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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス7巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
戦国時代に平穏はない

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97 家督はお得?

「そもそも、家督を奪って何か得になることがあるのでしょうか?」

「と、言いますと?」


 俺が疑問を投げかけると、みっちゃんは何言ってるんだこの子、って目で俺を見た。

 いやだってさ、織田の当主の座なんてもらったって、面倒で大変なだけじゃないか。

 あげるって言われても俺は欲しくないぞ。皆、なんでこんなもんを欲しがって争うんだろうな。


「私は今回のように好きなように城造りができますし、知行も元服した後は頂く約束をしております。後は家臣への俸禄ほうろくをちゃんと支払って、おいしい物でも食べられればそれで満足です。逆に家督を継いだならば、領土を広げる為に戦をしたり調略をしたりと、神経の休まる時がないではありませんか」

「武家の男子として生まれたならば、ご自分の手で国を動かしたいとは思われませんのか?」

「面倒だからやりたくありません」


 俺がきっぱり言い切ると、みっちゃんは驚いて立ち止まった。

 皆が皆、みっちゃんとか信長兄上みたいにアクティブで野心家だと思わないでくれよ。できれば俺は戦にも行かずに城に引きこもっていたいくらいだぞ。


「それに私には天命がありませんから。もし私が織田の当主になったなら、三日で織田は終わるでしょうね」


 いわゆる三日天下だな。

 あれ? そういえば三日天下って言葉はまだ聞いたことがないな。これから生まれることわざなのかな。


「殿にはその天命があるとおっしゃるのですか?」

「ええ。さらに言うならば、信長兄上の地位を簒奪した者は、後世の長きに渡って謀反人のそしりを受けましょう」

「……それは神託であられますか?」

「さて、どうでしょう」


 フフッと笑ってごまかす。


 だってなぁ。史実通りなら本能寺の変の後、光秀は……あ、そうだ、ここで三日天下って言うんだよ。本能寺の変の後、光秀が生きてたのは実際は十一日くらいだったみたいだけど、京都で執務を執ってたのが三日間だから三日天下って呼ばれてるらしい。他にも色んな説があるんだけどな。


 いずれにしても、織田信長を討って天下を簒奪しようとした光秀は、たった十一日後には中国大返しって呼ばれる強行軍で戻ってきた秀吉に討ち取られる。

 秀吉じゃなくて、落ち武者狩りの農民に殺されるんだっけか。武士にとっては、ロクな死に方じゃないな。


 歴史が史実の通りに進むなら、確かに俺の今の言葉は神託にも等しいだろう。

 でもなぁ……明智光秀は史実ではこんなに早く織田の家臣にはならなかったしなぁ。未来が変わってきてるんだとしたら、神託でも何でもないからな。


 うん。笑ってごまかすのが正解だな。


 それにもしちょっとでも今の会話が記憶に残ってて、本能寺の変を起こすのを止める気になってくれたらそれでいいしな。


 ほんと、俺ってなんて信長兄上思いなんだろう。信長兄上はもっと俺に感謝するべきだと思う。うむ。


「それから私の夢は百歳で畳の上で大往生なのですよ。ですから、早く信長兄上に太平の世をもたらして頂いて、私はのんびり縁側でお茶を飲みながら猫を撫でるのです」


 昔の日本でよく見られたような、隠居じじいが理想だよなぁ。そんでもって長年連れ添った奥さんが「まあ、あなた。そろそろ風が冷たくなりますよ」とか言って、上着をそっとかけてくれるんだ。

 くーっ。そういう夫婦に俺はなりたい!


 美和ちゃんなら、年をとっても可愛いだろうなぁ。むふふ。


「は、はあ……」


 なんと答えていいか悩んでいる風のみっちゃんに、俺はにこっと笑いかける。


「とても凡庸な夢でしょう? ですが、この夢を実現するには、少なくない時間が必要になります」

「それは、確かに……」


 思いもよらない事を言われたという表情で、みっちゃんが軽く目を見開いている。

 でもさ、よく考えてみろよ。俺の夢は凄く平凡な夢だけど、この夢を実現させるにはさ、まず戦のない世の中にならないと無理なんだよ。


 戦が嫌だって思ってても、やっぱり俺はどうやったって織田の男だ。戦わないままではいられないだろう。戦って、戦って。そしていずれ戦場で散るのが武士のほまれだ。俺もまた、この乱世の世では、それ以外の生き方はできない。


 そして、その中で最期まで生き残った者が、勝利者となる。


 「信長が種をまき、秀吉が耕し、家康が刈り取る」とか「織田がつき、羽柴がこねし、天下餅、座りしままに食らう徳川」なんて戯れ歌がある。秀吉も長生きはしたんだけど、後継者が育つ前に死んだからな。結局、長生きした家康の一人勝ちになったわけだ。


 歴史のIFに意味はない、ってよく言われるけど、それでもどうしても考えちゃうのは、もしもあの時歴史が変わっていたら、きっと今とは全然違う歴史だっただろうっていうのが、誰の目にも明らかだからだ。


 もしも本能寺の変が起きなかったら。

 もしも本能寺の変で信長兄上が死んだ後、嫡子である信忠が死ななかったら。

 もしも秀吉より先に柴田勝家が光秀を討っていたら。

 もしも秀吉と勝家の戦いで、勝家が勝っていたならば。


 多分、どれか一つが違っただけで、俺は違う歴史を見ることになるだろう。


 だから俺は未来を変えてやるんだ。

 秀吉や家康に天下なんかくれてやるもんか!


「私は、私の夢を信長兄上に託したのです。そして信長兄上ならば、その夢を叶えてくれると信じています。明智殿も……私と一緒に信長兄上を信じてみませんか?」


 あえて邪気のない笑顔を浮かべると、気おされたように、みっちゃんは頷いた。


 よおーし。これで本能寺の変フラグは完全にへし折ったな!


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