166 研究と閃き
魔王ステラを殺す魔法。それは宿主である天使ステラの魂と深淵を切り離すために、黄泉を経由する形で強制的に転生させるというものだ。
言葉にするとたったそれだけ。
しかし、悠久の時を生きるケネスであっても、いまだにその魔法を完成させることができていない。
実際に転生魔法を使って人間へと転生したことのある俺たちなら、あるいはすぐにでも完成させられるのではないかと考えていたが、現実は甘くなかった。
俺はヴァイオレット家の地下室、つまりノーブルの部屋に入り浸って昼夜を問わずああでもない、こうでもないと頭を悩ませ続けている。
「煉獄の門を単体で開くのは成功してるから、あとはそれをどうやって転生魔法に組み込むかだけど、なんかいい案ある?」
作業机で魔法陣や仮説の走り書きをしながら、近くにいるノーブルへと話しかける。
「あればさっさと提案しとるわ。というか儂はまだ煉獄の門が開けないんじゃぞ。けんか売っとるのかおぬし?」
ちらっと視線を向けてみれば、ノーブルは煉獄の門を開こうとしているところだった。空中に転移とも煉獄の門ともいえない揺らぎが断続的に発生している。
ケネスに黄泉へと連れて行ってもらった後、まずは煉獄の門を開くところから試していた。そして翌日には成功していた。だが、感覚でやっている部分が多いため他の人への助言が難しい。いまのままだと俺しか扱えないことになるため、ノーブルも再現できるようになってほしいと思っているんだけど、まだまだ先は長そうだ。
「なにイライラしてんだよ。というかそんなのケネスが煉獄を開いたときの魔力の流れを再現するだけだろ。転移魔法に似てるんだからそんな難しくなくね?」
「無自覚か? 無自覚なんだな。かーっ、これだから天才ってのはやってられん」
「おまえだって賢者とか呼ばれてる天才だろ、なに言ってんだ」
「儂が天才ならおぬしはどう考えてもバケモンの類いじゃろ。あれは見たからといって簡単に再現なんかできるかボケ」
「はぁ?」
「ああん?」
寝不足のせいか、俺もノーブルもだいぶ短気になっているようだ。研究がうまくいっていないのも苛立ちに拍車をかけている。それにおなかも減ってきた。ここは一度休憩をとった方がいいかもしれない。
「二人ともけんかしない! どうせまたご飯食べてないんでしょ。これ食べて少しは落ち着いて」
ちょうどいいタイミングでソフィアがバスケットとポットを持って現れた。ちらかった部屋の中をずんずんと進み、持ってきた二つを空いてるテーブルに置いた。
「片手で食べれるように小さめのサンドイッチをたくさん入れておいたから。それと水も。二人とも集中すると水すら飲むの忘れちゃうんだから、意識的に飲んでね。脱水で倒れたら研究どころじゃないんだから」
ソフィアがちいさな子どもを注意するような口調で釘を刺してくる。
これには俺もノーブルも反論できなかった。
「あー……その、ありがたくいただきます」
「すまんのう」
俺からすれば年下の女の子。ノーブルからすれば孫娘に頭が上がらない状況だ。なんとも格好悪い。
ここは話題をすり替えるべく、ソフィアの近況について尋ねることにした。
「そういえばソフィアも忙しそうにしてるけど、そっちでもなにか研究してるのか?」
「スカイドラグーンの修理だよ。いや改造がメインかも? まあそんな感じ」
「あの船、空島で壊れたのか?」
俺は空島で意識を失ってから飛翔船を見ていないため、それがいまどんな状況なのか知らない。
「ううん、違うよ。そっちの修理はマスター主導でやってる。整備士のみんながひいひい言いながら頑張ってるよ」
修理というからてっきり空島に乗り込んだ飛翔船を直しているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「じゃあなにを直してるんだ?」
「二世の方だよ。たしか前に少しだけ見せたよね」
そう言われて、造船所に連れて行かれたときに少しだけ見せてもらった船があったことを思い出す。
「あれのことか。でもたしかあの船はもう飛べないって言ってなかったか?」
「私もいろいろと経験を積んだからね。いまなら直せるんじゃないかと思って。それにお兄さんに教えてもらった結界を応用すれば前よりももっと、もぉ~っと速く飛ばせるんじゃないかってインスピレーションがドッカーンって湧き上がってくるの!」
それからソフィアが高速詠唱もかくやという勢いで、湧き上がるインスピレーションについて熱く語っていたけれど、半分も理解できなかった。
適度に相づちを打ち、聞き手に専念していたのが良かったのか、ソフィアはひとしきり語って満足そうにしている。
「じゃあまたあとで見に来るから。ちゃんと仲良くやるんだよ」
そう言い残して、ソフィアは部屋から出て行った。
