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20 遭遇

 さらに時は流れ、まだ暑さの残る秋。


 いつも通りの修行を終えた俺たちはカムノゴルの町にやって来ていた。


 俺とアリスは明日使う食材の買出しに、ライナーは家へと帰るために。


 石畳の街道を三人で並んで歩く。


「はあぁ~、今日も疲れたッス。アニキたちはまだまだ元気そうッスね」


 俺の右側を歩いているライナーが大きなため息と共に呟いた。


 ライナーの足音も俺とアリスに比べると気持ち沈んでいるように聞こえる。


「そんなことないよ。私も疲れてるし、シヴァだって疲れてるよね?」


 これには俺の左側を歩いているアリスが答えた。


 声だけ聞くとまだまだ元気そうに感じるけど、わざわざ否定する必要も無い。


「そうだな」

「全然そうは見えないッスよ。でも最近はオイラ、怪我も減ったから前に比べるとずいぶん楽にはなったッスけど」

「まだ私やシヴァには勝てて無いけど、すっごく上達したもんね」


 アリスはまるで弟の成長を喜ぶ姉の様に、穏やかに微笑んでいる。


 ライナーはアリスの言葉に感化されたのか、疲れた表情から一転してやる気に満ちた表情を浮かべて、


「うぅ~、絶対アニキやアリスさんに勝ってみせるッス! それで何時(いつ)か師匠にも勝ってみせるッス!」


 と叫んでみせた。


 近くを歩いていた何人かが何事かと足を止めて怪訝な顔を向けてきたが「なんだ、ライナーか」と呆れたように再び歩き出した。


 その様子に気付いたライナーは気まずそうに頬を()いている。


 何してるんだかと思ったが大目に見よう。最近ライナーが上達していることは確かだ。


 俺やアリス、ガイに勝てるようになるまで強くなれるかは知らないが。


「あ、あそこ」


 アリスが道端の露店を指差したかと思うと小走りで店の前まで行ってしまった。


「どうしたんスかね?」

「さぁ?」


 俺とライナーは首を傾げてアリスと同じく見慣れない露店に向かう。どこから来たかは知らないが、おそらく行商だろう。


 店主は俺たちを見やるとやる気のなさそうな態度をとる。子供だから金を持ってないと思われても仕方ないな。


 店先には様々な小物、特に指輪や腕輪、ネックレスなどの女の子が好きそうな物が多い。


 それを見てなるほどと納得した。アリスも例に漏れずこの手の物が好きらしい。


「ほら、これとか、これとか綺麗だよね?」


 近づいた俺たちに向かって、小さな宝石の付いたネックレスを指差して聞いてくる。


「あぁ、綺麗だな」

「そうッスね」


 俺たちの投げやりな対応は聞こえていないらしい。


 アリスはいいなぁと呟いて、値段を見て驚いて、はぁとため息をついて露店を離れた。


 アリスを追って俺たちも店を離れる。


「あのネックレス欲しかったの?」

「う~ん、見ただけで十分だよ」

「そっか」


 さっきの態度を見ればバレバレの嘘をついている事は分かる。


 だけどあのネックレスを買える訳も無く、本当は欲しいんだろう。などとは続けられなかった。


 露店を見つける前と同様に三人並んでまた歩き出す。


 すると、唐突にサーベラスから念話が届いた。


『シヴァ様。町の周辺に悪魔たちが集まってこちらに向かっています』


 その一報を受けた俺は足を止めて、とうとうこの日が来たかと身構える。


『どれぐらいだ?』

『七体ほど』

『ちっ、そこそこいるな』


 今の俺一人では一体、良くて二体を倒すのが限度だろう。


 しかし、だからと言ってただ逃げる訳にもいかない。


 アリスに説明すればおそらく協力してくれるだろう。それで更に一体。


 ガイなら二、三体は余裕でいけるはず。サーベラスが一、二体を倒すとしてぎりぎりか?


