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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
弘治三年

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136/237

136 熱田クジの当選者

 泣いても笑っても最後の数字だ。

 できれば偶数がいいけど、的に当たれば何でもいいや!

 神様、はずさないようにお願いします!


 目をつぶって深呼吸をする。

 吸って、吐いて、吸って、吐いて。


 うん。いける。


 目を開いて、目線だけで熊に合図をする。

 それに熊が頷いた。


「三射目! いざ!」


 ぐるぐると回る的を目掛けて右手を放す。

 ヒュンッと頬の横で風を切る音がする。


 タンッ、と小気味良い音を立てて、矢が的に刺さった音がした。


 ぐるぐると回る的の速度が落ちるのを、その場にいる全員で固唾を飲んで見守る。


 奇数じゃないといいんだけどな。でも誰も当たらなかったらそれはそれで困るし。できれば五人以内の人に当たればいいんだけどな。


 責任重大で胃が痛くなりそうだ。


 最初は射手を信長兄上の弓の師匠である市川大介殿にでも任せたらいいんじゃないかと思ったんだけどさ、もう年寄りだし、狙おうと思ったら狙った数字を射抜けるからやめておく、って辞退されちゃったんだよな。


 狙った数字を射抜けるとか、それもう人間業じゃないだろ。

 だって的が回ってるんだぞ。動体視力凄すぎだろう。

 熊の飛んできた矢の手づかみも人間業じゃないと思ったけど、市川殿の弓の腕も人間業じゃないよな。


 ……周りに人外がいっぱいいるような気がするのは、気のせいか?

 戦国時代、コワイ。


 それに「言い出しっぺのお前が責任のある仕事をせよ」って信長兄上にも言われたんだよな。確かに正論だもんな。だからこうしてこの場に立ってるわけだけど。


 それにしても胃が痛い。うう。


 ぐるぐると回っていた的がゆっくりとした回転になる。

 見守る観衆のうちの誰かの、ゴクリと生唾を飲んだ音が、やけに響いた。


「三射目! 四!」


 おお、良かった。奇数だったら当たりがいっぱい出てたとこだったよ。三、九、四ならそんなに選んだ人はいなさそうだけどな。

 まあでも、一人もいないってことはないだろう。


 さてと。ラッキーな当選者は誰だろう。


「当選の番号は順番に、三、九、四でござる。この順番の通りに書いた番号の木札を持つ者は参られい!」


 三、九、四って、さんきゅーよろしくって読めるな。

 さんきゅーよろしくさん、誰だー?


 でも、誰も名乗りを上げない。


 あ、あれ……?


 誰も当たっていないのか、っていう声がそこかしこで上がる。

 なんとなく、がっかりしたような残念ムードが広がった時、申し訳なさそうな声が上がった。


「すみません。当たってしまいました」


 声の主は我が心の友、竹中半兵衛だった。

 えっ。いたのか。


 いやだって、この姿を見せるのが恥ずかしいから来ないでくれよ、って俺が言って、分かったって納得してたんだぞ。織田の家臣でもないし、遠慮しておきますって言ってたよな。

 それなのに、みっちゃんの家臣の隣からヒョコっと出てきたのは何でだ?


 はっ。ってことは、バッチリこの恥ずかしい姿を見られたってことか!?

 くうううううう。織田喜六郎、一生の不覚! 恥ずかしくて、半兵衛の顔を見られないじゃないかー!


 ううう。誰だよ、半兵衛をここに連れてきたの!


 と思って気がついた。そんなの一人しかいないじゃないか。

 そうだよ、信長兄上だよ。


 涙目で信長兄上を睨むと、今頃気がついたのか、って馬鹿にしたような顔で笑ってる。


 くっそー。今に見てろ!

 そのうち、ギャフンと言わせてやるからなー!


「ですが私は他国の者です。こちらの賞金は辞退を―――」

「いや、当たりは当たりだ。この証文をやろう」


 さすがに五十貫をそのまま用意するのは、持ち歩くのも大変だし現実的じゃない。


 銅銭は大体百枚をまとめて、真ん中の穴に紐を通してまとめておく。一貫なら、銅銭千枚だから、それが十本だ。つまり五十貫だとその束が五百本になる。


 そんな大量の銅銭、用意するのも大変なら、持ち歩くのも重くて無理だ。


 だからそういう場合は証文にして、信長兄上が裏書を書く。現代で言う、小切手みたいなもんか。


 それを商人のとこに持って行くと、品物と交換してくれるってわけだな。で、商人が、信長兄上のとこに集金に行く。でも、お抱えの商人が証文をまとめることも多いかもしれんけど。


 半兵衛は信長兄上から証文を手渡されて、ちょっと考える素振りをした。


「私も、一言述べてよろしいでしょうか?」


 信長兄上は片眉を上げて半兵衛を見た。その口元がニヤっと歪む。


「許す」


 半兵衛は信長兄上に深く頭を下げて、くるりと振り返った。細身で美少女のような姿だけど、凛とした姿には覇気がある。


「それがしは美濃の国、大御堂城おおみどうじょうの竹中重元(しげちか)が長子、竹中半兵衛と申します。縁あって、織田信長様の元に参じておりますが、この度、このような幸運を得て、恐悦至極にござります。さて、この賞金の五十貫ですが、尾張の国人ではない私には過ぎた物でございましょう。ゆえに―――」


 そう言って、半兵衛は周りを見回して、にこりと笑った。


「十貫を津島神社の普請に。十貫を熱田神社の普請に。そして十貫を我が友である織田喜六郎殿の居城とするべく普請中の龍泉寺城の普請に。残りの二十貫は、尾張の皆様に供して頂く酒の購入に充てたいと思いまする」


 その瞬間、清須城がうぉおおおおという野太い声で揺れた。


16日まで夏休みなので、出かけることが多くなり、もしかしたら更新がない日もあるかもしれません。

一応お休みする時は、活動報告でお知らせしますね。

感想の返信も遅れることがあるかもしれません。

よろしくお願いします。

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