「とりあえず、一度休憩するか」
「そうじゃな」
サンドイッチをつまみながら、これからの作業について打ち合わせをした。
二人で同じことをするよりは作業分担をした方が効率的だろうということで、それぞれの担当を決めた。
俺は煉獄の門を開く魔法を魔法陣に落とし込む作業をする。いきなり転生魔法に組み込もうとするよりは、先に魔法陣化しておいた方が後々楽ができるだろうと見越してだ。
ノーブルには前世で研究していた転生魔法の記憶を思い出してもらい、人間に転生する魔法の魔法陣を書き起こしてもらう。
打ち合わせの後に少し休憩を挟んで、再び作業机に向き合う。
感覚的に発動していたものを魔法陣へ落とし込む作業は困難を極めた。しかしこれができないことには転生魔法に組み込むことができない。
ノーブルの方も人間に転生する前に研究していた内容なので、かなり記憶が薄れているようだ。どうにか思い出そうとうなったり、瞑想をしたりしている。
俺たちは寝食すら忘れるほど研究に打ち込んだ。ソフィアが差し入れをもってきてくれるときは休憩し、それ以外のすべての時間を研究に費やした。
連日のむちゃがたたり、眠気が最高潮に達したところで、気づいたら机に突っ伏していた。
まどろむ意識の中、複雑怪奇な魔法陣がいくつも登場し、それらが陽気にリズムをとりながら踊っている。
あっけにとられていると、今度は魔法陣が煉獄の炎に焼かれて溶け落ち、地面に染みを作り、巨大な魔法陣を構築した。その魔法陣が地面から剥離して空中に浮かび上がる。
嫌な予感がして後ずさろうとしたら、いつの間にか両手両足が鎖につながって身動きがとれなくなっていた。力いっぱい引っ張ってもびくともしない。
逃げ場のない状況に、冷や汗が頬を伝う。
目の前で得体の知れない魔法陣が甲高い声を出して笑ったかと思えば、すごい勢いで俺の口の中へと飛び込んできて――
ガタンッ!! と音を立てて椅子から転げ落ちた。
「…………なんだ、夢か」
「なにをしとるんじゃ」
「わるい、少し寝てたみたいだ。なんかでっかい魔法陣に襲われる夢だったよ」
ゆっくりと立ち上がり、言い訳するように軽く頭をかきながら夢で見た内容を伝える。
「魔法陣に? それはなんとも奇っ怪な。少々根をつめすぎかのう」
「多少むちゃをするぐらいじゃないと到底完成なんかさせられないだろ」
「それもそうか」
そういってノーブルは自分の作業に戻った。
俺は手を組んでから、一度だけ大きく背伸びをした。それから倒れた椅子を戻して座りなおす。
わずかでも寝たおかげか頭がすっきりしていた。
羽根ペンを持って作業の続きに着手する――その前に夢の中にでてきた奇っ怪な魔法陣を思い出しながら新しい紙に書き殴る。
うまく言葉にできないけれど、なぜかあの魔法陣が頭の片隅に引っかかって離れない。
ある程度書き進めると、急にモヤが晴れるような不思議な感覚におそわれた。
「あれ、これって……?」
書き殴っていた魔法陣を見返して、じっくりと確認する。するとそれがずっと悩んでいた部分の解決案のように思えてきた。
別の紙を取り出して、研究途中の魔法陣と夢で見たものを融合させる。
一枚では足りず、二枚、三枚とどんどん書き進めていく。最初は机の上で描いていたのだが、広さが足りなくなって床で作業するようになっていた。
どれだけの時間が過ぎただろう。俺の足元には百枚を超える紙が散らばっていた。そして手元にはそれらの集大成となる一枚の紙がある。
「……できた。これで煉獄の門を開ける」
大きな達成感を込めた呟きが静かにこぼれ出た。
「どれ、見せてみろ」
「ほら」
ノーブルは俺から紙を受け取ると、食い入るように内容を確認した。そしてすぐに俺が描き上げた魔法陣を再現して、煉獄の門を開いた。
「……儂も天才と呼ばれとったが、おぬしはそれ以上じゃな。ここまで隔絶していると嫉妬すら覚えん」
「褒めてもなにもでないぞ」
「ただの称賛じゃ。素直に受け取っておけ」
ノーブルの表情から、それが本心であることが伝わってきた。
対等に魔法研究ができる相手から、そんなことを言われるとなんだかむず痒い気持ちになる。
「それで、そっちはどうだ?」
「ちょうど見直しが終わったところじゃ」
ノーブルから紙を受け取り、描かれた魔法陣を確認する。
「へぇ……なるほど、たしかにこうすれば…………ん?」
「どうした?」
「そっちのやつ返してくれるか」
「ほれ」
煉獄の門を開く魔法陣が描かれた紙を返してもらい、それとノーブルが描いた魔法陣を見比べて、あることに気づいた。
「煉獄の門を開く魔法と、転生魔法のこのあたり。なんだか似てないか?」
目的も用途もまったく異なる二つの魔法に共通点などあるはずがない。だというのに、これはどういうことだろう?
