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119 採掘場へ

 ギルド長と一緒に家を出てギルドへ向かう。その途中で手紙を渡す相手、ギルド長の母親について教えてもらった。


 名前はアテナさん。見た目はソフィアよりもギルド長に似ているらしい。採掘場では機材のメンテナンスを担当しているとのことだった。


 ギルド長は色々と仕事が溜まっていて忙しいとのことで、ギルドに到着したところですぐに別れた。


 俺は受付でモルオレゴンについての確認だ。受付のお姉さんから一通り説明を受けたところ、ギルド長から聞いた内容と大差なかった。ただこれだけだとギルドに来た意味がない。そこで魔物の図鑑を出してもらって、そこに描かれているモルオレゴンの姿絵を見せてもらった。


 顔が先細りしていたり、両手がかぎ爪になっていたりというのは普通のモグラと同じ。だけど全体的に鱗があってパッと見た感じはドラゴン。


 しかしなんというかモグラに鱗って違和感あるな。鉱石を食べてる影響なのかな?


 とりあえずモルオレゴンの姿を確認できたし、これで間違えて別の魔物を討伐してました、なんてことは起きないだろう。


 ついでに竜騎士の兵舎の場所を尋ねたら、ノーブルの家の場所を聞いたときみたいに簡単な地図をメモ用紙に書いて渡してくれた。




 地図に従って中立都市の端の方までやってきた。


「ここが竜騎士の兵舎であってるよな?」


 大きな壁で囲われていて中が見えない。たぶんここであってるはずだけど……若干不安になっていると、壁の中から飛竜のものらしき鳴き声が聞こえてきた。よかった、ここであってそうだな。


 入り口の脇にいた見張りの人に声をかけて事情を説明したところ、すんなりと中に入れてもらえた。ついでに道なりに進めば竜騎士の兵舎があると教えてもらったので言われた通りに進む。


 ある程度歩くと、馬小屋よりもずっと大きな小屋がいくつも並んでいるのが見えた。いくつかの小屋からは飛竜が顔を覗かせている。


 さらに進むと小屋の外で飛竜と一緒にいる男性を発見した。あの人は世話係かな?


 いや違う、あの横顔は見覚えがあるぞ。ラフな作業着を着ているからパッと見で気づけなかったけど、たぶんエドガーじゃないか?


「すみません。少しいいですか?」

「はい、なんでしょうか……って、シルヴァリオさんじゃないですか。こんにちは」


 振り返った男性が人懐っこい笑顔を見せる。


 予想通りエドガーだった。俺は道を外れて彼の近くに向かう。


「こんにちは。実はギルド長から竜騎士の人にこの手紙を渡すように言われているんだけど」

「ギルド長からですか。見させていただきますね」


 手紙を渡して、相手が読み終わるのを待った。


「シルヴァリオさんをドミトムスク鉱山に連れて行けばいいんですね。特に誰が対応するようにと書かれていませんので、私が担当させていただいても構いませんか?」

「それは問題ないけど、今日は飛竜の世話係というか、そんな感じの当番なんじゃないのか?」


 エドガーは一度首を傾げて、それから自分の恰好を見下ろしてなるほどと呟いた。


「今日はたまたま時間があったので自分でこの子をキレイにしていたんですよ」

「そうだったのか。それじゃあお願いしたいけど、すぐに出発できるのか?」

「大丈夫ですよ。こういった運搬系の仕事はよくあるので、いつでも長距離を飛べるように準備してありますから。ただ一点確認させて頂きたいのですけど、片道分の準備で良くて、戻りはシルヴァリオさんが転移魔法を使うと書かれているのですが……失礼ですけどこれは本当でしょうか?」


