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31 八年の年月(中編)

 そう言えば、皆が出迎えてくれたけどアクア姉が見当たらない。


「ナナリーさんへの報告は後で考えるとして、アクア姉は?」

「あー、あいつなら食材の買出しに行ってるぞ」

「私が行くって言ったんだけどお姉ちゃん聞かなくて」


 師匠とレインが苦笑気味にそう教えてくれた。


「あ、母ちゃん帰ってきたよ! サーベラスも一緒だ!」


 カイトが町の方から歩いて来た二人を見つけて元気良く教えてくれた。


 振り返って見るとアクア姉は手ぶら。その代わりにサーベラスが荷物を抱えていた。どうやらサーベラスが買い物帰りのアクア姉と合流したみたいだな。


「あれ、シヴァ帰ってきてたの? お帰りなさい」

「ただいま。レインが代わりに買い物行くって言ったのに聞かなかったんだって?」

「ガイもレインも心配し過ぎなのよ。まだお腹もそこまで大きくなってないんだし、買い物に行くぐらい大丈夫よ」

「そうなのかもしれないけど」

「もう二人産んでて、今回で三人目よ。私だって慣れてるんだからそこまで心配しなくても大丈夫よ」


 俺たちの心配を何処(どこ)吹く風と受け流し、途中でカイトとマリンの頭を軽く撫でるとさっさと孤児院に入ってしまった。その後に続いてサーベラスも孤児院に入ろうとしたが、入り口の前で師匠に止められている。師匠がサーベラスから荷物を受け取ると「二人と遊んでくれ」と言い残して孤児院の中へと消えて行った。


 師匠が去り際に残していった言葉に、二人はこれ幸いとサーベラスに向かっておねだりし始める。


「サーベラス! 犬になって!」

「わたしも……もふもふしたい……だめ?」


 カイトからのストレートな要求と、マリンの小首を傾げながらの上目遣い。


 サーベラスも子供二人のおねだりを断れず、やれやれと肩を(すく)めて孤児院から少し離れる。執事姿から魔犬に変身すると、その場で身を屈めた。


 仕方無さそうな態度してるけど、あれでサーベラスも子供好きだからな。二人もそれが分かるから甘えてるんだろうし。


 カイトがサーベラスの側面に駆けて行き、一生懸命になって背中によじ登ろうと頑張っている。


 マリンはレインと手を繋ぎながらサーベラスに近づくと、その銀色の毛並みを堪能し始めた。最初は撫でて、慣れてくると毛並みに埋もれるようにして寄りかかったり。


 レインはなんだかマリンと一緒になってもふりたいんだけど、お姉さんだから我慢しなくちゃって感じでうずうずしてるな。我慢しないでマリンと一緒にもふれば良いのに。


 オレンジ色に染まり始めた空の下、子供たちが遊んでいる様子を少しだけ眺めてから俺は孤児院へと入る。


 アクア姉は既に夕飯作りに取り掛かり、荷物を片し終えた師匠はお茶を飲んでまったりしていた。


「アクア姉。今日は湯浴みしたら直ぐ寝るから俺の分は用意しなくていいよ」

「帰ってくる前に食べてきたの?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

「それなら食べてから寝なさいよ」

「ごめん。結構疲れてるから直ぐ眠りたい」

「そう、わかったわ。その代わり明日の朝はちゃんと食べなさいよ」

「わかったよ」


 アクア姉とのやり取りの後、俺は階段を上がって自室に入った。


 荷袋と腰に下げていた剣を部屋の(はし)に置き、着替えを持って一階にある浴室へと向かう。


 さっと湯浴みを終えた俺は自室に戻り、ベットの上で仰向けに倒れ込む。


 すると直ぐに眠気が襲ってきた。このまま瞼を閉じればあっと言う間に眠れそうだ。


 意識が薄れていく中、アリスと別れてからの事が頭の中を()ぎる。




 アリスと別れた後、俺は師匠に頼んで町長を紹介して貰い、アリスに話したようなことを伝えてみた。


 すると、町長も悪魔たちの襲撃を実際に受けて、町の防衛について見直しをしていたらしい。


 悪魔を撃退した功績と師匠の援護もあってとんとん拍子に話が進んだ。


 剣については師匠が、魔法については俺が指導することになり、後日マリーさんに相談して治癒魔法と結界魔法についてはマリーさんが指導することになった。


 この町には熟練の魔法使いがいないため――マリーさんはいたけど人に教えることはしていなかったし――それまでは魔法の素質を持っていても魔法について本格的に学ぶことが難しかった。


