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38 樹海での戦い

「よし、せっかく魔物が群れて固まってるんだ。魔法である程度削った方が楽だな」

「はい! あたしがやります!」


 声を潜めつつ元気に挙手をしたシャル。


 本当は俺かアリスが高威力の魔法を撃ったほうがいいんだけど、せっかくやる気になってるんだし任せてみるか。


「アリス、シャルに任せていいか?」

「良いわよ。お手並み拝見させてもらうわね」

「ふん、見てなさい。腰抜かしてあげるわ」


 シャルは腕を体の前に突き出し、両手の間に魔力を集中させ始めた。


 俺たちはシャルが魔法を放ったら直ぐに動き出せるように散開して身構える。オリヴィアは腰に差している二本の短剣を両手にそれぞれ持ち、徒手空拳のサーベラスは指をポキポキと鳴らす。俺とライナー、そしてアリスたちは剣を抜いた。


 シャルの魔力が薄水色に染まり螺旋を描く。


「いくわよ! ”アイシクルレイン”」


 宣言と同時、青の弾丸が魔物たちの上空へと打ち出された。魔物たちの真上に到達すると、魔力が弾けて鋭利な氷の槍が雨の如く降り注ぐ。


 結界で身を隠していた魔物たちにとっては突然の出来事だろう。氷の槍を受けて傷付いた魔物たちの悲鳴が響いた。


 シャルの魔法を合図に、俺たちは一斉に魔物たちが集まっている広間へと躍り出る。


 開けた視界の中ざっと見た感じでグリフォン、オーガ、ホブゴブリンが同じぐらいの数。全部で五十体はいないだろう。


 ほとんどのホブゴブリンは氷柱(つらら)に貫かれて絶命、もしくは身動きが取れなくなってる。オーガとグリフォンには多少のダメージを与えただけで致命傷には至っていない。そして――


「グルアァァァ!」

「カァーーー!」


 地響きのような咆哮(ほうこう)と、突き刺すような金切り声が魔物の群れの中央から発せられた。


 今のはキングオーガとデビルグリフォンだろう。


 さすが上位種といったところか、浮き足立っていた魔物たちを奮い立たせ、臨戦態勢をとらせる。


 金砕棒(かなさいぼう)を持ったオーガたちが一番前に出ていたユリとエドモンドに襲い掛かる。


 二人は膂力(りょりょく)に優れたオーガの攻撃をまともに受ける事はせず回避に努めている。オーガの大振りな攻撃の間隙(かんげき)をついて、筋肉の鎧に覆われた部位を避けての反撃を繰り返す。


 エドモンドは踊るような体捌きで攻撃を躱し、複数のオーガを相手に落ち着いた戦い振りを見せている。的確に急所を突いて一体、二体と着実に数を減らしていく。


 対してユリはオーガに囲まれて背後からの攻撃を受けそうになるが、そこにアリスの剣が閃きユリの背後にいたオーガは左右に切り裂かれた。


 アリスたちの後方にいた俺とオリヴィア、そしてシャルに向かってグリフォンたちが飛び込んでくる。翼を大きく羽ばたかせて硬質な羽根を先ほどの魔法のお返しとばかりに何度も執拗に飛ばしながら。


 俺は次の魔法の準備をしているシャルを護るように結界を張った。


 上空を飛び交うグリフォンたちは羽根の嵐では俺たちにダメージを与えられないと業を煮やしたのか、時間差で上空から突進してくる。


 オリヴィアは視界を埋め尽くすほどの羽根を身に纏った結界で弾きながら単身グリフォンへと駆ける。空から襲い掛かってくるグリフォンをギリギリまで引き付け、身を(よじ)らせながら相手の爪を左の短剣で受け流し、右の短剣で片翼を根元から断ち切った。


 バランスを崩したグリフォンは地面へと突っ伏し、シャルが放った極光――”ホーリーアロー”を受けてその身を四散させる。


 オリヴィアに襲い掛かったグリフォンは翼をもがれ、シャルが仕留めるという一連の流れが出来上がった。


 何体かは魔法を放つ固定砲台と化したシャルを先に仕留めようと俺の前に降り立つが、相手との力量差を測れない哀れな魔物はシャルに触れることなく俺に斬り捨てられる。


 この調子ならオーガとグリフォンは問題なく片付けられるだろう。


 二体の上位種はライナーとサーベラスに任せてるから大丈夫だろうけど、どうなってるかな。


 グリフォンの群れに注意を払いながら二人の様子を確認した。




 アニキたちが魔物の群れと戦う最中(さなか)、そこから少し離れた位置でオイラは悪鬼の王と対峙している。


 成人男性よりも大きな体躯を持つオーガ、それよりも更に一回り大きく黒に近い褐色(かっしょく)の肌を持つオーガキング。その大きな体からは想像もできない速さで猛攻を仕掛けてきて、二本の金砕棒が嵐のごとく破壊を撒き散らす。それらの攻撃を紙一重で躱し、時には剣を使って受け流しながら、オイラは反撃の機会を待つ。


