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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
戦国時代に平穏はない

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96 試す

 頭を押さえて涙目で信長兄上を見上げると、その手が腰にいた太刀にかかった。

 うえええええ!? なんで、刀に手がかかってんだ!? もしかして太刀を振り回すほど怒ってるのか!?


 でもその視線は俺じゃなくて、後ろに向かっている。

 正確に言うと、俺の後ろで平伏している、明智光秀に。

 いやほら、龍泉寺の縄張りはみっちゃんと一緒に考えたからね。当然、この場に一緒に来たわけだよ。


 そして兄上は俺の後ろで平伏してたみっちゃんの首に太刀をつきつけた。


「光秀」

「はい」


 答えるみっちゃんの声に焦りはない。

 ひー。どんだけ肝が据わってるんだよ。太刀だぞ、太刀。それが首のとこに当たってるんだぞ。ちょっと動いたら切れるんだぞ。


 って、よく見たらみっちゃんの首の左側、うっすら血が出てるじゃないか!?

 あれか。よくある薄皮一枚切ったってやつか。おお、スゲェ。本物見たぞ、って感動してる場合じゃないだろう、俺。


「二度とは言わぬ。俺を試すな」

「御意にございます」


 平伏したままのみっちーに「ふん」と言い捨てて、信長兄上は太刀をしまった。


「そういう訳だ。天守はならんが、それ以外はこの縄張り通りに進めるが良い」


 そう言って、平伏しているみっちゃんの顎に手をかけて上向かせて、脅すかのように剣呑な目を向けて視線を合わせた。


 うげ。久しぶりに見る信長兄上のマジ睨みだよ。


「それからそこの大きく口を開けて間抜け面をしたうつけだが、警戒心のかけらもない情けない奴ではあるが、一応俺の弟なのでな。ゆめゆめ、駒にしようなどと思うなよ。その首と胴が離れるだけではなく、一族郎党が滅ぶことになるぞ」


 ……ん? なんだか何気に俺の事けなしてないか? 俺の気のせいか?


「天地神明にかけましても、承知いたしました」


 にっこり笑ってみっちゃんが答える。

 うわあ。信長兄上の怒気をまともに食らってもニコニコしてるよ。みっちゃんって、想像以上に大物だなぁ。


「……分かれば良い」


 どことなく不機嫌な信長兄上の姿に、俺は退出するみっちゃんと一緒に部屋を出た。

 だってあのまま部屋に残ってたら、信長兄上の八つ当たりを食らいそうだったからな。そういう嫌な予感は結構当たるんだ。

 信長兄上関連の俺のシックスセンスの研ぎ澄まされ方は、自慢できるくらいだからな。自慢できる相手もおらんけど。


 俺はみっちゃんの後をほてほてと歩きながら、気になっていたことを尋ねた。まだ子供の俺の歩調に合わせてくれるところが、デキる男だよな。


「明智殿は、信長兄上の何を試そうとなさったのですか?」

「喜六郎様は、何だと思いますか?」


 うーん。龍泉寺城を造るにあたって、天守はダメだって言われたんだから、それに関しての事だよな。


「天守はカッコいいから、信長兄上が先に造って見せびらかしたいと言いだすかどうかでしょうか」


 俺は真剣に考えて言ったのに、みっちゃんはぶはっと吹き出して笑った。

 くそう。そんなに変なこと言ったかな。そこまで笑う事ないじゃないか。普段のクールイケメンはどうしたんだ。


「間違ってはおりませんが、喜六郎様は独特の言い回しをなされますね」


 別に内容が同じなら、言い方なんてどうでもいいじゃないか。


「城というのは、権力の象徴でもあります。主君よりも目立つ城を造ることはすなわち、下剋上の意思があるという事になります」

「えっ!? では明智殿は私に下剋上をそそのかそうとしたのですか?」

「いえ。あの縄張り図を見せることによって、殿がどういった反応をするのか試したのですよ。噂通りのうつけなのか。それとも道三様が見こんだ通りの傑物なのか」

「それで、どうでしたか?」

「仕えるにあたいするかと」


 なんか上から目線なのが気になるけどな。

 でも、名門土岐家の流れを汲む明智家の御曹司だからなぁ。そういうところがあるのは仕方ないのかな。


「それは良かったです。これからも信長兄上を支えてあげてください」

「そういたす所存にございます」


 うむうむ。そのまま大人しく信長兄上に仕えてくれたまえ。間違っても本能寺の変なんか起こすんじゃないぞ。


「喜六郎様」

「はい」

「これは私からの忠告なのですが、家中を混乱させたくないというならば、あまり才を見せぬことです」

「それは、なぜですか?」

「いずれ、喜六郎様を旗印にしようと企む者が出てきましょう」


 つまり、俺を当主にしようと担ぎ上げる者が出てくるってことか?

 いや、でも、なあ……


「旗印にしたとして、別に私が従わなければいいだけの話ではないですか?」


 俺を担ぎ上げようとするって言っても、家臣なんて熊しかいないしなぁ。熊が俺の意思を無視してそんな事を企むとも思えないんだよな。


 もし万が一、そんなことをしたら、捨て熊にでもしてやろうかな。大きい箱に入れて、誰か拾ってくださいとでも書いておこうか。誰も拾わんと思うけど。


「臣下の者たちの期待を裏切っても良いと申されますか?」

「それは、私の意思に反したことをしようと思う者を、家臣として大事にしなくてはならないということですか?」

「真に忠義ある者であれば、主の意向に反してでも、主にとって一番良い事をなそうと思うでしょう」


 えー。それって変じゃないか? 本末転倒っていうかさ。

 まあ確かに忠臣って主君をたしなめるような事を言ったりするもんだけどさ。わざわざ家中に争いを呼び込むのはおかしいだろう。


「私の意思を無視して信長兄上と私の間に亀裂をいれようとする者が忠義の者なのですか? 不思議ですね。明智殿と私では、忠義という言葉の定義が違っているようです」

「むざむざと主君が粛清されようとするのならば、それを避けようとするのが忠義ではございませんか?」


 ああ。要するに、あんまり俺の出来がいいと、信長兄上が嫉妬して俺を殺そうとするかもしれないから、あんまり出しゃばったことをするな、って事なのか。

 ようやくみっちゃんの言いたい事が分かったよ。

 まったくなー。頭のいい奴はこれだから困るよ。遠回しに言わないで、もっとハッキリ言ってくれないと分からないじゃないか。


 でもまあ、そう忠告してくれるほどには、俺を心配してくれてるってことか。

 それは、素直に嬉しいけどな。


 だけどなぁ。信長兄上が俺に嫉妬して排除しようとするかなぁ。

 そこまで器の小さい男じゃないだろ。なんといっても、あの織田信長だぞ?

 俺なんかに嫉妬するもんかねぇ?

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