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10 シヴァ先生の魔法講座2

 アリスが孤児院にやってきてから半月ほど過ぎたある日の午後。


 孤児院の裏手にそびえ立つ岩肌に覆われた山。その中腹にある開けた場所で、俺はまたもや魔法を教える先生になっていた。


 事の発端は昨夜、俺が部屋で魔法の修行をしていた時にまで(さかのぼ)る――




 アリスとの修行を終え、俺は魔法の修行をするため部屋にこもっていた。最近はアリスとずっと一緒にいるため、夜の寝る前ぐらいしか一人で修行をする時間が取れない。


 早朝は走り込みと素振り。昼食までは剣術の型の確認と手合わせ。午後はガイに指導をしてもらう。ガイが道場に指導をしに町まで行ったり、魔物狩りに町の外まで出たりして、ガイの時間が取れないときは魔力操作や剣術の修行を行う。


 これら全てをずっとアリスと一緒に行っているのだ。それが嫌だと言っているわけでないが、一人で集中して修行をしたいこともある。


 そんな訳で、寝る前は一人で集中して魔法について修行する時間と決めていた。アリスもこの時間には部屋にやってこない……のだが、この日は違った。


 コンコンとノックの音が響く。


「シヴァ、いる?」

「いるよ、どうしたの?」


 俺が返事を返すと、なぜかアリスは扉を開けて部屋の中を覗き見るようにしている。


「聞きたいことがあるんだけど……」

「聞きたいこと? とりあえず部屋入ったら?」


 そう言うと、アリスは部屋に入って後ろ手に扉を閉めた。


 俺は部屋の中心でベットの側面を背にしてあぐらをかいていたが、立ち上がってアリスに向き直る。


「実はね。魔法について、この前教えてもらった魔力操作以外のことも教えて欲しいなって思って。だめ、かな?」


 両手を後ろ手で組み、少し前かがみになりながら上目遣いで遠慮気味に聞いてくるアリス。シャツの首元から覗く透き通るような白い肌と、その奥にある小さなふくらみに自然と目が向く。


 自分の意思とは関係なく動く視線を叱責し、何食わぬ顔で答える。


「いいよ」

「ほんと!」

「そうだなぁ、それなら俺がときどき使っている裏山で色々やってみよう。ここだと危ないから。それにもう暗いから明日の午後に行こう。明日は師匠も道場のほうに行くから剣術の指導はないしね」

「うん、ありがと!」


 アリスは明日が楽しみとばかりにウキウキとした様子で自分の部屋に戻って行った。




 昨夜の出来事から意識を戻し、さっそくアリスに魔法を教える。


 アリスは脇を閉めて胸元で両手をガッツポーズという気合の入れよう。


「この前は魔力操作で魔法を発動させる場所を限定的にしたり、魔法を発動させるときの消費魔力を減らしたりした。今日は次のステップとして魔力操作の応用である五つの技術。収束、拡散、出力、変化、遠隔について教える。とは言っても前にやった魔力を移動させるのとほとんど変わらないけど」

「先生! しゅうそく、かくさん、それにえんかく? ってなに?」

「炎の魔法を使って実演するから見てて」


 俺は右手を顔の高さまで持ち上げて手のひらを上に向ける。そこから大人の顔ぐらいの大きさがある火球を出した。


「まず収束から。こうやって炎を一点に集中させると範囲は狭くなる代わりに威力が上がる」


 そう言いながら火球を徐々に小さくしていき、最終的には親指の爪ぐらいのサイズになった。最初は赤に近いオレンジ色だったのが、いまでは黄色に近い色をしている。


「次は拡散。炎を広げると今度は範囲が広くなる代わりに威力が下がる」


 さっきとは逆に小さくしていた火球を大きな火柱に変える。今度は黄からオレンジ、暗いオレンジへと色が変わっていく。


「出力は魔力をより多く消費したり、逆に節約したり、これは実演しなくてもわかるな。で変化と遠隔、変化は魔力の形を変えること。遠隔は術者から遠くに魔力を放した状態で魔法を使うこと」