 恐る恐るといった感じで尋ねられた。


 まあいままでノーブル以外で転移魔法を使える人はいなかったんだから当然の反応か。


「書いてある通りだ。賢者ノーブルと同じで、俺は転移魔法を使える。あと水も魔法で出すから持っていかなくていいぞ。片道分とはいえかさばって邪魔だろ」

「あはは……わかりました。それでは隊長に事情を説明してきますのでこちらで少々お待ちください。お前はここで大人しくしているんだぞ」


 エドガーが飛竜に優しく声をかけると、飛竜は大人しく伏せの体勢になった。


 それからしばらく待っていると、エドガーは最初会ったときに着ていた身軽そうな装備になって戻ってきた。


「それでは準備しますね」


 慣れた手つきで飛竜の背中に鞍を装着させている。鞍は前と後ろにそれぞれ席があって、それぞれにハンドルが付いている二人乗り用だ。


「これでよしっと。じゃあこの子に乗ってもらいますけど、シルヴァリオさんって飛行系の魔法は使えますか?」

「使えるけどどうして?」


 聞き返してからすぐに飛竜から落ちた場合に自分で対処できるかの確認だったと気づく。


「飛行系の魔法が使えない場合は落ちないように命綱が必要なので。ただシルヴァリオさんには不要でしたね」


 エドガーは手に持っていたベルトと丈夫そうな縄を小屋の外に設置されていた道具箱にしまった。


 もし俺が飛行系の魔法を使えないって言ってたらあれを腰に着けてたのか。


「エドガーもベルト着けてないけど使えるのか?」

「はい。竜騎士になるための必須条件ですから」

「なるほどね」


 俺との会話をしながらもエドガーは着実に準備を進めている。いまも飛竜の首元にある大きな袋に荷物を詰めているところだ。


「ほかに持っていくものは……大丈夫か。シルヴァリオさん、これで準備は終わりです。私が前の席に乗りますので、シルヴァリオさんは後ろの席にお願いします。少し狭いですけどそこは我慢していただけると助かります」


 エドガーは軽く跳んで鞍の部分に手をかけると、そのまま慣れた動きで飛竜の背中に跨った。


「同じようにして乗ればいいのか?」

「はい」

「じゃあ乗らせてもらうな」


 飛竜が俺のことを見ていたので声をかける。それからエドガーの動きを真似して鞍に座った。


「しっかりと手元の取っ手を握っててくださいね」


 言われたとおり取っ手を掴む手に力を込める。


 エドガーが手綱を引くと、伏せていた飛竜がゆっくりと立ち上がった。


「いきます!」


 飛竜は力強く跳躍すると同時に、翼を大きく広げて振り下ろした。そのまま何度も羽ばたいて空高くへと昇っていく。


「おぉー」


 見下ろすと建物がどんどん小さくなっていく。


 自分で空を飛ぶことはあっても、飛竜に乗っての飛行は初めてだから新鮮だな。


「途中で何度か休憩は挟みますけど、基本的に夜まで乗りっぱなしになるので、なにかありましたら声をかけて下さい」

「わかった。採掘場までよろしく」




 中立都市を発ってから二日が経過した。


 進路は西に向かってほぼ真っ直ぐ。最初からペースを落とさずに飛んでいる。


 もう少ししたら日が落ちだす頃合いというところでエドガーが声を上げた。


「そろそろ見えてくる頃だと思いますよ」

「どれどれ?」


 エドガーの横から顔を出して進行方向を確認すると、山に囲まれた平地が見えた。


 まだ遠くてよく分からないけど、あそこら辺だけ岩肌や地面が露出しているように見える。


「あの灰色っぽい場所?」

「はい、そうです。ここまでくればあと少しです」


 エドガーが手綱を引くと飛竜が一気に加速した。


 目標地点に近づくにつれ、採掘場の様子がハッキリとしてくる。


 山のふもとにはいくつもテントが張られていた。空に向かって焚火の煙がいくつも昇っている。


 テントの密集地帯から少し離れたところに飛竜が着地すると、周りに砂埃が舞った。それを俺が風の魔法で吹き飛ばしてからエドガー、俺の順番で地面に降りる。


 両手を上げて思いっ切り背伸びをするようにして体をほぐすと、エドガーも隣で似たように体を動かしていた。


 そうしていると武装した人たちが近づいてきた。最初は警戒していたようにも見えたけど、エドガーを見て安心したような顔になる。どうやらエドガーはここの人たちと知り合いみたいだな。


