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15 冒険者ギルドの依頼(前編)

 魔人化を試してから一月ほどが経ったある日の午後、俺は商人が自ら馬を操縦している馬車の荷台の上で揺れていた。


 俺は進行方向に対して垂直を向くように座っていて、正面にはガイ、右隣にはアリスが座っている。荷台には俺たちの他に商人が隣町まで運ぶ荷物が山のように積まれている。


 今回、ガイが運搬中の護衛をすることで馬車に乗せてもらえることになった。俺とアリスはおまけだ。


 俺たちが住んでいるカムノゴルの町を昼過ぎに出てからしばらく経ち、そろそろお尻が痛くなってきた。


 荷台から外を眺めると、なだらかな草原に一本の街道がずっと先まで続いていることが分かる。


 向かう先はカムノゴルから見て南西にあるウスロースクという町。


 ガイの指導の一環として、魔物との戦闘経験を積むために、わざわざ隣町まで行くことになった。


 隣町まで行く理由としては、俺とアリスの強さだとカムノゴル付近にいる魔物ではあまり意味がないだろうとのこと。ウスロースクの近くにある森や山には、カムノゴルよりかは強い魔物が住み着いているため遠征することになった。


 ガイに聞いた話では、日が暮れる前にはウスロースクに着くらしい。つまりまだまだお尻を痛める必要があるみたいだ。


 このまま黙ってても良いけど、この時間を使ってダリウスとジルベールの件について聞いてみるか。あれから結構経つのでそろそろ進展があったのではないかと予想している。


「そういえば師匠、ダリウスとジルベールの件について何かわかりましたか?」

「あん? いきなりどうした」

「いえ。結局あの魔道具や魔物はどこから手に入れたのかと思いまして」

「あの二人、というかグレイグル家とアンドレイヤ家。両家が悪魔に身を変える魔道具と魔物を召喚する魔道具をどこかから買っていたことが分かった。どこから買ったかは隠蔽工作されててまだ確証が取れていないらしいが、ナナリーは北の帝国が怪しいと睨んでるみたいだな。ダリウスとジルベールはその魔道具を王都の本家から黙って持ち出して使った。二人は悪魔に身を変える魔道具がどんなものか完全には把握してなかったみたいで、悪魔のように強くなれる……ぐらいの認識だったらしいぞ」


 どんな効果があるかわからないものを使うとか、あいつら何を考えているんだか。


「あの二人も魔道具を使って自我を無くすのは想定外だったんですね」

「ああ。結果的に被害は道場の破損とお前たち二人の怪我程度ですんだわけだが……すまなかったな。あの時俺がもっと早く戻っていれば二人に怪我をさせることもなかった。アクアにも散々怒られたよ……」


 ガイは申し訳なさそうな顔を俺たちに向けた。


 ダリウスとジルベールの襲撃後にも同じように謝罪を受けたが、あれはガイのせいではないだろう。


「いえ、あれは師匠は悪くないですよ」

「そうです。あれはあの二人が悪いんですよ!」


 俺がそう言うとアリスも力強く同意した。


「お前らに気を使われるなんてな。まあそんなんで両家は危険な魔道具を使って相当やばいこと企んでたみたいだったんだけど、今回のことがあってそれも事前に潰すことができた。両家は貴族階級を剥奪。あの二人も一家揃って王都に行って処罰を受けている。俺たちとしてはもう出来ることは無いから後はナナリーたちに任せるしかないな」


 割と最初のほうからナナリーさんに投げてませんでしたっけ? と俺は言いたくなったが何とか堪えて適当に頷いておいた。


 北の帝国が怪しい……ね。今はまだ何もできない。もし行くことがあったら悪魔との関連を調べてみよう。




 道中で二度、狼の様な魔物と出くわすことがあったけど、それはガイの手であっという間に始末された。それ以外には特に何も起きず、日が沈む頃にはウスロースクへと無事到着した。


 町の入り口で商人とは別れて俺たちは宿屋に向かう。ガイは何度も足を運んだことがあるようで『風見鶏亭』という宿屋へと迷うことなく入って行った。ガイに続いて宿屋に入る前に、外観をさっと眺める。なんだか大衆向けの安っぽい感じが見るからに漂っている。


 受付をすませた後、宿屋の一階にある食堂で夕飯をとった。出てきた食事は固いパンとあまり具の入っていないスープだけ。普段の俺たちは良いもの食べてるんだなと、こんなところで実感するとは……


 夕飯を食べ終えた俺たちは直ぐに二階にある部屋へと向かった。部屋の中は狭く、ベットが二つ窮屈そうに収まっている。窓辺寄りのほうをガイが、入り口よりのほうを俺とアリスが二人で使うことに決定。


