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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
永禄元年

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153 似た者夫婦

「義姉上! いくら義姉上と言えど、お戯れがすぎましょう!」


 いつもは穏やかに微笑んでいる市姉さまが、まなじりを吊り上げて濃姫に迫った。でも濃姫は意外なほどの身の軽さでそれを避ける。


「ほほほ。そう怒るでない。せっかくの美しい顔が般若のようであるぞ。ほれ、喜六郎殿も怯えていらっしゃる」


 ……へ?

 いやいやいやいや。別に市姉さまに怯えたりはしないよ。

 怒った顔がちょっと母上に似てるなとは思ったけど。

 そんなので怯える訳、ないじゃないか。


「喜六……」


 俺の様子に目を見張った市姉さまが、怒気を抑えて、次に悲しそうな顔をした。


 ご、ごめん。本当に、市姉さまと母上は違うってちゃんと分かってる。

 だから、市姉さまにそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。

 だけど、なぜか母上を思い出すと、体が震えて―――


 そんな俺の体を、犬姉さまが優しく抱きしめてくれる。

 市姉さまと似ていて少し違う香の匂いに、いつの間にか止めていた息を吐いた。


「いい加減になさいませ。いくらお方様とはいえ、やって良い事と悪い事があるくらい、お分かりでしょうに。なにゆえこのような暴挙をなさったのかは存じませぬが、喜六に害を加えようとした事、兄上がお帰りになりましたら、はっきりとお伝えいたします」

「殿の寵愛なさる末の弟君に、わらわがかすり傷一つ、つけるはずなどかろう。寸止めができぬほど腕は衰えておりませぬゆえな。安心なさるが良い」 


 あまり声を荒げないようにしながら言う犬姉さまに、濃姫は泰然とした態度を崩さない。

 犬姉さまは安心させるかのように、俺の背中を軽く叩いた。


「それで、お方様にはどのような御用がおありなのですか? 先触れもなく突然いらっしゃるのですから、急ぎの御用なのでしょうね?」


 いつものおっとりした犬姉さまからは想像できないほど、険を含んだ声に、俺の方がびっくりする。思わず見上げると、それに気がついた犬姉さまが優しく微笑んでくれた。


 うん。俺のほうが背が低いっていうのは、この際、考えないようにしておこうか。


「喜六郎殿が倒れられて以来、一度もお会いしておらぬゆえな。たまには親しく語らおうかと思って参ったのですよ」


 親しく語らうのに、いきなり刃物をつきつける訳?

 あーりーえーなーい!


「それにしては随分と乱暴なお出ましでしたこと」

「ほほほ。細かい事は気にせぬことだ。ほほほ」


 口元を袖で隠して笑う濃姫は、悪いことをしたっていう自覚が全くないみたいだった。

 大人の女性であるのは確かだけど、どこか子供っぽいんだな。


 そして俺はこれに似た性格の人をもう一人知っている。濃姫の夫である、信長兄上だ。


 ということは、だ。

 何を言っても無駄、って事だな!

 HAHAHAHA。


「ほう。これは折据おりすえであるか。見事な鳥の姿じゃのぅ」


 濃姫は俺と市姉さまたちが折った折り鶴を見て、感心したような声を出した。さすがにこれ以上の傍若無人ぶりはまずいと思ったのか、手に取って見るまではしていない。

 でもじっくり見たそうな雰囲気は凄く伝わってくる。


 だってさ、いい大人なのに、折り鶴を見て、目がきらきらしてるんだもん。

 そしてこんな性格の人を俺はもう一人知っている。以下同文。


 俺は犬姉さまをぎゅっと抱きしめ返すと、そっと離れた。心配そうに見る犬姉さまと、そして俺に声をかけられずにいる市姉さまに微笑みかける。


 もう十三歳だからな。

 元服したっておかしくない年だ。いつまでもこんなに女々しくちゃ、織田の名前が泣くからな。


 俺も、もっとしっかりしないとだ。


「鶴の姿を折っております」


 俺はそう言って、完成した鶴を濃姫に手渡した。

 よいのか、とでも言うようにこちらを伺う濃姫に、俺は頷きで答える。


 折り鶴を手に取った濃姫は、目の前にかざして、ためつすがめつ見ていた。そのまなざしは好奇心に満ち満ちている。


「ほう。よくできておるな。喜六郎殿が考えられたのか?」

「いえ。胡蝶の夢の中で、作り方を覚えました」

「ほう。……どのようなところであったのかの。わらわも天上の世界を見てみたいものだ」

「戦のない、平和な世界でございましたよ」


 俺はかつて信長兄上に語ったのと、同じ事を言う。

 濃姫はそれを聞いて、一瞬目を伏せた。


「戦のない世か……夢のようじゃな……」


 そして伏せた目をゆっくりと開けて、信長兄上にも似た鋭いまなざしで俺を見据える。


「して……喜六郎殿は、その戦のない世を、殿と共に作りたいと思っておられるのか?」


 そんな事はありえないんだけど。

 その返答次第では斬り殺されるかのような、それほどの気迫が、濃姫にはあった。



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