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48 戦闘準備

 周りの騎士たちが席を立ち、ぞくぞくと会議室を出て行く。


 俺たちも彼らに続こうと腰を上げようとすると、


「シルヴァリオたちはちょっと待て」


 ギルバード団長から静止の声がかかり、持ち上げかけた腰を下ろす。


 俺たち西の部隊を率いるジャックも会議室を出る直前で足を止めた。


「直ぐに終わる、ジャックたちは先に出発の準備をして正門前で待っていろ」

「はっ!」


 ギルバード団長の指示に敬礼で返したジャックはくるりと背を向けて会議室を出た。


 アリスとナナリーさんも一度こちらをちらりと見たが、そのままジャックの後を追う様に出て行った。


 ここに残っているのは俺たち五人とギルバード団長だけ。


「それで呼び止めてどうしたんですか?」

「そんなに大した話じゃない。作戦を手伝ってもらうんだ。その報酬をどうしようかってだけだ」


 前回は冒険者ギルドからの依頼だったからもちろんギルドから報酬を受け取った。


 だが今回はギルドではなく騎士団からの依頼。


「どのような報酬を用意できるんですか?」

「ギルドと同じように金か、もしくは騎士団で用意できる物に限るが武器や魔道具とかだな」

「どうする?」


 左右にいる仲間に目線で確認するが特に意見が出てこない。


 意見が出てくるまで待ってても仕方ないしお金でいいか。


「じゃあギルドと同じで、お金でいいですか?」

「分かった。用意しておこう」

「えっと、それだけですか?」

「……ああ、それだけだ。呼び止めて悪かったな。行ってくれ」


 ギルバード団長は何かを言いたそうにし、頭を振って話を切り上げた。


 俺たちは今度こそ席を立ち上がり会議室を後にした。


 そのまま騎士団の詰め所を出てジャックが待っている正門へと向かう。




 正門でジャックたちと合流し、準備が終わって直ぐに出発した。


 魔法による強化を施した馬は軽快に大地を駆け、ぐんぐんと王都から離れて行く。


 前を走るのは一緒に西へ向かう騎士たち、そしてライナーとオリヴィア。


 俺は最後尾でシャルとサーベラスに挟まれている形だ。


「この馬速すぎ!」


 隣からシャルの叫びが聞こえてきた。


 男性陣は素の状態でもなんとかなってるけど、シャルとオリヴィアは自身を魔法で強化しないと腕や下半身がきついらしい。


 シャルは馬から落ちないように必死で手綱を掴み、鞍を太ももで強く挟んでいる。


「途中で休憩を挟むだろうけど、到着するまでずっとこのペースだろうな」

「そんなー……って、うわっ」


 シャルは風で髪が乱れるのを気にして、何度か髪を整えようと片手を手綱から放してバランスを崩しかけた。


「ちゃんと手綱握って無いと落ちるぞ」


 何かを諦めたかのようにシャルはため息をつく。


 横目でシャルの様子を確かめると、ちゃんと両手で手綱を握り直していて安心した。


 視線を前に戻し、注意した俺が落馬しないように気を入れ直す。




 荒野を馬で駆け抜けて予定通り二日で目的地に到着し、魔物の群れを監視している偵察部隊と合流。


 俺たちが乗っていた馬を偵察部隊に預けて遅めの昼食を取った。


 休憩が終わり、街道の端で部隊全員が整列する。


 岩肌がむき出しの高台を背にしてジャックが皆の前に立ち話し始めた。


「偵察部隊の報告によると、依然として魔物の群れは動きを見せずにいるらしい。原因は不明だが相手が動かないでいるのはこちらとしては好都合だ。このまま相手が何かする前に俺たちの手で始末するぞ」


 続いて各隊がどの様に動けば良いか簡単に説明を受ける。


 オーガキングは近接戦闘が得意な一番隊が、デビルグリフォンは対空攻撃か飛行、もしくは空中歩行が可能な二番隊が担当する。残りは集団相手でも堅実に戦える三番隊と俺たちが担当する事になった。


