36 八人パーティー結成
俺が送ったペンダントをアリスは身に着けていなかった。
まぁ八年も経ってるし、仕方ないかなと思いつつもその事実に内心落ち込んだ。
ナナリーさんから大切にしてると聞いていたからもしかしたら今でも着けてるのかなと思っていた俺が悪い。
「その手前の女の人知り合いなんですか?」
シャルの声が止まっていた俺の時を動かす。
シャルは椅子から立ち上がり、俺の右腕をそっと掴む様にして手を添えてきた。
「……え、あぁ。そうだ。前に話したことあっただろ? 子供の頃一緒に修行してた女の子がいるって」
「そう言えばそんな話、聞いたかもしれませんね」
一度シャルに移していた視線をアリスに戻す。
すると、アリスは目を細めて冴えない表情を浮かべている。
「どうしてシヴァがここに、ナナリーの部屋にいるの? それに……」
言葉にはならなかったけど、その眼差しが俺の左右――特に右腕に注がれた。
「ここに来たのは最近強い魔物が増えたから、騎士団の人たちと協力して何か対策を考えられないかなと思って以前連絡を入れてたんだよ」
責められた訳でもないのに俺は言い訳のように言葉を重ねた。
「それに連絡を入れた時にナナリーさんから王都近辺の討伐依頼を手伝ってもらえないかって言われたから。この二人は討伐依頼を手伝ってくれるただの仲間だよ。こっちがオリヴィア、こっちがシャルロットだ」
「シヴァ先生と私たちはただの仲間じゃなくて、子供の頃から一緒に修行してる幼馴染だけどね」
俺としては二人の事は弟子とか教え子って認識だけど、アリスはシャルの発言にピクッと反応した。
アリスとシャルは互いを探り合うように視線を交わす。
アリスの隣に立っている二人の騎士は、この雰囲気の中どうすればいいか分からず困った様子を見せている。
そして何かに気付いたようにアリスはハッとしてナナリーさんの方を向き、少し責めるような声音で問いかけた。
「そう言えばナナリー、シヴァから連絡あったって私聞いてないんだけど」
「……魔物の対策は今度話すということで、シヴァ君たちはギルドに向かってくれるかしら」
ナナリーさんはアリスの問いを無視して俺たちに話しかけてきた。
今の感じだとナナリーさん、わざと俺から連絡あったことアリスに話してなかったな。
アリスの事は気になるけどここでの俺たちの用事は終わった。ナナリーさんの言う通り魔物の対策については今度にして、今はギルドに向かうべきだろう。
「分かりました。俺たちはギルドに行って討伐依頼を受けてきます。二人とも行くぞ」
右腕を掴んでいるシャルの手を離してナナリーさんに軽く頭を下げる。
二人を連れて部屋の入り口まで歩き、アリスの前で一度立ち止った。
「今度時間を作って二人で話せないかな? 会えなかった間の事とか、今のアリスの事とか聞きたいから」
「え……うん」
思わずという感じで頷いたアリス。視界の端に映ってる気障ったらしい男は頬を引きつらせ、長身の男はアリスの事を優しい眼差しで見守っている様に見える。
まったく違う反応を見せた二人がアリスとどういう関係なのかも気になるけど、それも今度だな。
アリスたちの横を通って部屋を出ようとすると、アリスから待ったの声がかかった。
「ちょっと待って。ギルドで討伐依頼を受けるのよね、それならシヴァは私たちと一緒に来てくれないかな? ここに来た目的は討伐依頼に向かうメンバーの増員について相談しに来ただけだから。シヴァが一緒に来てくれるなら私としてはすごく心強いんだけど」
これには二人の騎士も驚いている。
首を後ろに回してシャルとオリヴィアの様子を窺うと、
「まぁ、いいんじゃないですか」
「私はどちらでも構いませんよ」
シャルは渋々といった感じで、オリヴィアはにこやかに頷いた。
二人の了承を得た俺は顔の向きをアリスに戻す。
「俺はそれで構わないよ。ただ後ろの二人以外にもあと二人仲間がいるんだけど大丈夫?」
「うん、じゃあ全員一緒に。ナナリー、良いかな?」
「シヴァ君たちが良いなら私からは特に言うことは無いわよ」
こうして俺たちはアリスと行動を共にすることになった。
