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37 樹海

 正門に向かう途中、俺たちは旅の荷物を取りに一度宿屋に寄った。


 アリスたちの荷物は正門脇にある警備兵の詰め所に置いてあるらしく、騎士団の詰め所に戻る必要は無いとのこと。


 正門へと続く幅の広い道には、昨夜は見かけなかった露店が並んでいる。美味しそうな匂いの誘惑を振り切り、俺たちは正門を抜けて王都を出た。


 ユリとエドモンドが荷物を取ってきて、オリヴィアとシャルが早馬を借りてきた。


 準備を終えて後は出発するだけという時に、


「君……その格好で討伐に向かうのかい?」

「何か可笑しいかしら?」

「美しくはあるけれど、その格好はあまり討伐には適さないのではないかな?」


 エドモンドはシャルを見て思わずという感じで尋ねた。


 シャルはいつも通りの黒ドレス姿。馬に乗ったり、旅をしたり、ましてや魔物との戦闘に向いた服装とは言えない。


「これが私の戦装束なんだからいいのよ。それに私だけじゃなくて師範代やサーベラスさんも似たようなものじゃない?」

「これじゃないと落ち着かないんスよね」

「私はどんな服装だろうと関係ありませんから」


 槍玉に挙げられたライナーは道場で着ている袴姿とほとんど変わらないし、サーベラスに関してはただの執事服。


 俺も黒革のコートとズボンだし、まともに冒険者らしい服着てるのってオリヴィアぐらいだな。


「そう言うのであれば止めはしないが……」

「どんな格好だっていいじゃない。それよりも準備は終わった? 終わったなら行くわよ」


 エドモンドはまだ微妙な顔をしているが、アリスがさっくりと話をまとめてくれた。


 俺たちはオリヴィアとシャルが借りてきた馬の手綱をそれぞれ受け取り、正門から少し離れたところで馬に乗る。


 これから向かう先――王都の東北に位置する樹海に向けて馬を走らせた。




 王都を発ってから三日目の昼頃に樹海の近くにある町に着いた。町で馬を預けてそこからは徒歩で樹海に向かう。


 日が暮れる前に樹海の入り口まで来れたが、夜に樹海へ足を踏み入れるのは危険と判断して、樹海の入り口手前で野営することに。


 オリヴィアとユリが用意してくれた夕飯を食べ終え、今回の討伐依頼について簡単に情報共有する。


「まず、今回の討伐依頼は樹海に薬草などを採取しに来ていた冒険者たちが魔物の群れを見つけ、その報告を受けたギルドが出したのよ」

「依頼主はギルドってことか?」

「そうね。冒険者たちの報告だと数十体の魔物を見たってことで、早急に対応しないとまずいってギルドが判断したのよ」


 アリスは続けて冒険者たちが見た魔物について話した。


 グリフォン、オーガ、ホブゴブリンといった魔物がそれぞれ十体近く。発見できていないだけで、もっと多くの魔物がいる可能性もあるとのこと。


 また、それだけでなくグリフォンとオーガの上位種であるデビルグリフォンとオーガキングもいたらしい。


「上位種がいることもそうだけど、グリフォンとオーガが一緒の群れをなしてるってかなり珍しいな」

「そうなんだよね。どうしてそんな群れができたのか理由は分からないけど、魔物たちが暴れ出す前にどうにかしないと」

「そうだな。デビルグリフォンとオーガキングはどっちもAランクだっけ? 一応俺とライナー、サーベラスならAランク相手でも戦える。アリスも問題無いよな?」

「私も大丈夫だよ。でも私はユリとエドモンドのサポートをしたいからシヴァたちにお願いしたいんだけどいいかな?」


 焚き火を挟んで座っているアリスが首を傾げて尋ねてくる。


「分かった。それなら――」

「オイラがオーガキングの相手していいッスか?」

「では私がデビルグリフォンの相手をしましょう。シヴァ様はオリヴィアとシャルロットを見ていて下さい」


 俺が何か言うよりも先にライナーとサーベラスが口を挟んできた。


「……まぁいいか。じゃあオリヴィアとシャルは俺と一緒にグリフォンを担当。アリスたちはオーガとホブゴブリンでいいか? 数が多いからある程度の目安にしかならないと思うけど」

