197 SS クリスマス狂騒曲 IF
クリスマスのSSです。
かなりふざけたお話なので、これはないよーという方は読み飛ばしてくださいませ。
IF話なので、ご了承ください。
メリークリスマス!
さて、クリスマスと言えば、サンタさんからプレゼントをもらう日だ。
そこで俺の周りの人たちにも、サンタさん協力の元、プレゼントを用意してみた。
まずは俺の学問の師匠、月谷和尚様だ。
えーと、なになに?
【日の本で一番おいしいものを食してみたい】
ふむ。なるほど。
日本で一番おいしいと言えば、好みはあるだろうけど、これだ。
ジャーン!
超高級、松坂牛のサーロインステーキ!
「ささ、どうぞ召し上がってください」
熱々の鉄板の上で、ほどよく焼けた松坂牛のステーキがジュウジュウと音を立てている。
「良い匂いがしますが、これは何ですかな?」
「ステーキです。南蛮の食べ物ですが、お肉は松坂の高級黒毛和牛です」
「肉ですと!?」
「はい。ほっぺが落ちるくらい、おいしいですよ」
「いや、しかし肉は――」
ナイフとフォークが使えない和尚様のために、一口サイズに切っていく。手ごたえなくさっくり入っていくナイフで肉に切れ目を入れると、そこからジュワリと肉汁が溢れだしてくる。
くう。たまらんね!
それを見た和尚様が、ゴクリと唾を飲みこむ音がした。
お箸で食べれる大きさに切って、月谷和尚様の前にお皿を出す。
「ささ。どうぞどうぞ、遠慮なさらずに」
「むむ……。拙僧は御仏に使える身でありますからな。牛の肉は――」
「今日は、クリスマスです。神仏も許してくださるでしょう」
熱々のうちに食べてもらいたいから、適当に言ってみる。
大丈夫、大丈夫。今日は特別な日だからね。
「早く食べないと、味が落ちてしまいますよ」
「むう……だがこの匂い……なんとも食欲をそそる匂いであることか」
「ぜひ召し上がってみてください。舌がとろけるようですよ」
「なんと!」
意を決したように、箸を手にした月谷和尚様は、恐る恐るステーキを口に運んだ。
一口かむと、そのまま目を閉じる。
そして黙りこんだまま口を動かしている。
……あれ? もしかして口に合わなかったのかな。
「和尚様、お味はいかがですか?」
そう聞くと、閉じていた目がカッと開かれた。
「うまいっ! なんといううまさじゃ! この馥郁たる香り、かみしめる度に広がるこのうま味。これぞ天上の美食だと言わざるを得まい」
おお。良かった。気にいってもらえたみたいだ。
「くぅぅ。よもやこのわしが、この年になって御仏の道を違えてしまうとは……。天上の美食とは、なんと罪深き物であろうか」
月谷和尚様は、そう嘆きながら、肉を食べる箸は止めなかった。見る見るうちに、皿が空になっていく。
満腹、満腹と言いながら腹をさする月谷和尚様は、ハッと我にかえるとバツの悪そうな顔をした。
「……食欲に負けてしまうとは、まだまだ修行が足りませぬな。しばらく仏堂へ籠らせてもらいましょう」
「あ、和尚様。来年のクリスマスは参加されますか?」
「も、もちろんじゃ!」
来年はもっとおいしいものを用意しないといけないな。今から何が良いか考えておこう。
さて。
次は酒好きの上杉景虎殿へのプレゼントだ。
聞いてみるまでもないけど、一応何が欲しいか聞いてみた。
【一番うまい酒を所望する】
うん。聞くだけ時間の無駄だったよね。
ただ、一番おいしいお酒といっても、好みがあるから結構難しい。でもクリマスといえば、シャンパンだよね。そしてシャンパンといえば、これだ。
ドン・ペリニオン!
見た事ないだろうから喜ぶかなと思って選んでみた。
さて、飲んだ感想はどうかな?
