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27 復興作業と勧誘

 町に着いたので、取りあえず昨日と同じように道場に向かう。俺以外は治癒魔法を使えないからマリーさんの手伝いはできないけど、何かしらやることはあるだろう。


 街道を行き交う人たちも慌しく働いているみたいだが、昨夜に比べれば全体的に落ち着きを見せている。


 道場に着いて中を覗いてみると、昨夜俺が帰ってからあまり状況が変わっていなかった。


 俺とマリーさんの治療を受けた人たちと結局治療を受けれなかった人たちが入り混じり、そのまま道場の床に雑魚寝をしていた。


 奥の方に視線を移すとマリーさんも床で寝ている。その隣には師匠があぐらをかいて壁に背を預ける形で目を閉じ……あれは寝てるのか?


 俺たちは寝ている人たちを縫うように進み、アクア姉が師匠に呼びかける。


「ガイ、寝てるの?」

「ん? アクアたち全員で来てどうした?」


 アクア姉の呼びかけに直ぐに師匠が反応した。単に休んでいただけらしい。


「何か手伝えることあるんじゃないかと思って来たのよ」

「そうか。それなら……アクアとレイン、アリスは炊き出しの手伝いを頼む。食材や道具は商業ギルドのロビーに用意すると町長が言っていたからギルドに向かってくれ。そこから先はギルドの受付嬢にでも手伝いに来たと伝えればいいだろう」

「わかったわ。じゃあレインとアリスちゃんはギルドまで一緒に行きましょうか」

「うん」

「わかりました」


 アクア姉を先頭にして三人が道場を出て行った。


 さっきの会話に反応して目を覚ましたのか、マリーさんがもぞもぞと動き出す。


「う、うぅ~ん…………ふぁぁぁ」


 マリーさんが身を捩って上半身を起こすと、口元を隠すように手を当てて大きなあくびをした。


「あれ、シヴァ君がいる。今日も手伝いに来てくれたの?」

「おはようございますマリーさん。今日も何か手伝えることがあればと思って来ました」

「アクアたちも来てたんだが炊き出しの手伝いに行って貰った。ただこいつだけは別の事を頼もうと残したんだ」

「ふ~ん、そうなの……」


 マリーさんは自分から話題を振ったのにそれだけで会話を終わらせてしまった。


 まだまだ眠たそうにしているし、マリーさんはこのまま放置しておこう。


「師匠、俺に頼みたい事ってなんですか?」

「それなんだが、昨日倒した悪魔の死体を回収して冒険者ギルドに持って行ってほしいんだ。今回の惨状を引き起こした元凶を片付けないと、町の人たちも安心できないだろうしな。あと、ついでに孤児院の近くにも悪魔の死体が無いか確認しておいてくれ。もしかしたらあの魔犬が一体倒してるかもしれないからな」

「わかりました。ポチが倒したかもしれない分は……昼頃まで探して見つからなかったら戻ってきます」

「それでいい。悪いが俺はもう少しここで休ませてくれ。さっきまで被害のあった場所を見回ったり町長と話して色々調整したりしてて寝て無くてな」


 師匠がどこで悪魔を倒したのか、大体の場所を聞いて道場を出る。


 町の中や外に置き去りにしていた悪魔の死体を回収して次々と冒険者ギルドへ持って行った。


 師匠が倒した分を終わらせて、次はサーベラスに場所を確認して裏山に転がっていた分も回収した。


 ギルドに持っていった悪魔の死体はこんなときでもちゃんと買い取ってくれた。


 俺とアリスが協力して倒した悪魔の死体は別の悪魔が放った魔法でほとんど灰になったため合計六体分。


 悪魔の買取自体があまり無いようで六体にもなると結構な額になるらしい。


 買取のお金は後で師匠に受け取ってもらおう。ここの受付嬢は師匠と顔馴染みだし大丈夫だろう。そう決めた俺は受付嬢にお金は師匠に渡してくれと伝えてギルドを出た。


 頼まれた作業を終わらせたので道場に戻る。


 まだ休んでいた師匠にサーベラスが倒した分も回収した事を伝えると「そうか」とだけ言って随分とあっさりしていた。もしかして何か言われるんじゃないかと思っていただけに拍子抜けしたが、わざわざ自分からサーベラスについて何か言う必要も無いので良しとしよう。


