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125 執事の仕事?

「へぇ、これがソフィアの言ってた空飛ぶ船の最新型か。さっきの二世もそうだけど、こんな大きくて重そうなものが空を飛ぶってなんか不思議だな」


 ぱっと見ただけだと普通の船とあまり変わらない感じがする。二世にもあった翼があるから、それがただの船との違いといえばそうだけど。でもそれだけで空を飛べるのかは疑問だ。


「飛べることは一世と二世で実験済みだから安心して。ただ原理についてはまだ解明できてないところもあるんだけど……まあ問題ないでしょ。理屈はあとからついてくるものよ!」

「大丈夫なのかそれ……」


 自分が乗るわけでもないのに、ちょっと不安になってきたぞ。


「大丈夫よ。一応どうやって飛ぶのか説明するけど、まずは三世よりも大きな袋みたいなものに温かい空気を入れて船全体を浮かせて、それから真下に向かって風を噴出させて一気に離陸するの」

「へぇ」


 風の力で飛ぶってのはなんとなくわかるけど、袋に温かい空気を入れて浮くのか。三世の近くに折りたたまれた大きな布があるから、たぶんあれを使うんだろう。


「それで空に出てからは帆に風を受けてゆっくりと飛ぶ一型飛行と、魔法の力で船全体を包み込んでから後方に向けて勢いよく風を噴出させて速く飛ぶ二型飛行があるんだ」

「ゆっくり飛んだり、速く飛んだりできるのか。これ飛ぶときに魔力って使ってるのか?」

「うん、使ってるよ。結構な量の魔石……というか魔力を使うから、それを毎回溜めるのがなかなか大変なんだよ」


 ソフィアの話を聞きながら三世の周囲を眺めていると、船の周りで機材を点検したり、組み立てたりしている人たちが多くいた。パッと見える範囲だけで二十人程度。実際にはもっとたくさんの人たちがこの船造りに関わっているんだろうな。


 そんな整備士たちの中にいた一人が俺たちに気づき、近づいてくる。


 肌は浅黒く、頭は毛を剃っているのか艶光する禿頭(とくとう)。ちょっと(いか)つい感じのするヒゲを生やした大柄なおっさんが、底抜けに明るい調子でソフィアに話しかけた。


「よう嬢ちゃん、まーた新しいやつ連れてんなぁ。もしかして嬢ちゃんの彼氏か?」

「もうっ、違うよマスター! この人はアリスさんの恋人!」


 プリプリとちょっと怒った風だけど、ソフィアの態度にはマスターと呼んだ人への親しみが感じられる。


「二人ってどういう関係なんだ?」

「アリスさんたちには昨日紹介したんだけど、お兄さんは初めましてだよね。この人は私だけじゃなくって、お母さんにも機械の扱いについて教えてくれた大先生なんだよ。その技術力はこの都市でも一番って評価されてて、みんなは尊敬を込めてマスターって呼んでるの」

「そうだったんだ」

「ハッハッハ、まあ呼び方なんざどうだって良いさ。少年、俺を呼ぶときはおっさんでもジジイでも好きにしていいぞ」


 これでも俺十八なんだけど、少年って……


 あ、でもこの人ソフィアのお母さん、アテナさんにも技術を教えてたってことは見た目以上に年とってるのかもしれない。そんな人からすれば俺はまだまだ少年ってことか。


「あとはまあ嬢ちゃんが連れてきたやつなら心配ないだろうが、変なところいじったりしないように注意してくれ。大きくて頑丈そうに見えるだろうが、意外と繊細な部品が多いからな」

「わかりました。気を付けます」

「じゃあ俺からはそれだけだ。もしもなにかあれば気軽に声をかけてくれ」


 言うべきことを言って、すぐにマスターは俺たちに背を向けて整備士たちのところに戻って行った。


「ところでここに来てから聞くのもなんだけど、俺たちって何をすればいいんだ?」


 空飛ぶ船や魔道車があるけど、仮にそれを作るのを手伝えとか言われたってなにをすればいいのかさっぱりだ。下手にいじって壊したりしたらシャレにならない。マスターからも繊細な部品が多いと注意を受けたばかりだしな。


 たださすがにそこら辺はソフィアも分かっていたらしい。


「心配しなくても大丈夫だよ。アリスさんたちは昨日やってもらってたことを今日もしてもらおうと思ってる」

「何してたんだ?」


 アリスの方を向いて話を振ると、ニコッとした笑顔が返ってきた。


「魔石に魔力を溜めるお手伝いだよ。さっきソフィアちゃんが話してたけど、かなりの量必要みたいで。あとはここで働いている人たちにお茶を配ったりとかかな」

「なるほど。あれ、でもそれだとライナーはなにしてたんだ?」


 ライナーは魔法というか、自分の意志で魔力を操ることができない。そうなると当然魔石に魔力を込めるなんてこともできない。


「オイラはあの翼の塗装(とそう)を手伝ってたんスよ」

「体動かす系の手伝いしてたのか」

「途中で塗料(とりょう)がなくなって、しかも材料がちょうど切れてたから有りものを混ぜて誤魔化したり、まあ慣れない仕事でちょっと大変だったッス」


 話の途中でライナーは近くにあった赤と青の塗料を指差していたから、あれを混ぜて紫色を作ったんだろうな。


 ここまでの話を聞いた感じだと、魔法の使える俺はアリスたちと一緒に仕事をした方がいいだろう。塗装の手伝いでもいいけど、そっちは最悪人数を増やせばなんとかなる作業だからな。それに比べて魔力の補充は魔法が使える人じゃないとできない。


