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115 地下牢

 腕の治療が終わり、アンジェリカさんが部屋を退出しようとしたところで声をかけた。


「すみません、先日ティナ様が捕虜をこちらに連れてきたと思うのですが、いまはどこにいますか?」

「捕虜ですか? ティナ様が連れてきたというとジルベールの事ですね。彼ならダリウスと一緒に地下牢に入っています」

「彼らと会うことはできますか?」

「それは可能ですが……この部屋で少しお待ちください。その件についてはレッグに任せていますので、こちらにくるように私の方から伝えます」

「ありがとうございます」


 アンジェリカさんが部屋を出てからしばらくして、レッグさんがやってきた。


 お互いに簡単に挨拶を交わして、椅子に向かい合って座る。


「お忙しいところ急に申し訳ありません」

「構わんよ。ダリウスたちに会いたいという話だが、一体どんな用があるんだ?」

「奴らは悪魔の姿になって肉体を強化することができますよね。それについて少し話を聞きたいのです」


 セレンが一緒にくると言ったときに断った本当の理由はこれだ。あいつらは聖教会を襲ったり、セレンやベルに怪我を負わせたりしているから、二人もできればあいつらとは会いたくないだろう。まあ当の本人たちにそんなこと確認したら気にするなと言うんだろうけど。


「ダリウスも、ジルベールも取り調べは私がしたが、特にめぼしい情報はなかったぞ」

「例えばですけど、悪魔の力を得るためになにをしたのかって確認しましたか?」

「もちろん。グレイルから渡された、手のひらに収まるぐらいの黒い球を使って力を取り込むそうだ。この魔道具の名前は悪魔球と呼んでいるらしい」


 手の平ぐらいに収まる黒い球か。昔あいつらがカムノゴルの道場を襲ったときに使ってた物と同じかな。


「その悪魔球を取り込んだのは一度だけと言ってましたか?」

「回数は聞いていないが、それは重要なことなのか?」

「実は彼らが子どもの頃、グレイルの手先になる前にその悪魔球を使っているのを私は見ているんです。そのとき彼らは自我を失って暴れて、まあちょっとした騒ぎになったんですけど、その頃と比べてかなり強くなっていました」

「なるほど。私はグレイルの手下になってから悪魔の力を得たのだと思っていたが違うということか」


 レッグさんはダリウスたちの過去を知らないから、そう考えるのも仕方ないことだ。


「ええ。それでもしかしたら何回も悪魔球を使って力を得て、段々と強くなったのではないかと予想しているんです」

「ふむ」

「それとこれはあくまで想像ですけど、最後には人ではなくなり、完全に悪魔になるんじゃないかとも」

「もしその想像が正しければ……悪魔を意図的に増やせるということになるな。ダリウスたちに確認したいことはこれか?」

「そうです」


 グレイルは悪魔を育てるだけじゃなくて、人に力を与えて悪魔を生み出そうとしている気がする。その本当の目的までは分からないけど。


 ただこれをうまく活用できれば俺の強化に使えるかもしれない。


 魔人化は肉体を悪魔のものに変質させる作用があるけど、あくまで疑似的なもので完全じゃない。


 本当の悪魔になれば覚醒をしなくても魔王の力を十全に使えるようになるかもしれない。まあそのときは人に戻れなくなるかもしれないんだが。


 たぶんアリスは反対するだろうし、俺もやりたくはない。だけどやるやらないは別にして、手札を増やせるなら可能な限り増やしておきたいという気持ちもある。




 以前は結界守護神殿から忍び込んだけど、今回はレッグさんの案内の下、立ち入り禁止中の大聖堂から地下へと降りた。


 無人の牢屋をいくつか通り過ぎたところで目的の場所に到着した。


 目の前の牢屋では囚人服を着た男が二人、床に直接座っていた。


「誰かと思えばこないだのガキじゃねーか」


 面倒くさそうに俺たちの方に顔を向けたのはダリウスだった。こいつは以前見た時よりも少し痩せたんじゃないかと思う。捕まってからずっとここにいるなら、当然食事も制限されているだろうし当たり前なのかもしれないが。


