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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄二年

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194 嵐の後で

「本当に、嵐のような方でしたね」

「ええ。半兵衛殿の言う通りです」


 長尾景虎殿がやっと帰って、尾張には日常が戻ってきた。平穏な日常、ばんざい。


 景虎殿はこの龍泉寺城にもやってきて、温泉につかりながらお酒を飲んでいた。酔いが回り過ぎるから危険だって止めたんだけど、「湯につかりながら飲む酒はまた格別じゃ」って笑ってぐびぐび飲んでた。


 まったく。何を言っても聞く耳を持たなくて困ったよ。


 しかもお風呂上りには半兵衛と将棋を打ったりして、まるで自分の家のようにくつろいでいた。

 ……うん。いつも胃の辺りを抑えてた柿崎殿の体調が心配だ。景虎殿が酒の飲み過ぎで倒れるより先に、柿崎殿の胃に穴が開くかもしれん。


 将棋の勝負では景虎殿の方が勝ち越していた。半兵衛もかなり将棋が強い方だと思うんだけど、景虎殿は思いも寄らない一手を打ってくるから予測が立て辛いんだとか。


 確かに将棋の定跡、つまり最適な一手っていうのは、兵法に通じるからな。戦の天才である景虎殿が将棋も強いのは納得だ。


 今までは景虎殿と互角に対戦できる人はあんまりいなかったらしくて、柿崎殿が二人の対戦を見てびっくりしていた。


「まさかあれほど越後に誘われると思いませんでしたが……」


 そうなんだよ。

 景虎殿は半兵衛の事を凄く気にいって、越後に来ないかってしきりに誘ってたんだよな。


 だけど半兵衛はいずれ信長兄上が一番信頼する軍師になる予定だからな。越後にヘッドハンティングなんかさせるもんか。


 幸い、半兵衛は越後に行くつもりがなかったからやんわりと断ってたけど、その後も何度か誘われてたんだよな。

 見かねた俺は、景虎殿に「無理強いしたら、越後にお酒を持って行きませんよ」って脅し……いや、平和的にお話して納得してもらった。うむ。何も問題はない。


「確かに半兵衛殿ほどの知恵者が欲しいというのは分かりますけどね」

「いえ。あれは私が目当てというより、将を射んとする者はまず馬を射よということではないかと思うのですが……」

「それは半兵衛殿が馬ということですか? では将はどなたでしょう」

「分かりませんか?」


 笑いを含んだ声で聞かれるけど、さっぱり分からん。

 話の流れとして、景虎殿が本当に欲しかったのは俺のことかなとも思うんだけど、半兵衛と俺だったら、どう考えても半兵衛の方が価値があると思う。


 あ、でも景虎殿は忍びを使って酒に関して色々調べたかもしれん。鵜飼さんが、景虎殿の家臣の中に同業者っぽいのがいるって言ってたしな。


 いずれにしても清酒は生駒さんが開発したし、火酒は蒸留したら作れるし、俺一人を連れて行っても意味はないよな。

 うん。やっぱり半兵衛が勘違いしてるんだと思う。






 半月後。

 越後から結構な量の越後上布が届いた。

 これってどう考えても、お返しにたくさんお酒を送れってことだよな。でも景虎殿にかなり飲まれちゃって在庫が少ないからどうしようって、明智のみっちゃんが頭を抱えていた。


 尾張では米の収穫が上がってるから、多少は酒造りの方に回せるだろうけど、すぐにはできないからなぁ。


 米といえば、尾張ではそこそこ豊作だったんだけど、東の方ではかなりの凶作になったらしい。何でも長雨が続いて稲が駄目になったんだとか。


「戦が増えるじゃろうなぁ」

「不作となれば民が飢えますからね。飢えさせない為には、手っ取り早く敵対する土地から略奪するのが一番と考えるでしょう」


 景虎殿がいる間は不在にしていた月谷和尚さまの庵に半兵衛と行くと、さっそく景虎殿の話題になって二人であれこれと話をしていた。

 月谷和尚さまはその酒豪っぷりを面白がっていたけど、自分もかなりの酒好きだから、もし会ってたら結構気が合ったと思う。次の機会には会えるといいな。


「戦ですか……」


 今川との小競り合いは続いてるけど、桶狭間の戦いのような大規模の戦いが起こる気配はまだない。とりあえず年内は大丈夫だとして来年は分からんよな。


 いずれ桶狭間で戦いが起きるのは確実だから、その兆候を見逃さないようにしないと。






 そしてそれは、思いもかけず早くに訪れた。


 熱田の南東、天白川の東にある大高城の城主、水野忠氏と、大高城のさらに東にある沓掛城の城主、近藤景春の両名が、織田から離反した鳴海城の山口教継(のりつぐ)の調略によって今川方に寝返ってしまう。


 これにより、天白川より東はほぼ今川の支配域になってしまった。


 もちろん信長兄上はすぐに家臣たちを集め、対策を協議した。


 そして鳴海城の周辺には丹下砦・善照寺砦・中嶋砦を、大高城の周辺には丸根砦・鷲津砦を築いて対抗していくことになった。





 評定の間でその決定を聞いた俺は、いよいよ桶狭間の戦いが近づいてきているのを、感じずにはいられなかった。

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