「じゃあ俺はアリスたちと一緒に魔力の補充をすればいいか?」


 ソフィアに確認すると、小さく首を振られた。


「お兄さんにはちょっと船の魔法陣を見てほしいんだよね」

「船の魔法陣?」

「うん。セレンちゃんに聞いたんだけど、お兄さんって普通の人よりもそういったのに詳しいんでしょ」


 そう言うソフィアから期待のこもった眼差しが向けられる。


「まあ詳しいっちゃ詳しいけど……なあセレン、どんな話したんだ?」

「あなたの得意なことについて聞かれたから、剣だけじゃなくて魔法も得意って説明したのよ。ほら聖教会での戦いのときに即興であたしの魔法使って魔法剣したじゃない。それに地下の魔法陣を解析して解除してたでしょ」


 あのときの事を話したのか。それ自体はかまわないけど、どうしてそこから俺に魔法陣を見てほしいになるのか。


「ソフィア、具体的には船の魔法陣を見てなにをしてほしいんだ?」

「魔道車のときに話したのと似てるんだけど、スカイドラグーン三世で使ってる魔法の消費魔力を少なくするにはどうしたらいいのか考えてて、だけど全然アイデアが出てこなくて困ってるんだ。それでなにかアドバイスもらえたらなって思って」

「そういうことか」


 俺で力になれるかは見てみないと何とも言えないけど、それよりも先に確認しておかないといけないことがあるな。


「さすがにそういうのって秘密にしておかないとダメなんじゃないの?」

「お兄ちゃんには話通してるから気にしなくて大丈夫だよ」


 俺がいない間にセレンから話を聞いて、ギルド長に確認をしたってのか。なんて根回しの早いやつだ。


「まあ……ギルド長の了承を得てるならいいか」


 そんなこんなで各自、作業場所に向かった。アリスたち女性陣は端っこの方にあるテーブルでひたすら魔石に魔力を込める作業を、ライナーはマスターの部下っぽい人と一緒に塗装をしている。俺はといえば、ソフィアに連れられてスカイドラグーン三世の甲板(かんぱん)に上がった。


 扉を潜って船の中へ。さらに奥に進むと他のところよりも見た目豪華な、船長室らしき部屋に着いた。


「それでどれを見ればいいんだ?」

「まずはこれかなぁ」


 ソフィアは部屋の中央に置かれた台座の上を指差す。そこには複雑な魔法陣が書かれた石板が乗っていた。


 聖教会からこっちの大陸に来るときに乗っていた船にも似たようなものがあったな。あれは魔力を込めると追い風が吹いてたけど、これは……


「船全体を包み込む結界か」

「正解! 魔方陣を見ただけで分かるなんてさすがだね」

「これぐらいはな。ただなんで結界の形まで手を加えてるんだ?」


 結界は板状にしてどこか一方を守るか、球体状にして全方位を守るのが一般的だ。だけどこの石板に描かれた魔法陣を読み解くと、どうも船の前と後ろが尖がってて、その間が曲線状になってる。


「魚……の形が近いのかな。これだと無駄に魔力を使うことになるぞ」

「へぇ、形まで分かるんだ。本当にすごいね、お兄さん。ただこの形には意味があるからそこは変えちゃダメだよ」

「意味?」

「空気の抵抗を極力減らすためにこの形にしてるの。球体とか箱型よりもこっちの方が安定してスピードが出るんだ。だからこの形のまま消費魔力を減らせないかなって」


 さっき魚に例えたけど、鳥も似たような体形してるし、そこら辺を参考にしたんだろうな。


「まあちょっと考えてみるよ。他にはどんなのがある?」

「あとは噴出機だね。船の方向転換とか、二型飛行するときのブーストとして噴出機ってのを使ってるんだけど、それの消費が激しいのなんのって。まるで底に穴が空いたバケツみたいに魔力が抜けていくんだよ」

「わかった。できるか分かんないけど、とりあえず改造できそうか軽く見てみるよ」

「お願いします! うまくいったらちゃんとお礼するから。あ、そこの机の上にある紙とかペンは好きに使っていいからね」


 ソフィアはウインクをすると、さっと背中を向けて部屋から出て行った。


 まったく落ち着きのないやつだな。まあそれがソフィアらしいっちゃらしいけど。


「さてと、それじゃあやりますか」




 ソフィアに頼まれた魔法陣の改造案を大きな紙に書き終え、ペンを机に置いた。


「まずはこんなものかな」


 かなり細かい魔法陣だったから手を入れるのが大変だったけど、これで一割ぐらいは魔力の消費を抑えられるだろう。本当はもっと効率よくしたいところなんだが、これ以上をとなるとすぐには難しいだろうな。それこそ本格的に研究とかしないとダメだろう。


 アリスたちがメイドをしている間は付き合う気でいるから、どこまでやるかはソフィアと相談だな。


 でもせっかく執事の恰好をしてるってのに、やってることは全然執事と関係ないってどうなんだろう?


