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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄二年

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171 信長兄上暗殺計画

 なんて、まったりお土産を待ってる暇なんてなかった。清須で信長兄上がいない間の留守居を務めている信次叔父さんから、親族と留守番役の重臣たちに招集がかけられたからだ。


 信次叔父さんっていうのはあれだ。守山城主で、俺を矢で射った洲賀才蔵を家臣に持ってた叔父さんだ。信光叔父さんの葬儀の時にはもう俺を誤射した時の謹慎は解けてたんで、今回は清須の留守を守るっていう大役に抜擢されている。


 っていうか、信長兄上が留守を任せられるのが、信次叔父さんくらいしかいないっていうのが実情だ。


 叔父の中でも、父上のすぐ下の弟の信康叔父さんは齋藤道三と敵対してた時に稲葉山城攻めで戦死してるし、信光叔父さんはこの間誅殺された。その下の信実叔父さんは小豆坂の合戦で、今川方の太原雪斎・松平広忠・朝比奈泰能の連合軍と戦った時に戦死しちゃってる。

 

 他の力になってくれるはずの有力家臣も、林兄弟の弟の方の林通具(みちとも)は敵対しててもう死んじゃったし、兄の林秀貞(ひでさだ)も一応は謹慎が解けて文官として信長兄上に仕えているようではあるけど、さすがに留守を任せるまでには信用されていない。


 熊も有力家臣の一人だけど、今回は信長兄上と一緒に上洛してる。


 まあ、ここだけの話、あれだ。

 熊は市姉さまをもらい受けるために、信長兄上の上洛に同行して、正式な官位をもらいに行ってるんだよ。

 そこら辺の根回しはもうついてるみたいだから安心だけどな。なんだか信長兄上がニヤリと悪人顔で笑って「喜六の折据えが役に立った」とか言ってたけどな。

 ただの折鶴だけど。まあ役に立ったんなら良かったよ。


 もちろん信長兄上も正式に上総介の官名をもらうはずだ。……多分。


「上洛した信長兄上に何かあったのでしょうか」


 心配になって龍泉寺から一緒にきた信行兄ちゃんに話しかける。

 信行兄ちゃんはいつかのやつれっぷりは収まったのか、以前と変わらないイケメン僧侶に戻っている。男同士の恋愛のもつれは大丈夫なんだろうか。いや、あんまり深入りしたくないから聞かないけど。


「何かあったのは確かだろうが、兄上は無事でいらっしゃるだろう」

「それなら良いのですけど」

「心配するな。あの兄上がやすやすと殺されるはずがない」

「それでも、心配です」


 そう言いつのる俺に信行兄ちゃんは振り返って、安心させるかのように微笑んだ。


「大丈夫だ。兄上には天意がある。他ならぬ、お主が言ったのであろう?」


 そ……そんなこと、言ったかな。

 信行兄ちゃんが自分で言った言葉だと思うんだけど。


 それにしても、あんなに信長兄上に反発してた信行兄ちゃんがこんなセリフを言うようになるなんてなぁ。信行兄ちゃんの心の成長を見守っていた俺としては、本当に嬉しくなるね。


 なんとも言えない感慨に思いを馳せつつ信行兄ちゃんと一緒に評定の間に着くと、しばらくしてから信次叔父さんがやってきた。


「上洛した殿より連絡があった。美濃の斉藤義龍による殿の暗殺計画があったが、那古野勝泰なごやかつやす殿の家臣である丹羽兵蔵の機転により未然に防がれたとのことだ」

「おお」


 安堵の声と同時に、暗殺とは卑怯な、という声も聞こえる。

 武士にとって正々堂々と戦うことは、例え死んだとしても名誉な事だと褒めたたえられるんだけど、反対に暗殺とか毒殺とか、そういった卑怯な手段を使った場合は非難される傾向にある。

 いわゆる武士道精神からはずれた行動になるからだろうな。


 俺が使ってる毒の矢も、本来なら卑怯だと非難されるやり方だ。でも、殺し合いなんだからさ。矢じりに塗るのが糞尿だろうとトリカブトの毒だろうと、殺意の有無を考えたら同じだと思う。

 だから、毒矢を使うのにためらいはない。


 もっとも自分から毒矢ですよ、とは言ってないけど。

 一応、使う矢を熱田神社に奉納して、その矢を返してもらって使う、っていうイメージ操作をしてる。


 こうするとさ。あら不思議。俺の使ってる矢は毒を塗った矢じゃなくて、神様の加護を得た一撃必中の矢だって言われるようになった。


 卑怯でも何でもいい。

 俺は、この時代で生きていくんだから。


 その場に呼ばれていた那古野殿に、皆が感謝の言葉を述べる。

 那古野殿というのは、元々この清州に住んでいた大和織田家の守護代である織田信友に仕えていた。でも信友と敵対関係になった尾張守護斯波義統(しばよしむね)の家臣である簗田政綱やなだまさつな殿のハニートラップによって寝返って、信長兄上の陣営に裏替えしたんだな。


 いや。男が男にハニートラップとか訳分からんから。簗田殿も確かに凄いイケメンだし、那古野殿もイケメンだけどさ。

 そういえばなんかいつも一緒にいるなと思ってうっかり熊に聞いてみたら「恋人同士ですからな」とかあっさり答えられて絶句したりもしたけどな。


 そこのところは、一生理解できなくていいや。


 その那古野殿の家臣である丹羽兵蔵っていうのは、信長兄上によると元々は梁田殿の部下で、『饗談』に属する忍びなんだそうだ。


 つまり、梁田殿が信長兄上お抱え忍者集団『饗談』のトップってことだ。聞いたところによると、別に本人が忍びなんじゃなくて、信長兄上に言われて責任者になってるだけみたいだけどな。

 そこら辺は甲賀とか伊賀なんかと違うらしい。


 それでその丹羽兵蔵は信長兄上に先行して危険がないかどうかを調べる役目だったんだけど、その途中で怪しげな一団を発見した。


 ちょうど近淡海(ちかつあわうみ)、つまり現代で琵琶湖って呼ばれてる湖を渡る為に立ち寄った、志那の渡しって船乗り場のとこで見かけたもんだから、いい感じに同じ船に乗ったらしい。


 そこで。


「おまいさん、どこから来たんだい?」

「はあ。わしは三河から行商に来たもんですが、尾張の国はいけませんなぁ。信長公の威光に委縮して、国中が静まり返っておりますよ。ですから尾張での商いは諦めて、京へ向かう所です。はい」


 なんて会話があったらしい。意訳だけどな。


素敵なレビューを頂いたので、昨日の活動報告に小話を書きました。

良かったら読んでください。


ハニートラップの話は創作ではありません。

信長公記に……

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