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49 動き出した闇

 俺の指示に従ってシャルとオリヴィアが魔法を発動させる。


 短い集中の後、二人から魔力が溢れ、赤と青の光が溶け合うように三番隊の騎士たちを包み込んだ。


 赤い光は対象の身体能力を上げて、青い光は簡易的な防御結界を(まと)わせる。


 補助魔法を受けた騎士たちの動きが二、三割増しで速く、力強くなった。


 何度か攻撃を受けた者もいるみたいだが、結界のお陰で致命傷には至っていない。


 オーガキングの相手を務める一番隊は、自分の身をすっぽりと(おお)い隠せそうな大盾を持った二人が壁となってオーガキングの攻撃を防いでいる。盾にも強化の魔法を(ほどこ)しているのか、地面を大きく陥没させるほどの攻撃を受けてもひしゃげる様子が無い。


 壁役が攻撃を防いでいる間に身軽な二人が相手を翻弄(ほんろう)する。オーガキングが攻撃を防がれて足を止めるタイミングを見計らって近づき攻撃し、相手の体勢が整う前に離れる。それを何度も繰り返している。


 苛立つオーガキングが大振りの攻撃を繰り出して隙を見せると、少し離れた位置から腰を落としてランスを構えていた隊長が疾風となって突撃する。オーガキングの硬い皮膚を(えぐ)る一撃。


 攻撃を受けて相手がひるんでいる内に隊長はランスを抜いて再び突撃前の位置まで戻って次の機会を窺う。


 少しずつ攻撃を積み重ねていく内に、オーガキングの体には幾つもの穴が穿(うが)たれていた。


 相手の攻撃を防ぎ、注意を散らし、強力な一撃を放つ。一人一人の実力では敵わない相手をしっかりとした連携で削っていく。


 型に嵌ったオーガキングに逃れる(すべ)は無いだろう。


 二番隊は二人が地上、残りの三人が空を飛び交いデビルグリフォンを相手取っている。


 空を翔ける騎士たちは常に相手よりも上に位置するようにそれぞれが調整し、有利な場所から攻撃を仕掛ける。


 体に纏わり付く呪詛に阻まれ闇の雷を使えないデビルグリフォンは苛立たしげに金切り声を上げた。


 厄介なデビルグリフォンの闇の雷を封じ続けている二番隊隊長。その側で隊長の護衛をしながら狩人の瞳で獲物を見ている弓使い。


 地上からの援護射撃が銀光となって空を駆け上る。銀光は獣の翼を貫通し、勢いを失う事無く遥か彼方へと消え去った。


 デビルグリフォンは翼を撃たれ、空の上でバランスを崩した。


 それを見逃す騎士たちではない。落下の勢いを乗せて相手の頭上から切りかかる。


 強力な魔法を封じられ、制空権を奪われた空の獣は切りかかってくる騎士たちに向かって硬質な羽根を撒き散らし、鋭い爪で反撃を試みるも空回るばかり。


 一番隊と二番隊の戦いを見て俺は素直に感心した。


 事前に相手を確認し、それに対応できる部隊を組んだだけの事はあるな。


 これが何の情報も無かったらここまで上手く嵌らなかっただろう。




 最初の範囲魔法でオーガとグリフォンは大分弱っていたし、三番隊も特に問題ない。


 たまに群れのボス――オーガキングとデビルグリフォンを手助けしようと思ったのか一番隊、二番隊のほうへ向かう奴らもいるが、


『ライナー、サーベラス。一番隊のほうにグリフォンが、二番隊のほうにオーガが数体向かっている。こいつらを先に潰してくれ』

『了解ッス』

(かしこ)まりました』


 そういう奴らは二人に指示を出して優先的に倒してもらう。俺たちに背を向けた時点でそいつは(つるぎ)(こぶし)餌食(えじき)になる。


 このまま行けばもう間も無く戦いも終わるだろう。


 順調に戦況が進む中、背後に動きがあった。


 全体を眺めて各隊と連絡を取り、必要に応じて指示を出していたと思われるジャック。


 そのジャックが小さく声を出して独り、誰かと話し始めた。


「終わったのですか。今からこちらに?」


 斜め後方のジャックを見やると慌てた様に口を閉ざしていた。


 それでも誰かと念話を続けているのか、だんだんと顔色が悪なっていく。


 みんなは戦いに集中してジャックの様子が可笑しいことに気付いていない。


「いえ……畏まりました。それではそのように進めさせて頂きます」


 ここにいる人たちとの会話ではないだろう。


 目上を相手にしたときの口調からして可能性があるのはギルバード団長とナナリーさん。


 何かが終わってこっちにやってくる?


