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35 突然の再会

 辺り一帯が暗闇に包まれる中、王都の周りを篝火(かがりび)が照らしている。


 俺たちはその明かりを目指して馬を走らせ続けた。


 王都の正門前に着くと入場検査待ちの列が見えた。こんな時間でもまだ門を閉めてないらしい。


 俺たちは馬から下りて正門脇へと進む。警備兵が見えたところで俺は馬の手綱をサーベラスに渡し、一人で警備兵の下に歩いて行く。


 列を無視して近づいたせいか、警備兵の目つきが厳しい。


「すみません、少し良いですか?」

「なんだ、中に入りたいのならそこの列に並んで検査を受けろ。待ってる間に門が閉まったら、外壁近くに建っている安宿にでも泊まって明日の朝もう一度並び直せ」


 警備兵が入場検査待ちの列を指差して面倒臭そうな態度を取る。


「その事なんですけど、ナナリーさんの名前を出せば直ぐに入れるように手配すると言われたのですが何か聞いてませんか? 俺はカムノゴルの町から来たシルヴァリオと言います」

「特にナナリー様からそのような指示は出ていない。さっさとそこの列に並べ」

「ナナリーさんに確認して頂けないでしょうか? 剣聖ガイの弟子が来たと言えばわかるはずです」

「剣聖の弟子? ……少し待て」


 警備兵が正門脇にある詰め所と思わしき部屋に入って行った。


 俺が腕を組んで待っているとシャルが近づいてきた。


「もしかして今日は中に入れない感じですか?」

「どうだろう、今確認してもらってるけどナナリーさんから話が通ってないみたいなんだよな」

「もしかして転移魔法使ったからじゃないですか? 普通なら半月ぐらいかかるけど、私たちその半分ぐらいで来ましたよね」

「あ~、確かに。ナナリーさんもそんな早く来ると思ってなくて指示を出してなかったんだろうな」


 仮に今すぐ中に入れなくても、明日の朝並べば良いだけだから正直どっちでもいいんだけど。


「もう少ししたら警備兵が戻ってくるはず。その結果次第ではそこら辺の宿に泊まる事になるかもな」

「宿を取るかは警備兵が戻ってくるのを待ってからにしたほうが良さそうですけど、馬は先に返して来て良いですよね?」

「任せた」

「はーい」


 シャルとオリヴィアの二人が五頭の馬を引いて、近くにあるはずの馬小屋を探しに行った。


 王都に来るのは初めてだからシャル一人だったら迷子になりそうだけど、オリヴィアも付いてるから大丈夫かな?