俺たちはアリス、それに二人の騎士と一緒に冒険者ギルドにやって来た。
ギルドの中に入って直ぐのところに、ライナーとサーベラスが壁に寄りかかって待っていた。
「二人とも一度宿に戻ってたのに悪いな」
「大丈夫ッスよ」
「問題ありません」
騎士団の詰め所を出る前にサーベラスに念話でどこにいるかを確認したところ、ライナーと二人で宿に戻っていると返事があった。
そのため、二人にはギルドで待っているようにとサーベラスに頼んでいた。
「それよりアニキ、そこにいるのってもしかして……アリスさん?」
「あぁ、騎士団の詰め所に行ったらばったり会ったんだよ。二人の事をアリスたちに紹介するから来てくれ」
二人を連れてアリスたちの下に向かうと、ライナーに気付いたアリスが驚いている。
俺よりも若干背の高いライナーを見るためアリスは顔を少し上に持ち上げた。
「え、もしかしてライナー? 久しぶり。随分と背伸びたね」
「久しぶりッス、アリスさん。一昨年辺りから急に伸びたんスよ」
「そうなんだ。またよろしくね」
「こちらこそよろしく」
旧知の仲であるライナーと再会し、アリスはやわらかい笑みを見せる。
アリスは次に俺の後ろに控えているサーベラスへ視線を移した。
「そちらの方は?」
「従魔の契約を結んだポチだよ。今はサーベラスって呼んでる」
「ポチ……え、えぇ!?」
アリスはライナーを見たとき以上の驚きを見せ、銀色の毛並みの名残が残っている髪を確認している。
「一応前の魔犬に姿を戻すこともできるけど、最近は今の人としての姿で生活してもらってる」
「そうなんだ。えーと、よろしくねポチ……じゃなくてサーベラス」
「はい、アリス様。よろしくお願い致します」
丁寧に頭を下げるサーベラスに困惑気味のアリス。初めは仕方ないか、そのうちサーベラスにも慣れるだろう。
アリスの後ろに控えている騎士二人を交えて、もう一度それぞれを紹介し合う。
男だと思っていた長身の騎士――ユリが女性だと聞いて、顔には出さなかったけどびっくりした。長身で見た目中性的、しかもスカートじゃなくてズボンをはいてるから気付かなかった。なんでもヒラヒラした服装が苦手だとか。そう言えばナナリーさんもズボンだったな。ちなみにシャルとオリヴィアは最初から女性だと気付いていたらしい。
最後に、一緒に討伐依頼を受ける仲間だから変に遠慮もいらないだろうとお互い敬称抜きで呼び合うことにした。
それぞれの紹介を終え、ギルドに来た目的――討伐依頼を受ける流れになった。
ユリが討伐依頼の手続きをしに受付へと向かう。
「それでは依頼を受けて来ます。少しお待ち下さい」
「そう言えば、今回受ける依頼ってそんなに大変なのか? アリスと上級騎士が二人だろ。それなのにメンバーを増やすってSランクの依頼でも受けるのか?」
「俺たちが見たときはそんな依頼無かったッスけど……そう言えばSランクは貼り出されないんでしたっけ?」
俺とライナーが疑問を口にすると、エドモンドが一歩前に進み出た。
「それについては私が答えましょう。依頼としてはSランクですけれど、飛び抜けて強力な魔物がいる訳じゃない。とは言えAランクとBランクの魔物数十体の群れが討伐対象だから十分に注意は必要ですけれどね」
エドモンドは最後に小さく「ただ、アリス様とユリ、それに私がいればそれで十分だと思いますけれど」と付け加えた。
それをしっかりと聞いていたアリスがエドモンドを嗜める。
「ユリはまだ上級騎士になったばかりだし、エドモンドだってAランクの魔物相手やBランクでも複数に囲まれたら危ないでしょ?」
「う、それなら……彼らの実力はどうなんでしょうか。アリス様は随分とシルヴァリオを信頼しているようですけれど?」
「シヴァは子供の頃に悪魔だって倒してるんだからエドモンドよりも強いわよ?」
エドモンドが悔しそうに顔を歪めるが、アリスはまるで気にしていない。
「そう言う訳で、シヴァたちには期待してるからね」
「あぁ、任せろ」
少ししてユリが手続きを終えて戻ってきた。
俺たちは王都の外へ出るため、正門へと向かう。