 俺の手元から火柱を離して、空高くに炎の輪を描く。


 最後に上空で炎の輪をまた一点に収束させてから小さく爆発させた。


「何か質問はある?」

「もしかして炎の魔法を収束させて変化させると炎の剣とかできる?」

「炎の剣? ああ、できるよ」


 今度は手のひらに剣の形をした炎を出した。まるでそこに本物の剣があるかのようにそれを右手で掴んで軽く振り回してみせる。


 それを見たアリスは目をキラキラと輝かせて――俺の真似をして作った炎の剣を両手で握り込んだ。


「こんなものかな? ってアリスそのままじゃダメだ!」

「あっつぅ~~~!」


 俺はアリスが炎の剣を作り出したところで声をかけたが遅かった。


 反射的に炎の剣を消していたアリスだけど、手のひらは真っ赤に腫れていた。


 涙目になっているアリスに近づいて腫れている手を優しく両手で包む。簡単な治癒魔法をかけて腫れた手を治した。ついでに手のひらサイズの氷を魔法で作って握らせておく。


「ありがとう。なんでシヴァは大丈夫なの?」

「手のひらとか体の回りに結界を張って熱を防いでるんだよ。でもいきなり炎の剣を作って、それをためらいもなく握るとは思わなかったよ」

「だってシヴァが簡単そうにやってたから大丈夫なのかなって」

「自分で発動させた魔法でも自分に影響を与えるからその辺り気をつけて。あと、俺は治癒魔法は簡単なものしか使えないから大怪我しても治せないからね」

「は~い」


 先ほどの失敗のせいかアリスは目に見えて落ち込んでいる。しゅんと肩を落とし、視線は両手で握っている氷に向いている。返事にも元気が無い。


「まずは結界の張り方から教えるよ。それができるようになったらさっきの炎の剣や派手な魔法を使ってもいいから」

「最初は結界の張り方からだね!」


 急にやる気を取り戻したな。しかもまた目がキラキラしてるし……どれだけ炎の剣使ってみたいんだよ。


「結界ついでに魔法陣についても少しだけ説明しておく。実は魔法陣自体が魔法の一種で、主に別の魔法の効果を上げるために使う。結界自体は魔法陣無しでも使えるけど、魔法陣有りのほうがより強い結界になるってこと」

「そうなんだ、じゃあ詠唱ってなんなの?」

「詠唱には二つの側面がある。一つは自己暗示の一種で、魔法のイメージをより強固なものにするために行う。魔法は詠唱無しでも使えるんだけど、詠唱をするほうが威力が高くなったり発動毎の威力が安定したりする人のほうが多いらしい。もう一つは他人に教えるときのイメージ、特に書面で伝えるときに役に立つ。実際に発動している魔法が見れればそれで良いんだけど、魔法を学びたい人の近くにちょうどよく魔法を使える人がいるとは限らないからね。魔法の詳細を文章としてまとめたのが詠唱の始まりだとも言われている」

「ふ~ん?」


 これはあまりわかってなさそうだ、というかあんまり聞いてないな。早く結界を使えるようになって炎の剣を使いたいって雰囲気が駄々漏れだ。


「まぁ詠唱は別に使わなくても問題は無いからまずは結界だな、魔法陣は追々試してみよう」

「はい先生。頑張ります!」


 こうして日が暮れるまで俺はアリスと一緒に魔法の修行を続けた。


 アリスはすぐに結界を習得して炎の剣を使えるようになると、今度はさっき俺が実演してみせたやつの練習を始めた。


 これは力の加減を失敗して全部の魔力を使った高出力、高拡散の巨大花火を打ち上げるという結果になった。


 魔力を使い切ったアリスはバタリと倒れてすぐに起きそうもない。


 仕方ないので俺は気を失っているアリスを背負って帰ることにした。


 背中に感じる体温と微かに香るいい匂いに包まれながら、ゆっくりと山を降りて行く。

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