 次の作業として俺は町の入り口近くで仮住まいの家を建てる手伝いをすることになった。




 日が高くなる頃、町の入り口の方が賑やかになった。


 どうやら隣町のウスロースクから支援物資が届いたらしい。


 ちょうど休憩していた俺がそちらへ目を向けると、荷物を運んで来た先発隊の中に見知った顔を見つけた。


 巨大蜘蛛を倒したときに助けたあの男三人組だ。そいつらがこっちに向かって歩いてくる。


 先頭を歩いていた一人と目が合い、気さくに声をかけてきた。


「おや、君は確か剣聖と一緒にいた子じゃないか」

「お~本当だ。なんだか少し背が伸びたんじゃないか」

「あの時一緒にいた女の子は一緒じゃないのか?」

「今は一人ですよ。皆さんはウスロースクから荷物を届けに来てくれたんですか?」


 腰を上げて男たちと挨拶を交わし、軽く話をする。


 どうやら町長からカムノゴルの商業ギルドに物資などの支援依頼があり、その話がウスロースクの商業ギルドと冒険者ギルドに伝わって荷物が届けられたらしい。男三人組はたまたま朝一で冒険者ギルドに行ったらカムノゴルへ荷物を届ける仕事を与えられたんだと。


 ついでに人手が足りないだろうからと、数日間はカムノゴルに滞在して色々と作業を手伝ってくれると言ってくれた。


 男三人組やウスロースクからやって来た人たちと一緒に仮住まいの家を建てていると、後ろから俺のことを元気に呼ぶ声が聞こえた。


「アニキ! オイラも手伝うッス!」


 振り返るとそこにはライナーがいた。一度手を止めてライナーへと体を向ける。


「ライナー、お前家の方は大丈夫だったのか?」


 落ち込んだりしていないから大丈夫だと思うけど念のため確認しておく。


「ちょっと怪我してたけど、父ちゃんたちも家も無事だったッス!」

「そうか、良かったよ。じゃあこっちで手伝ってくれるか?」

「了解ッス!」


 それからはライナーも交えて日が落ちるまで作業を進めた。


 作業を終えた俺たちには昼と同じように、アクア姉たちが作った食事が振舞われた。


 それからは町に出ては復興作業の手伝いをする日々が続いた。




 悪魔たちの襲撃から半月ほどが経ち、近隣の町の協力もあって少しずつカムノゴルの町も活気を取り戻してきた。


 そんなある日の午後、王都から騎士たちがやって来たという話を町の中で聞いた。


 俺とアリスは日が暮れる前に町での作業を終えて孤児院へと帰る。


 すると、孤児院の前で師匠と見覚えのある女剣士が何やら話していた。


 その女性の後姿を見たアリスが駆け寄りながら相手の名を呼ぶ。


「ナナリー!」

「アリス様、お久しぶりです」


 ナナリーと呼ばれた女性がアリスに向かって体ごと振り返ると、固くしていた表情を(ほこ)ばせた。


「久しぶり。でもどうしたの?」

「お師匠様から先日起きた悪魔たちの襲撃について連絡がありまして、調査などを行うため私を含めて数人の騎士が派遣されたのです」

「そうだったんだ」

「えぇ、他にも色々ありますけどね……」


 そう言うナナリーさんは一瞬気まずそうな表情を浮かべたが、直ぐに顔を左右に振って真剣な表情に戻った。


 そしてナナリーさんの視線がアリスの隣に立っている俺へと注がれる。


「あなたが、シヴァ君よね」

「そうですけどなんでしょうか?」

「お師匠様から話を聞きました。なんでも、アリス様と共闘して悪魔を二体倒してみせたと」

「俺とアリスだけじゃなくて、他にもマリーさんっていうシスターの協力もありましたけどね」

「そうだったわね。後でそのシスターとも話をしないと。ただ、シヴァ君はそれだけでなく悪魔が引き起こした大規模な火災を鎮めるために魔法で雨を降らせる事もしたのよね?」


 師匠なら俺とアリスが悪魔を倒したことも、魔法で雨を降らせたことも知っている。


 調査のために来たナナリーさんに師匠がその事を話したとしても不思議じゃない。


 だが、それならわざわざ俺に確認する必要は無いだろう。まさか師匠が嘘をついたとでも思ってる訳じゃないだろうし。


 そうなると俺自体が怪しいと思われたか?


「ごめんなさい、問い詰めたかったわけじゃないのよ」


 俺が黙っているとナナリーさんが謝ってきた。そして少し困ったような表情で師匠に視線を向けている。


「聞くだけ聞いてみろ。無駄だと思うけどな」

「はい、そうしてみます」


 何やら事前に師匠には話をしていたみたいだな。一体なんだ?


「お師匠様から話を聞いたときは正直驚きましたが――シヴァ君、王都で騎士になる気はありませんか?」

「……は?」


 いきなりの話に思わず目を見開いてナナリーさんの事を凝視してしまった。

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