表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/237

209 お・も・て・な・し?

 三月も終わろうかという頃、六角義秀殿が熱田へと到着した。本来なら伊勢から熱田へと船で来るのが一番早いんだけど、伊勢までの道は北畠の勢力だからそこは避けて、美濃を通る陸路でやってきた。


 一応、伊勢のあたりの関氏や神戸氏は北畠に対抗するために六角氏の傘下に入ってるんだけど、逆にそのせいで伊勢の湊を利用できないんだよな。千もの軍勢で通ったら、変に刺激しちゃうからな。


 美濃は織田とは敵対してるけど、六角家とは同じ幕僚同士で格下だから、熱田参りのためってことで通行を許可されたわけだ。そこらへんはちゃんと根回しが済んでるんだろう。


 千人程の行列だったけど、さすがに名門の六角家だ。隅立て四つ目っていう、菱形を四つに分割してその真ん中を白く抜いた意匠の旗を立てた行列は、威風堂々として立派だった。武将たちの乗っている馬も、見るからに力強くて良い馬だっていうのが一目で分かる。


 清須で信長兄上と会談した義秀殿は、清須に泊まった後、信長兄上と一緒に熱田へやってきた。


 一番大きな海蔵門の前で千秋季忠殿とお出迎えの為に待っていた俺は、馬から降りた六角義秀殿の、あまりの顔色の悪さにびっくりした。病弱って聞いたから青白いのかと思ってたら、どす黒い。これ、肝臓あたりの病気なんじゃないのか?


 家督を奪う為に病弱って噂を流しただけかと思ってたけど、本当に具合が悪かったのかもしれん。かなり痩せてるしな。


 体調が悪いとしたら、用意したおもてなし料理はちゃんと食べられるんだろうか。さっぱりした料理じゃないといけないとか、まさか流動食だけしか受け付けないなんてことはないだろうけど。

 一応後で、義秀殿と一緒に来た近習の人に聞いておかないといかんな。


 挨拶した後で俺はこっそり近習の小倉実隆殿に義秀殿が長旅で疲れていないかどうか、好き嫌いがないかどうかを聞いてみた。

 でも特に体調が悪いっていうことはないらしい。あれが通常の顔色なんだそうだ。

 って事は、単に地黒なだけか? でもなぁ。うーん。




 とりあえず体調は悪くないし好き嫌いもないってことなんで、用意した料理はそのまま出すことになった。


 まず前菜はふろふき大根だ。厚く輪切りにした大根を柔らかく茹でたり蒸したりして、熱いうちに練り味噌をつけて食べる料理だな。現代だと大根で作るんだけど、この時代では蕪で作るのが一般的だ。大根だと、ちょっと辛くなっちゃうんだよ。もっとも、米のとぎ汁で大根を下茹でしておけば甘くなるんだけどな。


 ふろふき大根の「ふろふき」は、冷ましながら食べる仕草に由来するらしい。この時代のお風呂は蒸し風呂で、熱くなった体に息を吹きかけると垢が取れやすいからそれを仕事にしてる人がいるんだ。その人を「風呂吹き」って呼んでるんだけど、その息を吹きかける動作が熱々の大根をふうふう言いながら食べる仕草と同じだからってことで、ふろふき大根って呼ばれるようになったんだな。


「ほう。蕪ではなく大根ですか」


 毒見するから熱々とまではいかないけど、それでもそれなりに湯気の立ったふろふき大根を義秀殿が口にした。食べた後に右の眉がちょっと上がった。

 そのまま黙々と食べてるから、気に入った……のかな?


 先に食べた信長兄上も気に入ったらしく、お皿の上のふろふき大根をペロッと食べている。上に乗ってる味噌は八丁味噌で濃い味つけだから好きな味なんだろう。


「これは何だろうか」

「かまぼこでございます」

「かまぼこだと? しかし形が違うだろう」


 次に出したのはかまぼこだ。白身の魚をすりおろして、そこに塩を入れて練りこむ。板の上に盛り付けて形を整えて蒸せば出来上がりだ。白いかまぼこだけじゃなくて、紅花から抽出した紅色で赤いかまぼこも作る。紅白でめでたさを出してみた。


 ただこういう板に盛り付けたかまぼこっていうのは今までなかったらしい。竹に白身魚のすり身を塗りつけて焼く、いわゆるチクワのことをかまぼこって呼んでるんだ。


 ちなみに紅花の別名は末摘花だ。源氏物語で不美人の象徴とされてる女性の名前の元になった花だな。赤い鼻だったからその名前で呼んでたわけだけど。


「作り方も少し変えておりますが、魚のすり身を使うのは同じですよ」

「ほう」


 赤い方のかまぼこを箸でつまんだ義秀殿はそのまま口に入れて無言のまま食べた。


 ……食べた感想を言ってくれないから、おいしいのかどうか分からんぞ。まいうー! くらい言って欲しいものだ。


 信長兄上はかまぼこ単体だと味が薄いのか、マイ醤油の小瓶から醤油をどぼどぼかけている。

 あんなにかけて大丈夫か? そのうち高血圧症になりそうで心配だ。


 次の料理はアサリの酒蒸しだ。


 シジミが好きだって聞いてたから、アサリも好物なんじゃないかなと思って出してみた。熱田の近くはアサリがよく採れるしな。まるでハマグリみたいな大きさのプリプリのアサリだ。


 でもお椀の中を見た義秀殿は、いきなり口をへの字にした。


 あ、あれ……? シジミはいいけど、アサリはダメなのか!?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズ連載中
どこでもヤングチャンピオン・秋田書店
ニコニコ静画
にて好評連載中

コミックス3巻発売中
i862959

Amazonでの購入はこちらです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