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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄三年

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200/237

200 新年SS 更に転生して織田わんこになりました IF

明けましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いします。

戌年ということで、犬にちなんだSSとなります。

 俺の名前は織田喜六郎信喜。


 なんとあの織田信長の弟だ。凄いだろう!

 父上は子だくさんだったから俺は八男だったんだけど、信長兄上と同じ正室の子だったから、信長兄上にはとても可愛がってもらっていた。


 実は俺さ、生まれる前の記憶があるんだ。


 ある日、川に洗濯に……じゃない、遊びに行ったら、叔父さんの家来に矢で射られて死にそうになったことがあってさ。その時に、喜六郎じゃない、現代のアラサーリーマンだった記憶を蘇らせたんだよ。


 まあアラサーリーマンって言っても、へっぽこの草食系だったから、あんまり胸を張ってえばれないんだけどな。


 でもって俺は、信長兄上の弟として、戦乱の世を終わらせるべく、兄上の力になって戦国の時代を生き抜いて―――いたはずなんだけどさ。


 なんでか、また転生しちゃったんだよ。

 しかも犬に。


 おかしい。

 なんで犬なんだ!?

 どうも柴犬みたいなんだけど、どうせ現世に生まれ変わるなら、そこはまた人間だろう!?

 百歩譲って人語を喋る犬とかさ。もうちょっと特別感を出してもらいたいとこなんだけど。目からビーム出すんでもいいんだけどな。カッコイイから。


 でも残念ながら、普通の犬だ。

 「わん」しか言えない。

 むう。げせぬ。

 こういう場合はさ、普通は転生の特典で特別な力を得たとか、何かの神様の加護があって魔法が使えるとか、いわゆる転生チートのテンプレがあるはずだろう!?


 なのに何でタダの犬に転生したんだ。責任者、出てこい!


 もっとも、戦国時代に転生した時も特別な力なんてなかったし、それほど歴史の知識もなかったからあんまり役に立たなかったけどさ。


 そう思ってふてくされてた俺だけど、この世に神はいた。

 いたんだよ!


 なんと俺がいたペットショップに、あの信長兄上がやってきたんだ。


 イケメンだけど目つきが悪いとこは、変わってなかったからすぐ分かったよ。


 これはもう運命だよね。


 俺は尻尾を振って「買って買って買って」って信長兄上に猛アピールした。

 兄上も俺が前世の弟だってことが分かったんだろうか。犬を買うつもりじゃなかったのに、なぜか買ってしまった、って後で言ってた。


 一緒に帰った家は、広~い庭のある大邸宅だった。一見和風なんだけど、そこかしこに最新設備が設置されている。


 こんな広い家に一人で住んでたら、寂しかったんじゃないか?


 これからは俺がいるからな。安心してくれていいよ!


 お水と柔らかくしたドッグフードを食べてお腹いっぱいになったら、今度は庭の探検だ。

 こうして見渡すと、本当に広いなぁ。しかも家の裏手に大きな公園があるからか、公園全体まで庭になってるように見える。


 庭の中には池とか立派な松が植えてあって、探検するのも楽しそうだ。


 よーし。走るぞー!


 お、こんなところに池がある。

 おお、なんか高そうな錦鯉がたくさん泳いでる。頭のとこに日の丸みたいな赤丸がついてる白い鯉が綺麗だな。めでたい気分になるな。うむ。

 他にも金色の鯉とか……三毛猫みたいな模様の鯉もいるな。


 よし、じゃあ次だ。


 あのツツジの茂みに行くぞー!


 と、突撃したら、ドンと何かにぶつかった。

 でも痛くない。なんだ? と見上げたら。


「わふ?」(む。何奴?)


 あれ!? なんか今誰か喋った?

 って、もしかしてこの犬!?


 そこには大きな日本犬がいた。犬種は秋田犬か?


 なーんだ。俺の他にも飼ってる犬がいたのか。

 ってことは、この犬は先輩わんこって事だよな。とりあえず挨拶をせねば。初対面は挨拶が大事。うむ。


「わん」(こんにちはー)


 挨拶をすると、なぜか目の前の秋田犬が固まった。どうしたんだ?


「わ……わう?」(ひょ、ひょっとしてその声は……)

「わ?」(なに?)

「わおんっ!」(喜六郎様ではござらぬかぁ!)

「わん?」(え、何で俺の名前を知ってるんだ?)

「わんわんわんわんっ!」(お久しぶりでございまする。それがし、柴田勝家でござります! 喜六郎様に殿の御元でお会いできるとは、感激至極でござりまするっ!)

「わっ!?」(え!? 熊!? 熊が犬になったのか!?)


 って、俺も犬だけど。

 あ、そうか。ならいいのか。

 ……いいのか?