「転生魔法で悪魔が悪魔として生まれ変わる部分を、悪魔が人に生まれ変わるように作り替えたんだよな?」
「ああ。そうじゃ」
「だったらそれ以外の部分は?」
ノーブルは俺から受け取った二枚の紙をまじまじと見比べている。
「他のところは弄っていない。だが言われてみるとおぬしが描いた魔法陣に似ているかもしれん」
「死んだ者の魂は煉獄へと導かれる。だけど転生魔法を使ったとき、魂が煉獄に行くことはない」
「つまり転生魔法には最初から煉獄の門を閉じる術式が組み込まれていると」
「魔法陣の類似性から考えると、転生魔法に煉獄に関する術式が組まれてるのは確実だろうな。これまではどうやって魂を煉獄に導けばいいのかを考えていたけど、逆なんだ。もともと魂が煉獄に向かうのは必然。転生魔法はそれを無理やりねじ曲げていた」
ノーブルと視線を交わして、互いに頷き合う。
「なるほどのう。つまりその無理やりねじ曲げている部分をどうにかできれば」
「できるぞ、魔王ステラを人間に転生させることが」
まだ完成には遠いけど、方向性は定まった。あと数日もあれば新たな転生魔法を完成させることができる。そんな希望が生まれた。
「しかし、この魔法を使えるのは儂とおぬしぐらいになりそうじゃな」
「なに言ってんだよ。魔法陣化さえできれば誰だろうと」
使えるはずだ。そう言い切るまえにノーブルが顔を横に振った。
「いま研究してるのは転生させた魂を煉獄に導き、人間として生まれ変わらせる部分であろう。その前提である他者を強制的に転生させるという部分はどう考えとるんじゃ? 対象を自分から他者にする部分を変えるのは難しくないが、対象を指定する部分を魔法陣化するのは無理じゃろ」
「そんなのは…………いや、きびしいか」
転生魔法を使う対象をどうやって決めるのか。その考え方は基本的に攻撃魔法と同じだが、そう簡単ではない。
なぜなら攻撃魔法はある程度雑に狙いをつけても大きな問題にならないからだ。直撃しなくてもかすめればそれだけで十分な場合もあるし、牽制という使い方もできる。それに比べて転生魔法に求められる精度は段違いだ。
あえて検討するなら位置指定が簡単だが、相手だって棒立ちで受けてはくれない。そうなると自動追尾が考えられるけど、この方法は基本的に事前のマーキングが必要だ。それに完全自動追尾は現実的じゃないから、ある程度手動で誘導しないといけない。こうなると最初から手動で狙った方が楽な場合もある。
さらに相手が無防備な状態で魔法を受けてくれればいいけど、そんなことは期待するだけ無駄だ。俺たちが戦う相手は魔王ステラ。なにかしらの方法で魔法を防いだり邪魔してくることは十分考えられる。そうなったときは相手の防御を相殺したり、むりやり突破しなければいけない。
こういったことを戦いながら、その場その場で最適な方法を選択する必要がある。軽く考えてこれだ。とても現実的じゃない。
「魔法陣は同じ結果を再現してはくれるが、逆にいえばそれだけだ。実験のように全部の条件を一緒に整えることができれば魔法陣にすることも可能であろう。しかし敵との戦闘中に使うとなれば、こちらが想定している条件を満たせるとは到底思えん」
「そうだな。それに転生魔法は魂に干渉するから高度な魔法技術が要求される。使える可能性があるのは天使たち、あとはオーロラぐらいだろう」
フィオナたちの顔を思い浮かべて、彼女たちならあるいはと期待を向ける。
「そやつらは転生魔法を使えるのか?」
「わからない。ただ使えても不思議じゃないとは思う。オーロラに限って言えば、もしもの場合は頭を下げてお願いするみたいなことをケネスが言っていたしな」
「なるほど。だが実際に転生魔法を使ったことがあって、いま生きてるのは儂とおぬしの二人だけじゃろ」
「そうだろうな。ほかに転生魔法を使ったってやつには会ったことないし。まあここは前向きに考えよう。逆にいえば俺とノーブルなら問題ないってことだ」
