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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄元年

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162/237

162 浮野の戦い その2

 そして……うん。信長兄上、敵の中に突っ込んで行ってる。でもって無双してる。


 もちろん周りに血の気の多い脳筋……じゃない、勇猛で名を馳せている前田利家とか丹羽長秀とか服部小平太とか、あ、俺と一緒でまだ元服してない岩室重休もいる。


 凄い勢いで槍を振り回してるけど、岩室重休って滅茶苦茶強いんだな。


 こうして見ると、信長兄上たちの戦い方って連携が取れてるな。

 伊勢守織田家とは交流があったから、信長兄上の顔を知ってる敵も多い。だから、信長兄上は思いっきりピンポイントで狙われてるんだけど、向かってくる敵を、逆にどんどん倒していってる。


 なんていうか、あれって、信長兄上を囮にして皆で無双してるんじゃないか……?


「喜六郎様! 敵が参ります!」


 っと、こんなところでのんびり観察してる場合じゃないな。


 滝川リーダーの声で我に返った俺は、俺の方に向かってくる敵兵を認めた。


 混戦で敵味方の区別をつけるには、背中に背負う小さな旗で判別できる。ただ、旗は戦ってる最中に折れたりどこかへ行ったりするんで、どっちの軍か分かるように手首に白い布を巻いている。

 信賢の軍は赤い布だ。


 そして俺に向かってくる兵は、手首に赤い布を巻いていた。


 俺の左には槍を持った滝川リーダーが。独鈷杵どっこしょを構えているタロとジロは、俺の前後にいる。一緒に行軍してきた木下藤吉郎は……あ、ちゃんと俺の前にいるな。鵜飼孫六さんも俺の左側で槍を構えている。


 俺も、大きく息を吐いて弓を構える。

 こんな乱戦で遠くにいる武将を狙い打ちなんて、俺の腕では無謀だ。間違って味方に矢を射ってしまったら、目も当てられないからな。


 だから、確実に敵を殺す為に。

 俺の持つ矢の矢じりには、毒を塗った。今現在手に入る、最強の毒―――トリカブトだ。


 タロとジロに野生の物を探してもらって、末森の近くの山で密かに栽培してもらってたんだ。いずれ龍泉寺城に薬草園を造る時のための物だったけど、初陣が予想外に早まったとはいえ、いずれは戦に出なくちゃいけないのが分かってたからな。その時の為に栽培していた。


 正直、こんなに早く使う事になるとは思わなかったけど……


 毒を抽出するのはタロとジロがやってくれた。山伏はそういう知識も豊富なんだそうだ。


 槍を振り回しながら敵兵が近づいてくる。頬当てをして兜をかぶっているから、若いのか壮年なのか、名のある武将なのかも分からない。


 だから、ただ右の手首につけられた赤い布だけを目印にする。


 敵との距離は約六十メートル。

 五十。四十。三十。二十。

 

 今だ。


 ヒュン、と矢が頬の横を過ぎる。


 矢は、狙い通りに、向かってくる敵の目を貫いた。


 その刹那。


 向かってきた敵の動きが止まる。


 見開いた左目が、俺の姿を映した。


 ドウ、と。


 そのまま、後ろに倒れた。


 ―――殺した。

 人を―――殺した。


「喜六郎様。お見事でございます! 首を取りましょう」


 どこか遠くで、滝川リーダーの声が聞こえる。返事をしようとして、喉の奥がひきつれた。

 グラリと傾きそうな体を、誰かが抱きとめる。


「タロ……」

「しっかりなさいませ。ここは戦場でござる。気を抜くと、殺されまするぞ」


 俺の前で独鈷杵を奮っていたタロは全身を返り血に染めていた。

 そうだ。敵はあの武将だけじゃない。タロの返り血も、俺を狙ってきた他の敵の物だろう。


 そうだ。ここは戦場だ。

 呆けている暇はない。


 俺はぎゅっと唇をかみしめると、軽く頭を振った。


 気をしっかり持つための動作だったけど、それが倒した敵の首を取らないという意思表示に見えたみたいだ。俺の横にいた鵜飼孫六さんが代わりにやってくれるらしい。


 鵜飼孫六さんは右腰に差していた短刀を抜いた。鎧通しと呼ばれるそれは、討ち取った敵の首をねじ切るための、刃渡りが短く、刃が厚くて丈夫な短刀だ。


 首を切るために兜をはずした時に一瞬見えた顔は、俺と同じくらいの若武者のものだった。






 それからも襲ってくる敵を、殺して、殺して。


 何人殺したか、もう分からなくなった頃。急に敵が襲ってこなくなった。


「お味方が到着されたぞ! 犬山城から、援軍が来たぞ!」


 誰かが叫ぶその声に。


 こちらの軍勢がさらに千人増え、形勢が一気に味方に傾いたのを知った。



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