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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
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42 土田御前

 母である土田御前の出身である土田家は、祖先をたどると、宇多天皇の第八王子である敦実親王の流れをくむ宇多源氏である源成頼の、孫の佐々木経方を祖とする一族だ。あの源平合戦でも活躍した由緒正しい家柄だな。


 その佐々木氏の嫡流である六角氏の、さらに嫡流の山内信詮の、これまた嫡流が土田家だ。


 嫡流っていうのは庶子とかじゃなくて、ちゃんとした相続する権利のある子孫の一族、ってことだな。


 うん。っていうか嫡流の嫡流の嫡流とかさ、もうほとんど「遠縁」の一言でいいよな。

 でも今の時代、こういう正当な血筋っていうのは、ことのほか大事にされてるんだ。未だに、名乗りで源氏だとか平氏だとか言うくらいだしな。


 ちなみに織田家は平の朝臣あそんっていうくらいだから、平氏の末裔だ。本当は藤原家の末裔とか忌部家の末裔とも言われてるけどな。


 しかもこの土田家。婚姻で美濃の明智家とも親戚になってる。明智家は清和源氏である土岐氏の嫡流で、凄い名門の一族だ。

 本能寺の変で信長兄上を殺す明智光秀がこの一族だと言われてるな。ただ、明智は明智でも、出自がはっきりしてないらしいけど。


 この清和源氏っていうのがまた武家の名門中の名門だ。

 元々は、清和天皇の第六皇子貞純親王の子である経基王(六孫王)が、臣籍降下して源氏姓をもらって源経基と名乗ったのが最初だ。

 ちなみに、光源氏とは関係ないからな? 間違えないようにな?


 あと、鎌倉幕府を開いた源頼朝は河内源氏だ。清和源氏の嫡流だな。


 対する我らが織田家は、元々越前国織田荘にあるつるぎ神社の神職だ。つまり神主さんだな。


 それが、三管領の家柄である越前国の守護である斯波氏に仕えるようになる。


 うん。なんかちょっと今、信長兄上が坊主は坊主らしく経だけ読んでればいい、って言ってるのがブーメランになって返ってきたような気がするけど、気のせいだよな、気のせい。


 斯波氏は足利一門で、本領の越前国のほかに尾張国・信濃国・遠江国などの守護も務めたエリート一族だ。その斯波氏が応永七年、西暦で言うと1400年に尾張国の守護も兼ねると、織田の一族も尾張国に移住して、代々尾張の守護代を務めてきたわけだ。弾正忠家は、さらにその守護代の家臣だな。


 つまり何が言いたいかっていうとだ。父上と母上の家格で見ると、母上の家の方が由緒正しいってことなんだよな。


 だからこそ、側室の子でしかない長兄である三郎五郎信広兄さんは、織田家の相続権を認められなかったわけだ。

 現在は今川に取られちゃってるけど、松平と領地を接する安祥城の守備を任されてたくらいだからな。父上からもかなり信頼されてたはずだ。それでも、土田家の血を引く信長兄上と信行兄ちゃんの血筋には適わなかった。


 そんな高貴な血筋を持つ母上は、今でも末森の奥において、女主人として絶対の支配力を持つ。


 きっと信行兄ちゃんが、千姫に送る布を采配した時も、母上がどれを送るか選んだに違いない。


 そう。ちょっと考えれば分かった。

 だから昨日、信長兄上はあんな表情で俺を見ていたんだろう。いずれ俺がこの結論に達することを予感して。


 前世の記憶があるし、この時代の母親に愛されなくてもそんなに気にならないなとか思ってたけど、案外、心にダメージがくる。


 これってさ、理屈じゃないんだよな。


 なんていうかさ。小さな子供が両手を伸ばして抱き上げられるのをせがんでるのに、その親は絶対に下を向いて子供を見てくれてない感じっていうかさ。うまく表現できないんだけども。


 でも、手を伸ばさずにはいられないんだよ。伸ばし続けた両手が、疲れて重たくなってしまったとしても。


 ああ、兄上。あなたはいつもこんな想いを抱えてたのか。

 柔らかく無垢な子供の心にそれは、なんて辛いことだったろう。


 それでも、凛として立っている。

 その強さを、尊敬する。


「母上は、どのようなおつもりでこのような事を……」


 そう呟く声が震えていた。


 ほんと。情けないな。別に、あんな女、母親だと思ってないのに、さ。

 喜六の記憶の中にある、優しい姿なんて、幻想だ。


「母上は……信長兄上を厭うておる」

「……知っております」

「ゆえに、わしに家督を継いで欲しいと願っておられる」

「それも、知っています」


 そうさ。知ってる。

 そして前世で聞いた、信長兄上が唯一粛清した兄弟が、多分、信行兄ちゃんなんだろうと確信してる。


 でもそんなの俺が嫌なんだよ。


 歴史がなんだ。史実がどうした。


 俺は、俺の好きな家族を大切にしたい。

 俺にできるのはほんとにちっぽけな事かもしれないけど。

 だけどたとえ歴史の流れが決まっていたとしても、俺はその流れに抗ってやる。


「母上は、これ以上信長兄上の味方が増えるのを良しとしなかったのだろう。それで喜六と千姫の縁談に水を差したのやもしれぬ」


 そんなことしなくても、最初から千姫には嫌われてるっていうのにさ。


 そう、心の中で自嘲する俺に、信行兄ちゃんはさっきまでのこちらの態度を探る様子とは違う、穏やかなまなざしを向けてきた。


 それはいつもの、信行兄ちゃんが俺を見るまなざしだった。


「わしは……お前が信長兄上の元へ行って、もうこの末森には帰ってこぬつもりかと思っておった。最近のお前は、信長兄上とのほうが、仲が良いしな」

「私は、信長兄上も、信行兄上も、等しく大好きなのです。どちらか一方にお味方することなどできません」


 ぎゅっと両手のこぶしを握る。

 まだ小さい、子供の手だ。

 でもこの手で、信長兄上と信行兄ちゃんの手を一緒に繋ぎたい。


「ですからお聞かせください。信行兄上は、ご自分の意思で、信長兄上を排したいと思っていらっしゃるのですか?」




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