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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
戦国時代に平穏はない

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「吉乃の妹の美和も、もう少し大きくなれば美人になろうな」

「……そうですね」


 信長兄上は、完全に俺をからかうモードになっている。

 凄く楽しそうだ。くそぅ。


「生駒は商いの家だが、なかなか手広くやっておるからな。縁を結びたいと思う家は多い。美和にもいくつか縁談の話が出ていたはずだ」


 そ……そうだよな。十三歳っていったら、もう結婚してもおかしくない年齢だもんな。


「それに吉乃が子を孕んだからな。娘が二人とも織田と縁付くことを良く思わん者も多い。当主の家長も難色を示しておったしな」


 ちょっと待て。

 え? じゃあ、もしかして信長兄上が吉乃さんを側室にしちゃったせいで、俺は美和ちゃんと結婚する可能性すらなくなったってことなのか?


 そ、そんな……


「だがお前がどうしても美和が良いと言うのであれば、俺が骨を折ってやろう。どうなのだ?」


 信長兄上と熊とツッチーが一斉に俺に注目する。

 どうなのだ、って言われてもな。どうなんだろう。


 好きか嫌いかって聞かれたら……そりゃあ、まあ、あれだよ、うん。

 もちろん……好き、だよ。うん。


 でも、それが結婚したいほど好きかって聞かれるとさ、まだ分からないとしか答えようがないんだよな。


 いやだって、お付き合い=すぐ結婚なんてさ。前世含めてウン十年彼女いない歴を更新してる俺にできるわけないじゃないか!

 最初は文通……とまではいかなくても、こう、二人でデートとかしてさ。それでちょっとずつ仲良くなってプロポーズっていうのが理想なんだよな。


 ただ、この時代ではそれが無理だってことくらいは俺にも分かる。

 でもって俺がグズグズしてたら、美和ちゃんは他の人と結婚しちゃうってことも。


 美和ちゃんが他の人と結婚―――そ、それは嫌だ!


 だ、だったらさ。婚約してからデートすればいいんじゃないか? でもこの時代のデートってどこに行くんだ? 観光地とかないよな。


 そうだ! なければ作ればいいんだ。

 あれだ。ちょうど龍泉寺にお城を建てるからさ、そこにお花をいっぱい植えたらどうだろう。薔薇のアーチ……は、薔薇がないから無理か。じゃあ牡丹とかシャクナゲの庭園はどうだろう。そこでデートしたら、美和ちゃんも俺を好きになってくれるんじゃないか!?


 いわゆる英国風庭園みたいなのもいいよな。迷路みたいなのも作ったりしてな。それでもって、迷った美和ちゃんを、俺が優しくリードしてさ。喜六郎様はとても頼りになりますのね、とか言われちゃったりして。むふふ。


 と、そこまで妄想したところで、ゲンコツが降ってきた。


 いってええええ。


「喜六……顔が緩みすぎだ」

「え……えへ」


 熊とツッチーが生暖かく見守る中、俺と美和ちゃんの婚約が決まった。






 数日後、俺と信長兄上は生駒屋敷へと行った。信長兄上の側室になった吉乃さんに戌の日の腹帯を渡しに行くのと、俺と美和ちゃんの顔合わせの為だ。


 この時代にも戌の日の腹帯なんてあるんだなと思ったら、意外と歴史が古かった。日本最古の歴史書「古事記」に腹帯の話が載ってるんだ。


 なんでも仲哀天皇の皇后の神功皇后が朝鮮半島に出兵した時に、お腹に子供がいたんで石を帯の中に巻きつけて産気づかないようにして戦ったんだとか。それで帰って来た後に応神天皇を出産したらしい。

 なんていうか、烈女としか表現できないよな。コワイコワイ。


 そこから公家さんたちが妊娠した時に行う儀式になって、大名家にも伝わったらしい。まだ格式のある家でしかやってない儀式だけど、そのうち一般市民ですらやるようになるんだから、歴史の流れを感じるよな。


 ちなみに戌の日に帯を巻くのは、犬の多産と安産にあやかるって考えもあるけど、実は犬は悪霊とか人を化かす狐や狸から人間を守ってくれるから、って意味もあるんだそうだ。

 でも犬が出てくる昔話って、ここ掘れワンワンの花咲か爺さんくらいしか思い浮かばないけどな。


 そしていよいよ、吉乃さんと美和ちゃんとの対面だ。

 美和ちゃんとは今までもよく会ってたけど、吉乃さんとは初対面だ。ちょっと緊張するなぁ。


 座敷の上座に信長兄上が座って、その手前に俺が座っている。緊張している俺を見てニヤニヤしている信長兄上にアカンベーでもしたいところだが、そんな子供っぽいところを美和ちゃんに見られたら愛想をつかされるかもしれんからな。我慢我慢だ。


 襖が開いて、先に生駒家の家長である生駒家長殿が入ってきた。闘病中だったお父さんは、今年の三月に亡くなられたそうだ。


 そしてその次に、吉乃さんらしき女性が部屋に入ってきた。

 吉乃さんはちょっとぽっちゃりしてて、たれ目の、絶世の美女というよりは、愛嬌のある顔立ちの人だった。


 多分、顔立ちで言うなら、美和ちゃんの方が整ってる。でも、なんともいえない魅力のある人だった。

 こう、吉乃さんに笑いかけられると、ついこっちも笑顔を返したくなるような、そんな不思議な雰囲気の女性だ。


 なるほどね~。信長兄上の好みって、こういう女性なんだ。ほ~。


 吉乃さんの後に、美和ちゃんが入ってきた。唇に紅を差して晴れ着を着た美和ちゃんはいつもよりずっと綺麗で、なんだかいつもの美和ちゃんじゃないみたいで、凄くドキドキした。


 その後のことは、なんだかずっとポーっと美和ちゃんを見つめていたら終わった。


 こうして、俺は美和ちゃんと婚約をした。

 

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