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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄元年

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160 出陣

 出陣の日まで、信長兄上と直接話をする機会はなかった。


 だけど俺の供回りとして、リーダー滝川をつけてくれた。もちろん俺の護衛のタロジロも一緒だ。それに加えて、半兵衛のお供として清須に滞在してる鵜飼孫六って人を寄越してくれた。


 尾張に来たばっかりの人を戦に連れて行ってもいいのかと思うけど、信長兄上が許可したってことは、いいんだろう。もしかしたら何か凄い特技があるのかもしれないな。

 もしかして忍者だったりしてな。そんな事ないだろうけど。


 出陣の際には、三献さんこんの儀が行われた。さすがの信長兄上も、ちゃんと出陣の時はげんを担ぐんだな。


 出陣は前軍、中軍、後軍、荷馬隊に分かれて進軍する。前軍は最初に敵と戦う事が多いから、強い武将を配置する。

 次の中軍に総大将がいる。親衛隊となる馬廻りも、ここに配置されてるな。

 後軍は背後の警戒だ。


 最後の荷馬隊は物資を運ぶ。今回の戦は同じ尾張で近いからそんなに荷物は必要じゃないけど、陣地を作ったり壕を作ったりする。それから戦死者を埋葬したりする為の工具を持っていくから、それを馬に乗せている。


 黒い鍬を持つから黒鍬隊って呼ばれることもあるけど、織田うちの場合は、くわじゃなくて深鍬って呼ばれてるシャベルを持たせてるけどな。穴も掘れるし、武器にもなる最強の工具だ。


 それに、何日もかけて攻めに行く場合は、兵糧なんかも必要になるな。


 長期の行軍の場合は、鎧は着ない事が多い。馬も本人も疲れちゃうからな。だから布陣してから鎧兜を身につける。

 行軍中に兜を持つ兜所役とか、鎧を着せる鎧着所役、槍を持つ槍持、弓を持つ弓袋持、矢を持つ矢箱負いなんていう役職もあるくらいだ。


 ただこの戦では、それほど遠い場所に行くわけではないのと、信長兄上の威光を知らしめる為に、それぞれ見事な意匠の鎧兜を身につけての出陣だ。


 俺も信長兄上が使っていた鎧兜を身に着けている。兜の前立ては三日月だ。胴丸は黒地に臙脂えんじ色の落ち着いた物だ。

 だけど、結構重い。でもって動きにくい。格調が高いって言われてる大鎧よりはマシだけど。


 信長兄上の鎧は、黒と赤の派手な鎧だ。前立ての三日月も、俺の兜のよりだいぶ大きい。派手好みの信長兄上らしい鎧だ。


「ものども、よく聞けい!」


 黒毛の立派な馬に乗った信長兄上が、声を張り上げた。


「これより親殺しの大逆を為した美濃の斉藤義龍と手を組み、尾張を我が物とせんと企む、伊勢守家の織田信賢を討ちに参る! ものども、我に続けぃ!」


 おう、と二千人にも及ぶ兵たちの声が返る。


「いざ、出陣じゃ! えいえい」


 信長兄上が軍配を掲げると。


おう!」


 手にした槍や太刀を打ち鳴らし、兵たちの鬨の声が上がる。

 鬨の声は三度繰り返され、その度に大地が震えた。


 そうして、進軍が始まった。


 前軍には勇猛さで名を馳せている熊とか下方貞清殿、佐久間のおじちゃんこと佐久間信盛殿、美和ちゃんのお兄さんの生駒家長殿、義理父になる予定の千秋季忠殿は、前軍に配置されている。


 中軍には総大将の信長兄上と馬廻りの前田利家、池田恒興、佐々政次、孫介、成政の三兄弟がいる。


 後軍には俺とリーダー滝川とみっちゃんと、そしてなぜか足軽の中に豊臣秀吉、じゃなくて、木下藤吉郎がいた。


 久しぶりに見る藤吉郎は、俺と目が合うと、軽く会釈をした。


 俺も軽く頷く。そして前を向いた。

 そこには総大将である信長兄上の背中がある。


 なんだか不思議な気分だ。あの、織田信長と、豊臣秀吉と一緒に戦に行くなんてさ。


 今でも、夢を見てるんじゃないかと思う時がある。

 こっちの、織田喜六郎の人生の方が、胡蝶の夢なんじゃないかって。


 だけど……

 夢だろうが、現実であろうが。


 ここにいる俺は、織田喜六郎として生きるしかない。

 俺が、そう決めたから。






 清須から織田信賢のいる岩倉城までは、北東に大体三キロメートルくらいのところだ。ただ、正面から攻めると守りが固いんで、城の背後に布陣して野戦に持ちこむ策を取るらしく、浮野っていう岩倉城よりだいぶ北にある場所を目指していた。


 浮野は美和ちゃんの住む生駒屋敷のすぐ西にある平地だ。生駒の家は信長兄上の側室である吉乃さんの実家だからな。通いなれた道でもあるんで、信長兄上はこの辺の地理には詳しいのかもしれない。それでここを戦場に決めたのかもしれんね。


 そして、ここに布陣した後、俺の初めての戦―――初陣が始まる。




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