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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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223 託宣

 逃走した前田利家は、すぐさま城下を密かに警護している鵜飼殿の配下によって捕獲された。両腕を縛られて連れてこられた利家を前に、どうしたらいいのか途方に暮れる。


 眉間に皺を寄せている明智のみっちゃんを横目に、俺は床に座ってふてくされている利家の前にしゃがんで目を合わせた。


「いきなり逃げ出さずとも良かったではありませんか」

「説明している時間が惜しいからな。俺は殿の為にしか槍を振るわぬぞ」


 そう言ってプイっと横を向く顔は、以前よりも少しだけほっそりとしていて、放流された後の生活の厳しさを表わしていた。ただし、その行動は子供っぽいままで、考えなしだけど。


 本当に、分かってるのかな。俺だったからいいようなものの、他の相手にこんなことやったら、下手すれば死罪になってたかもしれないんだぞ?


 まったく……。別に一時的に俺の配下になったとしても、信長兄上と一緒に戦うんだから同じことじゃないかと思うんだけどな。でも、利家にとっては、全然違うことなんだろうな。


 ああ、気が重い。

 きっとみっちゃんは今までの利家の態度を怒ってるだろうから、今度こそ厳しい処罰を、って言ってくるだろうなぁ。


 でも、これでも一応信長兄上の側近になる男だからな。今はまだ駄犬だけど、これから忠犬にクラスチェンジして、いずれは加賀を百万石の豊かな土地に発展させる名君になるはずだ。


 もっとも、本能寺の変を回避して豊臣政権も徳川幕府もなくなる予定だから、加賀の大名にはなれないかもしれないけど。それでも加賀の偉人と呼ばれるまでには成長するだろう。

 ……きっと。

 いや、おそらく……。

 …………た、多分。


 利家がずっと駄犬のままだったらどうしよう。俺にはこんなの面倒見きれないぞ。


 そうだ。ここはやっぱり、元の飼い主に面倒を見てもらうのが一番だよな。信長兄上なら、駄犬な利家わんこを忠犬に調教し直してくれるだろう。


 よし。そうと決まれば、熨斗をつけて信長兄上に送りつけよう。


「前田殿」


 そう声をかけると、利家の肩が大きく揺れた。

 多分、俺が重い処罰を与えると思ってるんだろう。分かりやすいな。

 っていうか、処罰されると思うなら、お金を持って逃げるなんて事をしなければいいのに。本当に駄犬すぎる。


 俺はため息をつきたくなるのをこらえて、笑顔を作った。


「私は感動しました!」

「……え?」


 意外な事を言われたのか、横を向いていた利家が、目を丸くして振り返った。


「前田殿はそれほどまでに、信長兄上に忠誠を誓っていらっしゃるのですよね。これほど忠義に篤い者は、尾張中を見渡してもなかなかおりますまい」

「そ……そうであろう、そうであろう。俺の殿に対する忠義は、疑うべくもないことだな! 信喜様は、よく分かっていらっしゃる」


 俺に褒められた利家が、ここぞとばかりに胸を張った。


「ええ。もちろん分かっておりますとも。ですが、けじめはつけなくてはなりません。渡した金子を奪って逃走など……あの、規律に厳しい信長兄上がお聞きになったら、なんとおっしゃることか」


 そこで初めて、利家は自分が何をやらかしたかに気がついたんだろう。みるみるうちに顔色が悪くなった。

 飼い主に叱られて尻尾を丸めた犬のような前田利家に、俺は安心させるようににっこりと笑みを浮かべる。


「ですから私と約束してください。信長兄上を、生涯決して裏切らず、そのお側に仕え続けると。兄上の槍となり盾となり、その身を護りぬくことを」


 俺の言葉に、利家は真剣な顔で頷いた。


「信喜様に言われるまでもなく、俺が主と認め、身も心も捧げると誓ったのは信長様だけだ。熊野誓紙で起請文(きしょうもん)を交わしても構わぬ」


 ……いや、心はともかく、身は捧げなくていいんじゃないかな。信長兄上には、濃姫も吉乃さんもいるし。


「起請文など交わさずとも、私が今ここで聞きましたゆえ必要ありません。神仏は……いつも前田殿を見ておられますよ」


 子供に諭すように言ってから、俺は側に控えるみっちゃんに合図して、利家の腕を縛っていた縄を解かせた。


 みっちゃんが「また甘いことを」って目で俺を見てるのが分かるけど、これでも一応、未来の織田家にはなくてはならない存在になるはずだから、どうか心を広く持って見逃してくれ。


「も、もちろんだ!」


 しっぽをパタパタ振る幻影が見えるようだ。

 でもこれで、駄犬から忠犬に、一歩近づいた……かな。


「これより尾張は、今川との戦いを迎えます。おそらく、その勝敗によって我らが未来は定まる事でしょう」

託宣(たくせん)でござるか」


 託宣――神仏のお告げかと聞かれて、俺は微笑むにとどめた。

 嘘は言ってないぞ。ただ肯定も否定もしていないだけで。


「では俺は、その戦いで必ずや比類なき武功を立ててみせよう。そしてそれ以後の戦いも、信長様の御為(おんため)に死をも恐れぬ赤武者となりて、敵を殲滅してくれよう」


 力強い宣言に、俺は利家の目をじっと見つめながら頷いた。


 よし、これで忠犬予備軍に進化したはずだから、後は信長兄上がうまく手綱を取ってくれることを祈るしかないな。


 わんこのしつけは任せたぞ、信長兄上!


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