170 初上洛(信長兄上の)
「上洛、ですか?」
風呂の後に帰るかと思った信長兄上は、なぜだか夕飯も食べて行くことになった。
……あれ? 確か最初は出来上がった城を見に来るだけの予定じゃなかったか? いつの間に一緒にご飯を食べることになったんだろう。
まあ近いうちに身内の熊とか半兵衛とか、お隣さんになった信行兄ちゃんとかも呼んで引っ越し祝いパーティーをやるつもりだったんで、食材はあるから良いけどさ。
いや、もちろん信長兄上も最初から呼ぶ予定だったよ? 信長兄上だけ呼ばないで仲間はずれにするなんて、そんな恐ろしいことをするわけナイジャナイカー。
城の中に諏訪神社のお社も立てたから、そこに奉納したことにしてお肉も食べ放題だしな。猪肉のみそ漬けとか、結構おいしいんだ。
それから牛肉を醤油と酒とニンニクにつけてる和風ステーキもどきも楽しみだ。
ニンニクってさ、薬として山伏が扱ってたんだよ。お寺でも栽培することがあるらしくて、この龍泉寺でも栽培してた形跡があるらしい。栽培してたのを隠すために栽培地を雑草まみれにしてたけど、タロとジロが発見したんだよ。さすがだな。
だけど、さすがに信長兄上がここにお泊りするなんてことはないよな。俺が龍泉寺城の完成に合わせて作成した新しいベッドと枕を、一番最初に使うのが信長兄上なんてことはないよな?
「それほど人は連れて行かぬがな。ああ、言っておくが、お前は留守居役だ」
えー!
この時代の京都だったら、俺も行ってみたい!
旅行どころか、遠出すら熱田神社に行った事があるくらいだからな。
さすがに他の大名の支配する地域を通る時にはあらかじめ許可を取ってないといけないんだよ。気軽に旅行に行こうと思っても、今日決めて明日行くなんてことはできない。何事も根回しが大切なんだ。面倒だけど。
尾張から京都だと、通るのは近江か。ってことは六角家の支配地域だな。つまり、上洛する際に近江を通り抜ける許可をもらったのか。
ああ、そういえば半兵衛のとこは六角家と付き合いがあるって言ってたな。六角家と関りがある甲賀忍者の鵜飼さんと一緒に尾張に来たのも、そこら辺の調整のためだったのかもしれんね。
それにしても、京都かぁ。行ってみたいなぁ。京都に行くってことになると、旅行気分が味わえるだろうし。
「私も信長兄上のお供をしたいです!」
「うつけが。遊びにいくのではないぞ」
いやだから、なんでわざわざ俺のとこまで歩いてきてゲンコツするんだよ。ダメならダメで、言葉でそう言えばいいじゃないか!
「それに下手にそこらを行き来して、断れぬ筋から小姓になれと無理強いされたらどうする。喜六のような変態はそれほどおらぬぞ」
……げせぬ。
恋愛対象が女性に限るってだけで変態扱いとか、それはないと思う。むしろ男も女もどっちも好きっていうほうが変態だと俺は声を大にして言いたい。
言えないけど!
だって、信長兄上はどっちもいけるクチだからな。下手に批判なんてしてみろ。経験でもしてみろってホモの巣窟に投げ込まれるに決まってる。
俺は。
ぜっっったいにっっ。
ぜえええええったいにっ!!
アッーは拒否するからな!
だから、そういうことなら、京都行きは断念しよう。うむ。
信長兄上の初上洛は二月に入ってすぐのことだった。
八十人ほどの少人数での上洛だったけど、これくらいのほうが身軽に動けて良いって言い張って、その人数で出発した。
周りの人はせめて五百人くらい連れて行ったほうが、って言ったんだけど、岩倉城も完全に落ちてなくて斎藤義龍が攻めてくる可能性も捨てきれないってことで、尾張には十分な兵を残していくことになった。
それでもって、名門の出身で京都に知り合いがいるみっちゃんこと明智光秀が同行することになった。
がんばれ、みっちゃん!
この時の京都の情勢は、三好長慶との政争に負けた足利将軍義輝が朽木に逃げた後、去年くらいに近江の坂本辺りまで戻って、そこで六角義賢の仲介によって長慶との間に和議が成立したんで、将軍が京都に戻ってきたって感じだ。
このパターン、実は二度目らしい。
三好長慶が学習しないのか、それとも足利義輝が学習しないのかは分らんけど、なんで何度も同じ事を繰り返すんだろうな。
その度に世が荒れるじゃないか。
ただ将軍が住む御所がなくて新しく造らないといけないから、新御所ができるまでの間、妙覚寺に絶賛居候中である。そして妙覚寺といえば、信長兄上の正室である濃姫の父、斎藤道三が若い頃に修行していた寺で、伝手がある。
その伝手のおかげで将軍とも面談できる予定らしい。
うーん。でも確か織田信長って足利将軍と仲が悪いんじゃなかったっけ。でも信長兄上のおかげで将軍になれたのに、信長包囲網を作るんだったような。
じゃあ、もう将軍になってる今の足利義輝は信長兄上とは敵対しないんだな。それなら安心だ。
京までの道中の六角氏とは話がついてるし、そこら辺の山賊とか盗賊くらいなら脳筋揃いの信長兄上の一行に勝てるわけないし。
今回の京都行きは、将軍と、それからこの時代では貧乏な暮らしをしてるらしい天皇と会うイベントをこなすって感じかね。
お土産には美和ちゃんにプレゼントする用の、綺麗な反物をリクエストしておいたから楽しみだな。