他者に対して使ったことはないけど、そこはノーブルが言うようにたいして難しくないだろう。問題は術者の方だ。俺とノーブルの二人しか使えなかったら、どちらかがステラとの戦闘を受け持つことになる。しかしノーブルがステラとの戦いに耐えられるのかというと、はっきりいって厳しいだろう。つまり必然的に俺が戦うことになるわけだ。
それに関しては元からそのつもりだったため問題ないが、空島で一方的にやられた記憶がよみがえる。あのときですら相手は封印がとかれた直後で全力ではなかったはずだ。どれほど実力に差があるのか考えるだけでも気が滅入りそうになる。
「……それでも勝つのは俺だ」
叶えたい未来のために、茨の道だろうと全力で突き進むことを選んだのは自分だ。だからこそ自らに言い聞かせるように言葉に力を込めた。
「そう肩肘を張るな。何でもかんでも一人で背負い込もうとするとつぶれるぞ。儂とて多少は力になれるはずじゃ。ノアやソフィア、ケネスたちも。それに側にいなくとも、おぬしには仲間がいるであろう」
「まさかおまえに気を遣われるとはな」
それだけ思い詰めた表情をしていたのかもしれない。
俺はゆっくりと息を吐いて力を抜いた。
ノーブルが冗談をいうように軽い口調で続ける。
「おぬしは新たな転生魔法を魔王ステラに叩き込むことだけに集中して、ほかのことは仲間に任せるぐらいでちょうどいい」
そういってノーブルが俺の肩を軽くたたいた。
「そうだな。じゃあ俺が転生魔法を使うまでの間、魔王ステラの足止めは任せたぞ」
「いやいやちょっと待て。それはさすがに厳しいぞ。たしかに周りに任せろとは言うたがな? 限度ってものがあるじゃろ!?」
俺の返しに、ノーブルが慌てたように早口で言い訳をする。
その様子がおかしくて、思わず苦笑が漏れた。
「冗談だよ。でもまあ、なにかあれば頼りにさせてもらうよ。さしあたってはこの研究の続きかな」
「わかっておる。たださすがに疲れてきた。少し休ませてくれ」
「それには同意。続きは一度寝てからにしよう」
先の見えない険しい山道を登り続けるような状況から、ゴールである山頂がようやく見え始めた。その安堵が俺とノーブルから集中力を奪った。いや、単純に肉体的な限界がきただけか。
そんなこんなで研究の続きは、しっかりと休んでからすることにした。
ノーブルはソフィアの差し入れが残っていたから、それをゆっくりと味わっている。
俺はお風呂場を借りてさっぱりした。その後は気分転換のため、一人で庭に出る。
冷たい空気に身を震わせながら空を見上げると、夜明け前の群青の空が広がっていた。ちょうど太陽が昇り始める頃合いだったようで、少しずつ朝日が空を明るく染めていく。
魔王ステラと戦うために研究しているから、こういった気持ちになるのは不謹慎かもしれないけど、ノーブルと一緒に行う魔法研究はなんだかんだで楽しい。
あいつは魔法に対する知識が深いし、それに見合った魔法技術もある。転生魔法については長く研究してるだけあって俺よりもはるかに造詣が深い。本人に伝えるつもりはないけど、そういった部分は素直に尊敬している。
ノーブルとの研究がやりやすいと感じるのは、悪魔から人間に生まれ変わったというなんとも奇妙な共通点があるせいかな。それでお互いに遠慮がないというのも関係しているかもしれない。
いまは魔王ステラをどうにかするために転生魔法の研究だけをしてるけど、それが片付いて時間ができたらほかの研究をするのもいいかもしれない。
たとえばグレイルが魔王ステラの封印を解いたときの魔法とか。あれはすごかった。使う機会なんてないだろうけど、技術的には興味がある。
研究の合間の休憩時間に、別の研究をしようとするのはなんだか本末転倒な感じはするけど気にしてはいけない。ちゃんと息抜きになっているからなにも問題ないはずだ。