 少し待っていると警備兵が戻ってきた。


 警備兵の隣には騎士と思わしき男性も一緒だ。


「ガイさんの弟子ってのは君かい?」

「そうです。あなたは?」

「これは失礼。アルカーノ騎士団所属の上級騎士ジャックだ。申し訳ないんだけどナナリーが今対応できないもんでね、代わりに俺で許してくれ」


 師匠よりも年上に見えるジャックが人の良い笑みを浮かべて気さくに接してきた。


「本来こういうことはしないんだが、ガイさんには俺も世話になった事があるからな。身分証を見せてもらえるか?」


 ポーチから冒険者ギルドで発行している身分証を取り出してジャックに手渡した。


 ジャックは俺が渡した身分証をさっと一通り確認してすぐに返してきた。


「君一人かい?」

「いえ、他に四人います」

「じゃあその人たちの身分証も確認させてくれ」


 後ろに振り返り、こちらの様子を(うかが)っていたライナーたちを手招きする。


 いつの間にかシャルとオリヴィアも戻ってきていたようだ。


 こっちにやって来たライナーたちも、俺と同じように身分証をジャックに見てもらう。


「本当はもう少しちゃんと荷物とか色々調べるんだが、ガイさんの弟子たちなら問題無いだろう。付いて来い」


 全員分の身分証を確認し終えたジャックは背後の正門を親指で指し示すと、後ろを向いて歩き始めた。


 俺たちはジャックの後を追って正門を通る。


 城壁の内側に入ったところでジャックが足を止めたため、俺たちも立ち止まる。


「ナナリーは明日の昼頃なら騎士団の詰め所にいるはずだ、用があるなら明日行ってみろ」

「分かりました。ありがとうございます」

「じゃあな」


 ジャックは王城の見える方へとさっさと歩いて行き、闇に紛れて直ぐに見えなくなった。


 残された俺たちは宿を探す事にした。幸い直ぐに手頃な宿を見つけることが出来た。


 男女で別れて二つの部屋を取り、適当に食事と湯浴みをして俺たちは眠りについた。




 翌日、ライナーとサーベラスの二人は朝から冒険者ギルドに行って情報収集。


 俺とシャル、オリヴィアの三人は昼過ぎに宿を出た。騎士団の詰め所がどこにあるか分からなかったので、道行く人に尋ねながら詰め所に向かう。


 詰め所にたどり着いた俺たちは受付嬢に用件を伝えると、直ぐにナナリーさんの部屋まで案内してくれた。


 扉の開け放たれた部屋を覗くと、部屋の奥で書類を確認してるナナリーさんが見えた。


「失礼します。シルヴァリオ様がいらっしゃいました」


 受付嬢がナナリーさんに声をかけると、ナナリーさんが書類を置いてこちらに顔を向ける。


「シヴァ君、こんにちは。ジャックから話を聞いたわ。昨日はごめんなさいね。こんなに早く到着するとは思ってなかったのよ」

「いえ、こちらこそいつ頃着くか言ってませんでしたから」

「そこに腰掛けてくれる。あなたはお茶を持ってきてくれるかしら」


 ナナリーさんが椅子から立ち上がり、部屋の中央に向かい合うように置かれた長椅子を勧めてくる。受付嬢はナナリーさんの指示を受けてお茶を入れに行った。


 俺たちは部屋の入り口から見て右側に置かれた椅子まで進み、中央に俺、その右隣にシャル、左隣にオリヴィアが腰掛けた。


 ナナリーさんが俺の正面に座り、俺の左右に座っている二人に一度視線を向けてから話しかけてきた。


「シヴァ君、来てくれてありがとう。魔物の対策についての話は時間がかかりそうだから、先に討伐依頼の話をしようと思うのだけど……まずはそちらのお二人を紹介して貰えないかしら?」

「それならまずはナナリーさんから見て右がオリヴィア、近接戦闘と魔法をバランス良く扱う万能タイプです。左がシャルロット、こっちは攻撃魔法が得意な魔法使いタイプです。二人には今回の討伐依頼の手伝いをしてもらおうと思って一緒に来てもらいました。あと二人来てるんですけど、今は冒険者ギルドの方に行ってるので後で紹介します」

「ギルドに行っている二人も女の人なのかしら?」

「え?」


 ナナリーさんがなんだか少し怒っている様に見えるのは気のせいだろうか。


 笑っているのに迫力があるというか……


「いえ、ギルドに行ってる二人は男ですよ。一人は師匠の道場で師範代をしていて、もう一人は格闘技の達人です。今回一緒に来てもらった四人がいれば討伐依頼もある程度は対応できると思います」


 若干気圧されながらも答えると、ナナリーさんの雰囲気が少し穏やかになった気がする。


「……そう。お師匠様のところで師範代をしてるって事はかなりの腕前ね。そんな人も来てくれるなんて、すごく助かるわ」

「それで、最初は王都のギルドに行って高ランクの討伐依頼を受ければいいですか?」

「えぇ。王都が終わったら次は近隣の町の依頼もお願いしたいわ。こちらはお願いしている立場だから、どれだけ受けるかはシヴァ君たちにお任せします」

「分かりました。それなら王都の依頼をある程度済ませたら近隣の町も確認してみます」


 話に一区切りついたところで受付嬢がお茶を入れて来てくれた。


 俺たちは温かいお茶を飲んで一息つく。


 次は魔物の対策について話そうとお茶を机に置くと、こちらに向かってくる声が部屋の外から聞こえてきた。


 すると、ナナリーさんは右手の甲を額に当てて「タイミングの悪い」と呟き天井を仰ぎ見た。


「今度二人でお食事でもいかがですか?」

「う~ん、ユリが一緒ならいいわよ」

「私もですか。喜んでご一緒させて頂きます」


 声に釣られて部屋の入り口に顔を向けると、そこには騎士の服を着た男女がこの部屋に足を踏み入れるところだった。


 一人は胸元に一輪の花を挿した気障(きざ)な男、一人は長身ですらりとした中性的な()


 その二人に挟まれたもう一人は――


「アリス?」


 記憶の中の幼い少女が成長したらこうなるだろうなという理想が現実になっていた。


 成長して可愛さだけでなく綺麗さが同居する様になった整った顔を、琥珀色の瞳と淡い(べに)色の唇が(いろど)っている。セミロングの艶やかな黒髪は膨らんだ胸元まで伸びて、白と深みのある青を基調とした騎士服とのコントラストを作っている。細い腰から視線を下げると、スカートからすらりと伸びた足が目に()まった。


 思わず椅子から立ち上がり、アリスを見つめる。


「もしかして……シヴァ?」


 俺とアリスは突然の再会に驚き、互いに立ち尽くしてしまった。

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