 革の鎧を着こんでいる中年ぐらいの厳つい顔をした男性が一歩前に出た。


「エドガー君、そちらの方は?」

「こちらはシルヴァリオさんです。ギルド長からの指令を受けてお連れ致しました」

「ギルド長からの指令で? もしかして魔物討伐の件か?」

「はい。その件で間違いありません」


 チラリと俺を見てエドガーが頷いた。


 ここからは俺が話したほうがいいか。


「初めまして、シルヴァリオといいます。ギルド長から指名依頼を受けてやってきました。まずはこちらの手紙をアテナさんにお渡しするようにと言われているのですが、アテナさんはいらっしゃいますか?」


 手紙を取り出して相手に見えるようにする。


「そうですか。我々では手に負えない相手でしたので助かります。私はタッカー・ブレンナーといいます。みんなは持ち場に戻ってくれ。私がアテナさんのところに案内する」


 タッカーさんが後ろを向いて集まっていた人たちに声をかけると、それぞれが返事をしてから持ち場へと戻って行った。


「それでは私に付いて来て下さい」

「ありがとうございます。エドガーはどうする?」

「私はここでこの子の世話をしています」

「じゃあ魔物退治が終わったらすぐに戻ってくるから、それまで待っててくれ」

「はい」


 エドガーをその場に残して、俺はタッカーさんの後に付いて行った。


 テントや木造の小屋をいくつか通り過ぎて、二階建てのロッジに到着した。


 中に入ると、机を脇にどかして部屋の中央で床に座りながらなにかの機材をいじっている女性がいた。


「失礼します。アテナさん、ギルド長の使いの方をお連れしました」


 名前を呼ばれたアテナさんがこっちに振り返ると、金色の短い髪がわずかに揺れた。


 この人がギルド長のお母さんか。聞いていた通りギルド長に似ているな。いや逆だな、ギルド長が母親のアテナさんに似てるのか。


「ノアの使いって、ああ魔物退治の件ね。よっと……こんにちは。私はアテナ・ヴァイオレットよ。ここで採掘や研磨に使う機材の整備を担当しているわ。あなたは?」


 アテナさんは立ち上がると腰に手を当ててハキハキと言った。動きやすそうな作業着と合わさって活発な印象を受ける。


「初めまして、シルヴァリオといいます。こちらがギルド長から預かった手紙です」

「ご丁寧にありがとう。じゃあ読ませてもらうわね」


 手紙を開けてその場で確認するアテナさん。あっという間に一枚目を読み終えたのかすぐに二枚目に突入した。


「へぇ、なるほどね。タッカーさんはもうしばらくそこで待っていてもらえるかしら」

「了解しました」


 待機の指示を受けたタッカーさんは入り口の横に移動した。


「それじゃあシルヴァリオ君、ノアから詳細は聞いているかしら?」


 ギルド長から説明された内容を伝えると、大丈夫そうねとアテナさんが頷いた。


「倒してもらいたい魔物がいる採掘場はちょっと離れたところにあるから、タッカーさんに道案内をしてもらって」

「わかりました。ところでアテナさんはずっとここにいますか?」

「大体ここにいるわね。だから倒し終わったらここに報告に来てくれるかしら」

「はい。それでは討伐に向かいます」

「よろしくねー」


 アテナさんに軽く礼をしたところで扉が開く音が後ろから聞こえた。


「アテナちゃん、頼んでいた機材の修理ってどうなっているかしら?」

「ごめんなさいもうちょっとかかりそう。二階で待っててくれる?」

「わかったわ」


 おっとりとした声に振り返ってみれば、そこにはアリスによく似た女性が立っていた。


「アリス?」


 一瞬アリスに見えて思わずそう呟いてしまった。だけど当然アリスがここにいるわけがない。


 ちゃんと相手を見ると、きれいな黒い髪は腰まで伸びてる。アリスは肩よりも少し長い程度のセミロングだからこの時点でまず違う。


 次に顔が大人びてる。というか若く見えるけどたぶんアクア姉と同じぐらいか、それよりも年上な気がする。


 アリスに姉はいないから、あるとすれば他人の空似か、親戚か、もしくは――


「あなた、いまアリスって……もしかして娘の知り合いかしら?」


 ああやっぱり。アリスのお母さんでしたか。

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