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1 プロローグ

「伝説の勇者と戦いたい……」


 白金の髪に鮮血のような赤い瞳。褐色の肌をした長身の悪魔が、魔王城の玉座にもたれながらため息と共に自らの望みをつぶやいた。


「シヴァ様、勇者など早々現れるものではありません。ましてや伝説の勇者と呼ばれるほどの実力を持った者など、まさに神話の中だけの存在でしょう」


 シヴァの独り言に、玉座の傍らに控えていた老執事の悪魔が応える。


「強いものと戦いたいのだから仕方が無いではないか。昨日戦いを挑んできた勇者では本気を出すまでもなかったしな」

「そうは申しましても生かして帰すのはいかがなものかと」

「殺してしまったら次の機会がなくなるだろう? あの勇者がより強くなって再び俺に挑んでくるのが今のところ一番の楽しみだな」


 やれやれと、若干呆れた風に老執事はシヴァの発言を聞き流す。その実力で悪魔と魔物を束ねているシヴァだが、力の弱い種族と戦っても面白くない、ただそれだけを理由に他種族への侵略なども行わない。そのような考えをもつシヴァが魔王をしているため、悪魔達は他種族への侵略などの真似ができずに不満を募らせていることを老執事は知っていた。


 シヴァと老執事がたわいもない話をしていると、玉座の前に空間の揺らぎが生じて突然の来訪者が姿を現す。純白の翼を背に生やした金髪碧眼の見目麗しい天使が、玉座の間へと舞い降りた。


「初めまして、魔王。私はフィオナと申します。いきなりで申し訳ないのですが、死んでください」


 フィオナの右手に尋常ではない量の聖光があつまり、魔王へと手のひらを向ける。直後、極光が放たれ玉座の間が吹き飛ぶほどの大爆発が巻き起こる。


 フィオナは魔王からの反撃に備えながら、爆発により発生した煙を風魔法を使い吹き飛ばした。


 玉座の間の天井が無くなり、星々の光に照らされてフィオナの純白の翼が闇夜に輝く。


 今の攻撃で魔王が死ねば最善、生きていたとしたら次の策を実行する。フィオナがそう考えていると……


「何の用で俺の前に姿を現したかは知らないが、昨日の勇者よりは楽しめそうだな」


 玉座の間が吹き飛ぶほどの攻撃をものともせず、シヴァは余裕の態度でもって煙の中から出る。


 シヴァの側にいた老執事はといえば、先ほどの攻撃を防ぎきることが出来ずにシヴァのはるか後方へと吹き飛ばされ倒れていた。


「へぇ、あいつを一撃で倒すか。中々やるな。だけどこれだけか?」

「今の攻撃をもってしても傷一つ付きませんか、直接の戦闘ではあなたに勝てそうもありませんね。想定内ではありますが――次の策へと移らせて頂きます」


 宣言と同時に、吹き飛んだ玉座の間を取り囲むようにいくつもの空間の揺らぎが発生する。そこからはフィオナの配下と思わしき高位の天使が六体と、シヴァの配下であるはずの高位の悪魔達が七体出現した。


「なぜお前達が天使と一緒に行動している?」


 道化師のような見た目をしている悪魔が一歩前に進み出てこれに答えた。


「あなたのもとでは思う存分に暴れることができませんから、仕方が無いので天使とも協力してあなたを倒そうということです」

「くだらんな。天使達と協力したからといって俺を倒せるとでも思ったのか」


 シヴァと悪魔のやり取りに、フィオナが口を挟む。


「倒せないのであれば封印するまで。天使と悪魔の混合封印魔法、とくと味わってください」


 シヴァの足元に巨大な魔方陣が浮かび上がると同時に光と闇の輪が幾重にも出現し、シヴァを拘束しようとする。それに対抗しようとシヴァは魔力を解き放ち、封印魔法とシヴァの魔力のせめぎ合いにより目も眩むようなスパークが発生する。


「いかにあなたが強く、恐れられていたとしても、この封印魔法に抗うことはできないようですね」


 シヴァの周りで発生しているスパークが徐々に勢いを失っているのを見て、フィオナは自分たちの勝利を確信した。それに同意する形で道化師の姿をした悪魔が口を開く。


「数人程度で発動していた場合は力ずくで解除されていた可能性もありますが、ここにいる我々の魔力総量は魔王のそれを超えている。これは当然の結果ですよ」


 ここにきてシヴァもさすがにまずいなと内心焦り始めた。


 天使と悪魔が協力して発動させた封印魔法がシヴァの想定よりも強力だったため、未だに解除することができないでいる。しかも封印魔法の影響で転移による回避もできない状況だ。


 自らの命を捨てる覚悟でありったけの力を振り絞れば、シヴァならばあるいは数体を道連れにすることができるかもしれない。しかし、そのような中途半端な結果を望むような男ではない。


 このままただ封印されるのを待つぐらいならばいっそのこと――窮地に陥ったシヴァはここで一つの決断をする。


 封印魔法に対抗して魔王が発していた魔力が一際強くなり、視界が真っ白に塗りつぶされるほどのスパークが起こる。魔力の勢いが弱くなり、完全に止まると、光と闇の輪は魔王を完全に拘束した。その後、瞬く間に魔王の体は水晶のようなものに覆われて完全に動きを止めていた。


「上位天使と悪魔が総出で発動した封印魔法が破られたらどうしようかと思っていましたが、終わってみれば意外とあっけないものですね。最後に何かしたようですが……まぁいいでしょう。最強と言われた魔王を封印した、その事実があれば十分です」


 フィオナが呟くと同時にいくつもの空間の揺らぎが発生する。天使と悪魔は空間の揺らぎへと飛び込みその姿を消した。


 後には無残にも崩壊した魔王城とフィオナの攻撃により倒された老執事、封印された魔王だけが残された。

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