 椅子から立ち上がってグルグルと肩を回しながら船の外にでる。甲板を下りてアリスたちのところに戻ると、タイミングよく休憩をしているところだった。


「もう仕事終わったのか?」

「うん。とりあえず午前の分はね」


 カップを両手で持ったアリスが頷いた。


 喉も乾いたし、俺もここで一緒に休憩させてもらおう。


「それまだ残ってる?」


 テーブルの上にあるティーポットを指差して確認する。


「うん。あ、でもカップがないよね。持ってくるからシヴァは座って待ってて」

「え、いや――」


 自分で取りに行くよと俺が言う前に、アリスは席を立って近くの部屋に入ってしまった。


 俺とアリスのやり取りを見ていたセレンがカップから口を離して、チラッとイスを流し見る。


「アリスも甘いわね。カップぐらい自分で取りに行かせたらいいのに。とりあえず座ったらどう」

「……そうだな」


 アリスが座っていた席のとなり、セレンの斜め前に腰かける。


 俺が座ったところは壁側で造船所内を見渡すことができた。


 ソフィアは整備士たちと一緒になってなにか作業をしているけど、ライナーとベルは……いないな。


「なあ、ライナーとベルを見かけないけどどうしたんだ?」

「二人なら上の、竜騎士たちの訓練場を借りて修行してるわよ」

「じゃあライナーが剣を教えてるのか」

「そういうこと」


 セレンと軽く話していたら、すぐにアリスがカップを持って戻ってきた。


 俺の隣に立って丁寧な手つきで紅茶を注ぎ、音もなくスッと目の前にカップが置かれる。


「どうぞ」

「ありがと」


 お礼を言うとアリスはニコッと微笑んだ。


 なんだろう、メイドの恰好をしているからか、いつもの二割増しぐらい可愛く見える。


 ずっと見ていたいけどセレンが居る手前そんなわけにもいかない。


 アリスの方はというと手でスカートを抑えながらイスに座って、それから小さく首をかしげた。


「二人ともなんの話してたの?」

「ライナーとベルがいないけど何してんのってセレンに聞いてたんだよ」

「ああ……ライナーはノリノリだったけど、ベルはちょっと思い詰めた感じだったよね」

「あたしの護衛として付いてきているのに、戦いで役に立ってないって焦ってるのよ。でもまあ、あんまり気にしないであげて」


 気にするなと言われても気になるっての。


 ベルの性格からして素直に休むことができないんだろうな。ただでさえここ最近はメイドみたいなことをしていて、ずっと遊んでるようなものだし。


 俺としては根を詰めて修行するよりかは、こうして時々息抜きをするのも重要だと思ってるんだけど。


 ただ本人がいないところでああだこうだ言っても仕方ないか。


 カップを持ってゆっくりと紅茶を飲む。


 淹れてから時間が経っているからだろうけど少しぬるい。だけど香りもいいし、クセのない味で飲みやすい。


「うまいな、これ」


 紅茶を飲んで感想を言うと、セレンが少し得意気な顔になった。


「セレンが淹れたのか?」

「そうよ。でもあなたに褒められると自信が持てるわね」

「え、なんで……?」


 俺は別に紅茶に詳しいわけでもないんだが。


「だってあなた、サーベラスが淹れた紅茶を普段から飲んでいたのでしょう? 前に淹れてもらったことがあるんだけど、とても美味しかったから、あなたは舌が肥えてるのかと思ったんだけど違うの?」

「ああ、そういうことか。たしかにあいつが淹れる紅茶はうまいけど、俺は茶葉の違いもわからないような男だぞ」

「あらそうだったの」

「そんな訳で俺の舌はあまり当てにはならない」


 そう言いつつも、やっぱりサーベラスが淹れた方がうまいかも? なんて思った。まあセレンが淹れたこっちは少しぬるくなっちゃってるから、その状態で比べるのも違うか。


「そういえばサーベラスと別れてからなにか連絡ってあった?」

「いや――」


 まだ来てないよと、アリスに返事をしようとしたところで念話が届いた。


『シヴァ様、少々お時間よろしいでしょうか』


 ちょうどサーベラスの話をしていたところで本人から連絡がくるとは、タイミングのいいやつだ。ただちょっと慌てた感じがするけどなにかあったんだろうか?

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