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51 迷い

 舌打ちと共にジャックへと斬りかかる。


 ジャックの不敵な笑みとともに告げられた事実に剣筋が若干乱れた。


 上級悪魔になったばかりの奴ら?


 下級悪魔と上級悪魔の間に力の差があるように、上級悪魔同士ですら力の差がある。


 最近上級悪魔になったって事はまだ俺を封印した奴らほど強い訳じゃないだろう。


 だがそれでも南の部隊のメンバーで相手をするには荷が重い。


 今のアリスの正確な実力は分からないがおそらく一体を相手にするのが限度のはず。


 ジャックは奴らと言った。つまり二体以上はいる。


 ナナリーさんと隊長格が協力すればもう一体ぐらいはどうにかなると思いたい。


 だが……それ以上だと厳しいかもしれない。


 どうすればアリスを助けに行ける?


 行くだけならこの間地竜を倒した所まで転移してそこからアリスたちの魔力を探せばいい。


 ただ目の前のこいつがそれを許してくれるとは思えない。


 魔人化で一気にけりをつけるか?


 魔人化は一日一回が限界。途中で魔力切れが起きたら終わり。


 その後に魔石を使って魔力を回復したとしても意味が無い。


 そうなると今ジャックを相手に魔人化を使うのはリスクがある。


 何よりアリスと合流して上級悪魔たちを相手にした時に切り札が無い状況は避けたい。


 ライナーとサーベラスの二人ならジャックを抑えられるか?