 ナナリーさんか? いや、でもナナリーさんが相手なら魔道具が必要だ。今ジャックは魔道具を使っていない。


 ギルバード団長も王都を離れてこっちに来るとも考えづらい。


 そもそも二人とも距離が離れ過ぎていて今からこっちに来るなんて出来ないはずだ……一体誰と?


 その疑問が解消する事無く事態は悪い方向へと突き進む。


 静かに解き放たれた悪寒(おかん)を覚える魔力。


 ジャックは夜よりも暗い闇の衣を纏って地を蹴った。


 気付いたときには闇が目の前に迫っていた。


 ギリギリ剣を合わせて相手の攻撃を防ぐ。


『いきなりジャックが攻撃してきた』

『まじッスか!?』

『シヴァ様を攻撃するとは愚か者め』

『シヴァ先生どういうこと?』

『ジャックさんが?』


 ライナーとサーベラス、それにシャルとオリヴィアに向かって状況を端的に伝えた。


 みんなの返事を全て無視して目の前の相手を睨みつける。


「お前、何してんだ!」

「……貴様を相手するのは時間がかかりそうだな」


 俺の問いを無視してジャックが距離を取り、立ち止まること無くオーガたちが暴れる戦場へ飛び込んだ。


 ライナーたちは俺からの念話で既にジャックを警戒している。


 しかし、騎士たちはジャックの変貌にまだ気付いていない。


 ――絶叫と血飛沫が上がった。


 三番隊の隊長は驚愕を浮かべてガクッと膝を付き、崩れるように倒れた。


 そこに至って騎士たちにもジャックの凶行が伝わった。


 誰が想像できただろうか。長年騎士を務め、一度は副団長にまでなった男が団員に手を出すなどと。


 闇の蹂躙劇(じゅうりんげき)は終わらない。


 三番隊隊長を皮切りに一人、また一人と一撃の下に斬り捨てられる。


 傷の深さからして致命傷。俺やシャル程度の治癒魔法では助からないだろう……


『シャルとオリヴィアはあいつから距離を取れ! ライナーとサーベラスは周りの雑魚どもを片付けろ!』


 四人目に切りかかろうとしているジャックへ向けて意識を集中させる。渾身の踏み込みから放つは音すら置き去りにする剣神流最速の突進剣技――”流星剣”。


 神速の袈裟斬りをジャックが迎え撃つ。


 星と闇の激突――二人を中心に衝撃が広がった。空気が震え、地面がひび割れ、近くにいた騎士とオーガたちが体勢を崩す。


 続くシヴァの横薙ぎの一閃はジャックが大きく後方に跳躍して回避した。


「正気を失ったのかジャック!」

「俺は正気だよ。貴様こそ邪魔をするな」


 どこまでも冷酷に返される。


 言葉での説得はもう不可能だろう。


「俺だけで相手をするのは面倒だな……仕方ない」


 そう呟いたジャックは懐から小型の召喚石を取り出し空へと放り投げた。


 石が光を放ち、大空に呼び出されたのは――巨大な翼竜。


 耳が痛くなるほどの咆哮。地竜に匹敵する威圧感。明らかにAランクオーバーだ。


 まだ空で戦っている二番隊の騎士たちに翼竜が襲い掛かる。


『サーベラス!』

『承知』


 短いやり取り。それだけでサーベラスは俺の意図を汲んでくれた。


 一瞬で空を駆け上ったサーベラスが翼竜に挑む。


 ジャックと剣を打ち合わせること数合(すうごう)、開きっぱなしの回線を使ってライナーから報告が入る。


『オーガたちを倒し終わったッス』

『サーベラスが翼竜を押さえているうちにライナーはオーガキングを、シャルとオリヴィアは三番隊の残りと一緒にデビルグリフォンを相手してる隊を手助けしてくれ』

『了解ッス』

『もうやってるわよ!』

『あと少しで倒せると思います!』


 シャルと二人の騎士が協力して地上から相手を弱体化させる魔法を放ち、オリヴィアが上空で騎士たちに混じってデビルグリフォンに切りかかるのが視界の端に映る。


 オーガキングのところにはライナーが向かったから直ぐにでも倒せるだろう。


 サーベラスと翼竜は一進一退の攻防を繰り広げている。


 俺とジャックは幾度目かの打ち合いをしても互いに無傷。


 このままじゃ(らち)があかない。


「ライナーとサーベラスだったか……話には聞いていたがあいつらも中々強いな。まぁいい、俺がじきじきに貴様たちをアリスたちと同じ地獄へ送ってやろう」

「まさかアリスたちの方にもお前みたいな奴がいるのか!?」

「向こうに俺みたいな裏切り者はいないさ。ただ、最近上級悪魔になったばかりの奴らが遊びに行ってるだけだ。まぁそれでもあっちの戦力じゃどうしようもないだろうがな」

「なん……だと……」

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