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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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202 品野城の戦い その1

 松の内、つまり一月七日が過ぎてすぐに、信長兄上から出陣要請の早馬がやってきた。


 ええっ! いきなりどこと戦うんだ!?

 まさか義元なんてことはないよな!?


 伝令から詳しく話を聞くと、戦うのは今川義元じゃなかったけど今川方の城だった。


 品野城――三百年以上前に築城された尾張の北東部にある山城だ。尾張、三河、美濃と三国の国境の近くにあって、山間部と濃尾平野を結ぶ交通の要所になる。

 その品野城を治めていた城主の坂井秀忠は、俺の父である織田信秀か、家康の祖父である松平清康のどちらにつくかの選択を迫られ、当時飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大していた父上についた。


 でもその後、勇猛な武将として知られ三河を統一した松平清康によって攻め滅ぼされてしまう。

 そして品野城は、城攻めの大将であった松平信定に与えられた。


 この松平信定ってどこかで聞いた名前だなと思ってたら、あの千姫のお祖父さんだった。


 どうも、織田方の品野城を落として城主になった後で、松平清康と対立するようになったらしい。それで自分の側室に父上の義妹を迎え、娘である北御前を信光叔父さんに嫁がせたみたいだな。


 この時代の血縁関係って複雑すぎて覚えられん。

 敵が味方で味方が敵で、って訳が分からんよな。


 松平信定は、松平宗家(そうけ)の松平清康が家臣に殺されて急死した『森山崩れ』と呼ばれる事件の後、その跡を若くして継いだ松平広忠にも従わなかった。


 そして信定が死んだ後もその子である清定は広忠と反目し、清定は息子の家次、酒井忠尚、榊原長政と共に広畔畷にて反旗を翻したが、破れた。


 けれども翌年に酒井忠尚だけは許されて、清定と家次の居城だった品野城は酒井忠尚に明け渡されることになってしまう。


 そんな訳で、現在の品野城は松平宗家と対立した松平信定の孫の家次じゃなくて、松平忠茂って人が治めてるらしい。家次は城住みの一部将になっちゃってるとか。


 でもって、信長兄上はこの城を取り戻すべく、品野城を睨む五輪山に山崎城を建てて、城主に竹村長方を据えた。


 だけど永禄元年、浮野の戦いを勝利した勢いをかって始まった品野城への総勢千人もに及ぶ攻撃は、織田方の惨敗に終わってしまった。


 豪雨の中で反撃してきた松平家次と、清康の従兄弟にあたる猛将・松平信一によって、城主である竹村長方を含め五十名もの将兵が討ち取られてしまい、品野城を落とすどころか、逆に山崎城を奪われてしまったのだ。


「では、山崎城にも今川の兵がいるということでしょうか?」


 要約すると、とにかくすぐ来い、っていう信長兄上の命令で戦支度を終えた俺は、同じく甲冑に身を包んだ明智のみっちゃんに声をかけた。


「いえ。山崎城は落とされた後に焼かれて残ってはいないようです。むしろ、品野城の付城(つけじろ)である桑下と落合の両城の将である長江景隆と戸田直光に気をつけねばなりません」


 みっちゃんの説明によると、品野城は山城でその麓に城下町があるんだけど、その城下町の北西の一番端に桑下城があるらしい。そこから西に廃城になった山崎城があって、そのさらに西に落合城がある。


 だから品野城を攻めるのであれば、まず落合城を迅速に落として、それから桑下城と品野城を同時に落とさなければならないということだ。


「しかし品野城は織田に対する要の城。城を守る兵の数も、当然かなりの数に上るでしょう」


 そうだよなぁ。そう簡単に落とせるなら、前に信長兄上が攻めた時点で落ちてるはずだもんなぁ。しかも千人も動員してたんだからな。


 しかし、そのリベンジにしたって出陣が急すぎないか!?


 普通は前もって先触れがあって、それから大将のいる清須城に集合して出陣だから、本来であれば準備に二、三日かかる。

 でも信長兄上からの書状には「()くせよ」としか書かれてなくて、集合する日時は記されていない。つまり、できるだけ早く来い、ってことだ。

 しかも信長兄上の居城である清須に集まるんじゃなくて、末森城に集結せよって言われている。


 あれ? ってことは、信長兄上じゃなくて末森城主の熊が総大将になるのか?





 龍泉寺の留守は武藤舜秀に任せて、明智のみっちゃんとタロジロと、それに加えて鵜飼殿と藤吉郎を連れていく。

 こちらの手勢は、およそ三百。


「これより品野城の城攻めへ参る!」 

「応!」


 俺が声を張り上げると、集まった兵たちから士気の高い声が上がる。


 龍泉寺城の門をくぐる時に振り向くと、そこには寒さのため吐く息の白い美和ちゃんが立っていた。


 出陣前に女の人に会うのは不吉だってされてて会えないからな。

 でも、絶対に見送ってくれるって信じてた。


 視線が合うと、美和ちゃんは手を合わせながら、俺の無事を祈るように目を閉じる。


 再び目を開いた美和ちゃんに、俺はしっかりと頷いてみせる。


 君のためにも、絶対に帰ってくるから。

 だから、俺の帰りを信じて待っていてくれ。


 前世では結婚してなくて彼女もいなかったけどさ。

 今でははっきりと分かる。

 どんな時代(とき)でも、みんな何かを守るために戦ってるんだよな。


「者ども、行くぞ!」

「応!」


 俺は前を向き、そのまま真っすぐに道の向こうを見据える。


 いざ、出陣!


お話を読んで頂いてありがとうございます。

今回は特に読んでくださっている皆様に向けてエールを送る気持ちをこめて書きました。

今年一年、がんばりましょう!

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