47 作戦開始
「あれ? まだ寝てるのかな。シヴァせんせー」
再びコンコンと扉を叩かれる。さっきよりも多少大きい音が部屋に響いた。
イスから立ち上がり、アリスの前を通って入り口まで歩いて行く。
「起きてるよ。今開けるから」
鍵を外し、扉を引いてシャルとオリヴィアの二人と顔を見合わせた。
「二人ともおはよう。もう少し準備に時間かかりそうだから下で待っててくれるか?」
「あ、おはようございます! 分かりました。それなら私たちは一階で待ってますね」
「シヴァ先生。おはようございます……あら? そちらにいるのはアリスさん?」
シャルは朝の挨拶を終えると素直に戻って行こうとしたのに、オリヴィアが目聡く部屋の中のアリスに気付いた。
まぁ特別隠してないから気付かれても仕方ないけど。
「昨日ちょっと色々あってな」
「えっと、おはようございます」
アリスが部屋の中から小さく二人に挨拶をすると、ピシッとシャルの表情が固まった。
オリヴィアも若干戸惑った様子を見せているけどシャルほどじゃない。
「そう、ですか。シャル行きましょうか」
「え? え? お姉ちゃん?」
オリヴィアがシャルの手を引いて部屋から離れて行く。
手を引かれたシャルは慌てた様にオリヴィアに付いて行った。シャルの視線は最後まで俺、というよりもその後ろにいるアリスに向けられていたけど。
「良かったの?」
「良いんだよ」
「ふーん、そっか」
入り口から部屋の中へ向き直ると、アリスが何だか嬉しそう微笑んでいた。
「そう言えばまだコート返してなかったね」
アリスはいそいそとコートを脱いで軽く折り畳み、俺にコートを手渡して、
「貸してくれてありがと。私もう行くね?」
さっと俺の脇を通り抜けて部屋を出て行ってしまった。
返事をする間も無く消えたアリスに呆気に取られ立ち尽くす。
「……出かける準備するか」
コートをベットに放り投げ、軽く頭を掻きながら浴室に向かった。
身支度を整え一階に下りると、みんなが広間に置かれたイスに座って俺が来るのを待っていた。
「アニキ遅いッスよ?」
「悪い」
「さっきアリスさんがすごい勢いで出て行きましたけど何かありました?」
「まぁ、色々な。それよりも今から騎士団の詰め所に行こうと思うけどいいか?」
シャルがさっきの件を引きずって若干不機嫌そうにしているけど放っておくしかない。
サーベラスがすっとイスから立ち上がり姿勢を正した。
「問題ありません。しかし、どのような用件でしょうか?」
「祭りの前日にジャックから話を聞いたんだけど、結界に隠れた魔物の群れが南と西の方で見つかったらしい」
「まじッスか?」
「シヴァ先生、つまりこの間みたいに討伐の手伝いをするということでしょうか?」
ライナーが驚きの声をあげ、オリヴィアが確認の意味を込めて聞いてきた。
「そうだ。騎士団に任せてもいいんだけど気になってな」
騎士団の詰め所に到着すると、受付のお姉さんのほうから声をかけてきた。
何でもギルバード団長から俺たちが到着したら会議室に通してくれと指示を受けているとか。
お姉さんに連れられて会議室までやって来た俺たち。
扉を開けて中に入ると騎士たちが円卓を囲っていた。
上座に位置するところにはギルバード団長がどっしりと腰かけ、その左隣にナナリーさんとアリス、右隣にジャックが座っている。
あとはエドモンド、それに初めて見る騎士が他に六人。エドモンドがいるからユリもいるかと思ったけど見当たらなかった。
アリスは別れたときの衣装からいつもの騎士服に着替えられ、髪も綺麗に整えられていた。あの後一度家に戻ったんだろう。視線が重なると、照れた様にさっと目をそらされてしまった。
「やっと来たか」
アリスに一瞬気を取られていると、部屋の奥から声がかかった。
ギルバード団長が俺の事を真正面から見据えている。
「特に約束はしていなかったと思いますけど」
「約束はしてなくてもこの間会った時に今日来るみたいな事言ってただろ」
「この間って? 二人は初対面だと思っていたんだけど違うのかしら?」
ナナリーさんが目を細めて尋ねると、ギルバード団長は腕を組んであっさりと答えた。
