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108 四大精霊

 さて、精霊の女王様から歓迎されているみたいなんだけど、初対面の相手となにから話したものか。それに見た目は人間と同じで会話もできるからといって、人として扱うべきなのかすら悩むところだ。神や高位の精霊として(あが)めたりしたほうがいいのかな。


 それともここは素直に「俺のことなにか知ってるんですか?」と聞いてしまうか。


「もしかしていま歌っていたのって”希望の歌”ですか?」


 俺が会話のとっかかりに悩んでいると、アリスが自然な態度で問いかけた。


「さあ? 名前は知らない。歌詞は……もう覚えてない」

「こんな感じの歌なんだけど」


 アリスが”希望の歌”のサビの部分を口ずさむ。


「どうかな?」

「似てるけど……たぶん違うと思う」

「そっか。うーんなんだろう?」


 アリスは特に気負った感じもなくオーロラと会話をしている。二人は共鳴をするような関係だから、これぐらいの距離感でもおかしくはないか。いやどうだろう、いまいちわからない。というかどういう経緯で共鳴する関係になったんだろう。やっぱり精霊の加護が影響してるのか?


 そんなことを気にしていると、オーロラは遠くを見ながら歌についてゆっくりと話し出した。


「いつか、この世界のどこかで誰かが歌っていたの。とても強い想いが込められた歌。勇気をくれる……そんな歌だったと思う」


 ”希望の歌”を聞いたときの印象とはちょっと違うな。あっちは勇気をくれるというよりかは、英雄の無事を祈る女の子の、こうなればいいのにっていう願いみたいな印象だったんだよな。


「ところで……あなたたちはどうしてここへ来たの?」


 俺たちの目的を知らないオーロラからの素朴な質問。というかセレンたちは昨日オーロラが歌ってるの見てたみたいだけど、直接話とかはしてなかったのかな。


「セレンたちって昨日オーロラ様が歌ってるの見ただけで、会話してない?」

「あたしたちは遠くから見ていただけよ。歌い終わったあとすぐどこかに行ってしまったから、まだ何も話せていないわ」


 なるほど。まあこれに関しては特に隠す必要もないからそのまま伝えればいいか。


「実はフィオナ様を探していたのですが、こちらにいるという話を聞いてここまで来ました」


 ビシッと、オーロラに指差される。


「なんでしょうか?」

「口調、普段通りでかまわない」

「いえ、ですが精霊の女王と呼ばれているお方を相手にいつも通りというわけには……」

「一部の人たちから精霊の女王って呼ばれてるのは知ってる。でも気にしないで、いつも通りの話し方でいい。どうしても気になるなら無理にとは言わない」


 これが人間の王様とかが相手だったら「分かりました」なんて言ってタメ口きいたらヤバいことになるんだろうけど、たぶんそういうことにはならないよな?


「……分かったよ」


 俺がそう言うと、オーロラは目を細めて微笑んだ。


 本当に目の前の子は精霊なのだろうか。会話も人間と遜色ないぐらいに流暢だし、感情もありそうだ。正直髪の色が特殊なところを除けば人間と変わらない。それだってヴァイオレット家の人たちを見た後だと、髪染めてんのかなぐらいにしか思わないし。


「それでどうしてフィオナを?」

「そうだなあ。順を追って説明すると――」


 千年前に封印された魔王のこと。封印に使用している宝玉が聖教会から盗まれたこと。フィオナが精霊の里に向かったため追いかけてきたこと。それらを簡単にまとめて話した。


「とりあえずそんな訳で、フィオナ様なら魔王や、魔王を封印している宝玉についてなにか知ってるんじゃないと思って探していたんだ」

「……フィオナも、ここに来たとき同じようなこと言ってたかも? ああ、だからあの子たちも宝玉を狙ってきたのかな」

「あの子たちって?」

「あなたたちが戦ってた、悪魔と呼ばれている存在」


 あいつらをあの子呼ばわりって、なんかスゲーな。見た目俺らよりも年下に見えるけど、実際は数百年とか数千年とか生きてるんだろうか。


 そういえば悪魔といえば、ギルド長が古参悪魔の討伐に関して精霊の里に協力を求めてたよな。あれってオーロラとそういった話を進めてるんだよな。それってどうなってるんだろう。ちょうどいい機会だし聞いてみるか。


「その悪魔についてなんだけど、ギルド長が精霊の里に悪魔討伐の協力を依頼してたはずなんだ。もしかしたら天使経由で話をしてるのかもしれないけど、それってどうなってるんだ?」

