ困難なことか知っていて、でも立場上勇者である私をバカにすることが出来なくて。


 シヴァはどうしてああ言ってくれたんだろう。私と同じくらい強くて、ナナリーよりも強い師匠が身近にいるのに。どれだけ困難なことか、わかるはずなのに。本当に、私なら物語の勇者みたいになれるって思ってくれたのかな。


「そうだと、いいなぁ……」


 枕を胸に抱いて、ベットの上で思わず右に左に転がる。あのときのことを思い出すとどうしてか頬が熱くなる。


 火照った顔を冷やそうとベットを降りて窓を開けた。涼しげな空気が部屋に入ってきて、頬を撫でる風が気持ちいい。


 明日から修行が始まる。師匠の修行ってどんなことするんだろう? ナナリーと同じ感じかな?


 それにシヴァ。一緒に修行をする約束をした。


 明日からはきっと今までと違う毎日が始まって、王都にいた頃よりも楽しくなりそうな気がする。そう思うのはたぶん、同じ年頃で同じくらい強い対等に話せるシヴァがいるから。


 私は窓を開けたままにしてベットに戻り、傍らで灯っていたランプの火を消して毛布に包まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