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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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210/237

210 阿闍梨?

 もしかしてアサリが嫌いなんだろうかと思って見ていたら、義秀殿は持っていた箸をバンッと音がするほど乱暴に置いた。


 えっ。もしかして怒ってる!?

 何か怒らせるようなことをしたかな。思い当たる節がないんだけど。


「うぅむ」


 義秀殿は唸り声をあげて、膳の上のアサリの酒蒸しを睨んでいる。


 うわ、どうすればいいんだ。そこまでアサリが嫌いなのか。

 そうか。そりゃそうだよな。シジミが好きでもアサリは大嫌いだって人もいるよな。ちゃんと確認しなかった俺の責任だ。


 オロオロしながら信長兄上に助けを求めて視線を向けると、ちょうどアサリの上に載せてある白髪ネギを箸で取り除いているところだった。斜め切りにしてあるネギは好きなのに、細く切った白髪ネギは嫌いなんだよな。


「六角殿。この食事がお気に召されませぬか?」


 信長兄上は姿勢を正すと、義秀殿のほうに体を向けた。

 義秀殿は、相変わらず口のへの字にしたままでいる。


「……観音寺城は元は天台宗の観音正寺を砦としたものである。ゆえに、それがしは阿闍梨をないがしろにはできぬ」


 ちょっと待ってくれ。いきなりなんで観音寺城の話になったんだ!?

 だってアサリが嫌いだって話をしたいんだよな? そこにどうして阿闍梨が出てくるんだよ。


 いやちょっと待て。アサリと阿闍梨。語呂が似てるな。

 阿闍梨っていうのは天台宗とか真言宗の高僧の事だ。


 ってことは、宗教的な意味でアサリは食べれないってことか?

 でもなぁ。そんな話今まで一度も聞いた事ないけど。


「観音正寺というと、天台宗でござろうか」

「さよう」

「なるほど」


 信長兄上が納得してるってことは、俺が知らなかっただけで宗教的なタブーか何かでアサリを食べるのは駄目なんだろうか。


 どどど、どうしよう。


「熱田の浜ではこのように大きなあさりがたくさん取れましてな。それがしも昔は浅瀬を掘って、あさりをたくさん採ったものです」


 信長兄上は再び箸を取って、器の中のアサリをつまんだ。

 義秀殿は、箸の先のアサリをじっと見ている。


「……ほう」

「しかし、たくさん採っていざ食べようと思っても、おいしいと思った事はありませぬ。貝を食べておるのか砂を食べておるのか、分かりませんからな」


 信長兄上の言葉に、義秀殿もうんうんと頷いている。同じ事を思っていたらしい。


「それがしも幼き折より体に良いと言われ食しましたが、口の中がじゃりじゃりするゆえ、辟易しておりました」

「そうでしょうとも」


 信長兄上は軽く頷くと、箸でつまんでいたアサリをパクっと食べた。モグモグと食べているのを、義秀殿が呆気に取られた顔で見ている。

 ゴックン、と音をさせて口の中の物を飲みこむと、信長兄上は軽く笑んだ。


「聞こえましたかな?」

「……何をですかな?」

「砂を噛む音です」


 信長兄上の問いに、義秀殿は再び「うぅむ」と唸る。そしてゆるく首を振った。


「いや、何も聞こえませなんだ」

「砂など一粒も入っておりませんからな」

「なんと、まことでござるか!?」

「さよう。この料理を考えたのは、それがしの弟でしてな。信喜、説明せい」


 信長兄上に話を振られて、俺は慌てて説明をする。


「おそらく、以前六角様の召し上がったあさりは砂抜きをしていなかった物ではないかと思われます。あさりは砂の中に生息しているため、その体の中に砂を取り込んでしまう性質があるのです。そこであさりを快適に食すためには一度砂抜きをする必要がございます」

「ほう。砂を抜く!?」


 興味を持ったような義秀殿に、内心で安堵する。

 とりあえず宗教的タブーとかで食べられないってわけじゃないらしい。


「水瓶に綺麗な海水を入れて、その中に採ったあさりを入れて涼しい所に一晩置いておきます。そうすると、体の中の砂を呼吸と一緒に全部外に吐き出すのです」

「うぅむ。なるほど」


 俺の説明に納得した義秀殿は膳の上に置いた箸を取って、恐る恐るアサリを口に入れた。


 そして、もぐ、もぐ、とゆっくりかみしめている。

 信長兄上と同じようにゴクンと飲みこんだ後、ゆっくりと息を吐いた。


「いつも食しておる(しじみ)とはまた違って、貝の旨みというものをなおさらに感じますな」

「それがしも砂抜きのあさりを食べるようになってから好物になりましたぞ」


 椀の中のあさりを食べつくした信長兄上が、相槌をうつ。


 俺はさらにアサリの利点をアピールした。


「はい。しかも(きも)の病にも効きます」

「ほう」


 義秀殿の顔色が悪いのは、肝臓系の病気を患ってるからじゃないかと思うんだよなぁ。肝硬変とかだったら、ちょっと危険だ。肝臓がんになりやすくなるからな。


 後でタロとジロに肝臓に良い薬とか食べ物がないか聞いてみよう。山伏は、そういうのに詳しいからな。


 一時はどうなることかと思って、こっちが肝を冷やしたよ。

 うまく治まって、良かったけどさ。


 ちなみになぜいきなり義秀殿が阿闍梨がどうの、って言いだしたのか後でこっそり信長兄上に聞いたんだけど。

 阿闍梨とアサリじゃなくて、阿闍梨と砂利をかけて話してたんだそうだ。直接アサリは口の中がジャリジャリになるから食べれない、って言わないで比喩でほのめかしてたんだそうだ。


 そんなの、ダジャレじゃないんだから、分かんないよ!





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