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109 フィオナとの再会

 四大精霊が仲間になったことで戦力が増えたわけなんだけど、ちょっと気になったことがある。


「アリスはオーロラと共鳴して一緒に戦ったんだよな?」

「うん。オーロラが協力してくれたからケネスを倒せたんだよ。お礼が遅くなっちゃったけど、昨日は助けてくれて本当にありがとう」


 アリスがオーロラに礼を言うと、オーロラは小さく首を振った。


「気にしないでいい」

「……また悪魔たちと戦うようなことがあったら、その時は今回と同じように協力してくれるのか?」


 グレイルやグラードと戦うことはきっと、いや必ずあるだろう。そのときにオーロラの力を当てにしていいのだろうか。もし協力してくれるのであればかなり心強いんだけどな。


「ごめんなさい。私はここを離れられないから」

「いや、無理言って悪かった」


 まあそう思うようにはいかないか。


「ちなみに離れられない理由って聞いてもいいのか?」

「私の魂を宿しているのはこの体じゃなくてこっちだから」


 オーロラは近くの大樹を見ながら言った。


「こっちって、この木が?」

「そう。だからここから離れられない」

「それじゃあ今俺とこうして話してるその体はなんなんだ?」

「ふふっ、対話できる子たちが生まれたから頑張った」


 いやそれなんの答えにもなってないんだけど。ああでも魔法で造って操ってるとかそんな感じかな。ただここまでちゃんと人っぽく見せるのは俺じゃ無理だ。芸術方面の才能はないから、たぶん俺がやったら武骨なゴーレムみたいなのが出来上がる気がする。


「私は一緒に行けないけど、なにかあったらさっきの子たちを頼って。そのために創った加護だから」

「そのための加護ってどういうことだ?」


 勇者の加護は天使、精霊、竜の三つの加護が合わさったものってのは知ってる。だけどそれぞれの加護にどんな効果があるのかまでは知らない。


「私が勇者に授けた力は、その身を精霊と同質のものとして扱い、精霊と共鳴を行えるようにするものなの」

「へぇ……」


 共鳴と聞いてシャルとオリヴィアの二人を思い出した。あのときはシャルが動けずに中途半端だったんだよな。オーロラならそのあたりもきっと詳しいだろうし聞いてみるか。


「それって共鳴しながら動いたりすることもできるのか?」

「できる。私は動けなくなったりしてないし、それにアリスの方も昨日実際に共鳴してるから分かってると思う」

「うん。私の方も問題なく動けたよ」

「じゃあさ、その共鳴って人間同士でもできるのか?」


 この問いに対しては、オーロラは少し自信がなさそうに答えた。


「人の場合はどうしても肉体の影響を受けちゃうから、完全に共鳴させるのは難しいんじゃないかな。たぶんどっちかしか動けないとか、そんな感じで不完全になっちゃう……と思う」

「なるほどなぁ」


 そうなるとシャルとオリヴィアの二人が共鳴したときにシャルが動けなくなったのは、そもそもそれが人間同士の限界だったってことなんだろうな。


「……ところでオーロラはなにをしてるんだ?」


 アリスの周りをグルグルと回りながら、ポーチのあたりを注視しているように見える。ついさっき住処を魔石に移した精霊たちのことが気になるのかな。


「普通はもっと長い年月を重ねる必要があるから、ちょっと珍しくて」

「珍しい?」

「うん。さっきの子たちも同じように大切にしてね」


 俺とアリスは顔を見合わせて首を傾げた。オーロラがなにを言ってるのかよく分からなかった。


「それって――」

「フィオナが待ってる。そろそろ行ってあげて」


 後退しながらオーロラが俺たちから離れて行く。その姿が少しずつ光の粒子へと変わっていって、輪郭がぼやけだした。


「会えてよかったよ。またね」


 そう言ってオーロラは俺たちに向かって小さく手を振った。光に変わったオーロラの体はあっという間に空にとけて消えてしまった。


「いなくなっちゃったね」

「そうだな……」


 こうしてオーロラとの出会いは、別れを告げる間もなくあっさりと終わってしまった。どうして俺の名前に反応したのかとか、加護のこと以外にも聞きたいことがあったんだけどな。




 オーロラと別れてからすぐに、俺たちはフィオナがいるという場所に向かった。


 大樹から離れたところにある一角。古い遺跡の跡地にも見える、石畳の敷かれた場所に足を踏み入れた。


 ゆっくりと周囲を観察しながら進んでいると、どことなく違和感を覚えた。ところどころについ最近できたばかりの戦闘痕があったり、それに……このまま進んだ先、遺跡の中心付近になにかある気がする。