シャンパングラスに入ったドンペリを、景虎殿は様々な角度から観察していた。グラスの底からシュワシュワと炭酸の泡が上がってくるのを、興味深く見つめている。
「無から有が生じる。これこぞまさに神仏の奇跡を体現した酒でありますな」
そして十分に観察した後、グラスの中身を一気に呷る。
「な、なんという喉ごしじゃ。滑らかに入っていき、爽やかささえ感じる。そして――」
景虎殿はシャンパングラスを掲げ持つと、感動したかのように声を震わせた。
「飲んだ後に鼻に抜けるこの甘い香り。魂が抜け出ていくような美味さじゃな。この酒ならば、いくらでも飲めますぞ」
そう言って、シャンパンのボトルを抱え込んだ。
あ、もうこれ、お酒がなくなるまでずっと飲んでるパターンだ。
それほどまでに喜んでもらえたなら、持ってきた甲斐があるよ。
一ケース持ってきたから、思う存分飲んでください。
次は熊だな。
えーっと、なんだって?
はあ? 市姉さまとの間にたくさん子供が欲しい!?
って、頬をぽっと赤らめるな! お前が照れても可愛くないからな!
却下却下。それはサンタさんじゃなくて、コウノトリさんにお願いしてくれ。管轄外だ。
ん? 次点もあるのか。
これならいいな。
【市姫様に贈る装飾品】
装飾品といえば指輪。指輪といえばダイヤだろう。
ってことで、2カラットのダイヤの指輪を用意してみた。しかも4つのC、カラット・カラー・カット・クラリティは全部最高級だ。
光を反射してキラキラ輝いている指輪に、熊は目を白黒させていた。
「これが南蛮の装飾品でござるか。確かに綺麗なものでござるな」
「ええ。そして永遠の愛を誓う時に、左手の薬指に指輪をはめるのですよ」
「な、なるほど……」
指輪の入ったケースを大事に持った熊は、さっそく市姉さまの所へ飛んで行った。
そして今度は、指輪をはめて嬉しそうな市姉さまがやってくる。
「勝家様から、こんなに素敵な物を頂きました。信喜も、ありがとう」
「いえいえ。市姉さまが気にいってくれたのなら良かったです。さて、市姉さまのクリスマスプレゼントは何が良いですか」
「そうですね……」
【勝家様が戦で負けぬような武具】
ふーむ。武具かぁ。
確かに熊の場合は戦に行くことが多いからな。市姉さまも心配なんだろう。
それにしてもこの夫婦。
お互いに相手の物を選ぶなんて、最高だよね!
ここは一つ、その気持ちに応える、すっごい物をプレゼントしないとな。
そうなると、これだ。最強の剣と言えば――
ライト・サーベル!
持ち手しかないけど、手に持って呪文を唱えると光の剣が出てくるんだ。星の戦争でも使えるよ!
熊を呼んで、呪文を教える。
「フォーズと共にあらんことを、と言ってまじないをかけると使えますよ」
「ほ、ほーすとともにあらんことを、ですかな」
ちょっと待て、熊。それじゃ馬だ。
でもフォーズって言いにくいか。
「まあ、それで良いでしょう」
熊が呪文を唱えると、ブゥンという音と共に光の剣が顕現する。
「うおおおおおお。なんでござるか、これは!」
「何でも切れる剣です。うかつに触れると自分の体も斬れてしまいますから、取り扱いには注意してくださいね」
俺が注意するのに頷いた熊は、ブンブン音をさせながら楽しそうに剣を振りまわしている。
くれぐれも、ダークサイドに堕ちないようにな。
そして次は半兵衛か。
なるほど。半兵衛らしいチョイスだな。
【あらゆる知識を得られる書物】
となると百科事典だけど、量が多すぎるよなぁ。
コンパクトにまとまったこれにしよう。
電子辞書!