「外に見回りに出てたときにたまたま会って少し話しただけだよ」
とは言え手合わせの件は秘密らしい。
ただ俺たちが戦ってるところを見ていた騎士もいるからそのうちばれそうな気がするけど。
「そんな事より手伝ってくれるって事でいいのか?」
頷いて返すとギルバード団長は満足そうに口の端を持ち上げた。
「じゃあお前たちはそこの空いてる席に座れ。ジャック、調査結果と作戦概要を説明しろ」
入り口近くの空いている五つの席、これ俺たちの分だったのか。
向かって左から順にオリヴィア、シャル、俺、サーベラス、ライナーと座った。
俺たちが全員腰かけたのを確認したジャックは淡々と説明を始める。
「まずは調査結果について。騎士団と冒険者ギルドの協力により、王都の南と西にそれぞれ結界に隠れた魔物の群れを発見しました。距離は魔法による補助を行った馬でおよそ二日ほど、敵戦力は以前にアリス様たちが討伐した時とほぼ同じで、オーガキングとデビルグリフォンを中心とした五十体程度の群れとなります。また、以前は群れを倒し終わった後に下級悪魔が転移してきたと報告を受けています。今回も同様にいきなり悪魔が転移してくる可能性がありますので十分に気を付けて下さい」
前回と同程度の群れであればそこまで心配する事は無い、はずなんだけど――嫌な予感がするんだよな。
「次に今回の作戦について。ナナリー副団長、そして私が部隊長を務める二部隊を編成して二方面同時に騎士団を派遣します」
この後細かい編成について説明を受け、南方面にナナリーさんの部隊が、西方面にジャックの部隊が向かうことが分かった。
他にもこの場にはそれぞれの隊をまとめる隊長が代表として集まっているらしい。
ナナリーさんのところは五人で一つの隊を四つ、それにアリスを加えた二十二人。ジャックのところは同じく五人で一つの部隊を三つ、それに俺たちを加えた二十一人。
それにしても俺たちが来ることを前提として編成が組まれているって事はギルバード団長が考えたのか?
「ギルバード団長は出ないんですか?」
俺がそう聞くとやれやれとつまらなさそうに答えが返ってきた。
「俺まで出たら流石に王都の守りが薄くなる。残ってる騎士団のやつらと、それに王宮仕えの魔法使いや近衛兵だけじゃ頼りないからな。フィオナがいれば俺が出ても良かったんだけどよ」
「フィオナさんはまだ聖教会から帰ってきてませんから、無いものねだりしても仕方ありません。それと、フィオナさんがいたとしても団長は王都に残ってもらいますから」
ナナリーさんの突っ込みに、ギルバード団長が机の上に肘をついて返した。
「あいつがいれば俺が出ても問題無いだろ?」
「フィオナさんはあくまで協力関係というだけで騎士団、もっと言えば王都の戦力として考えるのは間違っています」
「そりゃそうだけどよ」
昨夜アリスから多少聞いてはいるけど念のため確認しておいた方がいいよな。
「フィオナって王都に住み着いてる天使ですか?」
「何でお前がそれを知って……」
ちらりとギルバード団長はアリスに視線を向けて納得したように一人頷く。
「ま、特に隠す事でもないか。その認識で合ってる。さっきナナリーが言ったように今は外に出てるけどな。それよりも今の編成に関して意見は無いか?」
「いえ、問題無いと思います」
アリスと一緒の部隊にしてくれなんて言えないしな。
あ、でもちょっと待て。魔法による補助を行った馬でおよそ二日ってことは普通に馬を走らせたら多分五日ぐらいだよな。
「編成じゃないけど、南の方の魔物の群れってもしかして密林地帯で見つかりましたか?」
「そうです。何か気になることでもありますか?」
「いえ、ありがとうございます」
俺の急な質問にジャックが丁寧に答えた。こういう会議の場だからなのかも知れないけど、ジャックの受け答えがいつもの軽い感じじゃないのは違和感あるな。
「他には無いな? それじゃあ各自作戦を開始しろ」
「「「はっ!」」」
ギルバード団長の号令を俺たちとアリスは座ったまま聞いていたけど、ナナリーさんとジャックを含めた騎士たちは一斉に腰を上げて敬礼で答えた。