戦いの合間に聞いていた詠唱と部分的に確認できた魔法陣から、グレイルが使った封印解除の魔法の全体像を予測する。
明るくなっていく空をぼうっと見上げながら、頭の中で封印解除の魔法を再現しようと高速で魔法理論を展開しては見直して、組み替えては廃棄してと、何度もそんなことを繰り返して少しずつ完成形を模索していく。
「そういえば転移魔法も魔法陣化できそうだよな?」
封印解除の魔法について考えていたはずなのに、ふとした瞬間に転移魔法へと思考がそれた。
煉獄の門を開く魔法と転移魔法は感覚的に似ている。その共通部分を洗い出して流用し、差分だけ新しく付け足せればなんとかなるかもしれない。転移先はさすがに固定せざるをえないだろうけど、それでも可能性は十分ある。
ときには空中に指で魔法陣を描いたり、ぶつぶつと独り言を繰り返す。そうやって研究に没頭していたら、急に人が空から降りてきて目の前に立っていた。
「うおっ――ってギルド長? こんな朝早くからどうしたんです?」
ここはギルド長の実家でもあるから、いつ帰ってきてもおかしくはないんだけど、それにしては険しい表情をしているように見える。
「ずいぶんと集中していたみたいだな。研究の方は順調か?」
「え? まあ、山場を超えてようやくゴールが見えてきたかな」
休憩がてら別の魔法について考え込んでいたなんてことは言わなくていいだろう。
「そうか。順調でなによりだ。ただ忙しいところ悪い。頼みがある」
ギルド長であれば俺とノーブルが行っている研究がどれだけ重要かというのは分かっているはずだ。だというのにここに来たということは、それだけヤバい案件ということになる。
断れないんだろうなと半ば諦めつつ、念のため確認をしてみる。
「それは転生魔法の研究よりも優先すべきなのか?」
「国が一つ滅びたかもしれない。その事実確認をするために協力してほしい」
「詳しく」
想像以上のできごとに、食い気味に続きを促した。
「国の名前はナイリシア。地理的には以前、おまえがグラードと戦った場所の西側にある。そのナイリシア支部から近隣のギルド宛に緊急の依頼が出た。鮫に似た空飛ぶ魔物が大量に現れて暴れているため救援を求むと、まあそんな感じの内容だ。そこでそれなりの人数が救援に向かったらしいんだが、そいつらも返り討ちに遭ったようでな。二次被害がでたということでついさっき俺のところにまで報告が上がってきた。ちなみにナイリシア支部に状況を確認しようとしたが、連絡が取れない」
「強力な魔物が現れたってことはわかったけど、さすがに国が滅びたってのは言い過ぎじゃないか?」
通信担当者が忙しくて手が回っていないとか、ほかの近隣ギルドと連絡を取っていて割り込めないとか、そういうことも考えられる。ある程度時間をおいたらあっさりと連絡がついたりするんじゃないだろうか。
当然そんなことはギルド長も考えただろう。その上で国が滅びたかもしれないと言うからにはそれなりの理由があるはずだ。
「じつは先ほどヴィルダージュから一方的な通達があった。簡単にまとめると『我らに逆らう国を滅ぼした。神の支配を受け入れろ』といった感じだな」
「ヴィルダージュが魔王ステラの力を使って敵対国を攻撃したということか?」
「断言はできないが、その可能性が高い」
ギルド長が苛立つように吐き捨てた。
魔王ステラが関わっているかもしれないのであれば、すぐにでも動いた方がいいだろう。
「わかった。すぐに行こう、と言いたいところだけどナイリシアには行ったことがない」
「それならじいさんに声をかけよう。じいさんも行ったことがないなら、おまえがグラードと戦った場所に転移して、そこから飛んで行くしかないな」
地下室でのんびりとお茶を飲んでいたノーブルをつかまえて状況を説明する。幸いにしてノーブルはナイリシアに行ったことがあった。
俺たちは装備を整えて、すぐにノーブルの転移魔法でナイリシアへと向かった。




