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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
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49 弘治二年の始まり

 年が明けた。

 弘治二年の始まりだ。


 去年は色々あったよなぁ。俺がこの世界で前世を思い出したのも去年だし。

 今年は平穏な年であって欲しいものだが、戦国時代だしなぁ。絶対それは無理だろう。


 とりあえず織田家中だけでも平穏になってくれるといいんだがなぁ。


 正月は家中の者が主君のところへ年賀の挨拶へ行く。女子供は城で留守番だけど、信行兄ちゃんとか熊たちは、狩衣を着て連れ立って清須城へと向かった。


 これはこれで農民たちに織田家の威光を示す意味もあるんで、それぞれ贅を尽くした衣装を着ていた。

 見送る女性たちも、その凛々しい姿に歓声を上げている。


 ふむ。こうして見ると、信行兄ちゃんには勝てないけど、熊もなかなかイケてるんじゃないか?

 あれだ。馬子にも衣装ってやつだな。


 最近は信行兄ちゃんの表情も穏やかなんで、ちょっと安心している。

 信長兄上とは、このまま少しずつ歩み寄って和解してくれるといいんだけどな。



 そして、帰ってきた信行兄ちゃんの顔は、行く時と変わらず、穏やかなままだった。







 なんとなく織田家内紛の芽はなくなったんじゃないか、と安心したところで、信長兄上に作って欲しいとリクエストしていたものが出来たから、生駒屋敷ってとこに確認に来いという命令を受けた。


 生駒家っていうと、母上の出身である土田家の親戚だ。馬借と藁で作った灰の商いをしている家だな。

 藁で作った灰は火鉢に入れて使うんだが、ちゃんとした灰にするのが結構難しいらしい。だから質のいい灰を作るっていうんで、生駒家の灰は有名だ。現代で言う、ブランド灰ってとこか。


 基本的に、武士は金儲けとか蓄財を、汚れた利益だと考えて嫌う。でも戦をするには金がかかる。家臣への報償はもちろん、足軽への給料や、兵糧なんかもタダじゃないからな。


 それに目をつけたのが俺たちの祖父、織田弾正忠信定だ。会った事がないけど、祖父ちゃんは港があって交易が盛んな津島を手に入れた後、津島に屋敷を構えたらしい。この時代には珍しく商業の重要性に気がついてたってことだ。


 さすが革新的な考えをする信長兄上の祖父だよな。血は争えない。


 そしてその経済力を背景に、家臣の家臣でしかなかった織田弾正忠家は、尾張で急速に勢力を伸ばしてきた。いわば、織田家の中興の祖だな。


 だから同じく商いを重視してる土田家と織田家を結びつけるために、父上と母上の結婚を決めたってわけだ。


 さすがの祖父ちゃんも、直接生駒家と織田弾正忠家を結びつけるわけにはいかんから、ワンクッション置いて、土田家の娘と結婚させたってところか。土田家は直接、商いをしてるわけじゃないからな。しかも名門の一族の系統だしな。


「生駒家に行くのは初めてなので、楽しみです」


 いつもの栗毛の牝馬、花子ちゃんに乗ってそう言うと、夜叉鹿毛に乗った熊がちょっと顔をしかめた。


「あの家は最近では人入れのような事もしておるらしく、あまり風紀が好ましくないのでござるが……なにゆえ殿は喜六様をあのような場所へ呼ばれたのでござろう」

「ひといれ、ですか?」


 なんだそれ? 聞いたことないな。


「さようでござる。殿が、やれ鍛冶師を連れて来いやら、彫り物師を連れて来いやらと無茶を申されるのでな。いつの間にか本業でもないのに、人入れ業までやるようになっておりました」

「兄上らしいですね……」


 ああ。人入れっていわゆる人材派遣業みたいなもんか。なるほどなぁ。


 確かに無茶ぶりは信長兄上の得意技だしな。それで周囲の家臣が困ってるところまでがセットで、脳裏に浮かぶな。


「おかげで河原者まで屋敷に出入りしておるのでござるよ。いやはや、嘆かわしいというか何というか。やはり武士の本業は槍働きでござろうなぁ。銭を稼ぐなどというのは、卑しい者に任せておけば良かろうに」

「でも、私も銭を稼ごうとしていますよ? それも嘆かわしいことですか?」


 俺がそう言うと、熊はギョッとしたように目を見開いて、あたふたとした。


「あ、いや。喜六様の場合は、何といっても御仏によって教えられた技を伝授なさるという尊いお勤めでございますからな。ただの金儲けとは、訳が違いまする」


 出たよ、大義名分。

 やってることは同じ金儲けなのになぁ。一方は卑しくて、一方は尊いとか、意味が分からんね。

 だけど熊の意見はこの時代の一般的な感覚だ。


 あれだよ。天下を取るにはまず金儲け、って考える信長兄上の方が、異端っていうか、時代を先取りしちゃってるんだよな。

 だからこそ、理解され辛い訳なんだが。


「では、私に協力してくださる生駒家の方々も、尊い商いをしてらっしゃるということではありませんか? 全ては御仏の手の平の上に過ぎませぬよ」


 つまりは予定調和ってことだ。

 そして説明しても無理そうなことは、全部神仏のせい。これで全て問題なし!


「む……? 確かに言われてみれば、そうでござるな。いやはや、さすが喜六様でございますな。わっはっは」


 そして熊が単純なのも、平常運転で問題なし!



 

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