 湯浴みをするには一度宿屋を出て風呂屋に行かないといけないらしい。ガイは旅をしてれば数日は水浴びできないのが普通だ、一日ぐらいどうってことないと言ってそのまま寝てしまった。俺もまあいいかと思ったけど、アリスはそわそわと少しだけ風呂屋に行きたそうにしていた。やっぱり女の子は気になるものなんだな。


 朝になったので昨夜と同じように一階の食堂で食事を取った。


 その後、ガイの発案で冒険者ギルドから討伐依頼が出ている魔物と戦う事になり、冒険者ギルドに向かう。


 冒険者ギルドに入るのが初めてのアリスは、ロビーをきょろきょろと見回して一言。


「師匠。朝一だから冒険者が少ないんですか?」

「いや、昼頃にはもう少し増えるだろうが大体こんなもんだぞ」


 俺もアリスに習って周りを見回す。


 冒険者と思わしき人は……十人。壁に立てかけられた掲示板の前に三人グループが一つ。受付に二人グループが一つ。入り口近くに並べてある木の椅子に四人がそれぞれ距離を取って座っている。椅子に座っている人たちは待ち合わせでもしているのだろう。


「ナナリーから王都にある冒険者ギルドの様子を聞いたことがあったので、もっと冒険者が多いと思ってました」

「王都とここら辺だとそもそも住んでる人の数が違うからな。それに王都の冒険者が増えたのも十年前からだぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。十年前に勇者パーティーが魔王と()()()。魔王が死んで統制の取れなくなった魔王軍、悪魔や魔物たちが一気に暴れ始めてな」

「あ、その話はナナリーから聞いてます。私が強くなったらその悪魔たち、特に上級悪魔と呼ばれている悪魔を相手にすることになるって」

「上級悪魔になると俺でも勝てるかどうかって強さだからな。まぁアリスがこのまま修行を続けていけばそいつらを倒せるぐらいには強くなれるだろう。それにしても、魔王がいなくなったほうが大変になるとは皮肉な話だ。それまでは冒険者ギルドの依頼は大半が傭兵や下級騎士に回っていたんだがな。傭兵や騎士は以前にも増して暴れるようになった悪魔や魔物の相手で忙しい。そんな訳で傭兵や騎士だけでは色々と手が回らなくなって冒険者が増え出したんだよ」

「そうだったんですね」


 アリスがガイの説明を聞いて感心している。


 俺は今の話に間違いがあるのを知っているんだが、それを指摘することは出来ない。なんでそんなこと知ってるんだと聞き返されたら答えに詰まるからな。


 十年前、俺は高位天使と高位悪魔に封印された。人間だと騎士の呼び方に合わせて高位じゃなくて上級って呼び方をしているから、それに合わせるなら上級天使と上級悪魔に封印されたってことになる。


