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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
織田家の八男になりました

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28 ムクロジ石鹸

 信光叔父さんの法要も終わって、例の噂は下火になった。その代わりに、信光叔父さんの死は起請文の誓約を破ったことによる神罰なのだ、っていう噂が広がった。


 全て、月谷和尚さまの言う通りになった。


 そして俺の見た夢の話をすると、


「そうであろうなぁ。ふぉっふぉっふぉ」


 と笑った。いやちょっと待って! 今川の策略なんだよね。神罰が正解じゃないはずだったよね!?


 でも和尚さまはそれには答えず笑うだけだった。……むう。マジでオカルトが原因だったのか? いや、でも……






 今日は桃巌寺の端にある、月谷和尚さまの庵にお邪魔している。お勉強は終わって、自由時間中だ。

 その自由時間に何をしてるかって言うと、境内に落ちているムクロジの実をせっせと拾っていた。


 秋になってやっとムクロジの実が収穫できるようになったからな。これが終わったらハゼの実でロウソク作りだ。


 ムクロジってさ、中の黒い種子が数珠の材料になるんだって。だからお寺に植えられてることが多いんだけど、種子の周りの果肉に当たるほうは捨てられちゃってたらしい。確かにあんまり食べるとこないもんな。ちょっとヌルっとしてるだけで、石鹸になるとは思わないんだろうな。


 ムクロジの種子は黒檀のような色をしていて、表面も艶がある。形を丸く整えれば、立派な数珠になるんだろう。蜜蝋で表面を磨けば、さらに高価な数珠になるらしい。


 さて、種子を取り除いた果肉を袋に詰めれば完成だ。小さ目に作った巾着袋の中に果肉を入れて、水で濡らして揉んでみる。

 巾着は信長兄上に頼んで譲ってもらった絹の布で作った物だ。やっぱり肌をこするものだから、絹にしないとな。麻だと目が粗いから、肌が荒れそうだもんな。


 もみもみ、もみもみ。


 しばらく揉むと、泡っぽいのが出てきた。おお~! これぞまさに石鹸だよ!


 泡は記憶の中の石鹸よりきめ細かい感じで、すぐに消えてしまった。

 でも、石鹸だ。

 うん。どこからどう見ても立派な石鹸だ。


 うおー! やったぜ! これで毎日のお風呂タイムが充実する!


 ていうかさ。蒸気で体ゴシゴシするだけだと、体が綺麗になった気がしないんだよな。ああ、これでお湯につかれるようになれば完璧なんだけどなぁ。


 ほんと、マジで温泉に入りたい。乳白色の温泉なんてワガママは言わない。ただの無色透明の硫黄の温泉でいいから入りたいよ。

 今だったら、千葉のネズミーランドとスーパー銭湯のどっちを選ぶかって聞かれたら、迷わずスーパー銭湯を選ぶぞ。


 五右衛門風呂の実装も信長兄上に提案してみたんだけど、作るのは厳しいみたいだしなぁ。


 なんかさ。日本刀とか作ってるから、日本では鉄鉱石が取れると思うだろ? でも近江あたりで鉄鉱石が取れてたのって平安時代くらいまでなんだよな。それ以降は砂鉄を材料にして作ってるんだ。


 中でも、石見国の出羽鋼いずははがねとか播磨国の千種鋼ちぐさはがねが有名だな。砂鉄から直接、はがねに製鉄するらしい。

 よくあの砂鉄から刀を作ろうと思ったよな。材料がそれしかないから仕方がなかったんだろうけど、日本人の職人魂、まじ凄い。さすが技術の国、日本だよ。


 ただそんな素晴らしい技術を持つ日本人でも、五右衛門風呂を作るには、大量の砂鉄を集めるのが大変で、たとえ砂鉄が集まってもあの大きな釜を作るのが技術的に難しいらしい。


 鉄はやっぱり南蛮貿易が活発になるまで無理かもしれないなぁ。

 大きな釜も無理だったか……


 ああ。夢のマイお風呂。マイベッドの次の俺の夢だ。いつか実現してやるぞ。


「若君、お望みの物はできましたかな?」


 スーパー爺さんの月谷和尚さまが、俺の手元を見ながら声をかけてきた。何を作るかは言ってなかったので、手の中の泡を見て、ほう、と感心している。


「それはシャボンですかな?」

「和尚様はご存知ですか?」

「堺の商人が南蛮人から買ったというものを見せてもらったことがありますぞ。腹下しの薬ですな」


 え? 手を洗うものじゃないのか?


 和尚さまから話を聞くと、泡が出るところをパフォーマンスとして見せられたけど、本来の使用法は下剤として飲むんだそうだ。

 うわぁ。それって普通に体に悪そうじゃないか? 石鹸の使用上の注意のところに、口に入れないでください、って必ず書いてあるよな!?


「いえ。これはムクロジの実なのですよ」

「ほう。ムクロジですか」

「ええ。種子を取り除いてこの果肉の部分に水を含ませると、このように泡が立つのです。こちらの袋には果肉を六粒分ほど入れております。」


 俺は右の手の平にまだ袋に入れていない黒い種子を取り除いた果肉を乗せて、左手に泡だった絹の巾着を持った。

 月谷和尚さまは、しげしげとムクロジの果肉と巾着を興味深そうに見る。


「なるほど。ただ泡が立つだけで若君がこのようなものをお作りになるはずもございませんな。さて、一体これはどのように有用なのでしょうな」

「手を洗うのです」

「手を洗うのですか? いつも水で洗っておりましょう?」

「シャボンもその為にあるのですが、手を洗うと、悪い病気を洗い流すことができるのです」

「なんと、まことでありましょうか!?」


 さすがのスーパー爺ちゃんも、手洗いの有用性は知らなかったみたいだな。まあそうだよな。手洗いうがいで風邪を予防できるって分かったのって、現代だろうしなぁ。


「ええ。外出して戻った時にシャボンやムクロジで手を洗うと、感冒かんぼうや流感の予防になります。うがいをすると、なお良いですね」


 感冒かんぼうは風邪で、流感は流行性感冒、つまりインフルエンザだ。父上も四年前に四十二歳で亡くなったんだけど、今にして思えば、あれはインフルエンザだったんじゃないかなぁ。


 流行り病にかかったって分かった時から、俺や信行兄ちゃんは父上から隔離されてたから断言はできないけど。でも、熱で倒れる前に、手足が痛いって言ってたんだよな。あれって、手足っていうか、手足の関節が痛かったんじゃないかな。関節痛って、インフルエンザの特徴だよな。


 もっと早く、俺が前世の記憶を取り戻してたら、父上はインフルエンザで亡くならなかったのかな。

 でも、予防しても、罹る時は罹るしなぁ。現代みたいに特効薬があるわけじゃないし、やっぱりどうにもできなかったんだろう。そう思うしかない。


 ちなみに「うがい」は「鵜飼」からきてるらしい。鵜に魚を飲みこませてその後吐き出させる様子が似てるから、うがいって言うようになったんだとか。


 それって、鵜が魚を吐き出すところを見てうがいをするようになったって事かね? うがいは風邪の予防になるから、鵜飼の伝統があって良かったなと思うけどさ。


 そもそも、最初に鵜飼で魚を採ろうと思った人が凄いよな。鵜は餌を取られて可哀想だけどな。

 

信長と喜六の父である織田信秀が亡くなったのは三月三日ですので、インフルエンザでお亡くなりになってもおかしくないかな、と思いました。

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