ソーラー電池で動く親切仕様だから、この時代でもずっと使えるだろう。
さすが半兵衛。電子辞書を渡して使い方を説明したら、すぐに使いこなせるようになっていた。
「ふむ。なるほど、こうやって調べれば良いのですね。なんと素晴らしい。信喜様、まことにありがとうございます」
「これで一層、半兵衛殿の知識が高まりますね」
「ええ。全てを網羅したら、この世に知らぬことはなしと言えるようになりましょう」
頬を上気させている半兵衛は、美少女っぷりが更に上がっていた。生まれてくる性別を間違ってるような気がしてならんけど、男だからこうして友達になれたわけだし、男で良かったな。
半兵衛の笑顔を見て俺も笑顔になっていると、急に後ろから信長兄上がやってきた。
「これはこれは信長様。ご覧ください。弟君の信喜様に、このように大変良い物を頂きました」
半兵衛はプレゼントの電子辞書を誇らしげに見せた。
そうかそうか。そんなに喜んでくれてると、用意した俺も嬉しいよ。
電子辞書を手にした半兵衛は、自慢げに画面を信長兄上に見せている。
「ほう。なかなかの物をもらったな」
「なかなか、ですと――?」
美少女顔だけど結構気の強い半兵衛が、信長兄上の口調にひっかかりを覚えて不満げな顔をする。
でも信長兄上はフフンとそれを鼻で笑った。
「そういう信長様はどれほど素晴らしい贈り物をされたというのですか」
「わしのはこれじゃ!」
ドヤ顔で信長兄上が懐から出してきたのは銀色に光る四角い――
「まいぱーっど!」
って、それMyPadじゃないかー!
一体誰から……って、本物のサンタさんの仕業!?
「ほれ、このように文字だけではなく精巧な絵まで映る。これこそ我が求める【全能】であろう! わはははは」
「な、なんと……」
くず折れる半兵衛は、床に両手をついて嘆いた。
そうか。信長兄上が求めたのは
【全能】
だったんだな。
信長兄上らしいというか、何というか。
確かにMyPadがあれば何でも検索できるもんなぁ。
「くっ、不覚。私も全能にしておけば良かった。ぐぬぬ。来年こそは……」
「わはははははは。竹中殿も、まだまだじゃのう」
そう高笑いする信長兄上のMyPadに、有名なユーチューバーが映ってたのは、きっと気のせいだよな! うむ。
そして次はお待ちかね。俺のクリスマスプレゼントだ。
これは特別にサンタさんが用意してくれている。
【とってもおいしいクリスマスケーキ】
生クリームのホールケーキと迷ったんだけど、クリスマスと言えばやっぱりブッシュドノエルだよな。切株に見立てたチョコのロールケーキに、マジパンで作ったサンタとマッシュルームが可愛らしい。
そこの机の上に乗せて置いたから、美和ちゃんと二人で食べようっと。
って、あれ?
どこにもないぞ?
俺がキョロキョロ見回していると、半兵衛をからかい倒した信長兄上が「どうした?」と聞いてきた。
「私が頼んでおいたブッシュドノエルがありません」
「ぶっしゅどのえるだと?」
「はい。切株のような形をしている茶色い南蛮のお菓子なのですが」
「それならもう食ったぞ」
「――は?」
「なかなかに美味であった」
「――はあああ?」
えっ。何? 俺のブッシュドノエル、食べちゃったのか?
せっかく美和ちゃんにおいしいクリスマスケーキを食べさせてあげようと思ってたのに!?
しかも一人で!
ゆ、ゆるせーん!
