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信長公弟記~織田さんちの八男です~【コミックス6巻】発売中  作者: 彩戸ゆめ
弘治三年

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135 熱田クジ

 さて、次は熱田クジが始まる。

 やっと俺の出番だなー。ハハハ。


 熱田クジの方はロト3形式だ。あらかじめ好きな数字を三つ選んでもらって、それを木札に書いてもらってる。

 当たりクジは一等だけだ。

 クジは一枚銅銭五十枚に設定してある。でもこれ、当たれば賞金が凄いんだよな。クジを売って得られたお金だけじゃクジとしての魅力はなかろうとかいって、なんと信長兄上から五十貫の賞金提供があったんだよ。


 足軽はほぼ半農半兵の人たちだ。領主に兵役として徴集されて戦ってるわけだけど、基本は農民だ。

 だけど農家の次男三男なんかで部屋住みを嫌うやつなんかは、志願してその家のお抱えの足軽になる。秀吉、今は藤吉郎って名乗ってるけど、藤吉郎なんかはそのタイプだな。

 給料は大体年間で二石、つまり一貫くらいのものらしい。

 一貫は銅銭で言うと千枚だから、専業の足軽はなかなか生活が厳しいと思う。長屋に住んで、自分一人なら暮らしていけるだろうけど、妻子を養うとなると結構大変そうだ。


 独身なら、戦になれば飯は支給されるから、それでなんとかなるだろうけどな。


 足軽大将あたりだと年収は二百五十から三百貫くらいはもらってるけど、この中から自分の家臣とか女中を雇わないといけないから、実際の実入りはもっと減る。

 だから賞金の五十貫は結構魅力的だと思うんだよな。


 ただ藤吉郎のさっきの発言からすると、銅銭五十枚っていうのは武将にとってもきつそうだなぁ。だとすると、三十枚くらいにしないといけないのかもしれないな。


 前世では俺は庶民だったから、庶民感覚が残ってる気分でいたけど、今の俺は織田家の若様で何不自由のない生活を送ってる。

 だから本当の意味では、この戦国時代の普通の人の暮らしっていうのを分かってなかったんだな。


 なんていうか、あの明智光秀が味方になって、竹中半兵衛も友達になって。

 それでちょっと調子に乗ってたのかもしれんね。クジの事は俺に任せろ、って気になってた。


 でもそうじゃない。人間は適所適材だ。

 人は宝。

 そう、自分でも言ったじゃないか。


 奢る平家は久しからず、だ。


 やっぱり人間は基本的に謙虚が一番だよな。謙虚過ぎてもダメだけどさ。


「さて、喜六郎。準備は良いか?」


 うん。謙虚が一番だからさ。こんな大役は他の人にやってもらいたいんだけど。


 だってさ! 三ケタの番号を射るのって、俺なんだよ!?

 っていうか何で俺!? そこまで弓が上手じゃないんだけど!


 しかも衣装は花のついた烏帽子と白い狩衣だ。うん。あの津島天王祭でお稚児さんが着てた衣装だな。それを俺のサイズに仕立ててあるんだけどさ。あれは小さい子供が着るから可愛いんだぞ!? 何が悲しくて十三の男が着なくちゃいけないんだよ。

 しかも口のとこにもなんか赤いのを塗られたんだぞ。紅だと思うけど。

 塗ったのが市姉さまじゃなければ、俺は断固拒否した!


 とりあえずこの場には市姉さまがいないからいいけどさ。一応この場は女子禁制にしてるしな。


 うう。それにしても、衆人環視の中、弓を射るっていうのはなかなか緊張するなぁ。


 矢立てから矢を取り出す。矢羽は白鳥の物だ。白鳥の羽は白いからな。縁起がいいってことになってる。


「一射目! いざ!」


 矢を弓につがえ、的を見る。

 熊が回してくれた的を狙って、射る。


「あっ」


 緊張して変に力が入っちゃったよ。

 うげ。はずれる! 熊逃げろ!


 矢は狙ったように熊の方へ飛んだ。

 でもさすが熊。ひょいっと体をずらして。……え?


 つ……つかんだ!?


 信じられないことに、熊は飛んできた矢を手でつかんでいた。に……人間技じゃないぞ。

 あ、熊か。熊ならいいのか。……あれ?


「おおーっ。さすが柴田殿。あの矢を手で止めるとは」

「さすがよのぅ」

「いやいや、さすがにあの柴田殿でも、いきなり飛んできた矢を手づかみするのは無理じゃろう。きっとあらかじめ知っておったに違いない」

「そういえば柴田殿は喜六郎様のもり役でござったなぁ」

「いや、知っておったにしても、やはり手でつかむなど並の者にはできまいて。さすが柴田殿じゃ」

「さすが柴田殿じゃなぁ」


 でもそのおかげで、これも一種のデモンストレーションなのか、っていう雰囲気になった。

 く……熊。俺の名誉のために、危ない橋を渡ってくれたんだな。

 人間じゃないとか思ってごめん。熊は俺の大事な傅役だ! 


「喜六!」


 信長兄上に声をかけられて顔を向ける。

 ……あー。次外したら、ゲンコツどころじゃないぞ、って顔してる。

 つ……次は外しませんから安心してください!


 ふーっと息を吐いて呼吸を整える。

 もう一度、熊が的を回した。


 息を吸う。そして止める。

 そして射る。


 タンッ。


 今度はちゃんと的に当たった。

 数字はいくつだ?


「一射目。数字の三!」


 熊の野太い声が響く。

 それに合わせて歓声が上がった。


 奇数の一、三、五、七、九は陽の気ってことで人気の数字だからな。選んだやつも多いんだろう。


 これで奇数だけしか出なかったら、当選者が多そうだなぁ。

 できれば当たりは少人数がいいんだけどな。


 もう一度深く息を吐いて吸う。そして止める。


 タァンッ。


「二射目。数字の九!」


 うわ。二個目も奇数だ。サンキューになった。


 神様。つ、次は偶数でお願いします!


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