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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
弘治三年

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148 火傷の治療

 しばらく水で冷やしてから、俺は信長兄上に痛みがあるかどうかを聞いた。

 ない、って言われたけど、信長兄上の事だからな。やせ我慢って線もあるから当てにならない。えーと、火傷の症状にもよるけど、確か十五分から三十分くらい冷やすんだっけ。

 ってことは、五分くらいこのまま冷やして、それから水を何回か替えればいいかもしれない。


 俺が患部を冷やしている間に、左介の死体はツッチーの助勢していた家臣が運んでいった。そして「これで決着はついたな」という信長兄上の鶴の一言によって、双方は解散させられた。

 もちろん「後々禍根は残すなよ」っていう太い釘を刺すのも忘れない。


 さすが信長兄上。乳兄弟であるツッチーの家臣といえども、えこひいきはしないんだな。

 こういう正義感のあるところが、本当に凄いと思う。


 いやだって、この時代ってえこひいきが当たり前だからさ。身内に甘いのが当然なんだよ。というより、甘くしないと味方してくれないっていうか。

 基本的に、自分に利がないと味方してくれないんだよ。不満があるとすぐ下剋上だからな。


 もっとも義理固い武士もいるから、一概には断言できないけど。主君の為に命をかけるとかそんな話もあるからな。


「まったく。恒興は何をしておるのだ。家臣の手綱はしっかり握っておかぬか」


 鷹狩にツッチーは同行してないけど、信長兄上はそう文句を言った。

 まあ俺もそれには同意だけどな。


 鷹狩に同行していたのは六人衆と呼ばれる者たちだ。弓が得意な浅野又右衛門、太田又介、堀田孫七の三人。それから槍が得意な伊藤清蔵、城戸小左衛門、堀田左内の三人。それを合わせて六人衆だな。

 この六人は信長兄上のお気に入りで、鷹狩の時には大体一緒に行く。


 もちろんそれだけじゃないけどな。他にも鷹狩の時には必ず連れて行く馬廻りもいる。


 そして俺が注目するのは太田又介だ。だってさ、こいつ、通称が牛一なんだよ。


 そう。太田牛一。

 後に信長公記を書く、作者様だ。

 チラっと見る限りでは、なんていうか普通の顔だった。いやまあイケメンのイメージはなかったけど、もうちょっとこう、知的な感じをイメージしてたんだけどな。ただ几帳面な感じはするかな。


 信長公記しんちょうこうきっていうのは、実際に織田信長の家臣だった太田牛一の書いた、織田信長の一代記だ。

 実際に織田信長に仕えていた人の書いた書物だから、その信ぴょう性は非常に高い。でもって、そこに書かれている信長の姿が、凄く魅力的だから現代においても織田信長を好きな人が多いんだと思う。


 苛烈な性格ではあるけれど、正義を尊び、曲がった事を嫌う。情に篤く、有能であれば身分を問わず重用する、稀代の英雄。

 本能寺の変で道半ばにして倒れるところも、判官びいきの日本人の好みにマッチしてるんだと思う。


 それに、これは俺の持論なんだけど、英雄ってさ、その枕詞まくらことばに「悲劇の」って言葉がつくことが多いような気がするんだよな。その方がドラマティックだからな。


 で、実際の信長兄上がどうかって言うと、イメージそのままだったな。でも、想像よりもっとふところが大きくて、優しかった。


 だから俺は兄上が本能寺で死なないように、その死亡フラグを折ろうとがんばってるわけだけど……こんなイベントがあるなんて聞いてないよ。もしこれで信長兄上の火傷がひどくて槍が持てなくなったら、歴史が変わっちゃうじゃないか。


 きっと、俺がこんなとこにノコノコ来たから信長兄上もこの騒動に遭遇しちゃったんだろう。だから俺は、何としても信長兄上の指が火傷の後遺症で動かなくなったりしないように応急処置をしないといかん。


 とりあえず一度冷水から信長兄上の手を出して、そおっと手甲をはずしてみる。


 手甲と指が癒着してなくてホッとする。

 思ったよりも、鷹狩用の手甲がいい仕事をしてくれてたみたいだ。


 あとは火傷の重さだけど、どうだろう。


 見た所、水ぶくれにはなってないけど、赤くはなってる。俺は油をお願いした滝川リーダーが戻って来るまで、もう一つの水桶に兄上の手を入れて冷やすことにした。


「殿、お待たせしました」

「俺は待っておらん。喜六がまた何か思いついただけだ」


 信長兄上がなんか言ってるけど無視だ、無視。ここは俺が大人になって、信長兄上の大人気ない発言はスルーだ。


「滝川殿。こちらの布の半分を少し細く裂いてもらえますか? ええと、指三本くらいの幅でお願いします。残りの半分はこちらにください。それから油と紙もこちらに頂けますか?」


 俺はリーダーから荏胡麻油を受け取ると、まずそこに紙をひたした。そして信長兄上の手を水から上げると、清潔な布で軽くふいて、赤くなったところにそっと油を塗った。

 患部に十分に油を塗ると、そこに油をひたした紙を当てる。それから細く裂いた布を包帯の代わりに巻いていった。


 これで、火傷したところが良くなるといいんだけどな。

火起請の話が信長公記に載っているのを知らない、安定のチョロクです。

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