 体は勝手に相手の剣に合わせて動いてくれるが、頭の中はぐるぐると同じところを行ったり来たり。


 お互いに決定打が無く、俺とジャックは何度も鍔迫(つばぜ)()いを繰り返す。


 そんな中、オーガキングの断末魔が聞こえてきた。同時に何かが――おそらくデビルグリフォンが地上に落下したと思わしき重い音が響く。


 オーガキングを倒し終えた一番隊が豹変(ひょうへん)したジャックの様子を確かめるため、シヴァとジャックが戦っている戦場まで駆けた。


 そこで見た光景に騎士たちは戸惑いの声を上げる。


 今のシヴァはギルバードと手合わせをした時よりもさらに速く、激しくジャックと剣を交わしている。


 騎士たちは己との力量差を見せ付けられ、二人の戦いに介入(かいにゅう)する事は不可能だと悟った。


 デビルグリフォンを倒した二番隊と三番隊、それにシャルロットとオリヴィアはサーベラスから翼竜の相手を引き継いで空の戦いを続けている。


 サーベラスが作った幾つかの傷口を狙うように騎士たちも攻撃を仕掛けるが、翼竜は体を(ひね)って傷口を庇い堅い鱗で受け止めた。


 デビルグリフォンには効果のあった弱体化の魔法が翼竜には効かないため、シャルロットは強化の魔法で空を飛び交う騎士たちを援護している。


「アニキ!」

「シヴァ様」


 一番隊と一緒に戦っていたライナーはオーガキングを倒すと直ぐにこっちに走ってきた。


 サーベラスも翼竜をシャルとオリヴィアたちに任せて降りてきた。


 一度ジャックと距離を離して二人と肩を並べる。


「あいつ……下手すると上級悪魔と同じぐらい強いかもしれない」

「アニキって上級悪魔と戦ったことありましたっけ?」


 人間になってからは戦った事が無いはずの上級悪魔を比較に出したら突っ込まれた。


 お前こんなときにそんな細かいところ気にするなよ。


「あーいや、多分それぐらい強いんじゃないかって思っただけだ」

「それよりもシヴァ様。焦っている様に見受けられますが、いかがなされましたか?」

「正確な数は分からないがアリスたちの方に上級悪魔が現れているらしい。多分ジャックの仲間だろう」

「なるほど。そうであればこちらは我々に任せ、シヴァ様はアリス様の下へ向かって下さい」

「いや、しかし……」

(あるじ)(うれ)いを絶つのも()が務め。ジャックは私とライナーが抑えます。その間にシャルロットたちが翼竜を倒せば良いだけです」

「だが……」


 俺が迷っていると、サーベラスとライナーが一歩前に進み出た。


「ライナーよ。あやつは私とお前の二人で抑えるぞ」

「了解ッス!」


 頭を左右に振って迷いを吹き飛ばす。


 不安はある。だがここは二人を信じよう。


「サーベラス。優先すべきは被害を最小限に抑えることだ。もしもの場合はお前が時間を稼いで皆を逃がせ。最悪そいつは逃しても構わない。出来るな?」

「承知致しました。シャルロットたちに万が一の事が無いように死力を尽くします。もしもの場合は我が身に変えてでも」

「お前も死ぬな。これは命令だぞ」

「はっ」

「サーベラスだけじゃなくてオイラもいるんだから大丈夫ッスよ。こっちは任せて下さい」

「あぁ、任せた」


 最後にジャックを一瞥(いちべつ)し、背を向けて戦場から全速力で離れた。


「それで、わざわざオイラたちが話し終わるのを待っててくれたんスか?」

「三人相手にするにはどうすればいいかを考えていただけだ。結果として一人減ったがな」


 ジャックはシヴァが走って行った先を視線で追いかけたが、シヴァが高台の影に入ったところで視線を二人に戻した。


「それに一人向かったところでどうにかなるまい。まして間に合うとも思えん」

「いいや。シヴァ様であれば必ず間に合う。そしてお前の仲間である悪魔たちの命はもう無いものと思え」

「あの男がそこまで強いとは思わないがな。それに正直向こうで暴れている悪魔たちの生死などどちらでも構わん」

「仲間じゃ無いんスか?」

「……お前たちには分かるまい」


 ジャックが剣を構え直した。


 シヴァたちが話している間は消えていた闇が再びジャックを包み込む。


「ライナー、あの闇には触れるな」

「言われなくてもやばそうなのは雰囲気で分かってるッスよ。それじゃあ行きますか」


 ライナーが軽い調子でジャックに向かって構え――音も無く消えた。


「くっ!?」


 半ば直感だけで剣を合わせ、苦悶(くもん)の声を上げた。続くライナーの連撃をさばきつつ、先ほどまで手を合わせていたシルヴァリオよりも(わず)かに鋭い剣筋に、徐々に後手に回りだす。