「わんわんわん」(こうして出会えたとは、それがしと喜六郎様は固い主従の(えにし)で結ばれておるのですなぁ)


 感動して涙ぐむ秋田犬。

 うん。これ、熊だわ。全然変わってない。


「わん、わん」(おお。そういえば他にも仲間がおるのですよ。こちらにいらしてくだされ)

「わん?」(他にも仲間!? だ、誰だろう)

「わん」(こちらでござる)


 ドキドキしながら熊の後を追って走る。するとそこには大きなドッグハウスがあった。

 熊に続いてドッグハウスの中に入ると、そこには色んな犬がいた。


「わおーん!」(皆の者! 喜六郎様がいらっしゃいましたぞ!」

「わんわんわんっ」(本当か!?)


 熊の声に応えてすぐに近寄ってきたのは、銀色の毛が綺麗なアフガンハウンドだ。


「わん!」(喜六郎様、お久しぶりでございます。明智光秀でございます)


 みっちゃん!? おー、なんか確かに気品があって賢そうだな。犬になっても変わらないな。


 続いてきたのは、耳がピンと立ったドーベルマンだ。


「わん」(おお。お久しぶりですね。滝川一益でございます)


 滝川リーダーはドーベルマンかー。なんていうか、前世の良い人っぽさより、中身の獰猛さが前面に出ちゃったのかね。いや、きっと、良いドーベルマンに違いない。うむ。


 次に来たのは、ブルテリア……あ、名乗る前に誰か分かっちゃったよ。


「わん!」(久しぶり、藤吉郎!)


 俺が声をかけると、ブルテリアは目を見開いた。


「わ、わん」(な、なぜ分かったのですか)

「わん」(え、なんとなく……)


 もちろん見た目です、とは言えなよな。うむ。


 他にはいないのかな、と見回すと、奥の方に艶々で綺麗な毛並みのシェルティーがいた。


 こ、これは、間違いない! 美和ちゃんだー!


 俺はすぐさま大人しくお座りをしているシェルティーの元に駆け寄る。


「わーーーーーーーん!」(美和ちゃーーーーーーん!)


 飛び掛かって顔をペロペロ舐める。


 ……ん? なんだか反応がないぞ。


 と、シェルティーが「くーん」と鳴いた。


 ……いや。気のせいだ。

 と、もう一度シェルティーが鳴いた。


「くーん」(喜六郎様。半兵衛にございます)


 申し訳なさそうなその声は……は、半兵衛。お前だったのかー!


 気のせいだよな!? 誰かそうだって言ってくれー!

 こんなにきれいな犬だったら、絶対に美和ちゃんだって思うだろ!?


 うわーーーーん。半兵衛のバカヤロー!


 耳をペタっとつけてがっくりとうなだれる俺の背中を、半兵衛がポンポンと叩く。


 うわーーーーーーん。


 キュウキュウ泣いている俺の前に、ヌッっと誰かが立った。


「わん」(久しいな)


 見上げると青と赤のオッドアイの目が俺を見ろしていた。

 このシベリアンハスキー、誰だ?


「わんわんわん」(わっはっは。なぜか今世は犬になりもうした。毘沙門天の遣いであれば虎がふさわしかったのだがな。しかし、ここの暮らしも悪くはないぞ。わっはっは)


 ……なんで、上杉謙信までここにいるんだよ!? 酒はないだろっ!


 そう思いながらも、こうして皆に出会えたのは素直に嬉しい。

 旧交を温めながら、昔話に花を咲かせていると、不意に庭の方から信長兄上の懐かしい怒鳴り声が聞こえてきた。


「こらぁっ! お前、また来たのか!」


 何事だろうと目を丸くしていると、周りのわんこたちは、ああまたか、って顔をしている。

 ドッグハウスから顔を出すと、そこには貧相な体つきの、いかにも野良犬って感じの犬がいた。どうやら勝手に池の水を飲んで信長兄上に怒られてたみたいだ。


「くーんくーんくーん」


 哀れっぽく鳴く野良犬は何かを必死に信長兄上に訴えかけ、見たこともないような勢いで尻尾を振っているけど、当然、通じるわけがない。


「保健所に連絡だ! 今日こそ捕まえてやるぞ」


 そう言って捕まえようとする信長兄上の手から、野良犬は身を翻して逃げる。

 やせ細った姿からは想像できない俊敏さだ。


 っていうか、あれってさ。


 その時、野良犬がようやくこちらに気がついた。


「わんわんわんわんわんわんわんわん!」(おおおおおおお。そこにいらっしゃるのは喜六郎様ではございませぬか。私です。前田利家です。お願いします。ぜひ殿に、私もこの家の飼い犬にしてくださるように、一緒にお願いしてはいただけないでしょうか。一生のお願いにございます!)


 お前――転生しても野良犬なのか。今までよく無事だったな。


 信長兄上は当然そんな会話をしてるなんて分からないから、今度は庭を掃く竹ぼうきを持って利家を追いかけまわした。

 利家が門の外に逃げると、ピシャッとその門を固く閉じる。


「まったく。油断も隙もない」


 信長兄上はそう言いながら、こっちに戻ってきた。


「あのような野良犬から何か病気でも移ったら大変だからな。お前たちは近寄ってはならんぞ?」


 門の外からは


「きゅーん、きゅーん」(殿~、殿~。前田利家でございます。殿~、開けてくだされ~)


 という鳴き声がいつまでも聞こえていたのであった。





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