「信長兄上。この信喜は、今度ばかりは腹が立ちました! その腹かっさばいて、ブッシュドノエルを取り返します!」
「待て信喜。何を血迷っておる」
「俺のくりすますけぇきいいいいいいい!」
刀に手をかけて叫ぶと、みんなが集まってきた。
「これ、信喜殿。乱心いたすな」
「どうなさった信喜殿。落ち着かれるが良い」
「信喜様! お気を確かに!」
「信喜、早まってはなりません」
「信喜殿、気持ちは分かりますが人目のある所ではいけません。短気は損気ですよ」
集まってきた月谷和尚様、景虎殿、熊、市姉さま、半兵衛がそう言って俺を止めようとするけど、信長兄上の一言が、さらに油を注いだ。
「腹をかっさばいても、もう無くなっておるわ。食われたくないなら、隠しておけば良かったものを」
むっきー!
盗人猛々しいとはこのことだ!
この俺が成敗してくれるぅぅぅ。
「お待ちください、信喜様。こちらをどうぞ」
鈴を転がすような可愛らしい声と共に、俺の目の前に何かが差し出される。
白くて丸いそれは――
「クリスマスケーキ……」
マジパンのサンタも、チョコで作った家も、全部揃っている生クリームのホールケーキだ。
「美和が、なぜこれを……?」
「私、信喜様が二番目に欲しいものを、とお願いしておりましたの。それで――」
み、美和ちゃあああああああん。
君は何て良い子なんだ。惚れ直してしまうだろう!?
美和ちゃんは、本物のサンタさんからもらったホールケーキを人数分に切ると、一番大きいケーキを俺にくれた。
あまーい。うまーい。
これぞクリスマスだなっ。
おいしいケーキを食べて、みんなの顔もニコニコだ。
って、俺のブッシュドノエルを一人で食べた罰として信長兄上の分は取り分けてないのに、なんで当たり前のようにケーキを食べてるんだ!?
「景虎殿、かたじけない。遠慮なく頂こう」
「いえ、お気になさらず。私は甘い物より酒を飲みたいだけですので」
「さようであるか。では後でまた清酒をたんまり用意させましょう」
「それは重畳。くりすますというのは、何とも良い日のことでありますなぁ」
「重畳、重畳。わっはっは」
「わっはっは」
……うん。意外にも気の合ってる二人は放っておこう。
それに何といってもクリスマスだしな。これくらいの事で目くじらを立ててはいかん。ブッシュドノエルを食べられなかったのは残念だけど、その分、美和ちゃんの愛を感じられたし。
結果オーライってことだな。うむ。
さてと。
これでクリスマスプレゼントは全員に渡ったな。
今日は用事があって参加できないって連絡があった滝川リーダーは、特に欲しい物がなかったのか、冗談で返事を返してきた。
【忍びのこの世からの抹殺】
もうさ、冗談にしても、もうちょっと気の利いた冗談にして欲しいよな。
あの穏和な滝川リーダーじゃなかったら本気にしたところだよ。
確かにたまに黒い所はあるけど、こんな事を願うほど非常識じゃないからな。
まあ、忍びのことはちょっと嫌いみたいだけどな。
……。
……冗談、だよな?
よ、よし。とりあえずみんなにプレゼントは渡したし、これでお開きだな。
「ちょ、ちょーっと、待ったぁぁぁぁ」
ん?
「それがしのくりすますぷれぜんとやらがないでござる!」
いやだって、野良犬利家のお願いってさ。
【信長様の元に帰参したい!】
だったんだけど、本人に却下されちゃったんだよな。これはもう、どうしようもないよ。
「品物だったら何とかなったのですが、力及ばす申し訳ありません」
「なんという事だ! この世に神も仏もないものかぁぁぁぁぁ」
利家が騒ぐから、信長兄上もチラっとこっちを見た。
そしてすぐに目を逸らした。
「ぐはぁ」
信長兄上に無視されてショックのあまりひっくり返った利家を、両手を合わせて拝んでおく。
ま……まあ、望み薄だけど、がんばれ。
今年のクリスマスは、若干一名をのぞいて、みんな素敵なプレゼントをもらったな。
サンタさん、ありがとう!
みんなにも素敵なプレゼントが届きますように。
メリークリスマス!




