表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/164

140 グロウリード

 ようやくグロウリードという人物について判明したかと思えば、まさか俺と同じ名前だったとはな。


 でも同じ名前だからってグロウリードについて知ってるかと俺に聞くのも少し行き過ぎな気がするんだが? まあそれだけフィオナとゼムアにとって印象深い人物だったということか。


 魔王ステラを信仰する人たちをまとめ上げたという父親の方も気になるが、俺と同じシルヴァリオという名前をもつ男について先に聞いてみよう。


「そのシルヴァリオ・グロウリードというのはどういう人物だったのですか?」

「あやつは貴族としての地位や名前を捨ててまで自らの正義に準じた不器用な男よ」

「貴族の地位や名前を捨ててまで、ですか」


 父親と敵対する際に家を出たということだろうか?


「そうだ。いくら父親やグロウリードの一族が魔王ステラを信仰するからといって、貴族としての地位や名前を捨ててまで抗おうとするか? あの時代を生きた者であればまずありえんよ。周りに流されない確固たる意志を持っていたともいえるが、変わり者であるのは間違いない」


 変わり者か。まあ父親や一族と敵対してまで自分の意志を貫こうとすれば、そう言われるのも仕方ないのかもしれない。


 貴族の名前を捨てたというのなら、偽名を使ってない場合はただのシルヴァリオとして活動してたということになる。そうなるとずっと前に俺の名前について調べたときに出てきた、ドラゴンを退治した英雄シルヴァリオと同一人物という可能性もありえるな。


「強かったのですか? たとえば一人でドラゴンを倒したりしたなど」

「ああ、強かったぞ。ただの人でありながら我やフィオナ殿、それに勇者に匹敵する実力があった。それでも最後は魔王ステラの陣営についた多くの天使たちを道連れにして戦死してしまったんだが……」

「天使たちを道連れに戦死?」

「そうだ。あやつが時間を稼いでくれなければ魔王ステラの封印はかなわなかっただろう。あやつこそ英雄と呼ぶにふさわしい」


 そう言うゼムアはどこか誇らしげだった。


 しかしいまの話はおかしくないだろうか? 例えばいまの俺であれば多くの天使を道連れにすることも可能だろう。でもそれは二重覚醒を果たしたからこそだ。ただの人間が覚醒したぐらいでは一人の天使を相手にできればいい方じゃないだろうか?


「なにか気になることでもあるのか」


 どうやら顔に出ていたらしい。せっかくなのでもう少し詳しく聞いてみよう。


「そのシルヴァリオ・グロウリードという男はただの人間だったのですよね。はたして多くの天使を道連れにできるほど強かったのだろうかと」

「話を聞いただけでは信じられないかもしれないが、実際にあったできごとだ」

「本当に人間なんですよね? 実は天使や悪魔が正体を隠していたとか……」


 千年前に俺と似たような状況のやつが居たとは思わないけど、そうじゃないと説明がつかない気がする。


「はっはっは、そう疑うのも仕方ない。だがあやつは間違いなく人間だったよ。普通と違う部分があるとすれば”天照(てんしょう)”へと至った逸材ということか」

「”天照”……ですか?」


 初めて聞く単語でそれがどういったものなのか想像がつかない。話の流れからすると覚醒に近いものだろうか?


「なんだ、フィオナ殿から聞いていないのか?」

「申し訳ありません」

「謝る必要は無い。一言でいえば”深淵”の対になる力だ。”深淵”については知っているか」

「そちらについては存じております。”深淵”の対になる力ですか……」


 罪と穢れといった負の力が”深淵”だとするなら、その反対の力があっても不思議じゃない。それを”天照”と呼んでいるのか。


「それなら話は早い。”深淵”が世界を闇で包み込む絶望の象徴とすれば、”天照”は世界を光で照らし出す希望の象徴。フィオナ殿は”深淵”に対抗する力として勇者に天使の加護という形で授けていたのだ。当然”深淵”を持たない者に対しても優位に立つことができる。それほどに強い力だ」


 ゼムアはシルヴァリオが”天照”へと至ったと言っていた。ということはつまり――


「それをシルヴァリオ・グロウリードは自らの力で獲得したと?」


 ゼムアはゆっくりと頷いた。


「”天照”に至る方法は確立されていない。だがおそらくはあやつが英雄と呼ばれるまで名声を高めたからこそ”天照”の力を得たのだろう。とはいえそれだけではまだ弱い。その力を”白の隕鉄”でできた武器で増幅させて、人間の限界を超えて戦ったのだ」


 勇者だけじゃなくてシルヴァリオ・グロウリードも”白の隕鉄”の武器で戦っていたのか。勇者の方は修復したやつをアリスが持っているけど、グロウリードの方は失われてしまったのだろうか?