 それと状況次第だが、途中で悪魔がやってきたら俺たちが相手をする。


 他にも戦闘中の指示は口頭ではなく魔法による念話で行うため、ジャックを頂点にしてジャックから各隊長へ、今度は隊長から隊員へ繋がるように連絡網を構築した。


 魔法が使えないナナリーさんとかは魔道具を使って同じ様に指示を出すらしい。


 ちなみに俺は念話を使えるためシャルたちへの接続は自分で行った。


 一通りジャックが話し終わると、各自武装の最終確認を行う時間が設けられた。


 俺も確認をしようとポーチを腰から外したところでジャックが騎士たちの間を通ってやって来た。


「どうしましたか?」

「君たちだけで魔物の群れをどうにかできるだけの実力があるとアリス様から聞いている。だが、今回はサポートに徹して欲しい。構わないか?」

「それで構わないですよ。何かあった時は勝手に動きますけどいいですか?」

「ああ。それじゃあ頼むよ」


 それだけ言ってジャックはさっきまで話をしていた位置まで戻って行った。


 話を聞いていたシャルが近づいてくる。


「この前みたいに師範代とサーベラスさんが強い奴の相手したほうがいいんじゃないですか?」

「きっと他の騎士たちに経験を積ませたいとか、そんな狙いがあるんじゃないか?」

「ふーん? もっと効率良くいったほうがいい気がしますけど」

「それよりも皆準備は大丈夫か?」

「オイラはこれさえあれば他に準備ないんで大丈夫ッスよ」

「私もこの身があれば他には何も必要ありません」


 ライナーは腰にぶら下げた剣の柄を握り、サーベラスは白い手袋をきゅっとはめ直す。


「私も特に無いし、お姉ちゃんは?」


 シャルが後ろを振り返って聞くと、オリヴィアは手持ちの道具を確認している最中だった。


 俺たちの中だと色々な役割をするオリヴィアが一番準備に時間がかかる。


 オリヴィアは双剣、ポーチに入れた魔道具の確認を一通り終えて俺に頷きを返した。


「私も大丈夫です。前回よりも人が多いので使わずに済むと思いますけど、一応いくつか魔道具の準備もあります」

「分かった。必要だと思ったら迷わず使ってくれ」

「はい」


 俺はポーチに入れていた魔石を直ぐに取り出せるか確認する。


 ポーチの中から手の平に収まるぐらいの大きさの魔石を一つずつ取り出しては仕舞い直す。それを四回繰り返した。


 二つは前から持っていた物で魔力も最大まで溜め終わっている。一つはこの間倒した地竜から取れた物だ。これはまだ半分も溜まっていない。そして最後の一つは少し小ぶりの魔石。これはマリーさんに治癒魔法を込めてもらった物だ。


 騎士たちにも治癒魔法を使える人は何人かいるし、シャルとオリヴィアもいるから出番はないかな。


 腰にポーチを付け直し、落ちないことを確認して準備は完了だ。


「俺たちは基本的に近づいてきた相手を倒すだけで良い。シャルとオリヴィアは俺たちと一緒に戦う騎士たちに強化の魔法をかけてくれ」

「はーい」

「分かりました」


 周りの騎士たちの準備も終わり、後は結界の中に攻め入るだけだ。




 一番隊を先頭に、二番隊、三番隊、俺たち、そしてジャックの順に進んで街道の横道に入る。


 いくつもの高台が作った自然の迷路を迷い無く踏破して魔物の群れが隠れ住む結界の内側までやってきた。


 魔物たちを遠目に確認できる地点で一度停止する。


 魔法による先制攻撃を行うため三番隊の隊長の指示のもと、五人の騎士が協力して魔法の準備を開始した。


 魔法陣の円周上にそれぞれが均等に配置されるように立ち、中心に向かって手をかざして魔力を込める。


 その中央に眩い光を放つ球体が現れて辺りを照らした。


 強力な魔法の気配を感じ取った魔物たちが一斉に俺たちの方に視線を向けてくる。


「全員耳を塞いで下さい!」


 三番隊の隊長が周りに注意を促すと共に魔力を解放、魔法が発動した。


 光の球が空に駆け上った――そう認識した時には巨大な雷竜が現れて魔物の群れを飲み込んでいた。


 遅れて聞こえてきた空気を揺るがす雷鳴に、オリヴィアが可愛い悲鳴を上げる。


「きゃあっ!?」

「お姉ちゃん大丈夫?」


 妹の方はなんとも無いらしい。いつもならこういう時シャルが反応するのに。


 オリヴィアって雷駄目なんだっけかと一瞬思考が横道にそれた。


 魔法を受けた魔物たちは一様に動きを止め、必死で痛みを堪えている様だ。


 雷ってのも大きいだろうけど、シャルが一人で発動した”アイシクルレイン”と違い、五人で発動しただけあってなかなか威力がある。ホブゴブリンやオークといった比較的弱い魔物は今ので全滅、オーガとグリフォンにもダメージが入っていそうだ。それでもオーガキングとデビルグリフォンにはほとんど効果が無かったみたいなのは流石Aランクの魔物といったところか。


「突撃!」


 ジャックの号令を受け、それぞれが担当する魔物の側まで騎士たちが勢い良く向かって行く。


「シャルとオリヴィアは強化の魔法を、ライナーとサーベラスは近くの敵を片っ端から潰してくれ。騎士たちが危なそうにしていたらサポート頼む」


 俺も指示を出し、三番隊と一緒にオーガやグリフォンたちの目の前まで走った。


 この前と合わせて二度目となる、魔物の群れとの戦闘が幕を開けた。

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