 最大の問題は――


『そいつらの場所と、それから上級悪魔はいるか?』

『町全体を囲うように散らばった様です。町の外周に出ればいづれかと遭遇するかと。遠くから見ているだけでは正確な判断は出来ませんが、おそらく全て下級悪魔だと思われます』


 よし。上級悪魔がいなければまだ希望はある。


 この事をガイに知らせたら、おそらくガイはアクア姉とレインを守ることを優先するだろう。だがこの町が悪魔に襲われていることをアクア姉が知ったら町の人々を助けるようガイに言う気がする。そうなるとガイは町の人々を助けに行くんじゃないか?


 どうなるかは分からない。念のためサーベラスを二人の側に置いておくのがいいだろう。


『わかった、サーベラスは孤児院の側で待機していろ。最優先はレインとアクア姉の護衛だ。もしもの場合は二人の前で魔人化してもいい』

(かしこ)まりました』


 サーベラスからの知らせを受けて俺は直ぐに行動を開始した。


 足を止めた俺を不思議そうに振り返って見ている二人に簡潔に状況を伝える。


「アリス、ライナー。カムノゴルの町周辺に下級悪魔が七体現れた」

「え、悪魔が?」

「どういうことッスか?」

「町の外に巡らせていた監視魔法に悪魔たちが引っかかった。ライナーは戻って師匠に伝えてくれ」


 もちろん監視魔法なんか使ってないがサーベラスに警戒させていたので情報としては正しい。


 俺の雰囲気から冗談ではないと察したライナーが真剣な表情を作る。


「アニキはどうするんッスか?」

「俺は悪魔たちのところへ行って迎撃してくる」

「無茶ッスよ!」

「私も一緒に行く! シヴァが駄目って言っても着いて行くからね!」

「――わかった、行くぞ」

「うん」

「アニキっ!」


 ライナーが制止の声を上げているが、俺とアリスはそれを無視して駆け出した。


 悪魔がいる具体的な場所は分からないけど、サーベラスの言葉を信じて町の外へと向かう。


 俺たちが走り始めて直ぐ、腹に響くような大きな爆発音が様々な場所から聞こえてきた。


 そして俺たちが向かう先、まだ遠いそこから眩しいほどの閃光が見えたかと思うと、再び大きな爆発音と共に爆炎が巻き上がる。


 突然の爆発に恐怖し、爆心地から遠くに逃げようと叫びながら走り出す多くの人たち。逆に腰を抜かして動けなくなる人もいる。


 崩壊し、燃え上がる数々の家屋(かおく)は炎を隣の家へと伝播(でんぱ)させて更なる猛火を生み出している。


 美しい夕焼けに染まる空は、オレンジに近い鮮烈な赤い炎と立ち昇る黒煙(こくえん)(けが)されていた。


 逃げ惑う人たちと逆走する様に、燃え盛る炎を避けて、俺とアリスは町の外へと駆けている。


 町の外周に近づくにつれて焦げ臭い匂いと肌を焼く熱が徐々に強くなる。


 怪我を負って倒れ込む人の数も増え、警備兵たちの悲鳴も大きくなる。


 俺とアリスが町を出ると、数人の人影が視界に映った。


「ぎゃあぁぁぁ」

「う……あ……あ」

「ぐぷっ……がはっ、ごほっ」


 次に大きな叫び声と弱弱しい呻き声、それから口から血を吐き出している音が聞こえてきた。


 警備兵たちがいるそこは、町から離れているおかげで火の手から逃れている。


 だからと言ってそこが安全だなんて口が裂けても言えない。


 なぜなら火の海よりも危険な存在が彼らの中心に立っているからだ。


 目をひくのは燃える様に逆立つ黒い髪と、左右から上に向かって生えているねじれた角、そして黄金の瞳。上半身は裸で頑強そうな肉体が覗く、大柄な体躯と合わせて強者の風格を見た者に与えるだろう。体の後ろには左右対となる大きな翼と細長い尻尾が見える。


 一般的な悪魔に見られる特徴を余すところ無く持っているそいつは、誰が見ても悪魔だと分かるだろう。


 悪魔の周りには虫の息で倒れている者、まだ生きているが血を吐いて(うずくま)っている者、今まさに悪魔に首を掴まれて足をバタつかせて逃げようと試みる者、そして――既に息絶えた者たちがいた。


「あ、あ……」


 その光景を見たアリスは両目を見開いて、口に手を当てて後ずさっている。


 首を左右に振り、目の前の光景を拒絶するかの様に。

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