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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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211 天国・天国・海老天国

 さあ、これからいよいよメインディッシュだ。

 義秀殿は海老好きだから、喜んでくれるといいんだけどな。


 皿の上に、ぷりっぷりの伊勢海老の刺身を乗せて出す。朝採れた新鮮な伊勢海老を出せるからこそのメニューだな。刺身のツマとして、大葉とシソの実を添えた。やっぱり見た目も楽しめるようにしたいからな。


 俺は小皿に醤油を入れて、そこに海老味噌を溶かす。これは「剛腕でGO」のリーダーがカワハギの刺身を食べる時に、醤油にカワハギの肝を溶いて食べてたのを思い出して真似してみた。

 リーダーが「今まで食べた刺身の中で一番(いっちばん)おいしかった」って言ってたけど、確かに醤油にコクが出てうまい。


「このようにしてお召し上がりください」


 お手本のため、伊勢海老の刺身を一切れ海老味噌醤油につけて食べる。

 醤油と味噌のコクを感じた後、伊勢海老の甘さを感じるな。うむ。

 プリプリでおいしい。


 信長兄上は俺が食べると同時に箸をつけていた。……食べるの早いな。

 義秀殿はどうだろうと思って見てみると、黙々と食べている。相変わらずコメントがないけど、食べてるからいいのかね?


 次に出すのは伊勢海老の姿焼きだ。 

 大ぶりの伊勢海老を頭から尾にかけて豪快に二つに割って、半身の一つには身に軽く塩をふりかけ、もう半身の方にはたっぷり味噌を塗る。そしてそれを炭火でじっくり焼いて出す。塩味と味噌味、どっちも楽しめるからいいんだよな。


「なかなかの大きさでござるな」


 義秀殿はそう感心する。そりゃ琵琶湖で採れるすじえびは小型だからな。伊勢海老は巨大に見えるんだろう。


 といっても姿焼きで出したのは、せいぜい20センチくらいの海老だ。

 伊勢海老って大きい個体は40センチくらいあるけど、さすがにそこまでの大きさの海老だと食べるのも大変だからな。姿焼きで食べるなら、このくらいの大きさがちょうどいい。


「信喜、もっと味噌を寄こせ」

「……信長兄上。味噌の取り過ぎです」

「では塩だ」

「どっちも塩分の取り過ぎですからダメです」


 伊勢海老の味を楽しむためにわざと薄味にしてるんだけど、濃い味付けが好きな信長兄上には物足りなかったらしい。


「堅いことを言うな。好きなものを好きなように食べられずして、何が楽しい」


 ふん、と鼻で笑った信長兄上に、心の中でため息をつく。さっきもかまぼこを食べる時に、醤油をたくさんつけてたじゃないか。絶対に塩分を摂り過ぎだよ。


 俺が味噌を取りに行こうとしている小姓を止めると、信長兄上はムッとした顔をしたけど、それ以上ワガママは言わなかった。


 義秀殿の口には合ったのだろうかと膳の上を見てみたら、綺麗に食べつくされていた。でもこれじゃ、料理を気に入ったのか、それとも礼儀として残さず食べたのか判断できないぞ。


 せめて食べてる時の顔でも観察できれば良かったんだけど。


 よし、次は食べてる時の顔を見逃さないぞと意気ごみながら次の料理を出してもらう。


 運ばれてきたのは伊勢海老の炊き込みご飯だ。

 まず少し小ぶりの伊勢海老を茹でて、そのダシ汁をこして冷ましておく。それから少々の醤油と酒と、茹でた伊勢海老を半分に割ったものを入れて米を炊く。

 炊き上がったら伊勢海老の中身を竹串で取って、食べやすい大きさに切ってからまた殻に戻しておく。

 これで、伊勢海老の濃厚な出汁が米に染みこんだ、極上の炊き込みご飯の出来上がりだ。


 ほかほかの炊き込みご飯を毒見役が食べてから、お茶碗によそう。


 う~ん。いい匂いだ。 

 匂いからして、おいしそうだな。うむ。


 信長兄上はこの炊き込みご飯が大好物なので、大盛だ。


 さて義秀殿はどうかなと思って見ていると、やっぱり黙々と食べている。

 

 まあ文句を言われてないから、大丈夫だってことにしておこう。


 伊勢海老づくしの料理が続いて、かなりお腹いっぱいになってるところなんだけど、次の料理が俺の考える、メインディッシュの真骨頂だ。


 それは、伊勢海老の味噌汁だー!


 蕪を薄く切って煮てから、伊勢海老の半身を豪快に入れる。海老が硬くなり過ぎない程度に煮たら出来上がりだ。

 これがまた、味噌汁に海老のエキスが全て溶け込んで、天にも昇るうまさなのだ。


 もうお腹がいっぱいなのか、義秀殿は味噌汁の入ったお椀をしばらくは手に取らなかった。


 そうだよな。もうお腹いっぱいだよな。

 でもこれは別腹で食べられるから、ぜひ一口飲んでみてくれ!


 期待に満ちた俺の視線から目を逸らして、義秀殿はお椀を持ち味噌汁をズズッと飲んだ。

 ズズズッと続けて飲む。

 そして無言で伊勢海老の身を平らげる。


 ど、どうだ!?

 ついに感想を聞けるのか!?


 ドキドキしながら義秀殿を見つめた。

 味噌汁を全部飲み干した義秀殿は、お椀を置いて目を閉じる。


「うぅむ」


 えっ。


 また何か問題があるのかー!?


「いかがなされましたか?」


 恐る恐る聞いてみると、義秀殿はパッと目を見開いた。そして無言のままむんずとお椀をつかんで、こちらに差し出す。


 ん~?

 なんだ、なんだ~?


 焦っていると、一拍置いて。


「もう一杯」


 そっちかよ!

 っていうか、おいしかったなら、おいしいって普通に言ってくれよ!



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