「悪魔討伐の協力……?」


 オーロラは明後日の方向を向いて、頬に手を当てて思い出そうとしているみたいだ。こういう仕草を見てると、ますます人間っぽいって感じる。


「ああ、思い出した。手伝ってもいいって言ってる子たちがいるから、その子たちを連れて行けばいいよ」

「手伝ってもいいって言ってる子たち?」

「たとえばこの子とかはアリスに付いて行きたいって言ってる」


 大きな蝶の羽をもつ人型の精霊が、突然オーロラの隣に現れた。俺の知ってるシルフと違って輝いてるというか、華やかというか、そんな感じがする。


 これにアリスとセレンの二人が反応した。


「この子……」

「もしかしてアリスに協力していたシルフじゃない?」


 へぇー、オーロラだけじゃなくてシルフまで協力してくれたのか。


「というかライナーはどうしてそんな渋い顔してるんだ?」

「えっ、いやー……なんでもないッスよ」


 なんだか要領を得ない反応が返ってきたけど、まあいいか。


「他にもアリスに付いて行きたいって子……いる。おいで」


 オーロラがそう言うと、おとなしそうな女性型の精霊が泉の中から出てきた。体全体が水で構成されているのか、肌がうっすらと透けていた。


 次に、トカゲに似た真っ赤な精霊が樹木の上から落ちてきた。猫ほどの大きさで、背中には炎の翼が広がっている。近くの草木に燃え移らないところを見ると、普通の火とは違うみたいだ。


 最後にもう一体。いつからそこにいたのか、オーロラの後ろから小人が顔をのぞかせていた。緑色のとんがり帽子を含めても膝ぐらいの背丈。髭が生えているのに子どもっぽい幼さを感じる。


 このウンディーネ、サラマンダー、ノームの三体も、シルフに負けず劣らず煌びやかな格好をしている。


 四大精霊すべてがアリスの前で横並びになった。


「私と一緒に戦ってくれるの?」


 精霊たちはそれぞれのやり方でアリスに答えた。シルフはアリスの周りを楽しそうに飛び回り、ウンディーネは行儀よく礼をした。サラマンダーとノームはアリスの足元に近づいた。


「みんな、ありがとう」


 アリスが精霊たちに礼を言う。


 少し離れたところで見ていたライナーが腕を組んで呟いた。


「……どうやって連れて行くんスか?」

「連れて行くんじゃなくて呼び出すの」

「呼び出すって……ああ、あいつがシルフを呼び出したみたいにか」


 オーロラの答えを聞いたライナーはそれで納得したらしい。でも今度は俺のなかで疑問が浮かぶ。


「あいつって誰だ?」

「昨日戦ってた”煉獄”がシルフを呼び出したんスよ」

「なるほど」


 さっきライナーが変な顔したのはそういうことか。


 それならあとはアリスが精霊を召喚できるかどうか次第だな。


「アリスって精霊を呼び出す魔法使えるのか?」


 俺が何気なく聞くと、アリスは気まずそうに答えた。


「私、召喚魔法使えないんだ」

「あー……まあそんなこともあるよな」

「どうしよう」

「召喚できないなら連れて行くしかない。でも大丈夫、前もそうだったから。それで魔石は持ってる?」


 オーロラが魔石の有無を聞いてきた。アリスはポーチから魔石を取り出して、手の平に乗せた魔石をオーロラに見せる。


「これでもいいの?」

「大丈夫。その魔石に精霊を宿すけどいい?」

「えっと、精霊を宿すときに壊れたり無くなったりはしないよね?」

「そんなことにはならない。あとで元に戻すこともできる」

「それなら……お願いします」


 オーロラが魔石に手をかざす。すると無色だった魔石が緑色の輝きを放った。


「まずはキミから。シルフ」


 名前を呼ばれたシルフは緑色の光の粒子に姿を変える。そしてアリスの魔石に吸い込まれるようにして消えた。


「これでシルフは魔石に宿ったの?」

「そう。あなたが呼べば姿を見せてくれるし、魔石の中からでも私としたみたいに共鳴することができる。たまに勝手に出てきちゃうことがあるかもしれないけど」

「……これって一体につき魔石一つ必要?」


 オーロラが無言で頷いた。


 見ててもしかしてと思ったけど、やっぱそうなのか。たしかアリスって他にはもう魔石持ってなかったよな。俺は自分のポーチから魔石を三つ取り出した。


「アリス、これ使って」

「でもそれはシヴァのだよ」


 そう言ってアリスは遠慮して受け取ろうとしない。


「気にしないでいいから。魔法を封じる魔石は残ってるし、必要ならまた手に入れればいい。せっかく精霊が協力してくれるっていうなら、この機会は逃すべきじゃないと思う」


 魔石を手渡すと、アリスは大事そうに胸元に抱えた。


「……ありがと」


 そのあとはシルフのときと同じようにして、残りの三体も順番に魔石に入っていき、すべての精霊が魔石に宿った。それぞれの魔石が緑、青、赤、黄の輝きを放っている。


 アリスは魔石をポーチにしまってから、オーロラに質問した。


「ねぇ、シルフたちが私に付いてきてくれるのって、どうしてなのかな?」


 聞かれたオーロラは少し考えるそぶりを見せてから、胸に手を当てて答えた。


「あなたもこうやって、それでゆっくりと思い出してみて」


 言われたアリスは同じように胸に手を当てる。少ししてアリスは納得したとばかりに頷いた。


 はたから見てる俺にはなにがなんだかさっぱりだ。


「なにかわかったの?」

「うん。たぶん昔勇者と一緒に旅した子たちなんだと思う。だから私にも協力してくれるんじゃないかな」

「ふふっ、正解」


 子どもを見守る親のように、オーロラは優しく微笑んでいた。

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