 ジルベールは目を閉じていてなにも反応がない。ただ静かにそこに居るだけだ。こっちとしては話が聞ければダリウスだけでも構わないから特に問題はない。


「レッグ……さんも一緒に来てなんの用ですか?」


 ダリウスは俺の隣にいるレッグさんを見て顔をしかめた。


「シルヴァリオ殿がお前たちに聞きたいことがあるというのでな。質問に対して素直に答えるように」

「……わかりました」


 渋々といった感じでダリウスが立ち上がり、鉄格子の近くに移動してきた。


「それで聞きたいことって?」

「お前たちは悪魔の力を使えるよな。その力はどうやって手に入れたんだ」

「それはレッグさんに説明してある」

「同じで構わないからもう一度話してくれないか」

「めんどくさ、いやわかりました話します」


 慌ててダリウスが言い直した。うん、レッグさんが一緒に来てくれてよかった。俺一人だったら適当にはぐらかされて終わってただろうな。


「えーっとグレイル様、あー違う、グレイルから力を分けてもらったんだよ」

「悪魔球と呼んでるやつか?」

「なんだやっぱレッグさんから聞いてるじゃん。子どもの頃に一つ、さらにグレイルの下に行ってから二つ取り込んだらいつでも悪魔の力を使えるようになったんだ」


 悪魔の力を使えるようになるには、悪魔球が複数個必要なのか。


「その悪魔球はあといくつぐらい残っているかわかるか?」

「それは知らないな。俺たちはグレイルが持ってきたのを使ってただけだから」

「どうやって悪魔球を用意していたのか聞いてないか?」

「しらねーな。なあジル、お前知ってるか?」


 ダリウスが振り返って尋ねた。だけどジルベールは首を小さく左右に振って否定した。


「ジルも知らねーみたいだな」


 そう簡単に作り方がわかるとは思ってなかったけど、やっぱりダメか。悪魔球の作り方がわかれば色々と試せると思ったんだけどな。


「ちなみに悪魔化できるようになったあとはもう悪魔球を取り込まなくなったのか?」

「いや、ときどき渡されて取り込んだぜ。そのたびに力が増えて強くなったんだ」

「なるほど。じゃあお前たち以外に悪魔の力を手に入れたやつはいるか?」

「俺たちが知ってるだけでも何人かいたけど、そいつらは死んだぜ」

「死んだ?」

「ああ。そいつら何回も悪魔球を使って強くなってたんだけど、七つか八つあたりを超えると人に戻れなくなるんだ。それで悪魔の姿のまま自我を失ったように暴れて、最終的には自滅したみたいにぶっ倒れるんだ」


 詳細は分からないけど、フィオナから聞いた話を参考にして考えると、強制的に罪と穢れを魂に付着させることで転生のサイクルを無視して悪魔化しているんだろうな。


 その過程で肉体と魂の変化に耐えられずに自我を失うというのは十分あり得る話だ。実際こいつらが子どもの頃に悪魔球を使ったときも自我を失っていたしな。


 だけどなぜこんな面倒なことをグレイルはしているんだ? 戦力を増やすにしても、他の悪魔を配下にして強くしたほうが簡単だろうに。しかも限界以上の力を取り込ませると自滅してしまう。これじゃあなんの意味もない。




 ダリウスたちとの会話を切り上げて地上に戻る道中、レッグさんから話を振られた。


「シルヴァリオ殿の予想は当たっていましたね」

「自我を失って自滅するってのは予想外でしたけどね」


 俺は歩きながら会話を続けた。


「ただこれはダリウスが知ってる範囲での実験結果とみるべきでしょう」


 なにか強くなるためのヒントでもあればと思って話を聞いてみたけど、それは無駄足に終わった。


 ただその代わりにグレイルが悪魔球を使ってなにか企んでいるってことは分かった。ダリウスたちが子どもの頃に悪魔球を使っていたから少なくとも八年前から、下手するとそれよりもずっと前から実験しているのかもしれない。


 悪魔球をいくつ使えば自我を失うのか、その限界を見極めようとしていたのか。それとも限界を超えられる人材を探していたのか。


「自我を失わずに悪魔になった者がいると思うか?」

「可能性としてはいてもおかしくないです。とはいえなにか特別な対策ができるかというと、なにもできないのが現状ですけどね」

「もどかしいな」

「仕方ないですよ。いまはギルド長の頑張りに期待しましょう」

「そうだな」


 古参悪魔討伐計画。これがうまくいけばグレイルも、グラードもまとめて倒せるかもしれない。そうなれば悪魔球を使ってどうこうという話もなくなるだろう。なにせ悪魔球を準備しているグレイルがいなくなるんだから。


 俺たちは計画を実行するときに全力を出せるように準備をするだけだ。


「ところであいつらの処分ってどうなりそうなんですか?」

「ふむ、死刑にという声も上がっているが、うちでは禁止しているからな。いまのところは復興作業で労働力が必要なところで働かせてる」

「なるほど。でも外に出したら逃げそうな気がするけど」

「あいつらが作業するときは私か、他の騎士が数名で監視している。それに魔封じの結界を張ってその中で作業をさせているから悪魔の力を使うことはできない。ただそれでもダリウスは一度脱走しようと暴れたこともあったんだが、まあ二度とそんなこと考えないように教育をした」


 それでレッグさんを見る目に若干の怯えが混ざっていたのか。


「ジルベールは来たばかりだからまだどんなやつかわからないが、ダリウスと一緒に少しずつでも罪は償わせる。やり方は我々に任せてほしい。いまはまだ牢に入れているが、時期がくれば外に出して我々の下で働かせようとも考えている」

「そうですか。ただあいつら、まともに罪を償おうとするタイプじゃないと思いますけど大丈夫でしょうか」

「なに、いままでだって似たような奴らはいくらでもいた。あいつらが特別というわけでもない。気長にやるさ。それにな、命を奪うのは簡単だが、ありえたかもしれない可能性を失くしてしまうのもまた罪であろう」


 ちゃんと罪を償って、更生して、新しい人生を歩むという未来。その可能性は誰にでもあるってことか。


「……そういう考え方もあるんですね」


 理解はできるけど、納得できるかは別だろうな。


 魔王になったステラを救いたいと願うフィオナの想いが、聖教会の教えに影響を与えているのかもしれないなんて想像してしまうのは、考え過ぎだろうか。

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