「この先にフィオナ様っていう天使がいるんスよね? 全然見当たらないんだけど」


 ライナーがキョロキョロと周りを見ながら先頭に立って進む。遺跡の中心よりも少し手前のところに差し掛かったところでアリスが声をかけた。


「ライナーそこで止まって」


 言われた通りにライナーが立ち止まった。こっちに振り向いて不思議そうな顔をしている。


 魔力を感じ取れないライナーにとってはなにも無い、ただの広間でしかないからな。アリスが声をかけなかったら俺が注意していたところだけど。


「結界を解いてもらっていいかな。フィオナ」


 アリスの呼びかけに応じるようにして、丁度広間の中心にあたる空間が陽炎のようにぼんやりと揺らいだ。なにも無かったはずのところに、腰の高さくらいの台座と、椅子に座った女性が現れた。


 ライナーは突然現れた相手に驚いて、俺たちのところまですばやく後ろへと飛び下がった。


 まあフィオナに会いに行くって目的は共有してても、ライナーは会ったことないから急に現れたらそりゃ驚くよな。アリスがフィオナって名前を呼んでたから、剣を向けるような真似はしなかったみたいだけど。


 さて、ライナーから椅子に座った女性――フィオナに視線を戻す。こうしてちゃんと見るのは初めてだな。


 腰まで伸びた金色の長い髪に、鮮やかな(あお)い瞳。両手は膝の上にのせていて、穏やかそうな笑みを浮かべている。ティナたちが装備していた軽鎧(けいがい)とは違って、セレンやアンジェリカさんが着ている法衣に近い格好だ。


 フィオナの手前にある台座の上には青い玉が浮いていた。ほのかに光を放っているだけじゃなくて、嫌な感じの魔力を感じる。というよりもこの感覚は”深淵”に近い気がする。


 俺がフィオナと台座の観察をしていると、セレンとベルの二人が片膝をついて頭を下げた。俺もわずかに遅れて同じ姿勢をとる。ライナーも慌てて俺の隣で膝をついた。


 ギルドでティナとエルザに会ったときは二人ともこんな態度とってなかったんだけど。フィオナとは元々聖教会の方で面識があったみたいだし、そこら辺の違いなのかな。


「フィオナ様。ご無沙汰しております」

「セレンさん、それにベルさんも久しいですね。あなたたちの無事な姿を見れて安心しました。皆さんも楽にしてください」


 言われてゆっくりと顔を上げた。一人だけ立ちっぱなしのアリスが少し気まずそうにしてるけど、まあこればっかりは仕方ないだろう。


「アレクサハリンを救うために皆さんが尽力したという話は、昨日アリスから聞いています。ご苦労様でした。それと……私自身はなにも力になれずに申し訳ありません」

「滅相もありません。私たちが未熟だったがためにあのような事態を招いてしまったと、深く反省しております。自らの失態は自分たちで取り返すもの。フィオナ様がお心を痛める必要などございません」

「私たちが手を出し過ぎるのも問題なのですが……あまり手がかからないというのも、それはそれで寂しいものですね」


 なんというか俺のフィオナに対する印象と違うな。俺を封じたあのときはもっと意志の強そうな雰囲気だった気がするけど、もしかしたら温厚で人当たりの良さそうなこっちが素なのかもしれない。


「ところでフィオナ。さっきの結界は?」

「この封印の宝玉を守るためです」


 台座に浮いている青い玉を見つめながらフィオナは言った。


 なるほどね。もしかしてと思ったけど、これが魔王を封印している宝玉か。


「私が許可した者でなければ結界に触れただけで焼かれて灰になります。たとえ高位の存在だったとしてもただではすまないでしょう。ただ魔力探知が得意な者にはすぐに気づかれてしまいますから、気休め程度のものですけどね」


 触れたら灰になるって、そんなヤバイ結界だったのか。ライナーなんか若干顔を青くしてるし。その様子に気づいたフィオナが「皆さんを焼くことはないから安心してください」と教えてくれた。


「ところでアリス。あなたたちは私に聞きたいことがあってここまでやって来たのではないのですか」


 そう問われたアリスはどう切り出そうか少し悩んでいるみたいだ。


 それにしても、立場が下のはずのセレンとベルはさん付けで呼んでるのに、アリスのことだけは呼び捨てか。ティナやエルザとはまた違った感じでフィオナもアリスのことを特別扱いしてるんだな。


「……教えて欲しいの。千年前になにがあったのか」

「聖教会が襲われ、封印の宝玉までも奪われた。さすがにもう隠すことはできませんか。いずれ話すことではありましたから、ちょうどいい機会でしょう。少し待って下さい」


 フィオナがそう言うと、石畳が変化して台座の周りに五つ椅子ができあがった。アリスとセレンの二人だけじゃなくて、俺たちの分まで用意してくれたのか。


「そちらにお座りください、護衛の皆さんも一緒に。大丈夫ですよ、念のため結界を張ってはいましたが、ここには私たちしかいませんから」


 全員が座ったところで、フィオナは昔をなつかしむように、ゆっくりと語り出した。

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