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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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231 瑞兆

ぼたもちさまから末森城を追加した地図を頂きましたので載せさせて頂きます。

どうもありがとうございます!

挿絵(By みてみん)


「出陣じゃ! 法螺貝(ほらがい)を吹け!」


 信長兄上の突然の号令に、城中が一斉に活気づいた。

 城全体に灯りがともされ法螺貝の音が鳴り響く中、慌ただしく兵たちが行き交う音が聞こえる。


「殿、こちらを」


 ご飯にお湯をかけただけの湯漬けが運ばれると、信長兄上は座る時間も惜しいとでも言うように立ったままそれを食べた。


 俺も信長兄上を見習って、用意された湯漬けを立って食べる。


「武具を寄こせ!」

「はっ」


 いつの間にか岩室殿だけではなく、信長兄上の小姓たちが勢ぞろいしていた。それぞれ信長兄上の鎧を手にして順番につけていく。


 俺の鎧も、いつの間にかタロとジロが用意してくれていた。


 黒地に金で彩られた鎧を身にまとった信長兄上は、岩室殿の差し出す兜をかぶった。

 兜の前立てには、織田家の家紋である木瓜紋と、御簾(みす)があしらわれている。木瓜紋は鳥の巣と卵を表わすことから子孫の繁栄を意味し、御簾は宮中や寺社で用いられるすだれの事で、神の加護を意味している。


 御簾というより、後光が差してるようなデザインだけどな。神の加護って意味なら、どっちでもいいんだろう。


「これより熱田へ参る! 遅れた者は後から参れ!」


 信長兄上の後に続くのは、信長兄上も最も信頼されている岩室重休殿、長谷川橋介(きょうすけ)殿、佐脇良之(さわきよしゆき)殿、山口重直殿、加藤弥三郎殿の五人だけだ。


 俺も彼らの後ろに少し遅れて着いてゆく。


 信長兄上は美濃路を南下する途中で神社や寺を見つけると、必ずそこに立ち寄って必勝祈願をした。


 そして勝って戻ってきた暁には、榎白山(えのきはくさん)神社には太刀を、日置神社には千本の松を、そして秋葉山慈眼寺には三尺坊尊の仏像の寄進を約束する。


「槍を持て! 弓を構えよ! 今こそ尾張から今川を追い出してくれようぞ!」


 熱田までの道中で村々にも立ち寄りながら、信長兄上は声を張り上げて民を鼓舞する。


「者どもよ。今川の先兵となりて使い捨てられるのが嫌ならば、今この時に迎え撃つのだ! 女子供に安寧な暮らしをさせたければ、俺と共に尾張を守れ!」


 そのうちに、次々と信長兄上を慕う兵たちが集まってきた。信長兄上が若い頃から、共に野山を駆けまわっていた悪童仲間だ。


 ついに熱田神社に到着した時、信長兄上を慕う兵の数は二百人を越えていた。


「信喜。熱田大神に必勝祈願を(たてまつ)る。着いてこい」

「はい」


 奥の本殿へ向かうと、既に知らせが届いていたのか、千秋殿の弟である季広殿が待っていた。そこで信長兄上は勝利を熱田大神に祈る願文(がんもん)を書いて、それを読み上げる。


 内容は要約すると、多勢に無勢だからこそ熱田大神の御力で勝たせてくれ、だ。


「故に、我、当社の神力を頼むるは、必ずやこの戦に勝たんが為。なにとぞ我らに勝利をお願い奉り候」


 朗々と願文を読み上げる信長兄上の声が、余韻を残しながら止まる。


 と、その時。


 本殿の裏から羽ばたきが聞こえ、朝日を浴びて輝く白い鳥が飛び立った。

 ――白鷺(しらさぎ)だ。


「おお。これは……なんという瑞兆でしょう……」


 感極まったように季広殿が飛び立った白鷺を見上げる。


 後ろに控える兵たちも「熱田大神が我らにお味方してくださるぞ」と、ざわめく。


「見たか! 我らには熱田大神のご加護がある! 決して恐れず前に進め!」

「おう!」


 兵たちは足を踏み鳴らし、槍を打ち付ける。

 陣太鼓がリズムを取り、それに合わせて信長兄上が軍配を振る。


「いざ決戦じゃ!」


 そして熱田神社の正門まで戻ると、そこには急ぎ駆けつけた家臣たちが揃っていた。


 池田恒興殿、丹羽長秀殿、下方貞清殿、森可成殿、林秀貞、滝川リーダー、明智のみっちゃん、そして熊。


 その横には熱田に滞在している六角義秀殿がいる。


 ……って、え?


 六角義秀殿を見た俺は、思わずその兜を二度見した。

 いやだって、兜の正面に海老がついてるんだよ。さすがに色は赤くなくて黒いけど、それでもかなり目立っている。


 思わずじーっと見ていると、視線が合った。義秀殿は俺の横まで来ると「好物なのでな」と笑う。


 確かに海老が好きなのはよく分かってたけど、兜につけるほど好きだとは思わなかったよ。

 っていうか、家臣の皆さん、誰か止めようよ!


 その時、六角の兵たちの後方が何やら騒がしくなった。

 どうやら更に援軍が来たらしい。

 そのうちの一人が、義秀殿を見つけて駆け寄ってくる。


「海老様!」


 えっ、エビ様?

 って、もしかして義秀殿か!?

 海老が好きすぎてエビ様って呼ばれてるのか!?


「海老様! 我らもお連れください!」

「そなたたち……わざわざ国元からやってきたのか?」

「もちろんでござります。我らが仕えるのは海老様だけにござります。どこまでもお供いたしますぞ!」


 その言葉に、義秀殿だけじゃなくて織田の兵たちも「なんという忠義の者らよ」と感動している。


 そうこうしている間にも、続々と六角の兵たちが「エビ様~」と叫びながら馳せ参じてくる。


 うん。確かに感動の場面なんだけどさ。

 でも、どうにも兜についた海老と「エビ様」呼びのインパクトが凄すぎて、俺は感動にひたれなかった。

 


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