 アニキやオリヴィアみたいに結界魔法を使えないオイラにとって、オーガキングの攻撃は全てが必殺。一度でもまともに受ければそれは即ち死を意味する。


 とは言っても、このオーガキングの攻撃はまるで当たる気がしないッスけど。


 人型、そして両手に金砕棒を持って攻撃してくる姿は二刀流に似てる。それゆえ普段からオリヴィアに稽古を付けている身としては、オーガキングの力と速さに任せた稚拙な攻撃を捌くことは容易。もちろん射程の長さや一撃の重さはオリヴィアとは桁違いだからそこは気をつけないといけない。


「それにしても、なんて体してるんッスか」


 問題はこちらの攻撃。


 何度か相手の攻撃の合間を縫って斬りつけて見たものの、鋼鉄のように硬い肉体には刃が通らなかった。急所を狙った攻撃はオーガキングも警戒していて防がれる。


 ただの斬撃ではダメージ無し、必要なのは魔力による威力の底上げ。魔力を操れないオイラでは敵わない相手。


 止むことのない連撃を捌きながら、それでもオイラの口元には笑みが浮かぶ。


 大きな咆哮と共に振るわれた大振りの一撃。バックステップで大きく後退して射程から逃れる。


 重低音を響かせて陥没した地面、巻き上がる砂煙。


 剣を両手で持ち大上段に構え、オーガキングへと疾走する。


 砂煙の壁を越えた先では金砕棒を両手で持ったオーガキングが先ほどの一撃よりもさらに大振りの攻撃を仕掛けてくる。


 共に大上段からの一撃。


 一瞬の交差。


 左側に振り抜いた剣を支点にし、背後に置き去りにしたオーガキングへと向き直ると、


「グガガガアァ!」


 左手を失った悪鬼の王は手首から鮮血を撒き散らし、憤怒の声を上げている。


 魔力を操れないオイラはただただ修練を積み重ねるしかなかった。


 千や万ではまだ足りない、数えるのも馬鹿らしくなるほどの繰り返しの果てにようやく習得した技の一つ――”斬鉄剣”。


 魔力を見れないオイラには分からないけど”斬鉄剣”を使うときは剣が輝くほどの魔力が集まっているとか。


「次は右手を貰うッス」


 宣言と同時、大上段に剣を構え直す。


 怒りの形相を浮かべているオーガキングへ向かって再び飛び込んだ。




 ライナーがオーガキングの手首を斬り捨てる頃、サーベラスは魔物の群れの上空でデビルグリフォンを相手に空中戦をしていた。


 本来ならば翼を持つデビルグリフォンのほうが空中戦では有利なはずだが、魔法で空中に足場を作り、空にいながら地上と同じ速さで駆け回るサーベラスが速さで相手を翻弄(ほんろう)する。


「上位種と言っても所詮はグリフォン、大したことありませんね」


 悪魔の翼を持つ獅子が放った黒き雷を悠々と躱しつつ相手の上に位置取る。


 渾身の力を込めた突きを翼の付け根に決め、デビルグリフォンを地面へと叩き落した。


 相手を追って地に降り立つと、デビルグリフォンは生まれたての小鹿の様に足をプルプルと震えさせて立ち上がる。


 どうやらまだデビルグリフォンは戦意を喪失していないらしい。


「爪による斬撃も、魔法による攻撃も、私には当たらないと言う事が分からないのですか?」


 相手を(あざけ)り、止めを刺すべくゆっくりと近づいていく。


 すると、デビルグリフォンが黒き雷を身に纏い、今にも突進してきそうな構えを取る。


「ふむ、捨て身の一撃というわけですか。いいでしょう」


 足を止め、相手の出方を窺う。


 わざわざ相手の攻撃を待つのは悪い癖だと認識していても止められない。


 かつて魔王として君臨していたシヴァ様は、必ずと言っていいほど相手の大技が放たれるのを待っていた。何でも真正面から打ち破った方が楽しいという理由だけで、つまりは強者の(おご)り。


 シヴァ様に負け、仕える様になってから出来たこの癖はいわば主を真似たもの。


 天使と悪魔たちに襲われたときもシヴァ様が驕らず、最初から本気で戦っていれば封印などされなかっただろうに。


 この癖の悪い部分を思い出し、苦笑いを浮かべながら相手を見据える。腰は深く落とし、右手を引き絞る。


「クルアァ、カァーーー!」


 金切り声が激しい雷鳴に打ち消され、デビルグリフォンの姿を一瞬見失う。


 カウンターの一撃を叩き込むと同時、左手を突き出して相手のくちばしを掴む。だが、デビルグリフォンの勢いに負けて地面から足が浮く。


 結界の一部が破られ電流が流れ込んできた。視界が明滅する中、突進の勢いは止まることなく背中越しに次々と木々が粉砕されていく。


 デビルグリフォンは地を()(いかずち)と化し、森の奥深くまで傷跡を残した。


「大したこと無いと言ったのは訂正しましょう。なかなかやるではありませんか」


 半ば折れそうな大木に背を預けながら、目の前のデビルグリフォンに向かって賞賛を送る。


「ですが、私の勝ちですね」


 相手の喉元(のどもと)に深々と突き刺さった右腕を抜くと、デビルグリフォンはズシンと音を立ててその場に倒れた。

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