「うん、それで大丈夫だよ」


 こうしてあっと言う間に役割分担が決まった。


 この後は特にやるべき事も無いため、見張りのローテーションを組んで朝が来るまで休んだ。




 一夜明けて、昨夜同様オリヴィアとユリが協力して作ってくれた朝食を食べ終わると、俺たちは直ぐに樹海に足を踏み入れた。


 騎士団で保有している地図と方位磁針を使い、現在位置を確認しながら目的地に向かう。


 先頭を歩くのはオリヴィアだ。俺やライナー、アリスなどは地図と方位磁針を扱えない。ユリとエドモンドは一応扱えるけど、樹海の中で迷わずに歩けるほどの自信は無いそうだ。


 いつの間にそんな技術を身に付けたのか気になるところだけど、オリヴィアがいてくれて助かった。


 冒険者たちの情報を元にして目的地まで一直線に道を掻き分けて進む。


 思ったよりも早く、昼前には魔物たちを見つけたという場所に辿り着いた。


「地図だとこの辺りのはずなんですけど……」


 オリヴィアが地図から顔を上げて周囲を見回している。


 俺もオリヴィアに習って周囲を確認してみるが、魔物の群れどころか一体も見当たらない。


「情報を提供してくれた冒険者が場所を勘違いしたとか?」


 俺も最初に考えた事をシャルが言ってくれた。


「ううん、グリフォンの羽根が落ちてるから場所は合ってると思うな」


 地面に落ちていた羽根をアリスが腰を折って拾い上げ、羽根を振って俺たちに見せてくる。


「取りあえずここを中心にして辺りを見て周るしかないね」

「シヴァ様。それならば私が周りを確認してきます」

「ん……あぁ、確かにお前に任せるのが早いか」

「サーベラスに任せて大丈夫なの?」


 俺とサーベラスは魂の繋がりで互いに位置が分かる。それを利用すればサーベラスがどれだけ樹海を駆け回っても、俺を見失う事はない。つまり俺がここで動かなければ俺を中心に探索できるという事だ。


 それを知らないアリスは不安げな表情を浮かべている。


「心配しなくても大丈夫だよ。俺とサーベラスは従魔の契約をしてるおかげで互いの居場所が分かるから、迷子になったりもしない。それに実力だってかなりのものだから例え魔物と遭遇しても問題無い」


 自分で言ってて、それなら最初からサーベラスに一人で樹海に入ってもらっても良かったのか? と思ってしまった。闇雲に探すよりかは目撃した場所を中心に探した方が効率的だろうけど。


「シヴァがそう言うならサーベラスにお願いしようかな」

「お任せ下さい。それでは行って参ります」


 サーベラスは一礼してから木々の合間に姿を消した。


「それじゃあサーベラスが戻ってくるまで少し休憩にしましょう」


 アリスの指示で皆がそれぞれ思い思いに休み始めた。


 俺も適当に見繕った木の下であぐらをかいて座り、太い木の幹に背を預ける。


 魔物の群れが遠くまで移動しているのであれば思ったよりも調査に時間がかかりそうだな。さて、どうしたものか。


 ――そんな俺の心配は杞憂に終わった。


 思っていたよりもずっと早くサーベラスが戻ってきたのだ。


「シヴァ様、向こうに魔物の群れを発見しました。結界を張って姿を隠していたようです」

「結界? そんな怪しい魔力は感じなかったけどな」

「はい、私も結界に近づくまでは気付きませんでした。どうやら結界自体の魔力も隠蔽しているようです」

「グリフォンやオーガはそんな魔法使えないはずだけど……どちらにしろ行って確かめてみるしかないか」


 束の間の休憩を終え、俺たちはサーベラスに連れられて森の中を歩いて行く。


 サーベラスが魔物の群れの存在を確認しているため、可能な限り気配を殺しながら――


「ここに結界が張られています」


 サーベラスが立ち止まり前方を指差す。


 その先に意識を集中させると微かに魔力が感じられた。


「ここまで近づかないと分からないなんてかなり高度な隠蔽が施してあるな。サーベラス、この先に魔物の群れがいるんだな?」

「はい。この奥に魔物の群れがいました」


 ものによっては結界に触れただけでこちらの存在が相手に気付かれる事もある。


 しかし、今回はサーベラスが結界に入っても魔物に気付かれなかったようだし、この結界は姿を隠すぐらいの効果しか無さそうだ。


 俺たちは慎重に足を進め、注意深く木々の間から奥を覗く。すると、広く開いた空間にグリフォンとオーガ、それにホブゴブリンの群れが見えた。

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