「しかしそれほどの逸材であればアルフレド伝説に名前ぐらい残っていてもおかしくないのではないでしょうか? たしか北の地でドラゴンを倒した英雄として名を残していましたけれど、逆に言えばそれぐらいでしか名前が残っていません」

「たとえ名を捨てたとしてもグロウリードの血筋の者だという事実は消えない。あの戦いのあと、グロウリード家は粛正された。アルフレド伝説の話から意図的にシルヴァリオの名が消されているのはその影響だろう」

「そういうことですか……」


 当の本人だけじゃなく、その血を引いているのだから同罪だということか。血筋や家系といったものを重要視する人は一定数いるものだから仕方ないのかもしれないけど、なんだかな。


 俺としては血筋や生まれた国などよりも、どういった考えを持っているのかという方が重要だと思うんだけど。


 まああれか、人がなにを考えてるのかは簡単にはわからないし後で変わるかもしれない。だけど血筋は調べれば判明するし、後天的に変わるものじゃないから糾弾する対象にしやすいというのはあるかもしれない。


 とりあえずそういう過去があったということだけは理解できた。


 そろそろシン・グロウリードについても聞いてみよう。


 話題を変えようとしたところで、隣のセレンが遠慮がちに声をあげた。


「ゼムア様、さきほど”深淵”に対抗する力として勇者に天使の加護を与えたとおっしゃいましたけれど、勇者は”天照”に目覚めなかったということでしょうか?」


 たしかにセレンの言う通りだ。世界を救った勇者、そのアルフレドが”天照”に至らなかったというのは違和感がある。


 ゼムアの話は色々と情報量が多くて見逃していた。


「……勇者には天使の加護が必要だった。それがすべてだ」


 いままで流暢に答えていたゼムアがなぜか言葉を濁した。


 問いを投げたセレンはというと、ほんのわずかに眉をひそめていた。


 もし勇者が”天照”に目覚めていたなかったのだとすれば”深淵”に対抗するために必要だったというだけで、特に隠すこともないだろう。逆に目覚めていたのにも関わらず天使の加護が必要だったというのであれば、それだけステラの”深淵”が強力だったと考えられる。こちらの場合でも言葉を濁した理由にはならない。


 俺が気づいていないなにかがあるのだろうか? それとも深読みし過ぎ?


 だが言葉を濁したということはこれ以上聞いても答えてはくれないだろう。


 考えても何も思いつかないので、もう一人のグロウリードについて聞くことにした。


「シルヴァリオ・グロウリードは戦死したということですが、その父親であるシン・グロウリードはどういった結末を迎えたのでしょうか?」

「シン・グロウリードは我々が魔王ステラを封印したのと同時期に行方をくらませた。それゆえやつがどういった最後を迎えたのかは誰も知らぬ」


 シルヴァリオ・グロウリードと同じで戦死したり、捕まえて処刑でもしたのかと予想していたのにそのどちらでもなかった。


 誰も知らないのか。千年前のことだからさすがに本人は死んでるんだろうけど、その子孫とか思想を受け継いだ誰かがなにか企んでたりしないよな……




 ゼムア、ゼシアとの話し合いを終えた俺たちは屋敷を出た。そのままの足でヨミとの約束を守るため道場へと向かう。


 その途中、屋敷内での話を思い出してため息をついた。


「どうしたんスか、そんな難しそうな顔して」

「いや、封印の宝玉については予定通り話が聞けて良かったけど、その後ゼムア様が色々話してくれただろ。それでちょっと思うところがあってな……」


 当初の目的である封印の宝玉の無事については確認することができた。実際に物を見たわけじゃないけど、ゼムアが体を張って守っているというからには大丈夫だろう。


 だから問題はその後。新事実が多くて頭の整理が追い付いていない。


「アニキと同じ名前の人のこととか?」

「そうだな。あと”天照”って力のことと、セレンの天使の加護って結局なんなんだろうって」


 直接セレンの天使の加護について言及があったわけじゃないけど、あの話を聞いた以上無関係とは思えない。


「あたしも今回の話を聞いてわからなくなったわ」

「ゼムア様の話が本当ならセレンも”天照”の力を持ってるってことになるよな」


 セレンの力については聖教会での戦いで見せてもらった。対悪魔としては破格の威力をもっていたし、”天照”の力を宿していたとしても不思議じゃない。


「そうね。でもあたしの場合はフィオナ様から与えられたわけじゃないわよ」

「それは確かか? 赤子の頃に与えられていたとかだったら自分じゃわからないだろ」


 この反論は予想していたのか、セレンは落ち着いた口調で返してくる。


「それはないと思う。あたし、赤子の頃に孤児として聖教会に保護されて、先輩聖神官たちに育てられたんだけど、聖女候補に選ばれるまではフィオナ様と顔を合わせたことがないのよ」

「セレンて孤児だったのか」


 家族の話とかを全然聞かないからもしかしてと思っていたけど、やっぱりそうだったのか。


「ええ、話してなかったかしら。まあ孤児なのはあたしだけじゃなくてベルやシンディなんかもそうよ」


 名前の挙がったベルの方に視線を向けると小さく頷きを返される。


「あたしはそんな感じで生まれた時から天使の加護を持っていたからフィオナ様とは関係ないと思うわ」


 アリスも天使の加護を持ってるけど、それは勇者の加護の一部としてだ。だからアリスの方はゼムアが語ったようにフィオナから授かったものと同一だと考えていいだろう。そうなるとやっぱりセレンの方がよくわからない。


 思った以上に収穫はあったけど、それ以上にわからないことも増えた会談だったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