 だけど世間では封印される前夜に戦っていた勇者が俺と相打ちしたということになっているらしい。


 俺が死んだことになってるのは別に構わないんだけど、勇者も死んでいたのが意外だったな。


 おそらくあの後悪魔たちに狙われたんだろう。まあ半殺しにして魔王城の外に放り出していた俺にも原因はありそうだけど。


 そんな話をしていた俺たちも掲示板の前に移動する。


 さっき掲示板の前にいた三人グループは依頼票を剥がして受付に向かったようだ。


「さて、どれにするかな。シヴァはCランクまではやったよな。アリスもCランクの魔物ぐらいまではあっさり討伐しそうだしな。いや、下手するとBランクも……」

「師匠。そのランクってなんなんですか?」


 ガイが掲示板の前で依頼票を眺めているとアリスから質問が上がった。


「ランクについてナナリーから聞いてないのか?」

「はい」

「ランクは……あった。そこの表みたいに魔物の強さを区分分けしたものだ」


 ガイは掲示板の左下に張ってある表を指差す。


――――――――――

<表の見方>

・ランク:該当する魔物の例

 ⇒討伐する際に必要な戦力の目安

―――――

・Aランク:下級悪魔、ドラゴン、キマイラ、鬼

 ⇒上級騎士が五、六人程度の隊を組んで対処可

・Bランク:オーガ、ドラゴンの幼体

 ⇒上級騎士が単独で対処可

 ⇒下級騎士が五、六人程度の隊を組んで対処可

・Cランク:魔狼、グレムリン、ゴースト

 ⇒下級騎士が単独で対処可

・Dランク:ホブゴブリン、グール

 ⇒警備兵が五、六人程度の隊を組んで対処可

・Eランク:オーク、スケルトン

 ⇒警備兵が単独で対処可

・Fランク:ゴブリン

 ⇒武器を持った大人が対処可

・Gランク:スライム

 ⇒武器を持った子供が対処可


※注意事項

 これらの区分けはあくまで目安です。


 魔物によっては個体差があるため、上記の戦力で倒せない場合もあります。


 魔物が群れている場合や、特殊個体と戦う場合は一、二ランク上の魔物と戦うための戦力を参考にして下さい。

――――――――――


「へえ。ちなみに師匠とナナリーはどのランクなんですか?」

「俺とナナリーか。あいつは確かドラゴンを一人で倒したことあるからAランクだな。俺はAランクの上のSランクだ」

「Sランク……表にありませんよ?」

「掲示板にはAランクまでの依頼しか貼られないからな、さっき話に出た上級悪魔とか大型のドラゴンとかはSランク扱いだ」

「え、師匠っておっきなドラゴン倒したことあるんですか!」


 アリスはなにやら期待のこもった感じの眼差しをガイに向けている。


 もしかしたら物語に出てくるような大型のドラゴンとガイが戦っているシーンを思い浮かべているのかもしれない。


「いや、大型のドラゴンじゃなくて鬼神と呼ばれていたやつを斬ったことがあってな。そいつがSランクだったんだよ。まあ、でも小型というか普通のドラゴンだったら斬ったことあるぞ」

「おぉ~!」


 アリスが「ドラゴンじゃなくて」のところでがっかりして、最後の「ドラゴンだったら斬ったことあるぞ」で復活した。ガイのことを尊敬の眼差しで見ている。


 ガイが本気で戦っているところを見たことが無いから、こういう話を聞かないとガイの凄さがいまいちわからないんだろうな。もしくは私もドラゴンと戦ってみたい、とか考えてるのかもしれないけど。


 俺もガイが強いことは分かっているんだけど、それがどれぐらいなのか、本気の部分が分かってない。一度ぐらいガイが本気で戦ってるところ見たいんだけどな。


「うーむ、Cランクの討伐依頼は無いか。今回は魔物との戦闘経験を積むことが目的だから強さは二の次として……これにするか」


 ガイは掲示板に貼ってある依頼票の一つを剥がし取って、受付の方に歩いて行く。


 ちょうど三人グループが受付を終えて空いたようだ。


「あら、ガイさんとシヴァ君じゃありませんか。そちらの可愛らしい子は初めましてですね。商業ギルド外部委託部門(がいぶいたくぶもん)、通称冒険者ギルドへようこそ」


 キリッとした、如何にも仕事できますという雰囲気を感じさせる受付嬢が先に声をかけてきた。


「商業……外部?」


 どうやらアリスは冒険者ギルドの本来の呼び名を知らなかったようで、首をかしげている。


 俺も初めて聞いたときはなんだそれ? と思っていまのアリスと同じようになっていたな。


 むかしガイに教えてもらった内容はたしか……


 商業ギルド外部委託部門――商業ギルドの一部門で、商人からの依頼をとりまとめて冒険者や傭兵、騎士などといった人たちに仕事の斡旋(あっせん)をしているところ。商人からの依頼は魔物の討伐や旅路の護衛、薬草や魔物の皮などの素材採取と多岐にわたり、これは依頼票という形で俺たちが見られるようになっている。


 基本的に外部委託部門の建物が独立していることや、冒険者に依頼を斡旋するといった仕事内容から、いつの間にか冒険者ギルドと呼ぶ人の方が多くなったらしい。


「冒険者ギルドの正式名称ですよ。皆さん冒険者ギルドと呼ぶのであまり知られていませんけどね」


 受付嬢はこういった細かい説明を省いてアリスに短く答えた。それからすぐにガイの対応に戻っている。


「さて、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「今日はこいつらに実戦を経験させようと思ってな」


 先ほど剥がした依頼票を受付嬢に渡す。


「今回は……ポイズンスパイダーの討伐及び、素材採取ですか。Dランクの依頼ですけどシヴァ君は前にCランクをやっていますし、ガイさんが見守っているなら問題ないですね。念のため解毒薬は用意しておいて下さい」


 そう言いながらお姉さんはさくさくと受付を終わらせた。


「これで受付は完了です。ガイさんは袋を持ってきていないようなので、この袋を貸しますね。討伐したポイズンスパイダーの素材はこれに入れてきてください」

「ああ、助かる」


 受付嬢がカウンターの下から取り出した大きな袋を、ガイが受け取った。


「一応解毒薬を買ってから町を出る。ポイズンスパイダーはウスロースクの森に出るから……探索と討伐の時間込みで日が暮れる前には戻ってこれるな。行くぞ」


 冒険者ギルドを出た俺たちは道具屋で解毒薬を買い、それからウスロースクの西にある森へと向かった。

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