 シルヴァリオがリーダーを務めていたためライナーの方が実力的に劣ると考えていたのが間違いだったと認識を改めた。


 魔法も満足に使えないただの剣士と侮っていたか。剣の腕だけを見ればシルヴァリオよりも、そして私よりもおそらく強い。それは認めよう。


 ならば――剣に闇を纏わせる。


 結界を使えないお前にこれは防げまい。


 闇の一閃。


 ライナーはそれを剣で受けることはせず、後方に大きく跳躍することで回避した。


 逃れた獲物を追いかけるべく姿勢を前かがみに倒し、踏み込む足に力を込めた。


 上空から忍び寄る影。


 とっさに真横に飛び移った。


 ついさっきまで立っていた場所から土煙が舞い上がり、大地に放射状の亀裂が生まれる。


 地に足を着けると土煙の中からサーベラスが飛び出して目の前まで迫っていた。


 半ば反射的に闇の剣を振り下ろす。


 するとサーベラスは口元に笑みを浮かべた。


 手の平に魔力を集めて結界を部分的に強化。両手で剣を掴み取った。


 闇がサーベラスに喰われたかの様に吸い込まれていく。


「何だと!?」


 一瞬の驚愕(きょうがく)。闇の剣が止められ致命的な隙が生まれた。


 掴まれた剣は諦めて背後に飛び、同時に両腕を眼前で交差させて防御の姿勢を取る。


 ライナーの一撃、それを闇を纏った両腕で防いだ。


 闇に(むしば)まれた剣は小さな音を鳴らして半ばから崩れ去る。


 ライナーが剣を引き戻し、俺から距離を取った時には既に柄だけの状態になっていた。


「剣がぼろぼろに……何なんッスかあれ!?」

「あれは腐敗(ふはい)崩壊(ほうかい)を呼ぶ地獄の瘴気(しょうき)。お前は結界を張って自分を守れないから触れたら怪我だけじゃ済まないだろうな」

「そんなやばいもんなら教えて下さいよ!? それにさっきサーベラスは普通に触ってなかったッスか?」

「あの闇に触れるなと言ったはずだが」

「いや、確かに言ってたけど……」

「それに私にとってあれは慣れ親しんだものだ」

「つかアニキはどうやってこんな奴と切り結んでたんスか?」

「シヴァ様は剣に魔力を纏わせて瘴気に蝕まれないように戦っていたぞ」

「それ、オイラには出来ないやり方じゃん……」

「だから闇に触れるなと言ったんだが?」

「はぁ……」


 サーベラスは奪い取った剣をライナーに手渡した。


 ライナーは渋々といった感じで剣を受け取り感触を確かめている。


「その剣からは僅かに魔力を感じる。おそらく少しは耐えられるだろう」

「少し……ま、触れなければ良いんスよね」

「そうだ。闇の衣は私が()がす。ライナーはあいつが無防備になった瞬間に切り込め」


 二人が会話をしている間に翼竜に視線を向けると今にも落ちそうなほどに弱っていた。


 今のままではこの二人を倒すのは難しい。翼竜もあの様子ではすぐに倒されるだろう。


「武器を失い、召喚した翼竜は主を助ける余裕も無い。形勢はこちらが有利。まだ続けるか?」


 サーベラスからの問いに、より一層濃い闇を全身から放出する事で答える。


 それを両手に集め、生まれたのは二本の暗黒(あんこく)剣。


「さて、これならどうだ?」


 サーベラスの目の前まで一瞬で間合いを詰めて試すように切りかかる。


 先ほどと同様に両手で受け止められた。


 だが……これはさっきのやつとは違うぞ?


 逆の剣でライナーを牽制し、サーベラスの様子を伺う。


「くっ」


 今度はサーベラスがすぐに剣を手放して距離を取った。


 手袋が風にとけて血に濡れた両手がむき出しになる。


「サーベラス、その手!?」

「私の結界と耐性を上回るか」

「これでもお前たちのほうが有利だと?」


 余裕の笑みを浮かべているジャックを見て若干の苛立ちを覚えるが、その感情ごと握り潰すように拳に力を入れて構えなおす。


 双剣の攻撃を全て()けることは不可能だろう。


 そうなるとライナーが相手をするのは危険だ。


 私が一人で戦うべきか?


「サーベラス、オイラなら大丈夫ッスよ」


 私の心を読んだのではと思えるタイミングでライナーが強気な笑みを見せた。


 シヴァ様を送り出した私が弱気になってどうする。


「あれほどの瘴気。長時間維持し続ける事はできないだろう」

「つまりあいつの攻撃を避け続ければ勝手に魔力切れで倒れてくれると」

「そうだ。しかし……」

「わざわざ魔力切れを待つ必要なんて無いッスよね?」


 ライナーと顔を見合わせ、頷き、同時にジャックへと襲い掛かる。




 ジャックの視線から逃れたところで転移魔法を発動させた俺は地竜との戦いでできた跡地にやってきた。


 何人か俺を見て驚いているが構っている時間は無い。


 目を閉じ集中して全方位に魔力探知を行い………………何者かが戦っているだろう魔力を捕らえた。


 大きな魔力反応が四つ。一つはアリス、後の三つが上級悪魔か。


「おい! 急にこんなところに現れて何者だ!」


 目を開くと騎士とも違う格好をしたやつが剣を片手に近寄って来ていた。


 そいつを無視して捕らえた魔力の方角へ飛び出す。


 どうか間に合ってくれ……


 空を()けても(はや)る心は抑えきれず、秘めた力を解放した。

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