 そこで、俺は警備兵だけではなく純粋に魔法を学びたいという人たちにも教えることにした。


 シャルとオリヴィアはこの時からの付き合いになるのか。


 二つ年下のシャルと、二つ年上のオリヴィア。姉妹揃って魔法について学びに来たんだよな。オリヴィアはシャルの付き添いって感じだったけど。


 二人とは年が近かったから直ぐに仲良くなって、それからは先生と生徒の関係がずっと続いてる。


 シャルは昔から元気で、年下の女の子はレインとしか接してこなかったから最初はかなり戸惑った。レインは大人しいからタイプが違うんだよな。


 魔法の才能があるのか教えたことをどんどん吸収していって、今じゃ俺とマリーさんに次ぐ魔法使いとしてこの町じゃ有名だ。


 さっきはサーベラスとの訓練の為に普通のシャツとズボン姿だったけど、魔法使いとして活動するときは魔女風の黒ドレスを着ていることでも知られている。三角帽子と杖まで持っていたら完璧に魔女だったな。


 栗色の長髪をツインテールにして(たけ)の長い黒ドレスを纏う姿は可憐で、若い男たちの中でも人気がある。


 オリヴィアは俺よりも年上なのに「先生ですから」と言って今でも敬語で接してくる。


 シャルとは違ってオリヴィアはそこまで魔法が上達しなかった。その代わり、師匠やサーベラスから剣術や格闘術を教わっていて近接戦闘もある程度こなせる。総合力ではシャルに負けてないはずなんだけど、あまりぱっとしない。器用貧乏って感じだな。


 シャルと同じく栗色の長髪で、低めの位置で結ばれたポニーテールと冒険者風の姿で見た目の派手さは無い。


 ただし、物腰の柔らかさと落ち着いた態度、さらには普段の服装だと着痩せして見えるがシャルが(うらや)むほどのグラマー体型で、実はシャルに負けないぐらいの人気がある。


 他にもサーベラスが魔人化した姿を皆に受け入れてもらうため、とある作戦を実行した。作戦の内容は至って単純、俺と魔犬状態のサーベラスが従魔の契約を()()()()をするというもの。


 師匠たちの前で従魔の契約を結び、俺から魔力を受け取ったサーベラスが魔犬から老執事へと変身を果たす。


 魔人化したサーベラスは丁寧に膝をついて(こうべ)を垂れて、いかにも従魔っぽい態度を見せる。


「いまのお前をポチと呼ぶのもなぁ……よし、今日からサーベラスと名乗れ。俺はお前の主となるシヴァだ」

「は、シヴァ様。素晴らしき名を授けて頂きありがとうございます。精一杯尽くさせて頂きます」


 その台詞に満足した様に見せ、俺は皆を見回すと……師匠とマリーさんは呆れた目をし、アクア姉とライナーは驚き言葉も出ず、レインは「絶対ポチの方が可愛いのに」と頬を膨らませていた。レインが膨れていたのは見た目の話か呼び方の話か、きっと両方だろう。後で魔犬状態に戻れると説明してやっと機嫌を直してもらった。


 そんなこんなで大手を振って魔人化したサーベラスと接することが出来る様になった。


 一つ問題があるとすれば、師匠とマリーさんが会話を出来るようになったサーベラスから色々聞きたそうにしていたってぐらいか。


 今のところ特に何か聞かれた訳じゃないから問題ないけど、もし何か聞かれたら事前に打ち合わせた当たり障り無い内容で答えてもらおう。


 こうしてサーベラスが皆に受け入れられるようになってからは、格闘術についてはサーベラスが教えることになった。


 他にも頭に浮かんでは消えていく過去の出来事があったが、そろそろ眠気の限界らしい。


 明日は、ナナリーさんへの報告を……どうするか……考えないと…………

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